第百五十九幕【恋する乙女船長】
「うおおぉぉぉーーーーーい!!!!!バカ!!バカ!!」
ひまわり団の海賊船【トリンコマリー号】の甲板で、ダルクスが大焦りで声を荒げている。
「ミリオン船に当たるっ!!当たるって!!」
先ほど、トリンコマリー号から放たれた大砲がエンドラーズの船と合体したミリオン高速船の前に2発撃ち込まれ着水したところだ。
「大丈夫だ!今のは威嚇射撃…まだ当てるつもりは無い!」
トリンコロックはフン!と余裕そうに言う。
「"まだ"…って、いずれ撃ち込むつもりじゃねぇか!!おいおい、ヤメてくれよ!?ほんとに、ほんとに大切にしてる船で…」
あわあわと青ざめながら懇願するダルクス。
エンドラーズが来ないかサラアラウスの酒場で待ち呆けていたリューセイとダルクス。
今朝になりやっと、酒場にやって来た別の海賊から『エンドラーズがサラアラウスに向かっている』と報告を受け、直ぐ様船を出し、サラアラウスを囲う防壁を出た所で鉢合わせる形になったのだ。
「今日こそは!!エンドラーズに一泡吹かせてやるんだからー!!」
トリンコロックはムキになったような表情で船を前進させる。
その時、エンドラーズの船とミリオン高速船が目の前でパカッ!と左右に離れて行く。
トリンコロックは舵を切り、エンドラーズの船の方へと進行を変える。
「ホッ…」
ダルクスは胸を撫で下ろしている。
「ホッとしてる場合じゃないですよ!!僕達、海賊同士の海戦に巻き込まれちゃってるんですよ!?」
リューセイが青ざめた表情で声を上げる。
エンドラーズの船とトリンコマリー号はグルグルと追いかけ合う様に円を描いて回る。
リューセイは舵を回すトリンコロックに近付く。
「おいおい、トリコちゃん!なーんでそんなにエンドラーズを目の敵にすんのさ!!」
リューセイを一瞥した後…トリンコロックはポソリと呟く様に答えた。
「エンドラーズの船長…ベイルランド………アイツはねぇ………ウチと結婚の約束をしてたんだ」
「けけけ、結婚…!?」
「なのに!!アイツはそれを覚えて無いだの、死んでもお前とは嫌だだの、約束した癖に何かと理由つけてウチから距離を置くようになったんだ!!」
「そ、それは酷い…約束しといて逃げるなんて…!男として最低だ」
リューセイはうんうんと顎に手を当てながら頷いている。
「だろ!?…ウチはずっと…その約束を信じてアイツだけを見てきたのに…!!人生を捧げてきたのに…!!だから…ウチはアイツを絶対に許さない!!約束した以上、強引にでも振り向かせてやるんだから!!」
ギリギリと舵を握る手に力を込めるトリンコロック。
ダルクスはジト目になる。
「つまり俺達は男女の痴話喧嘩に巻き込まれちまってんのかよ…」
と、肩を落として言った。
側面を見せ合いグルグル回るお互いの船。
そこでトリンコマリー号から最初の大砲が発射された!
ドーーーーーン!!!
当に、エンドラーズの船に当てるつもりで放たれた大砲。
その一発を皮切りにお互いから次々に大砲が放たれる!
ボボボボーーーーーン!!!
バキッ!!ゴシャッ!!
飛んで来る大砲はお互いの船のすぐ近くに着水、中には船の手すりや積んでいた樽を蹴散らしていく砲丸も…
大砲口から立ち上る白煙。
空高く伸びる海水の柱。
着弾し飛び散る木片…!!
「うわあぁぁぁぁぁ!!!」
リューセイは頭を下げてダルクスの後ろに隠れる。
「死んじゃう!!か、隠れないと!!」
「何処に隠れる場所があんだよ!船内に居たって大砲は突き抜けて来るぞ!」
青ざめた顔で怯え合うリューセイとダルクス。
「捕まってろー!!この船の小回りの利きやすさをエンドラーズに見せつけてやる!!」
トリンコロックはそう言うと、舵を思いっきり最大限まで回し始めた!
それに合わせて、トリンコマリー号はグルグル回っていた円の中側に抉り込み、一気にエンドラーズの船に近付いていく!
「チィーーッ!!トリコォォォーー!!!」
歯を食い縛りながら叫ぶベイルランド。
トリンコマリー号はエンドラーズの船に並走する様に追い付くと、そのまま船の側面をゴリゴリゴリ!!とぶつけ合う!!
「ベイルランドォォォォォ!!!今日こそはアンタを魚の餌にしてやるーーー!!!」
「テメェいい加減にしろよ!!!無茶苦茶しやがって!!!」
海賊団の船長二人が舵を握りながら罵り合っている。
擦り合う2つの船。その隙に、ひまわり団の下っ端達がエンドラーズの船へと飛び乗って行く。
カキンカキン!
両名の海賊団達のカトラスをぶつけ合う音が響く!
"船上"はまるで"戦場"と化した!
「ヒェ~…」
「チッ…なんでこんな事に巻き込まれなきゃ…」
リューセイとダルクスはトリンコマリー号の船内へ続く扉の中に避難し少し開けて外の様子を見ながらボヤいている。
パーーーン!!
そんな時、鋭い破裂音が船上に響き渡る!
争っていた両名の海賊団の下っ端達が驚いて音のした方に目を向ける。
エンドラーズの船にいつの間にか乗り込み舵を握っていたベイルランドの横に立つトリンコロックは白煙の上がる黄金のシュヴァルツを天に向けている。それをカチャ…とベイルランドのこめかみに当てた。
「て、テメェ………なんでシュヴァルツなんかを…!!」
「大人しくしな!!じゃないと、アンタの頭に穴が空く事になるよ!!」
その光景に、下っ端達も手を止めて眺める事しか出来ない。
「ちょっとちょっと…トリコちゃん…あの為にシュヴァルツを欲しがったのか…!やっぱり渡さない方が良かったんじゃ!?」
「うぅん………」
リューセイとダルクスはドアのスキマから確認して言っている。
「さぁ…ウチと一生を添い遂げると誓いな!ベイルランド!」
「お前…こんな小癪な方法で誓わせて満足なのか!?」
「やかましい!!そもそも約束していた事を守らなかったアンタが悪ーーーい!!!」
「だから俺はそんな約束は…!!」
「問答無用!!いい加減認めろぉ!!」
グイッとこめかみに銃口を突き付けるトリンコロック。
「そうはさせませーーーん!!!」
そんな声が響いたかと思うと…空からイズミルが降ってきて、空中で身を翻し…背負ったディアゴの方を向ける。
バララ!と捲れたディアゴからは"透明のネバネバ"がビヨーンと伸び、シュヴァルツを構えたトリンコロックを上から押し潰すようにベチャ!っと床に拘束してしまった。
スタッ!とエンドラーズの船の甲板に降り立つイズミル。
いつの間にか接近してきていたミリオン高速船から飛んできたようだ。
「な、な、何よコレぇ!!!」
透明のネバネバに押しつぶされ身動きがとれないトリンコロック。
「それは"はなみじゅ"です!!」
イズミルはえっへん!と腰に手を当て答える。
「ゲッ!?気持ち悪ッッッ!!!」
「嘘です!110ページ【フコイダンの章】…。フコイダンとは、ワカメやメカブのヌルヌルに含まれている主成分フコイダンの事で…それにアルギン酸が合わさりあのネバネバを実現して…」
人差し指を立て豆知識をつらつらと語るイズミル。
「拘束系のページにまだそんなものがあったのかよ…」
リューセイがそう言いながら近付いてくる。
隠れていたリューセイ、ダルクスもエンドラーズの船の方の甲板にやってきたのだった。
「海の上ですから!海に関係してそうなモノを使いました!意味は特にありません!」フンッ!
胸を張るイズミル。
「無事だったんだなイズミル。他のみんなは?」
「居ますよ!ほら!」
イズミルが指を指す。
ミリオン高速船がエンドラーズの船に横付けし…リーサとユーリルが飛び乗って来る。
「皆様ー!!ご無事でしたか!!」
リーサは泣きそうな顔で胸を撫で下ろしている。
「うぅ〜………」
ユーリルは酒が抜けきれないのか未だに気分悪そうだ。
「それよりも、この方です!何故シュヴァルツを持ってるんですか!?許せません!」
プンプンとイズミルがトリンコロックに近付いていく。
「まぁ…それには色々あってな…」
リューセイが言い辛そうに頭を掻いて言う。
「イズミルさんお陰で助かりました。オイ!このトリコを縄で縛れ!」
ベイルランドは下っ端に指示を出す。
近くに居たベイルランドの下っ端二人がゲルに纏わり付かれたトリンコロックを引き摺り出して縄を縛る。
「ぢ…ぢぐじょ〜〜〜…」
トリンコロックは悔しそうに顔を顰めている。
ひまわり団の下っ端達はトリコが捕まり戦意喪失したのか手を出す事は無かった。
続く…




