第百三十八幕【貴方の大切なものを…】
【バクベドーア大陸】
【オボロックル地方・アカシータ貿易港】
鍵のかかった宝箱を開ける為に、今まで訪れた場所を再び訪れ周っていた勇者一行。
早朝、宿屋のロビーのテーブルに付いて足を組み新聞紙を読むガウラベル。牛乳の入ったグラスを傾け…神妙な顔で文字に目を流す。
それを向かいの席で…クサカベも同じ顔で眺めていた。
「どのページも…ソウルベルガが崩壊した事でもちきりだな」
「ほら、やっぱり…悠長に戻ってる暇は無かったんですよ!早く魔王の元に向かわないと!!」
「いや、魔王を倒す為にも…有用なアイテムは集めるべきだ。………寄り道は勇者を強くする。言っただろ?クサカベ」
「そうは言いますが…犠牲が出てるのに…!」
「大丈夫だ。安心しな。……………余計な心配はしなくて良いから。アンタはとにかく力を付ける事に専念するんだ。レベルを上げなきゃ…結局は何の役にも立たないんだから」
「……………」
それでもクサカベは納得のいってない様な表情を見せる。それを察するも、ガウラベルはとりとめもない口調で口を開く。
「……………クサカベ、悪いけどマオラとアンカーベルトを起こしに行ってくれる?」
「……………はい」
クサカベはスッと立ち上がり熊猫辣とアンカーベルトが泊まる部屋へと向かう。
それを見届け…ガウラベルは再び紙面に目をやる。
(ダルクス………コレはお前の筋書きか…?一体この世界では何が起ころうとしてる…?)
ズズ…と牛乳をすすり…ガウラベルはボソッと呟く。
「頼むよ宝箱配置人…私達の旅の行く末はアンタ達にかかってんだから…」
ーーーーー
コンコンコン
まずはアンカーベルトの部屋にやって来たクサカベ。
部屋の扉をノックする。
「アンカーベルトさ〜ん!朝ですよ〜!」
しかし返事は無い。
ガチャリ…
ドアノブを捻ると、鍵をかけてないのか扉は難なく開いた。
「アンカーベルトさ〜ん…?うわ、暗っ!!」
朝日が差し込んでカーテンを閉めていても部屋は明るそうなものだが、そんなカーテンに更に掛け布団を掛けている為か部屋は真っ暗だった。
「うぅ…うぅ〜ん………」
そんな窓際のベッドからうめき声が聞こえる。アンカーベルトの声だ。
(い、今ならアンカーベルトさんの顔も拝めるのでは…?)
好奇心ではやる気持ちを抑え、クサカベはベッドに近付き…窓の掛け布団を引っ剥がしてカーテンを開け広げた!
「アンカーベルトさん!!朝ですよっ!!起きて下さ〜い!!」
バッ!…と直ぐ様、朝日に晒されたアンカーベルトの顔を拝もうと…
「ゲィエッ!!!??」
クサカベはその場で尻もちを付いた。
アンカーベルトの顔にはヒュードロドの顔が張り付いていたのだ。まるでフェイスパックのように。
(び………ビックリした………)ドキドキ
クサカベは高鳴る胸を抑える。
見ると、アンカーベルトはヒュードロドにベッドごと巻き付けられ拘束され呻いている。
「ちょ、ちょ、アンカーベルトさん!?大丈夫ですか!?」
「……………ん……………?……………クサカベ君…なんで僕の部屋に…?」
「世界が大変な事になってます…!あと、アンカーベルトさんも大変な事になってます…」
「……………ん?アハ!やれやれ、ヒュードロドったら!これじゃホントに金縛りじゃ〜ないか!アハハ!良い締め付けだ!いて、イテテ…背骨が折れそうだよッ…!」
「貴方、ホントにいつか死にますよ!!…僕はマオラさん起こして来ますから…」
ヒュードロドの束縛をベッドの上で喜ぶアンカーベルトを呆れた目で見ながら…ソッと部屋から出るクサカベだった。
(あの人…ドMだよな…)
ーーーーー
「マオラさーん。朝ですよ〜!」
今度は熊猫辣の部屋の前に来たクサカベは扉をノックする。しかし返事は無い。
ガチャリ…
「あれ…マオラさんも鍵かけて無いのか…。も〜マオラさん不用心ですよー?」
扉を開けて部屋の中を確認するも…ベッドの上に熊猫辣の姿は無い。
「あれ?もう外に出ちゃったのかな…」
「なんだ?ボクならここに居るぞ?」
声のした方を向くと、いつも結んだ髪を解いた熊猫辣が備え付けのバスルームからタオルで髪を拭きながら出てきた。
……………スパッツだけを履いた姿だった。
「はぁわ!?ま、ま、ま、マオラさん!?」
クサカベは咄嗟に手で顔を隠した。
「ちょ、なんでそんな格好なんですかッ!!」
あられもない姿、それにいつもの髪をおろした、雰囲気の違う熊猫辣に不覚にもドキドキ胸が高鳴った。
「なんでって…風呂に入ってたんだよ。大浴場だと女性が居るし…」
「男性に見られる事を恥ずかしがってくれませんかねッ!?い、いいから早く着替えて下さいよっ!!」
「何だよ…そっちから部屋に入って来ておいて…」
あっけらかんとした表情で、姿見の前に向かった熊猫辣は髪をタオルで拭いている。
(なんで起こしに来ただけなのに二回もドキドキしないといけないんだっ!)
「………で?なにかあったのか?」
髪を乾かしながら、髪を結い始める熊猫辣は問いかけた。
「え?」
尚も顔を手で覆いながら返事をするクサカベ。
「何かあったんじゃないか?だからわざわざ起こしに来たんだろ?」
「あ、そ、それが…」
クサカベは新聞で見た事を話した。
ーーーーー
「魔王………とうとう本格的に行動し始めた様だな…」
「だから急がないといけないんです…!ただ………大量殺戮兵器まで持ち出す…それだけの強大な力を持った魔王に………僕は…太刀打ち出来るんですかね…?」
「愚問だな」
いつもの髪型に戻った熊猫辣はクサカベに向き直る。
「お前に魔王は倒せない」
「え………」
「お前が一人だったらな。……………でも、ボクらが付いているじゃないか」
「マオラさん………」
「勇者一人で無理でも、仲間達で力を合わせれば………」
「マオラさん………!!良いセリフの前に悪いですが早く上、着て下さい…!!」
熊猫辣はヤレヤレと首を振ってベッドの上に乱雑に投げ広げられた白いチャイナドレスの前に向かう。
「…何にしたって、このボクが居るんだぞ?磁塊鉄盤の力を持ってすれば………持って………すれば………」
熊猫辣はキョロキョロと周りを見渡す。
「どうかしました?」
クサカベは着替え中の熊猫辣を見ないように問い掛ける。
「無い…!!磁塊鉄盤が…!!!」
「え!?」
「ベッドの横に立てかけていたハズなんだ!!」
熊猫辣は、そこでハッと何かに気付く。
「おいクサカベ…お前どうやってこの部屋に入った!?」
「え………普通に鍵開いてたんで…」
「そんなハズ無い…!!部屋の鍵は閉めてたハズだぞ!?じゃないとガウラ姐さんが夜、寝てる間にふざけてベッドに潜り込んで来るから…!!」
熊猫辣が焦り気味に言っていると、部屋にアンカーベルトが飛び込んで来た。
「ねぇ二人共!!僕の大切なフードを知らないかい!?て、マオラちゃんなんで裸なの!?」
アンカーベルトは顔をタオルでグルグル巻きにして隠している。その上にヒュードロドが顔を重ねており、まるでお化けの仮面を付けているように見える。
「そっちはなんでミイラ男の格好なんだ…?」
熊猫辣は霊感が無いらしく、ヒュードロドが見えていないようだ。
「いつも僕が顔を隠してるフードがどこにも無いんだよっ!!あれが無きゃ…僕は街の外を歩く事すらままならない…!!」
そして今度は、焦りながらガウラベルも部屋に飛び込んで来た。
「ねぇ!?アタイが持ってた"ふしぎなふくろ"が無いんだけどっ!!?」
「ヒャー!!!ば、バカ!!!着替え中だぞ!!!勝手に入って来るな!!!」
熊猫辣は咄嗟にチャイナドレスを拾い上げ身体を隠した。
「マオラさん…反応が普通逆です!!」
「と、とにかく!!アレが無いと、この先の旅が酷く不便なものになっちまうよ…!!」
「コレってまさか………泥棒?」
アンカーベルトが恐る恐ると口を開く。
「く、クサカベ!アンタは何か盗られて無いの?」
ガウラベルに言われ…自分の身体を探ってみるが…
「………いや、特に今分かる物は………」
「とにかく、盗んだ奴を追わないと…!!クソ、何処に行ったんだ!?」
ガウラベルは言って部屋を飛び出して行った。
「ボクもこうしてはいられない!!磁塊鉄盤を盗まれたとあっては…ただで逃がすわけにはいかないぞ!!」
やっといつとのチャイナドレスの姿になった熊猫辣も部屋を飛び出していく。
「ぼ、僕は部屋に籠もっておくよ…どうか僕の大切なフードも見つけておくれ………」
意気消沈したアンカーベルトは、トボトボと自分の部屋に戻っていった。
「なんか…また大変な事になりそうな予感〜…」
クサカベは頭を抱えながら…
ガウラベルと熊猫辣の後を追いかけたのであった…
続く…




