第百五十八幕【エンドラーズとひまわり団】
リーサとベイルランドが甲板に出る。
下っ端の海賊達は尚も宴会で盛り上がっていた。
「うぃ〜〜〜っとぉ〜…リーサしゃま〜???船長しゃんとお二人で…なにしゃれてたんですかぁ〜〜〜???」
酔っぱらったユーリルがフラフラとやって来て言った。
「少し、お話をしていただけですよ」
リーサがニコリと微笑みながら言うも、ユーリルは目を細める。
「う〜〜〜ん………なぁんか怪しいれすね………気を付けてくらさいね?この船、男しか居ないれすから…油断したら何されるか分かりませんよぉ〜〜〜?」
「そう言えば、この船って女性の方はいらっしゃらないのですか?」
リーサがベイルランドに向き言う。
「この海賊団は女性禁制にしてますからね…」
ベイルランドがそう答えると、ユーリルがビシッ!と指を差し続ける。
「イケないんだぁ!このご時世…女性軽視は良く無いんですよぉ〜!」
そう言われ、ベイルランドは腕を組んで少し困った様な顔をする。
「どうして…女性禁制に…?」
リーサが様子を伺いながら聞くとベイルランドは語り始めた。
「……………俺には異性の幼馴染が居ましてね…そいつがまぁ…何かと昔から張り合って来ては何処にも引っ付いて来る奴で…」
「へぇ…幼馴染…!素敵じゃないですか!」
リーサは手を握って目をキラキラとさせる…が、ベイルランドはすぐ首を横に振る。
「素敵なんてとんでもない!…あいつは…事あるごとに邪魔をしてきて…俺が海賊団を立ち上げると言えば必ず『私も入れろ!』と迫ってくるハズだと思って…だから女性禁制にしたんです。………すると奴は…女性を集めて海賊団を立ち上げ俺の邪魔を………そうやっていつも勝手に張り合って来るんですよ…!」
ギリギリ…と歯を噛み締めて拳を握るベイルランド。
リーサとユーリルは顔を見合わせ、それ以上は聞かない事にした。
どうやら浅からぬ因縁があるようだ。
「まぁ…奴の話は気分が悪くなるのでよしましょう…。今日はもう遅い。皆さん隣の自分の船に戻られますか?そっちの方がゆっくり休まれるでしょう。…皆さんが明日起きるまでには元の海域に送り届けますよ」
「では…お言葉に甘えて…!」
リーサは深々とお辞儀をする。
フラフラのユーリルを後ろからリーサが押しながら、イズミルは前でユーリルの手を引きながら、エンドラーズの船とミリオン船に渡された板の橋を気を付けて渡る。
ミリオン船にはその他の船員達も既に戻って来ている。
各々は明日に備え、部屋に戻りゆっくり眠るのだった。
〜〜〜〜〜
次の日。
言っていた通り、リーサ達が起きる頃には船は元居た海域に戻って居た。
しかし、リューセイ達が上陸したであろう島の砂浜を見ても、誰も居そうに無い。
「ミリオン船が無くて途方に暮れてるハズですけど…何処行っちゃったかな〜?」
イズミルが望遠鏡を覗きながら言う。
「あのお二人です。ウロウロせずに見える所に居てくれそうですが…」
リーサが心配そうに言う。
「そもそも、上陸に使ったボートも見当たらないんですよね〜…」
イズミルのその言葉にピクリと眉を動かし、後ろで聞いていたベイルランドが口を開く。
「まさか………」
「どうかされたんですか?」
リーサが問い掛けると、ベイルランドは続ける。
「もう、お仲間はここには居ないかもしれないな」
「え?どうして…」
言い掛けるリーサを背に、ベイルランドは舵に向かう。
「今からサラアラウスに向かいます!俺の見立てに間違いがなければ…」
「サラアラウス…ですか…」
リーサは少し身構える。
自分が捨てた故郷…崩壊したサラアラウス…
それを目の当たりにしてしまう事になる。
「リーサ姫。よろしいですか?」
ベイルランドがそんなリーサを見て、そう問い掛ける。
「………えぇ。大丈夫です!」
少し間を置きつつも…リーサは力強く頷いた。
決心は付いた。約5年ぶりのサラアラウスへ…
「ひめ?ひめってなんですか?え?」
イズミルが首を傾げてキョトンとする。
「それについては…皆さんが集まった時にお話しますね」
リーサはニコリとイズミルに微笑む。
「では…サラアラウスに向けて…全速前進ーーー!!!」
ベイルランドは下っ端に指示を出し、エンドラーズの船は動き出す。
「サラアラウス!?サラアラウスは独立国家で長い間…!!」
「イズミルちゃん!それもまた詳しくお話しますね!」
「ん~~〜?………あっ!!!」
そこで、唐突にイズミルが声を上げる。
「ど、どうしたのイズミルちゃん!?」
「リューセイさんが何処に居るかはすぐ分かるじゃないですか!!」
「え…?」
ーーーーー
【ミリオン高速船・船内のリューセイの寝室】
バン!!
「ユーリル様!!!」
扉を思い切り開け、イズミルはベッドで眠るユーリルに声をかける。
「ユーリル様!!ユーリル様ならリューセイさんの元へ瞬時に移動出来てましたよね!!それで場所を突き止められないですか!?」
布団を被るユーリルを揺さぶりながらイズミルは声を上げる。
「うぅ〜〜〜〜〜……………」
布団の中からゆっくり顔だけを出し…二日酔いで顔色の悪いユーリルが目覚める。
「イズミル様………少し声のトーンを………下げてください………頭にズーンと………来るので………」
酷く掠れた声のユーリル。
「リューセイ様の居場所、ユーリル様なら調べられませんか?」
「………私が………何処に居るか………認識してないと無理ですよ………ウプッ………せめて………船の上〜とか………ここの建物〜とか………分かっ………て………ウプッ………」
「ガクー」
イズミルは言って肩を落とす。
「まぁまぁ。サラアラウスに着いたら…何か分かるかもしれませんし」
「ベイルランド様、何か分かってた風でしたしね…」
〜〜〜〜〜
暫くして…
エンドラーズの船は徐々にサラアラウスに近付いていく。
「そろそろサラアラウスに着きますよ」
ベイルランドの呼び掛けに、リーサとイズミルは船の進行方向に目をやる。
サラアラウス…
小さな島国をグルッと囲った海に立つ防壁の壁だけが見える。
「………またここに戻って来る事になるとは………」
リーサは神妙な面持ちでポソリと呟く。
自分のせいで荒廃してしまったであろうサラアラウス。
その変り果てた姿を見て、自分は冷静で居られるだろうか…と、考えた。
「リーサ様…大丈夫ですか?」
イズミルが心配そうな顔を向ける。
「ごめんなさい、大丈夫だよイズミルちゃん…」
「何があっても…私達が付いてますから!」
「うん。ありがとう!」
リーサが微笑むと、イズミルはニッコリと満面の笑みで笑った。
ガランガランガラン!!
その時、急にマストの上の見張り台から警鐘が鳴らされる。
驚いて上を見上げる二人。
「前方ーーーーー!!サラアラウスの海門から船が出てきます!!」
見張り台の下っ端から声が上がる。
ベイルランドもすかさず舵を握る手から望遠鏡を持ち替え確認する。
「ゲッ!!!………あのマストのひまわりの刺繍は………!」
コチラに真っ直ぐ向かってくる船。
間違いなく、ひまわり団のトリンコマリー号だ。
バヒュンバヒュン!!
射程距離まで近付くと、トリンコマリー号は否応なしに大砲をぶっ放してくる。
ドボンドボーーーン!!!
砲弾はエンドラーズの船の目の前に着水し、大きな水柱を上げる。
「ひ、ヒィィィ!!!な、な、なんなんですか急に〜〜〜!!」
涙をちょちょぎらすリーサとは対照的にイズミルは…
「うっひょーーー!!凄いアトラクションみたーーーい!!」
…凄く楽しんでいる。
「チッ…コッチはミリオン船も繋げて大きさは2倍…これじゃ良い的だ!!…リーサ姫!!」
「ふぁ、ふぁい!?」
「ミリオン船の方に移って下さい!そっちの船は切り離します!!別の方向に逃げて!!」
「は、はぁい!!」
リーサとユーリルは急いで橋を渡ってミリオン船の方に移る。
それを確認し、ミリオン船の方の乗組員達、エンドラーズの下っ端達は紐を切って何枚も繋げられた板の橋を海に落としていく。
大きな船は裂けるように二つに分かれる。
ひまわり団はその内エンドラーズの方に舵を切った!
「チッ!やっぱりコッチに来るか…!!」
唐突に、海賊団同士の抗争が始まった!!
続く…




