第百五十幕【トリコとトリンコマリー】
女海賊の集まりである【ひまわり団】に捕まってしまったリューセイとダルクスは、ひまわり団を束ねる船長【トリンコロック】の監視の元、宝箱を運びながら自分達が来た方角とは逆…島の反対側に連れて来られた。
(ダルさん…どうします…?)ヒソヒソ
(どうするって…?)ヒソヒソ
(僕らが本気出せば簡単にこの場から切り抜けられますよ!)
(まぁそうだろうな…だが…)
ダルクスはチラッとフリントロック式のいかにも海賊が持ってそうなシュヴァルツを向けながら自分達を歩かせるトリンコロックを一瞥し続ける。
(シュヴァルツを持ってるとありゃあ…ほっとく訳にはいかねぇ。もしかしたら"ベンゾ"と繋がってる可能性がある)
(エクス・ベンゾラム…あいつら、武器の密輸してましたもんね…)
「おい!うるさいぞ!ペチャクチャ喋るな!」
トリンコロックは銃口をリューセイの頬に押し付け無理矢理前を向かせる。
「うぉ…」
そこでリューセイは思わず声を上げる。
前を向くと、沖の方に立派な海賊船が見えたからだ。
帆には大きく"ひまわり"がデカデカと描かれている。
「あれがアンタらの船か…」
ダルクスか言うとトリンコロックはフフン!と得意気な表情をする。
「そうだ!あれが我らひまわり団の船【トリンコマリー号】だ!!」
迎えのボートに乗せられるダルクスとリューセイ。
そのボートでトリンコマリー号に向かう。
ーーーーー
船上にも勿論男は居らず、女性の乗組員ばかりだ。
(見た感じ…他の乗組員達はシュヴァルツを持ってねぇみたいだな…そうだな?ポニョ…)ヒソヒソ
ポニョはくんくんと臭いを嗅いだあと…
(ポニョン!)
…と頷く。
(シュヴァルツを持ってんのはあの小娘船長だけか…)
様子を伺いながらリューセイとダルクスは宝箱の積み込みを終える。
「よし!悪いねアンタ達!もう帰って良いよ!」
トリンコロックはニコニコと手を振る。
「えっ!…逃してくれるのか?」
「だって、積み込みを手伝って欲しかっただけだし。用は済んだからボートで元の島まで送ってあげるよ」
ダルクスとリューセイはお互いを見合わせる。
「いや、そーいう訳にはいかねぇのよ」
トリンコロックに振り向きダルクスは言った。
「はっ?」
トリンコロックがそう声を漏らした時には…ダルクスは目の前まで接近しており、首元を腕で押さえ付けられ、そのまま帆柱に押し付けられる。
「ウグッ!!」
「トリコ船長!!」
したっぱ達は声を上げ直ぐさまカトラス (剣)を腰から引き抜き応戦するも、右腕でトリンコロックを抑えたままダルクスは左腕をしたっぱ達に向け力を込める。
ドーーーン!!
「キャーーー!?」バシャバシャーン
そこから黒い波動が放たれ、したっぱ数名は海へと吹き飛ばされてしまう。
「ちょ、ダルさん!?やり過ぎですって!!」
リューセイが止めるも、ダルクスはトリンコロックの腰から黄金色のシュヴァルツを引き抜き離れる。
「グッ…ゲホゲホッ…ッつアンタら一体…!」
苦しそうに首元を擦るトリンコロックにダルクスは容赦なく銃口を向ける。
「さぁ、聞きたい事があるんだ。どっか落ち着いて話せる所に案内しろ。アンタん所のしたっぱさんの殺気の中じゃ話も出来んからな」
そう言ってクイクイと銃口を振るダルクス。
トリンコロックは歯を食い縛るもシュヴァルツを向けられている為に抵抗が出来ず…
「ケホッ………こっちだよ…!」
仕方なく船内へとリューセイとダルクスを案内する。
「トリコ船長!」
心配そうに声を上げるしたっぱ達。
「大丈夫だみんな!大人しくしてな!少し話をするだけだ…」
バタン
そう言って船内への扉は閉じたのだった。
ーーーーー
船長室に通されたリューセイとダルクス。
大きな椅子に腰掛け、トリンコロックは足を組んでダルそうに前髪をイジりながら溜め息混じりに声を漏らす。
「………で?聞きたい事ってナニさ?」
シュヴァルツを大きな船長机にコト…と置くダルクス。
「これの事だよ。どこで手に入れた?」
「さぁね?」
とぼけるトリンコロック。
「リューセイ!キラチャーム!」
トリンコロックをビシッと指差しダルクスは言った。
「あの、モンスターに指示出すみたいに言うのヤメてもらって良いですか?」
リューセイはそう言ってペコペコと申し訳無さそうにトリンコロックに近付く。
「いや〜、ごめんなさいねぇ〜あの、危害を加えるつもりはなくって。ただ、聞きたい事を聞き出せれば僕らは帰りますんで」
「そう言って…話したら用済みだって殺すんだろ」
「そんな事はしないしない!ほら、僕の目を見なさい!これが嘘をついている目ですか!?」
キラキラキラ
「目がキラキラしててキモい」
ガーーーン
リューセイはショックを受けた!
「何やってんだよお前…ほんと使えねぇなキラチャームは」
「しゅん…」
リューセイは縮こまってしまう。
「良いか?お前が非協力的だとこっちもその分嫌な対応を取らなきゃいけなくなる。大人しくこのシュヴァルツの出所を教えろ…さもないと、ソイツが持ってるスマホでお前の恥ずかしい写し絵をばら撒くぞ」
「スマホ…?なんだそれ?」
トリンコロックは言って少し考えた後、大きく溜め息を吐き足を机に上げた。
「なんだか分かんないけど…ハイハイ。教えれば良いんでしょ〜。……………奪ったんだよ。とある船からね」
トリンコロックは横髪をクルクルと手遊びしながら言った。
「奪った…?………その船ってまさか…」
ダルクスは目を丸くして聞き返す。
「…知らないよ。ウチらのナワバリに入ってきたんでこの船を横付けして乗り込んでやったんだ。中には黒ローブ達の集団が居て…」
「エクス・ベンゾラムだ。良く無事だったな…」
「あぁ。シュヴァルツを四方八方から撃たれたさ。でも、身軽さは誰にも負けない自信があったし…ウチらひまわり団は優秀な部下ばかりだから直ぐその船は制圧したんだ」
「そのカトラス一本でシュヴァルツの大群と!?お前やるなぁ〜!」
ダルクスはほ〜!と感心したように声を上げる。
「感心してる場合ですか!無茶するなぁ〜…」
リューセイは顔を引き攣らせる。
「で?で?それでどうした?」
ダルクスはもう普通に話を楽しんでいるようだ。
「その船の親玉を軽くいなしたらこの黄金のシュヴァルツを持っててね。それを頂いたの。はいおしまい。これで満足?」
「他のシュヴァルツは?自分の仲間にはシュヴァルツを配らなかったのか?」
「こんな危ないもんウチ以外に扱わせる訳にはいかないよ。その船はシュヴァルツもろともこの船の大砲で木っ端微塵にして…海の底だね」
「ほおほおー!!いや、小娘、お前、やるなぁー!!」
ダルクスはキラキラと目を輝かせて手を叩く。
「え〜…なんなのアンタら…」
トリンコロックは予想外の反応に若干引き気味だ。
「とにかく、トリコちゃんが上手い事やってくれたっちゅー事ですよ」
リューセイが馴れ馴れしくニコリと笑うと、トリンコロックは机の上の本を投げ付けた。
「痛っ!」
「アンタが馴れ馴れしくその名前で呼ぶな!」
憤るトリンコロックに続けて、ダルクスが続ける。
「いやいや、悪かった。ベンゾと何か繋がりがあるのかと思ったが…むしろ奴らを黙らせてくれていたとはな。いやぁ、天晴天晴」
ダルクスはうんうんと頷きながら机の上に置いたシュヴァルツを手に取る。
「ま、そうと分かればもう用はねぇ。俺達はもう行かせて貰うぞ」
「待って!」
トリンコロックは立ち上がる。
「お願い、そのシュヴァルツは…返してくれない?」
「あ?」
「そのシュヴァルツが…今、ウチにはどうしても必要なの!宝箱はアンタ達に返すから…」
「シュヴァルツが世界法で禁止されてるの知ってるよな?」
「知ってる。………でも、そもそもウチらは海賊だよ!?法律なんてそもそも重んじて無いんだって!海上ではウチらが法律なんだから…!ね、お願い、そのシュヴァルツは…」
少し寂しそうに言うトリンコロック。
ダルクスは顎を触りながら少し考えて…
コト…
シュヴァルツを机に置き直した。
「………ま、良いさ………行くぞリューセイ」
「え!?良いの!?」
リューセイは驚きの声を上げる。
「あぁ…。ベンゾとやり合ったその小娘の身軽さを買ってやってんのさ。そのシュヴァルツは見なかった事にしてやるよ。フッ…久々に面白い話が聞けたしな…ハハ」
ガチャ…
扉を開けて船長室を出ようとすると、外にはしたっぱが殺気だった目つきで各々武器を持ってズラッと並んでいた。
「あー………そのシュヴァルツの代わりに…コイツらにアンタに危害は与えてないって誤解解いてくれないか?」
ダルクスは顔を引き攣らせて言うのだった。
続く…




