第百三十二幕【理性的で合理的に突破せよ!】
「流石に攻撃が激しいな。だが…我ら魔王軍がこの程度で音を上げるか!」
ドーラは言いながら、肩にかけていたライフル銃"センチメンタル"を手に持ち、先端に銃剣を取り付けた。
「じゃ、後は頼んだぞっ!!」
ドーラは戦車のハッチを開け出て行こうとする。
「ギェッ!?姫様!?何をなさるおつもりっぺ!?」
「我も歩兵に入る!援護は頼んだぞスパイロズ!ゲルトニー!」
そう言うとドーラは制止する間もなく戦車から飛び出してしまった。
戦車から出て来たドーラに外の歩兵達もギョッと驚く。
「姫様っ!?危険です!!!」
「姫様!!?ダメです!!!戦車の中へ…!!」
「心配無用!!自分の命だけを気にかけろ!!」
歩兵達を尻目に最前線に向かうドーラ。
最前線では銃剣と魔法剣がぶつかりあっている。
「ひ、姫様っ!?」
「ここは最前線ですよ!?下がって下さい!!」
やってきたドーラに歩兵達は驚きながら声を上げる。
「構うなっ!!ホラッ!!!」
ドーラはよそ見するなとジェスチャーを送る。
直後、ソウルベルガの兵士達3人が魔法を纏わせた剣でドーラに斬りかかる!
「姫様危ないっ!!」
パンパンパン!
しかし、すかさずドーラはセンチメンタルを"急所"を外して発砲!
3人の兵士は棺桶になった。
「よし、やはり兵士達はもれなく棺桶保険に入ってる様だな!良いか!急所は外して棺桶止まりにしろ!!絶対に殺すんじゃないからなっ!!」
「「「イェッサー!」」」
ドーラは兵士達に呼びかけムカデの尻尾を化現させ、それを地面に叩き付けた反動で飛び上がった。
「ひ、姫様ぁぁぁぁぁ!!?」
歩兵達の心配を他所に…
最前線を超え、ドーラは敵軍のど真ん中へと降り立つ。
急に現れたドーラに驚きつつ…ソウルベルガの兵士達は応戦する。
しかし、ドーラはセンチメンタルの射撃…銃剣…尻尾での攻撃…そして尻尾先からのビームを使い分け、兵士達を次から次に薙ぎ倒し棺桶に変えていく。
ソウルベルガの軍勢のど真ん中にポッカリと穴が広がっていく。
ーーーーー
「なんだアレは…」
城壁から戦いを望遠鏡で覗いて見ていた騎士長。
たった一人で囲う軍勢を踊るように倒していくドーラに城壁の上を守る兵士達も呆気に取られている。
「間違い無いですよ!あの強さ…魔王軍の兵士達とは雰囲気が一人だけ違う…アイツは魔王です!!あぁ…なんて事だ…」
「お、怯えるな!今日の為にどれだけ過酷な訓練をしてきたと思っている!」
そんな騎士長の元に別の兵士が駆け寄る。
「騎士長!住民は屋内に避難させました!!…しかし、一部住民が城門前に集まり城の中に避難させろと騒いでおり…」
「えぇい次から次へと…!しかし無理もない。民家の中が安全な訳無いからな…しかし、どうにかしろ!姫様の耳にでも入ったらその住民達はもれなくお仕置き部屋送りだぞ!!」
「は、ハッ!」
兵士は敬礼し、直ぐにその場を後にする。
その後すぐ、別の兵士が声を上げる。
「あぁ…!騎士長!!最前線が押されて来ています!!」
ドガーーーーーン!!
センチャリオットの砲弾を受け、グラグラッと防壁の上が揺れる。
「壁への攻撃も激しくなってきた…このままでは…」
ーーーーー
ドーラが内側で隊列を乱したおかげで、最前線はジワジワとソウルベルガの防壁に近付く。
「流石はうちの姫様だっぺ…。魔王におなりになるだけの事はあるっぺな…」
「美しく聡明でお強い…好きだ!」
センチャリオット1号機のスパイロズ、ゲルトニーは口々にそう呟いている。
「しかし気を付けて下さい!まだ彼らは進軍を食い止める…」
亡命したソウルベルガの兵士が言い掛けたところで…
防壁が煙の様に揺らめいたかと思うと、透明なガラスのような壁が防壁を守る様に立ち塞がる。
構わずセンチャリオット2号機がそれに向け砲弾を撃ち込む!
ドーーーーーン!!
真っ直ぐ飛んでいった砲弾は…その透明なバリアに接触するも…
バチバチバチ!!!
と受け止められ更に、砲弾は倍の速さ、倍の威力てなってセンチャリオット2号機に戻ってきた!
ボガァーーーーーン!!!
センチャリオット2号機はまるで玩具の様に後方に吹き飛ばされ、ひっくり返されてしまう。
「センチャリオット2号機大破ーーー!!!」
「乗組員の安否を確認しろぉ!!!」
歩兵達はすかさずひっくり返り大破し炎上するセンチャリオット2号機に駆け寄った。
「な、なんだっぺアレは!」
その光景を見ていたゲルトニーも呆気に取られている。
「反射障壁です。あれだと攻撃は全て跳ね返されてしまいます…。防壁内のエリート魔法師達によって創り出されているのですが…あれを突破しない事には防壁内に入る事は難しいかと…」
「チッ…どうにかする方法はねぇのか!?アンタなら知ってんじゃないのか!?」
スパイロズはソウルベルガの兵士に聞く。
しかし、兵士は首を横に振る。
「いえ…私もそこまでは…」
「大丈夫っぺ。スパイロズ。姫様がどうにかしてくれるっぺ」
ゲルトニーはガッツポーズでまるで自分の手柄の様に言った。
「姫様姫様って、姫様に頼りっぱなしじゃねぇか。まぁ、あの姫様の事だ。ほんとにどうにかしちまうんだよな…なんてったって聡明な姫様だからな!何か理性的で合理的な方法を思い付いてくれるに違いねぇ!」
「絶対の信頼を置いてるんですね…」
ソウルベルガ兵はどこか羨ましそうに言った。
「そりゃそうさ!姫様はな、俺達の為だけじゃねぇ、アンタら人間の為にも行動して下さってるんだ。それを忘れるなよ?」
スパイロズはそう言い前に向き直った。
ドーラが何か打開策を講じてくれると信じて…
ーーーーー
目の前に貼られたバリア。
ドーラも攻撃を跳ね返すさまを確認していた。
「そう易易とはいかないわよね…」
積み重なる棺桶の山の中、肩にセンチメンタルを乗せ防壁を見上げるドーラ。
「諦めろ魔王よ!!この反射障壁はいくら強力な兵器の攻撃であっても倍にして返すぞ!!魔王軍が束になりかかったところで無駄なのだ!!大人しくここから立ち去れ!!!」
防壁上から騎士長の声が響く。
「そういう訳には行かないのよ…この国の呪縛から貴方達も…国民達も解放してやらなきゃならないんだから…」
ドーラは胸を抑え…力を込める。
足元から黒い霧と風が吹き上がる。
「な、何か仕掛けて来ます!!」
防壁上で兵士は戸惑いながら騎士長に向く。
「狼狽えるな!!何が来ても…反射障壁の前には無駄な事だ!!強力な力であればある程…それは自分に倍となって返るのだ…!!」
黒い霧に包まれるドーラ。
その霧は次第に広がり…大きく膨れ上がっていく。
バヒュン!!!
暴風が一瞬吹き荒れ、黒い霧を払うとそこに現れたのは…巨大なオオムカデだった。
センチュレイドーラ第3形態
「こ、これは…!!魔王の本当の姿…!!」
体躯を起こし、防壁を越すほどの高さにまで達し、騎士長達を見下ろすドーラ。
その圧巻でおぞましい姿に流石に騎士長もたじろぐ。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!!!!」
数名の兵士達は居ても立っても居られず、叫んでその場から逃げる。
「逃げるなぁ!!!!!魔法カタパルト!!!!!ありったけぶち込めぇぇぇぇぇ!!!!!」
ボガン、ボガン、ボガガーーーァン!!!!!
残った兵士達による魔法カタパルトからのとめどない魔法弾がドーラに射出されるも、身じろぎ一つ取らない。蚊に刺された程にも感じて居ないようだ。
「手を止めるな!!!怯むまで、怯むまで撃てぇぇぇぇぇ!!!!!」
ボガン、ボガン、ボガン!!!!!
ピクリと少し身体を震わせたドーラは、その巨大な体躯を翻して防壁から離れていく。
「き、効いたのか!?魔王が離れて行くぞ!!!」
少し離れたドーラは、再度身をねじらせ防壁に向き直る。
その体躯をグググ…と反らせ丸め始めた。
背中を内側に、何本もの足を外側に向けた状態で"まるでトゲの付いた巨大な車輪"となったドーラ。
「騎士長!!!ここは…撤退した方が…!!!」
何かを悟った兵士が騎士長に顔を引き攣らせながら言う。
「大丈夫だ…大丈夫だ…反射障壁に…この防壁が破られる訳が…!!」
ギャリギャリギャリィィィ!!!!!
その"巨大な車輪"はその場で勢い良く回り出した!
次の瞬間!!
ドギャギャギャザザザザァァァァァ!!!!!
地面を大きく抉りながら、巨大な車輪は防壁に向かって突進してきた!!
「ぎゃあーーーーー!!!!!」
逃げ出す兵士達。
騎士長は震える足を抑えながら何とか踏み留まる。
「大丈夫だ…!!大丈夫なんだ…!!」
バゴォォォォォォーーーーーン!!!!!
バチバチバチィィィィィ!!!!!
等々、反射障壁にぶつかった巨大な棘付き車輪はその障壁を抉り開けんとギャリギャリギャリィィィ!!とその場で回転する。
反射障壁の跳ね返さんとする力を受け止め、電撃を帯びながら尚も回り続けるドーラ。
ピシッ!
障壁にヒビが入った!
「そ、そんな!!反射障壁が…!!」
ギャリギャリギャリィィィ!!!
ピシシ…!!バリィィィン!!!
反射障壁はいとも簡単にガラスの様に割れてしまった。
直後、障壁の抵抗を失ったドーラはそのまま防壁に突っ込み、ドガァァァーーーーーン!!!と勢い良く突破!!!
そこで丸めた体躯を解き直ぐ様、城下町に降り注ごうとする防壁の瓦礫を尻尾からのレーザーで迎撃する。
ソウルベルガは魔王の侵入を許してしまった。
そびえ立つ巨大なソウルベルガ城。
その一番高いテラスからその状況を眺めていたスコピール姫。
「ほぉ…?流石は魔王だ…」
「おひいさま!!突破されてしまっては直に魔王はこの城にも…!!早く避難を…!!」
メタノールが急かすように言うもスコピールは聞き入れない。
「魔王よ…ここからが本番じゃ…フフ…」
不敵に笑うスコピール。
その笑顔を見て、メタノールは頭を抱えて首を振る…
「おひいさま…!!」
続く…




