第百三十七幕【もう放ってはおけない】
マイムメイルでのアイドルコンテストを終え、宝箱配置人一行はそこから南下。
サウザウンド社のミリオン高速船が停泊されている【コクド港】に向かっていた。
その途中で空が暗くなってきたので、宝箱配置人一行は野宿をするのだった。
ーーーーー
早朝。
コツコツコツ…
「………ん」
コツコツコツ…
「うぅん………」
コツコツコツコツ…
「えぇい!うっとおしい!!」
頭を突かれ、丸太を枕にして寝ていたダルクスは肩に止まった何かを手で払いのけつつ目を覚ます。
「ふぁ〜なんだぁ…?」
大あくびをしながら…ダルクスは再び肩に止まった手紙を咥えた鳩に目を向ける。
「……………あ?………伝書鳩………?」
ダルクスは頭を掻きながら少し間を置いて…
「……………伝書鳩!!?」
バッ!と鳩が咥えていた手紙を取る。
「宝箱配置人協会からの手紙という事は………また何か面倒くせぇ事じゃ………」
ダルクスは手紙を読む。
次第に顔が曇っていくダルクス。
「……………クソ……………」
ダルクスは飛び起き、皆の元に向かった。
ーーーーー
パチパチ…
火を起こして朝食を作るリーサ。
その元にリューセイがやって来る。
「イテテ…腰が………やっぱ野宿は馴れないな」
「リューセイさん…ゴホッゴホッ!おはようございます…ゴホッ!今、朝食を皆の分…ゴホッ!作って…ゴホッゴホッ!」
「どうした?風邪か?」
「いえいえ…ゴホッ!火の煙が私に向かって…ゴホッゴホッ!移動しても移動した方に風が吹いて…ゴホッゴホッ!もう諦めました」
「大変だな。んじゃ、俺は他の皆を起こしてくるよ」
イズミルの元へ行こうとするリューセイだったが、イズミルはダルクスに連れられ駆け寄って来た。
「あれ、ダルさんもイズミルも起きてたんですね?」
「それどころじゃねぇぞリューセイ」
ダルクスは神妙な顔付きでリューセイに手紙を投げる。リューセイはそれを受け取った。
「なんスかコレ」
「宝箱配置人協会からだ。いいから読んでみろ」
ダルクスに言われ、リューセイは言われた通り手紙を開いた。
「宝箱配置人一行に次ぐ………今朝の朝刊の情報によると………ソウルベルガが魔王軍によって………壊滅!!?」
リューセイは目を大きく開けてダルクスに目をやる。
ダルクスはいいから読めと…目で訴える。
「魔王軍が大量殺戮兵器を使用したと見られ…ソウルベルガは多くの国民を巻き込み大爆発。死傷者数は数万人にも上るとされ…この事態を重く見た宝箱配置人協会は…魔王であるセンチュレイドーラを抹殺………する事を………」
リューセイは肩を震わせ…バッ!と顔を上げる。
「こんなの嘘だ!!何かの間違いです!!!」
「いや、分かりきってた事だ。等々ヤツは人間達の頭数を減らそうと行動してきた。チッ…あのビーチで始末しておくべきだったんだ…」
ダルクスはタバコにマッチで火を付け咥える。
そこに、ユーリルが上から戻って来る。
「おはようございま〜す………って、アレ?どうしたんですか皆さん集まって…神妙な顔で…」
「とにかく、宝箱配置人協会から俺達に正式にお達しが来た訳だ。『センチュレイドーラを殺せ』ってな」
「待って下さい!!そんな訳ない…そんな…ドーラが大量殺戮兵器を使ったなんて………死傷者を出すなんて………何か間違いがあったんだ!」
「リューセイ。おめぇのその思い込みが間違ってたって簡単な話だ。ヤツはヤる時はヤる。ただそれだけの事だ」
「ドーラは…バルチェノーツでは死者を出さなかった!」
「代わりに奴隷にして働かせてんだろ?それに、魔王軍の軍事力を高める為に海軍も仲間に引き入れて…」
「だったらソウルベルガはどうして…!!」
「ソウルベルガは三強の中でも自分達の国が世界一強いと豪語してた。センチュレイドーラが攻めて来ても奴らは降伏しなかったハズだ。しつこく抵抗するソウルベルガに業を煮やし…センチュレイドーラはボカンとやった。そんなとこだろ」
「そんな………絶対あり得ませんよ!!ドーラはそんな事絶対に………!!」
「あのなぁリューセイ。お前は魔王さんにお熱だからどうしても庇いたいだろうが、コレが現実なの!アクティブに世界の状勢を引っ掻き回してたアイツが…やってもおかしくない事だろ」
ヤレヤレ…と首を振るダルクス。
その後ろから…イズミルも声を上げる。
「私も、ドーラちゃんはそんな事しないと思います」
「ったく…お前まで…」
「分かるんです!ドーラちゃんは…犠牲を出す様な事をする人…魔族じゃない!」
「…ハァ………ガキ共はほんと、なんっにも分かってない。ちょっと優しくされたらコロコロと…飴玉渡されても付いて行かないって習わなかったか?」
「そうですよ勇者様!!相手は世界を掌握しようと企む魔王なんですよ!?」
ユーリルもダルクス側に付く。
「私は今まで多くの魔王を見て来ましたよ!これでもファンタジー世界管轄の女神ですからね!……………魔王は狡猾で冷酷。無慈悲で悪知恵が働く卑怯な存在です!油断させる為なら平気で仲間面したり…ピンチになったら反省した振りをしたり…そんな詐欺師みたいな連中なんです!勇者様も騙されてるんですよっ!!」
「アイツはそんな奴じゃない!!お前にドーラの何が分かるんだよっ!」
「勇者様に魔王の何が分かるんですかッ!?たった数回会った事があるだけで!!」
いがみ合うリューセイとユーリル。
その横で…ダルクスとイズミルも言い合っている。
「とにかく、何があったかこの目で確認しないと納得出来ません!私達もソウルベルガに赴くべきです!」
「んな悠長な事言ってる間に…また一つ国が消し飛んだらどうしちまうってんだ?」
ワーワー
言い合う四人の中に、リーサは戸惑いながら入ろうとする。
「あ、あ、あの、み、皆さん落ち着いてぇ〜…」
「「「リーサさんはどう思います!!?」」」
バッ!とリーサに視線が集まる。
「え!?え〜っと………」
顔を引き攣らせてワタワタと手を振るリーサ。
リーサはどっちに付くのかと、四人の鋭い視線が刺さる。
「あの、あの、えっと………ドーラさんが魔王と名乗ってこの世界に侵攻して来ているのは事実ですし…げ、現にバルチェノーツは落とされちゃいましたよね…?で、でも、ビーチで一緒に遊んだ時は…そんな悪い人にも思えなかったんですよね………あ、でも…世界法で禁止されてるシュヴァルツや…科学を使った兵器を運用して………でも………魔族に世界法が適用されるのかって話にも………それで、それで、えと、えと〜…」
ドタン!!
リーサはそのまま、目を回しながら後ろにぶっ倒れてしまった。
「ギュウ…」
リーサは頭から煙を出しながら尚も目を回している。
どうやらキャパシティがオーバーしたようだ。
「び、ビックリした…死んだのかと思ったよ…」
リューセイが口を開く。
「棺桶になってないんで…大丈夫そうですね」
イズミルがふぅ…と息を吐いて続ける。
「………ッチったく。取り敢えず、この話はここで終わりだ。俺達は宝箱配置人としての仕事を全うする。ただそれだけだ」
ダルクスは言って荷車の元へと向かう。
「じゃあ…宝箱配置人協会から言われた通りセンチュレイドーラを追って…?」
リューセイが投げかけると、ダルクスは荷車を持ち上げながら続ける。
「いや、俺達はいつも通り勇者のルートを造りながら宝箱配置だ。幸運な事に魔王軍はリューセイ、お前の事を勇者だと思い込んでんだろ。こっちが旅を続けてりゃ、あっちから出向いて来るハズだ」
「勇者がどうこうの前に、僕らが倒しちゃう事になってるんですよね?なのにまだ勇者の為に宝箱配置なんか…」
「これは重要な仕事なんだ。魔王が来ようが来なかろうが宝箱配置は絶対だ。例え魔王が居なかったとしてもな!」
「え?そ、それってどういう…」
「良いから先を急ぐぞ!」
ダルクスは話を切り上げ…荷車を引き始める。
リューセイ、ユーリル、イズミルは顔を見合わせ…
仕方なくとダルクスに付いていく。
リーサはリューセイがおんぶして。
(ドーラ…何があったんだよ…?)
リューセイは頭に疑問を巡らせながら…
宝箱配置人一行の新しい船となる"ミリオン高速船"の停泊する【コクド港】へと急ぐのだった。
続く…




