第百五十一幕【ひまわり団とエンドラーズと独立国家サラアラウス】
「アンタらの船〜?見てないな」
トリンコロックはトリンコマリー号の舵を取りながらダルクスに言った。
「なら良いんだ。そこの火山島をグルッと周ってくれ。そしたら見えてくるハズだ」
ダルクスに言われた通り、トリンコロックは舵を切る。
「偉く素直になったねトリコちゃん。一度は反抗した俺達なのに…」
リューセイが馴れ馴れしく言う。
「その名前で呼ぶな!………自分より強いと分かった相手に盾突く程、往生際は悪くないんでな」
「良い判断だ」
ダルクスはうんうんと偉そうに頷いている。
ダルクスの力を知ってからか、トリンコロックはダルクスの命令を溜め息をつきながらも従っていた。
奪われた宝箱を再び元の配置場所に戻し、更にはミリオン高速船まで送り届けてくれると。
「小娘船長よ。お前、シュヴァルツがどうしても必要って言ってたが、何に使う気だ?」
ダルクスはタバコに火を付けながら質問する。
「……………奴を……………」
「?」
「……………ある男を……………ちょっとね……………」
「お前…まさか…」
「安心して。悪い様には使わないから」
そう言って少し切なそうな顔をするトリンコロック。
「大丈夫なんですか〜?シュヴァルツ渡しちゃって〜。仮にも彼女海賊なんだし…」
リューセイが言うとダルクスが続ける。
「余計な事をする奴かそうでないかくらい見分けられるって。その小娘は心配しなくても大丈夫だ」
「まぁ、そんな事はどうでも良いんだけどさぁ…」
トリンコロックは徐ろにリューセイに冷ややかな視線を向け続けた。
「アンタ、いつまでウチに抱きついてるワケ?」
ギュ…
リューセイは今の今まで、舵を取るトリンコロックの腰にしがみついていた。
「いやぁお気になさらずに!これには深い訳がありまして…」
「すっごい舵が取りにくいんだけどさぁ?サッサと離れてくんない?」
「離れたくても…離れられないんです…もう…限界だったんです…」
「はぁ〜?」
面倒そうにいうトリンコロックだったが、それ以上何も言って来ないところをみるに、余り気にしてはいないようだ。
「…で?島の反対側まで来たけど…一向に船なんて見当たらないよ?」
船を止め、トリンコロックが言った。
「あぁ確かに、ミリオン船が停まってた場所のハズだ…」
そう言ってダルクスは望遠鏡を覗いて、さっきまで自分達が宝箱配置していた火山島の浜辺を見る。
「…おかしい。俺達を待ってるハズのボートも乗組員も居ねぇ…何処行きやがった…?」
「もしかして…沈んじゃったとか?」
尚もトリンコロックの腰に抱きついたままのリューセイが言うも、それをトリンコロックが首を横に振って否定する。
「それはないな。付近を見る限り、残骸が見当たらない。沈没したなら何か漂流物があるはずだ」
「じゃあ一体…」
「やられたねぇ〜。これは…【エンドラーズ】の仕業だね」
「エンドラーズ?」
「ウチら、ひまわり団と争ってる別の海賊団さ。そっちはウチらと違って男共の集まりでね。この海域を取り合ってしょっちゅうぶつかってんだけど…アンタ達の船を狙われたんだね。良い船を持ってたみたいだし…」
ダルクスは肩を震わせながら拳を握りしめリューセイに向き直る。
「リューセイ!!直ぐに船を取り返すぞ!!」
「そ、そうですね…!残ってた皆が心配…」
「違わい!!俺達の船の方が心配に決まってんだろ!!折角手に入れたミリオン高速船を〜!!」
「うわ…アンタんとこのおっさん、最低だね」
トリンコロックがジト目で言う。
「まぁでも…確かに心配無用か…あの女性陣が居て簡単に拘束されているとは思えないし…」
ドラゴンの呪いから解放されたリューセイは徐ろに立ち上がり顎に手を当てながら呟く。
「じゃあ僕らの次の目的はその"エンドラーズ"を追う…て事ですか…」
リューセイは続けてそう呟いて…チラリとトリンコロックを見やる。
「嫌だ」
何かを察してトリンコロックは続ける。
「ウチらがアンタ達にそこまでする義理はないね」
「トリコちゃ〜ん!!そんな事言わないでよ〜!!ミリオン船を失った以上、キミに協力して貰わないと船を追えないんだよ〜!!」
リューセイはトリンコロックの手を握り言うが、すかさずトリンコロックは手を振り払いリューセイの脳天目掛けて肘鉄をお見舞いする。
ガスッ!
「知ったこっちゃないね!なーんでウチらがそこまでしてやらないと…!!」
「5000…」
ダルクスがそう呟き、更に続ける。
「ミリオン船を無事に取り返したらお前に5000G支払う…これでどうだ?」
トリンコロックは待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑うと…
「じゃあ10000G。それじゃないと話にならないな」
「倍額じゃねぇか!!」
「言っておくけど、そのアンタ達の船を奪った方が余っ程高くつくんだから。10000でも譲歩してる方だね」
「…ぐぬぅ…足元見やがって…腐っても海賊だなオメェらは…」
「良いじゃないですかダルさんいっぱい金持ってるんだから!」
「テメェは黙ってろ!」
「…で?どうすんの?」
「わーったよ!!10000で手を打とう…」
「決まりだね!よーし、聞いたねアンタ達!エンドラーズを追って先ずは北に向かうよ!」
「「「イエッサー!!」」」
トリンコロックの号令によりしたっぱ達が慌ただしく動き始める。
「北って…何かアテでもあんのか?」
ダルクスが聞くとトリンコロックは続ける。
「この大海原をしらみ潰しに探す訳にはいかないだろ?先ずは奴らが行きそうな場所に向かう。近くに人が集まる街があるんだ。そこに居るか…居なくても、何かしら情報収集出来るかもな」
「この近くにそんな街あったか…?」
ダルクスは首を傾げる。
「まぁ、任せときなって!」
そう言ってトリンコロックはトリンコマリー号を発進させた。
「…ウチもエンドラーズとはそろそろ決着を付けたいと思っていたところなんだ…」
ポソッと呟いたトリンコロックの声は近くに居たリューセイにだけ聞こえた。
またもや少し切なそうな顔をするトリンコロックに、何かエンドラーズと浅からぬ因縁があるのでは…と考えるのだった。
ーーーーー
「おいおい…この先は…」
ダルクスは船の手すりを掴み身を乗り出して前方を確認しながら口を開く。
ドーメキ諸島から少し北に進んだところに位置する場所。そこには小さな島国があり、その島は海の上に建てられた城壁でグルッと囲われ、その城壁に空いた複数の穴からは砲口が海を狙って飛び出している。
「小娘船長!これ以上近付いちまったら…!!」
焦るダルクスにリューセイが近付く。
「あそこはどういう所なんですか?」
「独立国【サラアラウス】…リューセイ、覚えてるか?俺達が今旅しているのは"内界"と言われる言わば、本来の世界から切り取られた世界…。何故広い世界でこの場所が内界として切り取られたか?」
「それは…三強国家がすっぽり収まってるからですよね?バルチェノーツ…ソウルベルガ…デルフィンガル…。まぁ、その内2つは魔王に奪われましたが…」
「そうだ。しかし、この世界が内界で切り取られる事になった時、それを良しとしなかったのがこの【サラアラウス】なんだ」
「…まぁ当然っちゃ当然ですよね。だって内界は言わば【魔王に狙われやすい世界】ですからね」
「あぁ。サラアラウスは三強に囲まれ内界の真ん中に位置してるんだ。世界から切り取られる際に必然的に内界に入っちまう。それを良く思わなかったサラアラウスは大反抗したが…まぁ結果は知っての通りだ。サラアラウスは内界に取り込まれてからは全ての国との交易を絶ち、独立国家として部外者の入国を断ったんだよ」
「じゃ、じゃあそんな国に近付こうものなら…」
「あぁ。速攻で集中砲火を受けちまうだろうな」
リューセイはそれを聞いて顔を青ざめる。
「と、トリコちゃん!!UターンUターン!!!」
直ぐ様、手を降って舵を握るトリンコロックに声を上げる。
しかしトリンコロックは余裕そうな表情を見せる。
「大丈夫。大丈夫だから」
「何が大丈夫だよ!どの国との交流も絶ってるんだ。ましてや海賊なんかが近付いてタダで済むわけ…」
ダルクスも声を上げるも、トリンコロックは気にして居ない。
「まぁ見てなって…」
そう言ってトリンコロックはトリンコマリー号を海の城壁の一部、船が通れる程の大きく開いた門に向かって行くのだった。
続く…




