第百四十七幕【コクド交通港のサウザウンド社のミリオン高速船】
アイドルプロデュース大作戦の激闘が繰り広げられたマイムメイルから暫く南に位置する【コクド交通港】。
宝箱配置人一行はそこでアイドルコンテスト優勝賞品である"ミリオン高速船"を受け取りに来たのだった。
「コクド交通港に着きましたね。サウザウンド社に赴いて、早速お船を頂きましょう!」
イズミルはウキウキと嬉しそうに言う。
「俺も確認したい!」
ダルクスも珍しく、はやる気持ちを抑えるように言っている。
「ダルさん嬉しそうッスね〜。まぁ、元々自分の船が壊され…あの金ピカのラグジュアリー号も嫌がってましたもんね〜」
リューセイがヘラヘラとそう言うと、ダルクスはうんうんと頷きながら続けた。
「それにな、サウザウンド社と言やぁ船を造らしゃ天下一品と名高い世界的にも有数の造船会社だぞ。そこの船となりゃあ期待せざるを得ないだろ」
「うぅ〜ん、ダルクスおじ様にはコクド交通港の宝箱配置をお願いしたかったんですが…しょうがないですね」
やれやれと首を振ってイズミルはリューセイ、ユーリル、リーサの方を振り向き続けた。
「そういう事なんで、私達は一旦サウザウンド社に行って来ます!私はサウザウンド社の方と勇者用のイベントを用意出来ないか確認して来ます。リューセイさん達は今まで通り宝箱配置の許可証やクエストの用意を…」
「おう、任せとけ!」
リューセイが相槌を打ち、ユーリル、リーサも頷くのだった。
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本来はアヤシカビーチから出港、そこからドーメキ諸島で伝説の剣探しとなる手筈だった勇者のルートは、宝箱配置人一行の前に立ち塞がった魔王軍(バルチェノーツ海軍)の攻撃による船の破壊によって大きく変わってしまった。
アヤシカビーチから南のマイムメイルを経由し、更に南のここ、コクド交通港。
そこからドーメキ諸島へと出港する事になる様に変更された訳だった。
そして、いつも通りの民家への宝箱配置の許可とアイテム配置を任されたリューセイとユーリルだったが、商業用で港の大半をサウザウンド社で占められたコクド交通港ではさほど民家もなく、直ぐに仕事を終えていた。
「もうやる事終わっちゃいましたね」
水平線が眺める、海に突き出した広場の手すりにフワリと座りユーリルが言った。
「リーサはまだクエストに出来そうな悩み事がないか、住人に聞いて周ってるか。もう暫くしたら戻って来るだろ」
リューセイは言いながら、手すりに肘をつき水平線をボーッと眺めている。
しばし潮風に無言で当たっていると…
ふとリューセイが口を開いた。
「なぁユーリル。ちょっと聞きたいんだけど…」
「はい?」
「前の冒険の時もそうだったけど、ファンタジーの世界って言う割には…この世界って魔界から来る魔族を除けば他の種族が居ないよな…」
「他の種族?」
「ほら、ファンタジー世界って言えば、ドワーフ族とかエルフ族とか人間とは別の種族が共存しててもおかしくないだろ?長く旅してて会ったこと無いけど…」
「プッ…アハハハ!」
ユーリルは急に吹き出して笑い出した。
「俺、何か面白い事言ったか?」
「アハハハ、もう勇者様、漫画の見過ぎですって!そんなの漫画やゲームだけのお話ですよ!この人間界に人間以外の種族は居ません!同じ人間同士でも仲良く出来ないのに…他の種族なんか産み出そうものなら種族間の差別や戦争が余計激化するでしょう!」
「み、耳に痛い話…」
「まぁ、そういうエルフとかドワーフとか、そういう種族の特徴はぜーんぶ魔族の方達が持ってますよね。魔族って多種多様で…言わば、魔族の中にエルフやドワーフも居るって感じですよね。………ん?」
ユーリルは何かに気付いたのか顎に手を当てながら思案し始める。
そんなユーリルに続いてリューセイも口を開いた。
「そこなんだよ。なんで魔族はこの世界に産まれたんだ?別の種族が居たら争いが産まれるってんなら魔族が居るのもおかしいじゃないか。現に、人間と魔族は争ってしまってるし…」
「………全てに意味があるんです。勿論、魔族と言う種族が産まれたのにも何か"居なくちゃいけない理由"があるんでしょうね…。ごめんなさい、私もまだまだファンタジー世界の女神になって日が浅いので…詳しくは前任者のミカエル様に聞かないと…」
「ふ〜ん…?………で、ユーリルはさっき何に気付いたんだ?『ん?』って声上げてただろ?」
「え?あ、あぁ…いえ、魔族には多種多様な種族が集まってるんですよね。センチュレイドーラみたいに人型の魔族も居れば、獣人だったり、スライムみたいな不定形な種族だったり…魔族同士で争ったりはしないんですかね?」
「そういうのが無いから、人間界に来て人間達も同じ様に統制しようとしてるんだろ。なんだかなぁ…魔族が出来てる事が人間には出来てない…って、情けない話だよなぁ…」
「そんな言い方ヤメて下さい!人間は、"上"や私達女神を模した神聖な生き物なんですよ!」
「そんな神聖な生き物には思えないけどなぁー」
「勇者様って育成シミュレーションゲームとかやった事あります?思い通りに全然育たなくて…色んな方法を試してどうにか理想のキャラクターを作ろうと頑張ってる…言わば私達女神は"デバッガー"と言えるのかもしれませんね」
「ゲーム感覚かよ!何の為にそんな事してるんだ?」
「いい得て妙ですね。…"上"はどうしても自分と同じ存在を創り上げたいんでしょうね…」
「なんで?」
「寂しいからじゃないですか?自分一人だけだと…」
「そんな理由なのか…?」
何か釈然としないリューセイ。
少し間を置いてリューセイは続ける。
「外に居る魔物 (モンスター)はどういう存在なんだ?魔族とは違うんだろ?」
「魔物は勇者様の世界で言う普通に"野生生物"ですよ。自給自足や魔物を倒して生計を立てる世界観に合わせて、少し知恵を付けた野生生物ですね。目の前に魔物が現れた状況は、勇者様の世界で言うヒグマやイノシシが目の前に現れたと同義ですね」
「魔物を倒したらレベルが上がる…ってシステムは誰が決めたんだ?」
「それも前任者のミカエル様がファンタジー世界に配備したシステムですね。魔物と戦うに至って、自分の実力がレベルを見て一目で分かるようにしたんです。そうすれば、無理に強敵と戦って命を落とす…なんて事がなくなりますよね?レベルってのは言わば指標で、よく間違えられるのが"レベルアップしたら強くなる"んじゃなくて"強くなったからレベルアップ"するんです。勇者様の世界で言うスポーツの階級と同じですよ!戦闘を重ねたり、強い敵と戦ったりして経験を積めば、自動的に『あなたは今これくらいの実力がありますよ』ってレベルが上がるんです。あ、ちなみにレベルがアップした時、天からパンカパカパーン!ってファンファーレ鳴りますよね?あれは私が取り入れたシステムなんです!その方が強くなった!って感じがして嬉しいし、レベルアップしたんだって分かりやすいでしょ?」
「なーるほどなぁ〜…ユーリル、お前ってほんとにファンタジー世界の女神だったんだな…」
「なんですか改まって!!普段ファンタジー世界の女神っぽくないみたいな!!」
頬を膨らませるユーリル。
ファンタジー世界の当たり前だと思っていたものにも…全て意味があり理由がある。
リューセイは改めてファンタジー世界に思いを馳せるのだった。
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一方その頃、ダルクスとイズミルはサウザウンド社に赴きアイドルコンテスト優勝賞品のミリオン高速船の小切手を受付に渡した。
すると、直ぐに二人は案内人に完成した船を停めておく造船所の倉庫に連れられた。
「うおおおおお!!!!!」
ダルクスが声を上げる。
目の前には、最新鋭の技術を結集して造船された"ミリオン高速船"が停泊していた。
船首が細く尖り、船体には青いラインが描かれ、まさしく速そうな帆船。
両脇の船尾には大きな水掻きのパドルが取り付けられている。
「コチラがサウザウンド社の粋を結集して造船された世界最速の船【ミリオン高速船】です!」
案内人が手を広げそう言うと、ダルクスは年甲斐もなく目をキラキラとさせながら口を開く。
「これだよこれ!!船と言えばこのかっこよさ!!よし、この船には【スーパーシガレット2号】と名付けよう!!」
「ちょっと!この船はみんなの船なんですよ!!勝手に変な名前付けないで下さい!そもそも、その船を手に入れるのにダルクスおじ様は何もしてないじゃないですか…」
イズミルが呆れた様にジト目で言うと、ダルクスはイズミル見据え続ける。
「あぁ〜?お前こそ優勝逃して結局は何の役にも立ってないだろうが!これは全部あのハグレさんのおかげだろ!!」
「うっわひっど!!コッチがどれだけ苦労したと思ってるんですか〜!」
いがみ合う二人。
案内人は苦笑いしながらまぁまぁとその場を納めようとする。
「ほらお客様、この船はいつでも出港出来ますからね!是非この船を乗り回してサウザウンド社の広告塔になって頂ければ…と思います!そして勿論、快適な船旅をお約束しますよ!」
こうして宝箱配置人一行は新しい船を手に入れ、新たな船出の旅が始まろうとするのだった。
続く…




