第百三十一幕【魔王軍vsソウルベルガ軍】
【ソウルベルガ】・昼前
国を囲う大きな防壁の上。
その防壁には等間隔に見張り台が設置され、いつ敵が攻めてきても分かる様に、常に二名づつの兵士が見張りを行っていた。
「よっ!時間だ。代わるぜ」
二人の兵士が既に見張りを行っていたもう二人の兵士の元にやって来て声をかけた。
「お、ありがとう。後はよろしく頼んだ」
見張りを交代する。
先程まで見張りをしていた二人がその場を後にしようとする。
「おい、聞いたか?」
代わったうちの一人が声をかけてくる。
「どうした?」
「姫様がまた暗殺未遂されたんだと」
「へぇ…?別に珍しくもなんともない…」
「いやいや、それが今回暗殺を企てたのは…俺等兵士の中からだったらしい」
「マジか!?」
「あぁ。…等々だな…。いつもは軍事力増強だと言って事あるごとに金を巻き上げてたせいで国民達の恨みを買って命を狙われて居たが…そうかぁ…俺達兵士の鬱憤も溜まってたからなぁ。正直、事が起こるのが遅かったくらいだ」
「そしてな?三人の兵士が結託して寝込みを襲ったらしいんだ」
「寝込みを!?…で!?姫は!?流石に無傷じゃ…」
「いや…やはり姫様の方が上手だったらしい。いつもの如く、うさぎのぬいぐるみを身代わりにして…」
「そうか…流石はスコピール姫だ…もう誰も姫様の暴走を止められないのかもしれないな…」
そう一通り話をして、見張りが終わった二人の兵士はその場を後にする。
新しく来た兵士達は見張りの配備に付く。
「お前はどう思う?あれか?姫様の暗殺が失敗に終わって残念に思ってるタチか?」
「やめてくれよ…誰が聞いてるか分かんねぇんだぞ?姫様に聞かれでもしたら首が何個あっても…」
「こんな塀の上に誰も居ないっての」
ボガァーーーーーン!!!!!
「ぎょへっ!!?」
大きな爆発音と共に近くの防壁が爆発した。
直ぐに望遠鏡を構え、外をくまなく確認する。
森の中からまさに今!魔王軍の戦車隊、そして大勢の歩兵達がゾロゾロとコチラに向かって来ていた!その内の一つの戦車の砲口からは煙が出ている。
「ま、ま、魔王軍…!!!け、警鐘ぉぉぉぉぉ!!!!!」
急いで一人の兵士が、近くに設置された警鐘をかき鳴らす!
ガランガランガラン!!
それに連鎖する様に、向こうの見張り台、そのまた向こうの見張り台の警鐘が鳴り響いていき、城と城下町を囲う円型の防壁上で緊急事態が周知された。
戦車隊が向かって来ている方角の見張り台兵士は自らの魔力を使って大きな火の玉を上空に上げ、花火のように散らした。
パァーーーン!!!
その花火により、敵が攻めてきている方角が兵士達…国民達に知らされた。
「急げ!!配置に付け!!」
ガラガラガラ!!
防壁上に引かれたレールの上を通って"魔法カタパルト"が一箇所に集められる。
「魔法弾射出用意!!!」
兵士達の魔力が込められ、メラメラと火の玉が装填される。
角度を調節され、魔王軍戦車隊に向かって…
「発射ーーー!!!!!」
号令と共に一斉に魔法弾が射出された!
バゴーン!!ドゴーン!!
魔王軍戦車隊にやまなりに飛んでいった火の玉の雨が降り注ぐ!
しかし、歩兵達は戦車を盾にして攻撃から身を守る。鉄の戦車には車体に焦げ跡が付いただけで対したダメージを与えているようには見えなかった。
「な、なんて頑丈な乗り物なんだ…!!」
初めて見る戦車【センチャリオット】を前に、兵士達は戦々恐々といった様子だ。
〜〜〜〜〜
城内も、急な魔王軍の侵攻により慌ただしくなっていた。
城内の兵士や大臣、メイドなどが慌てふためきながら行き交う廊下を…スコピール姫の専属の執事【メタノール】はつとめて落ち着いた様子で姫様の寝室へと向かっていた。
ガチャリ
「おひいさま!」
部屋に入るメタノール。
しかし、その眼前にはベッドの上で細長い槍に腹部を貫かれ絶命しているネグリジェのスコピール姫の姿があった。
「……………おひいさま……………」
ゴクッ…と生唾を飲み込むメタノール。
しかし直ぐに背後から聞き馴染んだ声がした。
「なんじゃ、じいや。レディーの部屋にノックも無しに飛び込んでくるとは…マナーがなっておらんのぉ?」
隣の部屋からいつものピンクのドレスに着替えたスコピールが出て来た。
「おひいさま…また暗殺ですか…」
ハァ…と一溜息をつくメタノール。
スコピールはパチンと指を鳴らす。すると、ボワン!とベッドの上のスコピールは白い煙に包まれズタズタうさぎのぬいぐるみに戻った。
「いつもの事じゃ…して、何の用かの?」
「おひいさま。早く地下へ避難を。魔王軍が攻めて参りましたので」
「何っ!?とうとう来たのか!!して、魔王自身はどうじゃ!?おるのか!?」
「それはまだ分かりません…って…おひいさま…まさか…!!」
「勿論、妾が直々に相手になってやるのじゃ…!!妾の魔力を魔王に…世界にも知らしめてやるのじゃ!!」
「おひいさま!!何を仰るんですか!!一国を担う者にそんな危険な事はさせられませんぞ!さぁ、早く避難を!」
「うるさいぞじいや!この機を逃がす訳にはいかん!止めてくれるなっ!」
「おひいさまっ!!」
メタノールの制止も聞かず、スコピールは部屋を飛び出して行く。
メタノールはハァ…と大きく溜息をつき、そのスコピールを急いで追いかけた。
〜〜〜〜〜
そんなスコピールに闘志を燃やされているとは露知らず、センチュレイドーラは隊をなす戦車隊の真ん中のセンチャリオットの中で満足そうにニヤニヤと微笑んでいた。
「うんうん!どうやら驚き戸惑っているようだな!」
そのセンチャリオットの中には操縦士のスケルトン【スパイロズ】とプルッと人型スライムの【ゲルトニー】。あと、案内役として魔王軍に亡命したソウルベルガの兵士が乗っていた。
「それにしても…魔王であるハズの貴方が…こんな窮屈な鉄臭い乗り物の中に入って進軍するとは…」
ソウルベルガ兵士は目を丸くしてドーラを見つめながら言う。
「おかしいのか?」
「えぇ。おかしいですよ。上に立つ者…王族と言う者は…綺麗で安全な場所から下々を盾にするものだと…」
「上に立つ者は国民の被った泥を倍被るべきだ。国民が危険に晒されているなら…我は命をかけてそれを守り抜く…。上に立つと言う事はそういう事だと思っていたがな?人間界はどうやら違うらしい」
ドーラはフッと微笑み…窓から外を眺めながら続ける。
「だからこそ…我は人間達を鍛え直す必要がある…人間達の上に立つ必要があるんだ…」
「姫様ならやれますっぺ!!」
「俺等は一生付いていきますからね姫様っ!!」
スパイロズとゲルトニーが操縦席から囃し立てる。
「だったら魔王様って呼んでくれない!?」
ドーラは言ってジト目で二人を睨んだ。
「そんなひ…魔王様を守る為にも…オラ達も負けてられねっぺ!!」
「あぁ!他の戦車に遅れを取れねぇぜ!姫…魔王様が乗ってくれてるおかげで…戦車の中はフレグランスが満ちてるしなっ!」
「す〜は〜…うぅん、良い匂いっぺ!俄然やる気が出て来たっぺ!!」
「ちょっと、ヤメてくれない!?」
ガラガラガラ…
戦車隊は徐々にソウルベルガへと近付いていく。
その間、防壁上からは魔法カタパルトから射出された火の玉が降り注いでいる。
ドガーン!!!バゴーーーン!!!
『5番機!魔法弾直撃!!履帯損傷!!これ以上の走行不可能!!緊急修理に入る!!』
『魔法弾、砲弾で打ち消せるぞ!!狙えるものは打ち消していけ!!』
『姫様の乗っている1番機は何があっても優先して守れ!!』
『歩兵に負傷者アリ!3号機、盾になり衛生兵の治療を優先!』
『敵地に動きアリ!城門から敵兵多数!!』
戦車内の通信ベルから魔王軍兵士達の通信が交錯する。
ソウルベルガの城門から兵士達が剣に炎や電撃を纏わせ魔王軍に向かって行く。
その後方からは杖を構えた魔法兵達が遠距離から魔法を放ってくる。
サモン兵はエレメントを召喚し、それを操って強力な魔法攻撃で応戦する。
流石は魔法軍事国家と言ったところだった。
いよいよ、魔王軍とソウルベルガ軍が衝突した!
飛び交う銃弾!魔法!
魔法兵の魔法剣と魔王軍の銃剣がガキン!とぶつかり合う音!
とうとう本格的に魔王軍とソウルベルガによる戦争が始まったのだ。
続く…




