第百四十八幕【宝箱配置・ドーメキ諸島!】
「イカリを上げろー!」
ミリオン高速船の上で船員の声が上がる。
アカシータ貿易港でガフマン町長が手配してくれた元ラグジュアリー号の船員達が引き続きミリオン高速船も見てくれる事になった。
新しい船を手に入れた宝箱配置人一行の新たな船出が今始まろうとしていた!
ブオオオーーーン!!
汽笛を鳴らし、ミリオン高速船はコクド港を出港した。
「速い!!初速から速いぞぉ!!この胸に轟く汽笛!!シンプルな青いラインの入った船体!これだ!!これこそ俺が求めていたモノだ!あんな下品な金ピカ船じゃなくてなぁ!」
ダルクスは大人気なくはしゃいでいる。
「良かったですね〜ダルさん。これなら、前の船を破壊しちゃったのも結果良かったって事っすね〜!」
リューセイがヘラヘラと笑いながら言う。
「これからヨロシクね〜スーパーシガレット2号ちゃ〜ん」
ダルクスが手すりにスリスリと頬を擦りながら言う。
「ちょっと!!勝手に自分のモノにしないで下さいって!!この船はみんなの船なんですからね!!」
プンプンと頬を膨らませながらダルクスに詰め寄るイズミル。
「うるせぇガキんちょ!オメェにはこの船、持て余しちまうわ!!ほんですぐ壊す!!オメェは子供だから手加減ってものを知らねぇからな!!」
ガブリ
すかさずイズミルはディアゴの2ページ【噛みつきの章】からのトラバサミでダルクスの尻に齧りつかせた!
「イだアァァァァァ!!!!!」
飛び上がるダルクス。
「やれやれ…ヤラれるの分かってて喧嘩売るんだから…」
溜め息を吐きながらリューセイが首を振る。
「もう!新たな船出の時に初っ端揉めないで下さいよ!!」
ユーリルも呆れたように声を上げた。
リューセイがふとリーサに目を向けると、何故か甲板で一人空を見ながら反復横跳びをしているリーサ。
「な、何やってるんだ…?」
リューセイが声をかけると、半泣きのリーサが顔を向けながら左右に動いている。
「ヒィィィ〜!!だってぇ〜カモメ達が私の頭上をグルグルとー!!」
「ほんと鳥と仲良いよなぁ。汚されても回復魔法ですぐ綺麗に出来るんだから良いじゃないか…」
「それでも嫌ですよぉ!」
「分かった分かった!…それより、次の俺達の目的って確か…」
「うぅ…ドーメキ諸島での宝箱配置とボス配置、そして【海賊王の剣】を何処か良い感じの洞窟に納める事…でしたよね」
「その海賊王の剣があの荷車に乱雑に詰め込まれてるんだよな。どーいう事なんだよそれは…しかも、実際にドーメキ諸島は海賊が蔓延ってるんだよな?…無事に事が進めば良いけど」
「そ、そうですねぇ…ほんとに…そうだと良いですけど…」
べチャリ
リーサの肩にカモメの糞が落とされた。
リーサはギョッとそれを目視した途端、
「うわーーーーーん!!!」
…と泣き出してしまった。
「先が思いやられるなこりゃ…」
リューセイは再び溜め息を付くのだった。
ーーーーー
【ドーメキ諸島】
多くの無人島群からなるドーメキ諸島。
岩礁や突き出した大きな岩が多く、船が近づきにくい立地がかえってお尋ね者や海賊などには好都合な場所だった。
「うひゃ〜…何処も岩…岩…岩!!岩にぶつかって跳ね返る波でかなりグラグラ揺れますね」
ユーリルが言うと、続けてリューセイも口を開く。
「こんなところ、勇者に来させて大丈夫なんですか!?海賊も居るんですよね!?」
ダルクスに視線を向けると、ダルクスはタバコに火を付けながら答える。
「心配居らねぇよ。魔王を倒そうって勇者が海賊なんかに引けを取ってりゃそれまでよ。ここいらの海賊達の平均レベルは…」
ダルクスの言葉を遮ってイズミルが前に出る。
「平均レベルはだいたい25レベルですね!ここらに差し掛かる頃の勇者一行様には問題ないレベルかと!」
「んじゃ早速、まずは適当にそこいらにある小さい無人島らに宝箱配置と…良い感じの洞窟を探してだな…そこに海賊王の剣をぶっ刺して…それを守るボスを配置して〜…って手筈だ。よし、ボートを出せ!」
ダルクスは手を上げ船員に指示を出す。
「ボートって…もっと島に近づけないんですか!?」
リューセイが声を上げると、ダルクスがそれに答える。
「ったりめーよ!これ以上は近付けねぇ。岩礁で船底を傷付けちまうからな。こっからはボートで島に近付くぞ」
「うわぁ〜大変そ〜…」
ーーーーー
「ボートの準備、完了です!」
船員がダルクスに敬礼しながら言う。
「うっし!んじゃ、リューセイ行こうか」
ダルクスに肩をポンと叩かれるリューセイ。
木でできたボートにはもう一隻ボートが繋がれ、そちらには既にアイテムが入れられリーサの魔法(勇者以外がいたずら出来ないようにする為の結界魔法)が施された宝箱が詰め込まれている。
「女性陣は船に残っていて貰う。まぁ船の見張り役だな。無人島への宝箱配置は男性陣に任して貰おう」
「ボートから落っこちちゃわないように気を付けて下さいねぇ〜!ダルクスおじ様、泳げないんですから!」
イズミルはニコニコと嫌味そうに言いながら手を振っている。
「うるせぇぞガキ!言われなくてもなぁ…!!」
「まぁまぁダルさん!もう行きますよ!!」
相手にしようとするダルクスを抑えながらリューセイ、ダルクス、そしてボートを漕ぐ用に二名の船員を乗せ、ボートは漕ぎ出した。
「待ってますから、気を付けて下さいね〜!」
「お土産待ってま〜す!」
船から身を乗り出し手を振るリーサ、ユーリル、イズミルに見送られながら、リューセイ達は徐々に一番近くの小さな無人島に接近する。
「よし、先ずはここだな。見た感じ山もねぇし洞窟は無さそうだな。ちゃっちゃと宝箱1〜2個配置して次の無人島に向かおう」
ダルクスは言ってボートから降りた。
バシャ!ジャバジャバ…
波打ち際から砂浜につくと、抱えていた滑車の付いた小さな台車を砂浜に置く。
「リューセイ!この台車に…宝箱2個、乗せてくれ」
「は、はい!」
ダルクスに言われ、リューセイは2隻目のボートに積まれた宝箱を一つ抱えてボートを降りる。
ジャバ!バシャバシャ…
ドスン!
宝箱を台車に乗せる。
「ふぅ〜。あと一個」
「2つ乗せたら…そうだな、この島の真ん中当たりに一個と…向こうの一際大きい木の根本に置きゃ丁度良いか」
双眼鏡を構えタバコを蒸しながら言うダルクス。
「結構鬱蒼としたジャングルになってますねぇ〜」
「そうだな。魔物も居るだろうから気を付けて進むぞ」
ダルクスは言って、ズカズカとジャングルに向けて歩き出した。
「え!ちょ、待って下さいよ!まだ宝箱一個乗せてない…!!」
リューセイは急いで宝箱をもう一つ台車に乗せると台車に繋がれたロープを引っ張ってダルクスを追いかけた。
ーーーーー
グエッチョングエッチョン…
ピヒョロロロ…
聴いたことのない鳥達の鳴き声が響く鬱蒼としたジャングルを進むリューセイとダルクスの二人。
「あっちぃ〜〜〜…ジャングルの木の陰に居るハズなのにジメジメあっついなぁ〜…」
首元をパタパタと扇ぎながらリューセイがボヤく。
「ポニョン!ポニョン!」
ダルクスの肩に乗ったポニョが先ずは双眼鏡で見えた大木の方角を身体を矢印の形に変形させながら案内してくれる。
「魔物は出て来ねぇな。まぁ、勇者がここに到達する時のレベルで苦戦するような魔物は居やしねぇと思うが、念の為確認しときたいんだが…」
この暑い中、ダルクスは余裕そうだ。
「俺より厚着して良く汗一つかかず…」
リューセイのカッターシャツは既に汗でベショベショだ。
「あ!」
ふと顔を上げた目線の先にあったものに思わず声を上げるリューセイ。
「ダルさん!宝箱がありますよ!?」
リューセイが駆け寄ると、そこには置かれたばかりなのか、綺麗な宝箱が置いてあった。
「コレって…?」
リューセイがダルクスに視線を送るとダルクスは答える。
「あぁ、前回配置した宝箱だろうな」
「コレ、蓋が開いてないって事は…前回の勇者の取り零し…ですよね!?へぇ~!良く朽ち果てもせずここに綺麗に残ってますねぇ〜!」
リューセイは興奮しながら宝箱を開けてみた。
ゾワワッ!!
開けた瞬間、リューセイの背筋に嫌な寒気が走った。
「…!?ナニ!?」
直後、宝箱からシュルシュルと焦茶色の触手が伸びリューセイを弾き飛ばした!
「ブベラっぽん!!!」
ドシャア!!
リューセイは吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。
「み、ミミックだ!!ミミック!!」
リューセイは起き上がり指を指して騒ぐ。
宝箱は再びカチリと蓋を閉じた。
「お前アホだなぁ〜。10年前の宝箱が朽ち果てずに綺麗なまま残ってる訳ねぇだろ。こういう時は大体ミミックが根城にしてるから綺麗に残ってんだよ」
ダルクスは危機感のない感じでヤレヤレと首を振っている。
「じゃあ…さっき背筋を走った悪寒って…」
「即死魔法だな。良かったなぁ。スカったみたいで」
「はよ言ってくれませんかね!!?」
「ポニョンポニョン!」
ダルクスの肩でポニョが飛び跳ねる。
「おうおう、お前のお仲間だよな〜?大丈夫大丈夫。このミミックはこのままにしておくからなぁ〜」
そう言ってダルクスはジャングルを進み出す。
「え、ちょ、このままにするんですか!?勇者が危ないんじゃ!?」
「勇者ってのはな、宝箱にゃ良いもん入ってると思っていい気になってパカパカパカパカ節操もなく開けんだよ。たまには痛い目見て、人生そんな甘く無いと思い知るべきなんだ」
「余計なお世話だよなほんとに…」
元勇者のリューセイも前回の冒険でミミックには痛い目を見させられたのを思い出し、そう呟くのだった。
続く…




