第百三十九幕【盗まれイベントってそんな好きじゃない(個人的に)】
「いや?今日はまだ船は出てないよ。ここで起こった殺人事件と言い、世界の情勢といい、色々検査が厳しくなってな。警備も一層厳しいし、バンバンと船を出せなくなっちまってる」
港にて船乗りに事情聴取をするガウラベルと熊猫辣。
「夜の内に船は出て居ない…怪しい人間がウロチョロしてるようなら警備の兵士に直ぐに見つかる…だったら、港から海に出たって事は無い訳だ」
ガウラベルは顎を触りながら思案する。
「盗んだ奴は磁塊鉄盤を持ってるハズだ…素人が持つには余りにも邪魔になると思うぞ。そんなに遠くには行けないんじゃないかな」
熊猫辣が言うも、ガウラベルは首を横に振った。
「いや、それはどうかな?ヤツは"ふしぎなふくろ"を持っていってるから…持ち運びは容易に出来たハズだ」
「その…"ふしぎなふくろ"って何なんだ?」
熊猫辣が首を傾げて尋ねる。
「"ふしぎなふくろ"は勇者パーティに持たされる…言わば秘密道具みたいなもんだよ。旅の間に手に入るアイテムや装備品をいくらでも入れておける魔法の袋さ」
「く…、それに磁塊鉄盤も入れておける訳か…って言うか、とんでもない物を盗まれたんだな…」
「あぁ………それどころじゃない。アタイはその"ふしぎなふくろ"を胸の谷間の中に挟んでたんだ。つまり犯人は寝ている私の胸の谷間に腕を突っ込んだ事になる…」
(だからよく胸の間からアイテムを取り出してたのか…)
熊猫辣は変に納得して目を瞑ってウンウンと頷いている。
「絶対許さないッ!!!犯人を見つけ出してアタイに触った事を後悔させてやるッ!!!」
「…とは言っても…どうやって探すつもりですか?」
憤るガウラベルの後ろから二人に追いついたクサカベが声をかける。
「しらみつぶすしかないだろ…幸い、海は出てないって言うし…」
腕を組みクサカベに向き合うガウラベル。
ガウラベルの提案にクサカベは横に首を振る。
「分かりませんよ?街の外の人気の無い海岸から小舟で出たかもしれないですし」
「じゃあそれより良い案があるってーの?」
「ええ。あの人の"鼻"を使えば良いんですよ!」
「「あ。」」
ガウラベルと熊猫辣は同時に声を上げ…ハッと気付くのだった。
ーーーーー
「無理だね」
キッパリと断られてしまった。
宿屋の部屋のベッドで真っ暗な中、布団を被っているアンカーベルト。その周りに集まるクサカベ達。
「無理ってなんでだよ!アンタの"猟犬の鼻"って技があればアタイ達が盗まれた物だって…」
「無理だね。大切なフードが無いと外に出られないよ…」
「そのタオルグルグルの頭で良いじゃないか!?」
「この頭で四つん這いになって外を這ってたら…本当の変態だと思われるよ…」
「ハァ…なんでいつものフード姿なら変態と思われないと思うんだ…?」
腕組みをした熊猫辣は溜息を付いてヤレヤレと首を横に振りながら呟く。
「とにかく…あの大切なフードが無いと…僕は外に出たく無いんだ…」
ガウラベルは痺れを切らし、アンカーベルトの両肩を掴みブンブンと振り回す。
「そんな事言ってる場合か…!?その大切な物を取り返す為に今力を発揮しないでどーす…!!」
アンカーベルトは徐ろにグルグル巻きにしたタオルを解き、ガウラベルにだけ見える様に顔を見せつけた。
ガウラベルはサッとアンカーベルトから手を離し…クルッと振り返った顔には涙がツーッと流れていた。
「え"っ"!!どうしたんですかガウラ姐さん!?」
「屠畜場に連れていかれる牛の様な顔しやがってぇ………グスッ………クサカベぇ………アタイ達でどうにかするしか無いよ………グスッ………」
「全く…これじゃ話にならないな」
熊猫辣は再度頭を抱えている。
「僕は協力出来ないけど………とは言え、何も考えて無い訳じゃ無いんだ………」
アンカーベルトはタオルをグルグル巻きながらそう言うと、ピュイッ!と口笛を吹いた。
「い、一体どうするつもり…」
クサカベは呟いてすぐ、異変に気付く。
部屋全体がカタカタ…と、小刻みに震えているのが足元から伝わって来る。
「…えっ?」
次第にその揺れは大きくなっていき…!
ドガシャーーーーーーーーーーン!!!!!
部屋の窓際の壁を踏み突き破り姿を現したのは一匹のドラゴン。
「ギャオォォォス!!!」
首を伸ばしアンカーベルトの顔を舐め回し始めるドラゴン。
「アハハ…!"ドラコ"ォ!!覚えていてくれたかぁ…!!」
アンカーベルトはドラコの頭に抱きつき撫でくり回している。
「ちょちょちょッ!!!何だッ!!コレはッ!!!」
熊猫辣は顔を引き攣らせてたじろいでいる。
「ま、マオラさんは初めてでしたっけ!…この大陸で元はボス敵だった…何度かお世話になったドラゴンのドラコちゃんです!」
クサカベも同じく顔を引き攣らせながらも丁寧に説明をする。
「アンカーベルトッ!!そのドラゴンでどうしよーってんだ!?」
ガウラベルが問い掛ける。
するとアンカーベルトが続けた。
「よぉしよぉしドラコぉ〜…。悪いけどキミを呼んだのは他でも無い。僕の仲間達の手助けをしてやって欲しいんだ」
「ギャオ?」
「僕の匂いを辿って…盗まれた物の場所を見つけ出してくれないかい?」
「ンーーー………ギャオ!」
ドラコは首を一回コクンと縦に振った。
「おぉ~!!良い子だ良い子だドラコ!!ん〜ちゅちゅちゅ」
ドラコはスンスンとアンカーベルトの匂いを覚える。
「ギャス!!」
クルリと踵を返したドラコの尻尾が宿屋の天井をボガシャァーーーンと抉り飛ばす。
ドラコはそのまま、地面をスンスンと嗅ぎながらノッソノッソと歩き出した。
「ほら、早速ドラコが嗅ぎ付けてくれてるみたいだ!付いて行くぞ!!」
熊猫辣は崩れた壁を飛び越えてドラコの後ろに付いて行く。
「あぁ~…宿屋の弁償どうするつもり…!!ま、待って下さいよマオラさ〜ん!!」
クサカベもその後を追いかける。
「ったく…アンタって奴は…」
アンカーベルトを一瞥し、ガウラベルもその後を追い掛けようと崩れた壁に足を掛けたところでピタッと止まり…再度アンカーベルトに目を向け口を開く。
「なぁ、コレって宝箱配置人の用意したイベントの一つってコトか?」
「そうかな?確か、盗みのイベントって廃止されたんじゃ無かったかな?持ってた物が奪われて勇者の制限が掛かるイベントって勇者サイドからかなり不評だったし、制限を掛けるイベントって勇者を強くする旅には全く意味が無いって事になって宝箱配置人協会からお達しがあったくらいだよ?」
「フン…。それじゃ、盗んだ奴は思いっきりぶっ飛ばしても良いって訳だ…!」
そう言ってガウラベルも外に飛び出して行った。
ーーーーー
ズンズンズン…
アカシータ貿易港の街の中を地面を嗅ぎながら闊歩するドラコに、住民達は阿鼻叫喚と逃げ回っている。
(これじゃ戻って来た僕達が疫病神だよ…)
クサカベは怯える住民達にペコペコと謝りながらドラコの後を追う。
「く、く、来るなぁぁぁ!!!」
槍を構え、ふるふると震える門番を者ともせず、ドラコはアカシータ貿易港の外へと繋ぐ門をコツコツと頭で小突いている。
「どうしたドラコ?外に出たいのかい?」
ガウラベルはそう言って、門を開け広げた。
ギィィィィィ…
「ギャオス!」
ドラコはそのまま門をくぐる…も、
門の大きさとドラコの体躯は明らかに合っていなく、バゴォーーーン!!!とアーチを破壊してドラコは外に出ていった。
「あぁ~もう…!!僕達、魔王とやってる事変わらないんじゃないの!?」
クサカベは頭を抱えて声を上げる。
腰を抜かし怯える門番にも頭を下げ、ドラコを追いかける。
すると、ドラコはとある森へと向かって行った。
一度、勇者の力になるかもと訪れたグフマン博士の家がある鬱蒼とした森の中へと…
続く…




