第百六十五幕【魔王軍四天王vsエクス・ベンゾラム】
「待ちなさい…!!」
燭台の青く揺らめく炎に照らされた廊下を、人影を追って走るイクリプス。
黒ローブを身に纏ったその人物は廊下途中の古ぼけた木の扉を開け入って行く。
イクリプスもすかさずその後を追って行く。
扉の先は地下へと続く階段になっていた。
暗く先の見えない階段。
イクリプスはパチンと指を鳴らし、指先から紫色の炎を出しながら階段を急いで下って行く。
(最初確認した時ここの扉は無かったハズ…何がしかで巧妙に隠されていたか…)
階段を暫く下って行くと…鼻を突く臭いが漂ってきた。
(うっ………この臭い………!!)
ジャバ!
そんな音が響く。
足元を見ると、足首程の高さに汚水が流れている。
「チッ………ここは…下水道か…!今朝磨いたばかりの私の靴が…!!」
あからさまに嫌な顔をするイクリプス。
左右に伸びる下水道。
バシャバシャバシャ…
その一方から誰かが走って行く水音が下水道内に響いてくる。
「コッチか!」
鼻を抑えながらイクリプスはその後を追う。
バシャバシャバシャ
暗い下水道内を走る。
迷路の様に入り組み何度も突き当たりを曲がったところで…イクリプスは咄嗟に足を止めた。
角を曲がった先に、黒ローブの男が青い炎を側に浮かせながら立っている。
「貴方は何者なんですか!!………どういった組織ですか!?」
イクリプスが問いかける。
黒ローブの男は深く被ったフードを取った。
青髪の青年。それはコンペキだった。
「やぁやぁ、魔王軍四天王さん。噂は聞いてるよ。魔王さんからはかなりの信頼を得ているみたいだね」
ニコリと微笑みながら手を叩くコンペキ。
そんなコンペキから浅からぬものを感じるイクリプス。
ーーーーー
一方、ランドルトブラックとバッカルの二人も、同じく黒ローブの人物を追いかけていた。
ギギィ〜…
黒ローブは大きな扉を開け広げ中に入って行く。
その先は大きな大聖堂になっている。
大きな教団のレリーフが飾られた前まで来ると黒ローブはランドルトブラック達に振り返る。
「やっぱり…クルブシが言った通りだな。お前は俺の方を追って来た。それに、ガキも引き連れてな」
黒ローブのフードを剥いだ男。赤髪の青年、クレナイだ。
「なにッ…!?」
ランドルトブラックが大袈裟にリアクションを取る。
「ガキとはよく言ってくれるねぇ~?君よりは遥かに長く生きてるハズなんだけどなぁ〜?」
顔を引き攣らせながはバッカルが言う。
ギギィ…
着後、背後からの音にブラック・バッカルが振り向くと、大聖堂の大扉を信者達が閉じてしまう。
バタン!
「さぁて、これで邪魔者は無しで戦える…そうだろ?魔王軍四天王さんよぉ〜…」
ニヤリと笑い指をパキポキと鳴らすクレナイ。
ブラックは戦闘態勢を取る。
「バッカルよ、お前は下がっていろ!ここは…この私が…」
「ナニ言ってんのさ!!ボクも戦うよ!!同じ魔王軍四天王として、舐められちゃ困るんだよねぇ!」
「ここは子どもの出る幕じゃない!ヒーローは…子どもを守る為に戦わねばならんのだ!!」
「だぁから、人間のお前よりも長く生きてるんだってボクは…!!」
そのやり取りを聞いて、クレナイはニヤリと更に微笑む。まるで勝利を確証しているかのように。
「その余裕、いつまで持つかな…!!」
ザッ!
ランドルトブラックは床を蹴り上げ、ソード形態となったセンチュレイバーEXを構えクレナイに急接近する。
懐に入りズバンッ!とクレナイの脇腹に一撃を与える。
…が、クレナイの脇腹はまるで溶岩のように溶け周囲に飛び散る。
ジュ〜…
センチュレイバーEXが音を立てて湯気を出している。
「…ッ!」
ブラックは刀身を振って、付いた溶岩を振り落とす。
「どーした?そんなもんかよ?四天王さんよぉ?」
ブクブク…と、斬り付けた脇腹が再生するクレナイ。
「貴様…それでも人間か…?」
「さぁ?どうでしょうねぇッ!?」
クレナイが腕を大きく振り払うと、ブラックに目掛けて放射状に溶岩が飛び散る!
「クッ…!!」
ブラックは咄嗟にマントで身を守る。
同時にクレナイがブラックに迫る!
ブラックが身構えるも、クレナイはその横を通り過ぎてしまう。
「何ッ…!?」
クレナイはブラックに目もくれず、一直線にその後ろに居たバッカルに向かって行く。
「ハッ!?」
攻撃出来る隙を伺っていたバッカルだが、急に向けられた矛先に一瞬戸惑ってしまう。
「バッカルッ!!!」
ブラックはセンチュレイバーEXをシュヴァルツモードに変形させバギュンバギュン!!とクレナイに向けて発砲した!!
ブジュ!ブジュ!
クレナイの身体に確かに弾は当たるものの、手応えが無い。まるで全身が溶岩で出来ている様に、弾を飲み込み貫通する事も無い。
そのまま、クレナイはバッカルの首を右手で掴み持ち上げ、左手に力を溜めゴボゴボッと溶岩を溢れさせる。その腕をバッカルの身体に押し当てる気だ。
「グェ…チク…しょうッ…!!」
バッカルは腕をしなるムチのように変化させその左手に巻き付ける。
「させる…かッ…!!」
左手を拘束されるもクレナイはニヤリと不気味に微笑んだ。
左手はドロリ…と溶け、巻き付いたバッカルの腕から外れ再び腕に戻った!
「嘘…だろッ…!?」
ゾワッと悪寒が走り身構えるバッカル。
「バッカル!!!」
直後、そう叫んだブラックの声と共に…
ズバァン!!!
大きくクレナイの首が飛んだ。
ブラックが首目掛けてセンチュレイバーEXを斬り付けたからだ。
飛んだ首は床に落ちるとベシャリと瞬時に溶岩となって床に広がる。
バッカルの首を絞める首を失ったクレナイの身体は尚も立ち続けている。
「ランドルトォォォォォスクリューキィィィィィッッック!!!!!」
ドグッ!!!
グルッと一回転してブラックの回転キックはクレナイの脇腹に蹴り込まれ、大きく吹っ飛ばされ、大聖堂に置かれた長椅子を巻き込みながら壁にぶち当たった。
拘束を解かれ床に落ちるバッカル。
「グェ…ゴホッゴホッ…」
喉を抑え咳き込むバッカルにブラックが駆け寄りしゃがむ。
「大丈夫か!?バッカル!!!」
「ちょっとビックリしたけど…もう大丈…」
ガラガラ…
音がする方に目を向ける二人。
積み重なった長椅子を持ち上げながら、"首無しのクレナイ"がユラリと立ち上がって来たのだ。
「そうか………。奴は人間ではないな…」
ブラックも立ち上がり、クレナイを見据えながら呟いた。
ブクブク…と首が泡立ち、瞬時に切り落としたハズのクレナイの首が再生した。
コキコキ、と首を鳴らしクレナイは余裕そうな笑みを浮かべる。
「早速、首を狙って来るとはね。容赦がねぇなぁ四天王さんってのは」
「ブラック…なんなんだよアイツは…!!人間じゃないってどういう意味だよ!?」
「泥で作った泥人形ならぬ…溶岩で作った溶岩人形…といったところだろうな………。なるほど、凄まじい魔術だ」
「待て待て、そうやって呑気に考察してる場合じゃねぇぞお二人さん。ここでお前等は死ぬんだ。考えても意味がねぇ!!」
ジューーーーー!!!
クレナイの身体がオレンジ色に発光し始め…周りは陽炎で激しく揺らめき始める。
周囲の木製の長椅子や発火し燃え、足元はグツグツと溶け煮えたぎっている。
「バッカル…今日は長い一日になりそうだぞ…」
ブラックが呟きながらセンチュレイバーEXを構え直した。
ーーーーー
その頃。
「コッチじゃ!コッチ!」
フリルの案内を受けながら古城に到着したフラップジャック。
皆が待っているハズの部屋へと向かっていた。
「あそこの部屋に皆がおるで!」
ガチャ…
部屋に入ると、そこには居るはずのイクリプス達の姿はなく…
「……………誰?」
フラップジャックの目には、見覚えのない人物が映った。
「待ってましたよ…フラップ…ジャックさんでしたか?………私は"クルブシ"と言う者です」
「……………皆はどこ……………?」
警戒するジャックに落ち着いた口調でクルブシは続ける。
「心配しなくて大丈夫です…。私の部下達がこのお城をご案内して差し上げている所です」
「……………案内……………?」
「貴女はこの私が案内致しますので…」
「ジャック…。コイツほんま怪しいで…」
フリルがジャックに耳打ちをする。
「……………ジャックが簡単に……………付いていくと思う……………?」
ジャックはクルブシに向かって言った。
「貴女は来ますよ。………何故なら、確認しなければいけないですからね。"スコピール姫の安否を"…」
「……………!!」
「案内しますよ。彼女のところまで…。コッチです」
クルブシはそう言って部屋を出る。
「いけんで!これは絶対罠じゃ!」
「……………でも……………確認しないと……………もし本当なら……………」
「嘘に決まっとるじゃろ!!」
「……………スコピールの事を知ってる……………彼女と……………何か繋がりが……………あるから……………」
「そうかもしれんけど…!!」
ジャックはフリルが言い切る前にクルブシの後を追いかける。
「ジャック…!!」
フリルは大きく溜め息をつくと、一緒に後を追いかけた。
続く…




