第十五幕【帰るまでが宝箱配置人】
日も沈み始めた頃。
赤く染まった頂上の清掃も何とか終わり(ほとんどディアゴの26ページ【豪水の章】のおかげだが)、ドラゴン一匹の捕獲にも成功した。
脳筋の腕輪の守り主…として、ダルクスの手で頂上に鎖で繋がれた。
まだドラゴンは気を失ったままだ。
「…とは言っても、あのドラゴン強過ぎないですか?レベル低い勇者では敵わないと思いますけど…」
リューセイはダルクスに聞いた。
「そうだな。だから宝箱配置人協会に依頼して"宝箱配置人・魔物ならし担当"を派遣して貰う」
「魔物ならし担当?そんなのもあるんですか?」
「魔物使いがなれるんだ。こういった場合の魔物のレベル調整や飼い慣らしを得意とする」
宝箱配置人って一体何種類あるんだよ…
「それよりガキんちょ。ボス魔物は良いが途中までの雑魚魔物はどうする」
ハッと、立ちながら寝かけていたのか、イズミルは体を震わせ答える。
「ドラゴンも暴れられない様に拘束してますし、自然に戻ってくると思われます…。本当なら戻ってきた魔物のレベルの調査などが必要ですけど…後は魔物ならし担当にお任せしましょう…ふぁ〜」
イズミルは大きなあくびをする。
「おっし。もう時間も遅いし、さっさと下山して村に戻ろう。女神さん、坂を下るのは少し危ないので、勢いがつかないように後ろから引っ張って貰ってて良いですか」
「あ、はい!」
ダルクスはそう言って、荷車を引きながら来た道を引き返し始めた。ユーリルは荷車の後ろを掴み勢いがつかないように手伝う。リューセイはその後を追いかけようとするが…
「リューセイさん…」
イズミルに袖を引っ張られる。
「なんだ?」
「おんぶ」
そう言ってイズミルは大きなあくびをし、コクンコクンと首は船を漕いでいる。
「あーん?ちょっと待てよ!取り敢えずディアゴを荷車に乗せよう」
リューセイはディアゴをイズミルから預かる。
背負った方が早いか、ディアゴを肩にかける…あれ軽い…と思いきや
ドシャ!!!
ディアゴは肩にかけた瞬間みるみる重くなりリューセイは潰されてしまった。
「た、助けて…潰れる…!!」
「何してるんですかもー。ディアゴは私にしか背負えないって言ったじゃないですか…」
イズミルはディアゴをヒョイと持ち上げる。
「背負っちゃダメですよ。私以外に背負われるのディアゴ嫌がるんです…ファ〜…」
そう言ってイズミルは倒れるようにリューセイに寄りかかってくる。
「ちょ、これ、ダルさん!!手伝って!!」
「リューセイ、リーサも忘れるなよー」
そうだ。棺桶になったままのリーサも居たんだった。
リューセイはイズミルをおんぶし、ディアゴの肩掛けベルトと棺桶から伸びたヒモを引っ張りズルズルと引きずりながらダルクスを追いかけた。
「ちょっと!!待って下さいよ!!これで下山は流石に危な過ぎますって!!せめてリーサを生き返らせて下さいよ!」
「さっきのドラゴンに使った呪文で魔力が空になっちまったんよな」
「魔力が空になる呪文って、あんた一体ドラゴンの体内で何唱えたんだよ!!」
リューセイは言いながら坂を下る前のダルクスになんとか追いつき、先にディアゴを乗せる。
「ぜぇ…ぜぇ…あの、棺桶も乗せられないですかね?」
「無理だな流石に。…ったく、しょうがねぇな」
そう言ってダルクスは荷車を止め、棺桶までやって来て屈みながらズルズルと棺桶を押していく。
「ダルさん一体何を…」
ダルクスは棺桶を下り坂手前で止める。
「棺桶を先に滑らせちまえば万事解決よ」
「な、なにぃ!?いや、それは流石にリーサの尊厳が…」
「なんでだ?ほら、ガキんちょも乗せな。ソリの要領で一緒に滑らしちまおう」
「乗せないよ!!危ないだろ絶対!!」
「わーったわーった。じゃあ棺桶だけ先に…」
そう言ってダルクスは棺桶を蹴り出す。棺桶はそのまま下り坂をズザザザザーと滑っていく…が…
バゴッ!!
「あ」
途中で石か穴ぼこに引っ掛かったのか、棺桶が立ち上がったかと思うと、そのままガッ、ゴッ、ガッ!と縦に大回転しながら麓まで転がっていった。
「やべ…」
ダルクスはポツリと呟く。
「リーサぁぁぁぁぁ!!!ちょっと!!!どうするんですかアレ!!!!!」
「い、いや、大丈夫だって!棺桶は丈夫なハズだから…」
「丈夫ってアンタ『やべ』って呟いてただろ!!!良かった、イズミル乗せてなくて!!!」
「いや、中のリーサ様の方を心配しましょうよ!!!」
ユーリルが思わずツッコむ。
「大丈夫だって!!!ほら、俺達も行くぞ!!!」
ダルクスは言いながら荷車を再び引き始める。
不憫過ぎるリーサ…棺桶状態でこの扱い…
暫くして麓に付いた頃、ボロッボロになった棺桶を見て、なんとも切ない気持ちになるのだった。
〜〜〜〜〜
【ムジナ村】
夜も更け、イズミルだけを宿屋で寝かしリューセイ達は教会に集まっていた。
「また来たんですかあなた達…っていうか、なんなんですかそのボロッボロの棺桶は!?あなた達死者に対して慈悲も哀れみもないのですか!?」
シスターは呆れ顔で言う。
「ハハハ、すみません〜。ほら、ダルさん!」
昨日のように、ダルクスは『生き返らせるのは宿代も浮くし明日で良いだろ』と言っていたが、リューセイがなんとか説得して教会に連れてきた。
「なぁ、やっぱ明日でも…」
「ダルさん!」
リューセイはキッとダルクスを睨む。
「わーったよ!」
そう言ってダルクスはシスターに生き返らせる為のお布施を渡した。少し聞き分けが良いのは、棺桶をボロボロにした事を少しは悪かったと思っているからだろう。
「しょうがないですね…おぉ、我が主よ…その御心で彼女の魂を戻したまえ!」
シスターが棺桶に向かって拝む。
「またリーサ、自責の念を感じて逃げ出すんじゃ…」
「その時はひっ捕まえてキラチャームを!」
ユーリルが言って、リューセイはそうだなと頷いていると…シュッ!と頬を何かが掠める。
ナイフだ。
「ヒェッ!?」
リューセイは飛び退いて尻餅をつく。
待て待て、これはまさか…
ゆら~と起き上がるリーサ。
勿論その片手にはナイフが…これは…
『限界メンヘラ突破』!!!
「フフフ…フフ…思い出しましたよ…リューセイさん…」
「ゲッ!!あの時の事を…!!………いや、俺は何も悪い事してないからね!?」
リーサの周りにじめじめオーラが放たれる。教会内にキノコがポポンと生え出した。
「ちょっとぉぉぉ!!!なんですかコレぇぇぇ!!!」
シスターはアワアワと狼狽えている。
「ど、どうしたんだリーサさんは?」
ダルクスも呆気に取られる。
「いや、これは、誤解も誤解の超誤解でして…」
「誤解ぃ〜???逃しまセンよリューセイさん…さぁ!!認知して貰いますよおぉぉぉ!!!」
「に、に、に、認知ぃぃぃぃぃ!!!?……………ってなんですか?」
ユーリルは驚くも意味を知らずダルクスに問いかける。
「この場合、多分子供を孕ませた事を…おいおいリューセイ、お前この世界に来てやることやってんなぁ?」
「子供ぉぉぉおお!!?ゆ、勇者様…!!!こ、この変態!!!最低人間!!!ロクデナシ!!!クズ!!!」
「あんたら少し黙っててくれ!!」
リューセイはリーサにジリジリとナイフで牽制されながら後ずさる。
「安心して下さいリューセイさん?認知しないとつま先から一センチづつ切り刻んであげますよ!」
「どこが安心なんだどこが!!」
ダルクスがリーサの肩にポンと手を乗せる。
「まぁまぁリーサさん。お気持ちは分かりますがね?リューセイも若気の至りでそういう事に興味があった訳で…」
「触らないで下さい!!!」
そう言ってリーサはナイフを振りかざす!
「どわっ!!!」
ダルクスも後ろにのけ反った後そのまま尻餅をつく。
「男っていっつもそう…油断したら直ぐにボディタッチ…結局それが目当てで近付いてキて…フフ…フ…」
「ダルさん逃げて!!」
リューセイは知っている。こうなってしまったリーサはガチで手が付けられない事を。
Lv86のリューセイが死にかけたのだから間違いないと。
「嗚呼ああああああァァァ!!!!!男って、男ってぇぇぇえぇ!!!!!」
そう言ってリーサはダルクスにナイフを刺し向ける。リューセイは正直、ターゲットが変わった事に安堵する。
「待て!!おい!!なんだこれ!!!リーサさんを止めろ!!おい!!!」
リーサの連撃は止まらない。
その圧倒的な攻撃に教会内は風圧が吹き荒れる。
「ちょっとちょっと!!!教会内では静かにして下さいぃぃぃ!!!」
シスターもこの状況を飲み込めずワタワタと手を振っている。
「殺す!!この世の全ての男ぉぉおぉ!!!!!」
「リューセイ!!!助けろ!!!オイ!!!いや、強過ぎだろこの女!!!Lv1じゃねぇだろコレ!!!」
「頑張ってーダルさーん」
パリーン!!ゴシャアアアアン!!
教会のステンドガラスが割れ、長椅子はベコッとへしゃげ…ダルクスとリーサの攻防が続き…
「大人しくしないと痛みますよダルクスさぁぁぁん!!?」
隙を付いた一撃がダルクスを襲う!!!
「どおおぉおおぉぉお!!?」
「いい加減にしろやテメェらァァァ!!!!!」
バゴォーン!!!!!
「プギャ!?」
なんと、シスターが振り下ろした十字架がリーサの脳天に直撃し、そのままリーサは気を失ってしまった。
「教会内では静かにしろっつってんだろぉが!!!シバき回すぞゴラッ!!?」
86Lvのリューセイよりも強い『限界メンヘラ突破』したリーサ。そしてどうやら、教会内ではそれよりもシスターが強いようだ。
「「「スイマッセンしたぁぁぁぁあ!!!」」」
リューセイ、ユーリル、ダルクスは直ぐ様頭を下げる。
そんな一夜の攻防戦。
〜〜〜〜〜
一方その頃…
「むにゃ…ニシシ…ヨーグルトは…フタに付いてるのが…一番濃厚で…美味しいのです…グー…」
そんな事は知る由もなく寝言を言うイズミルだった。
続く…




