第百六十三幕【誘われる古城潜入】
「だーかーらー!!なんでお前が前に出るんだっての!!」
「ヒーローは常に先陣を切るものだ」
「いい加減静かにしてくれませんか!?私達は敵を調査している側なんですよ!?」
「ほんまに、なんでワシがこんなムサ苦しい男共に同行せんといけんのじゃ…」
言い争いながら森の中を進む三人と一匹の魔族。
イクリプス、バッカル、ランドルトブラック、そしてフリルだ。
「良いですか皆さん。魔王軍をダシにした大変危険な組織を追っている身なんですよ…少しは危機感を持って下さい…」
カツカツとスティックで地面を叩き、被ったシルクハットをクイッと上げるイクリプス。
「ソウルベルガの避難住民から聞きましたよね?怪しい黒ローブの集団がこの森を出入りしてるって」
続けるイクリプスにバッカルが溜め息を吐きながら首を横に振る。
「鵜呑みにしちゃって良いのぉ〜?そんな信憑性のない情報にさぁ〜?そもそも、この森だって魔王軍野営地からそんな離れてないし…そんな簡単に見つかるかね?」
「…とは言え、私達は今情報ゼロの状態なんです。どんな怪しい噂程度の話でも調べない訳にはいかないでしょう」
「どうでもええがのぉ〜?あんまワシを連れ回すのはヤメて欲しいんじゃがのぉ〜…。ワシみたいなキュートなマスコットは女の子にチヤホヤされるべきで…男共についてまわるモンじゃ…ぶつぶつ」
日傘メンダコのフリルは3人の後ろをぶつくさと愚痴りながらふわふわついてくる。
「コイツずっと文句言ってるなぁ〜…。ジャックちゃんの日傘の役にしか立たないただのポンコツ傘の癖に…」
バッカルが言うとフリルがジトッ…とバッカルを見やる。
「あぁ〜ん?なんだァ…テメェ…?」
「それよりさ、キュートと言えばあのスコピールちゃんだよねぇ〜!あのクソ生意気な子って僕大好物だからさぁ〜!ドーラちゃんが許してくれたら苦痛に歪む表情をおかずにつま先から徐々に齧ってやるのに…」
「コイツ、子供だから許されとるが言っとる事はただのヘンタイじゃからな」
フリルに言われ、今度はバッカルがジト目になる。
「あのさぁ…。ジャックちゃんに代わってお前を雑巾絞りしてやっても良いんだぞ…?」
雑巾を絞るようなジェスチャーをしながら言うバッカル。
フリルはよそ見して口笛を吹いている。
「シッ…!静かに…!」
先頭を歩いていたランドルトブラックが足を止める。
しゃがんで近くの木に隠れるよう手を振って指示を出す。
「見ろ。見えてきたぞ…」
ブラックが指差す方向には、森の中にひっそりと古城がそびえ建っていた。
「これは…怪しい集団が隠れ家にするにはもってこいな古城ですね…」
イクリプスがヒソヒソとそう言った。
「…ねぇ…こんな簡単に見つかって良いの…?敵の罠なんじゃないの?余りにもスムーズに行き過ぎてると言うか…」
バッカルは訝しげな表情でそう言った。
「例え罠だと分かっていたとしても…突き進むしか無いのだ…正義のヒーローはな…」
ランドルトブラックが黒いマントを翻しながら言う。
「見たところ人の出入り…見張りなどは居ないようですね…。もしかしたら誰も居ない無人の古城の可能性もある。しかし、警戒は怠らずに…」
イクリプスは言いながら、懐中時計をカチッと開き確認して続ける。
「バッカル君とフリル君はここで待機していて下さい。私とブラックさんの二人で中を確認して来ます」
「えぇ!?僕も行くよ!!こんな所にグチグチメンダコと一緒に居たくないよ!ツマんない!」
「これが罠だった場合、全員で中に入れば纏めて引っかかってしまう可能性がある。バッカルよ、その時の為にここで見張っておいてくれ」
パチンと指を鳴らしブラックはバッカルを指差す。
バッカルはブーと頬を膨らませつまらなそうな顔になる。
「では、潜入作戦決行だ!」
「貴方が指揮を取らないでくれますか!?リーダーは私なんですからね!?」
イクリプス、ランドルトブラックは草木に身を隠しながら徐々に古城に近付いて行く。
「…ハァ〜〜〜…。ジャックちゃんが居ればフリルのお守りをしないで済んだのに…」
「それはコッチの台詞じゃっちゅうんじゃ!」
木を背もたれにし、バッカルとフリルは言い争いながら大人しく外で待機をするのだった。
ーーーーー
「大きな建物…しかし、人の気配はありませんね…」
古城の目の前まで来たイクリプスとランドルトブラック。
木の陰から様子を伺うが門番も居ない、何処からどう見ても廃墟と言った感じだ。
「真正面から突破するのは危険です。私は裏口か、入れそうな窓を探します。ブラックさんは…」
言いかけてイクリプスはブラックに目を向けるも、側に居たハズのブラックの姿は無く…ギョッと目を開きイクリプスは恐る恐る古城の正面扉に目をやると…
「裏口は任せたぞッ!!」
そう言ってブラックは正面扉を蹴り開け、センチュレイバーEX (銃の形態)をまるで突入する刑事の様に構えながら中へと勢い良く入って行く。
「あんのボケェッ!!」
イクリプスが形相を変えて叫ぶ。
広いエントランスホール。ヒビの入った壁から植物が入り、薄暗い城内。
複数に伸びる廊下にカチャッと銃口を向けながら、ランドルトブラックはエントランスから伸びる2Fへの階段を軽やかに上がっていく。
しかし、ランドルトブラックが派手に突入したにも関わらず、特にうんともすんとも反応がない所を見ると、やはりこの古城は無人なのかもしれない。
「…仕方ない…。私も行きますか…」
イクリプスは大きく溜め息をつき、古城を大きく回り込んで裏側から入れそうな場所を探した。
割れた大きなステンドグラスを見つけ、そこから警戒しつつ中へ入り廊下に入る。
(やはり人の気配は無い………無いですが………ここで良からぬ事が行われていた空気を感じますね………)
イクリプスは鼻をスンスンとすすりながら辺りを見渡す。
思考を巡らせ物陰に隠れながら廊下を進んで行く。
(古城全体に何やら結界の様な力も働いている…。間違いない…気配こそしないが明らかに最近まで人の手が加わっていた様だ)
ある程度城内一階を見て回るも、怪しいものは見つからない。
イクリプスがエントランスホールに戻って来る。
周っている間、誰の気配も無く無人である事は間違いなさそうだ。
「こちらも何も無かったぞ!!」
声のした方を見上げると、ランドルトブラックが吹き抜けから見える二階の手すりに仁王立ちで立っていた。
「とうッ!!!」
ブラックはそう叫び、クルクルっと回転しながら一階のホールにスチャッ!っと格好を付けて着地した。
「普通に階段を使って降りてこれんのか貴様は」
イクリプスが呆れながら言う。
「全ての部屋を見た訳ではないが、上の階にも何も無かった。私のテーマソングを流しながら周ったが誰も出て来なかった。間違いない」
「"潜入"の意味を知らないようですね貴方は…」
ハァ…と溜め息をついて額に手を当てるイクリプス。
「しかし、この古城にかけられた魔法の力を微弱ながら私も感じ取っている。ここに人が出入りしていた事は明らかだな」
ブラックが言う。
それに続いてイクリプスも口を開く。
「人間でありながら大したものですね。確かにこの古城には結界が張られている。大した力ではないですが…魔力がざわついています。上手く感覚を研ぎ澄ます事が出来ない」
「そのせいで隠れている刺客の気配を気づけて居ないのかもしれない。油断しない方が良い」
「…もう少し詳しく調べる必要がありますね…。この古城に私達が追い求める連中が居る可能性が極めて高いと感じます…」
「同意だ。………センチュレイドーラ様に良い土産話を持って帰ってやろう…」
誰も出て来ないなら本格的に調査が出来る。
イクリプス、ランドルトブラックは外で待つバッカル、フリルにも中の状況を伝え全員で広い古城内を各自探索する事にした。
何かの罠が仕掛けられていないか警戒しながら…
続く…




