第百三十幕【夢で終わらせないで】
自分のテントに戻り…簡易ベッドに横たわるドーラ。
もう少し立派なベッドも用意出来たのだが、自分だけ寝心地の良いベッドで眠るのをドーラが嫌がった結果、魔王軍の兵士達と同じ安っぽい組み立て式のパイプベッドになった。
枕をカートスから貰った"夢訪問枕"に替え…頭を預ける。
「………ま、あんまり期待はしてないけど…」
目を瞑るドーラ。
勿論思い浮かべるのは………
(勇者………。アンタの夢の中に押し掛けて………情報を引き出そうか………?夢の中から彼の行動を誘導出来るかも………?とにかく………リューセイが今眠っていて………夢を見ている事を………願う………だ………け………)
〜〜〜〜〜
ドーラは目を開ける。
黒い空間に立っている。
「……………あん?何処よここ………」
前方にスポットライトが当たっており…そこで何故か田植えをしているリューセイが居た。
「りゅ…リューセイ………!!ほんとに夢に侵入出来たってコト!?ゼルカス………アイツ中々やるわね………」
その声に気付いたリューセイがサーフィンでコチラに近付いて来た。
ザッパーン!
何処からか立った波をドーラは被ってしまう。
「うえっ!!ペッペッ!!しょっぱ!!」
「ハッ!?ドーラ!!?なんでお前が俺の夢の中に…!?」
「フハハハ!!そうだぞ?我は夢の中にまで介入出来るのだ!!どうだ?魔王らしい技だろう!!フハハハ!!」
「まぁ…質素な所ですが…どうぞ」
リューセイは襖を開け靴を脱いで座敷に上がる。
「あ…どうも………」
ドーラもブーツを脱いで座敷に上がる。
「悪いな、お客さんにこれくらいしか出せなくて………」
リューセイはお盆にお茶とチューチューアイスを乗せやって来る。
囲炉裏の前で足を崩すドーラ。
「え、これどうやって食べるの?」
「真ん中パキッと折ってチュ~って吸うのよ」
カシャッカシャッ
リューセイは機織り機で機を織りながら言う。
言われてドーラは不慣れな手付きでチューチューアイスを折る。
パキッ…チュ~…
(夢だからか…脈絡も何もないわね…)
「………で?何をしに来た訳?」
ベースをチューニングしながらコチラに身体を向けるリューセイ。
「そうよ!ワタシはおもてなしを受けに来た訳じゃない!!」
バッ!と立ち上がり指を指すドーラ。
「アンタ達の居場所とか弱点とか目的とか…そういうの教えなさいっ!!」
チューチューアイスを咥えながら背中にかけていたライフル銃"センチメンタル"を構えるドーラ。
「おいおい!危ない危ない囲炉裏の前で!」
「うるさい!言う事聞かないと…容赦なく蜂の巣にするわ!ここは夢の中なんだから…慈悲も憐れみも容赦もなくいたぶってあげる!」
「ふ、ふざけんな!」
リューセイはぷか〜と赤い大きな風船で飛んでいこうとする。
ドーラは直ぐ風船に向かって引き金を引いた!
パーーーン!!
パフッ!
風船は変な破裂音で割れ、リューセイは落ちて来た。
ドタンッ!!
「いてっ!!!こ、腰が!!!」
その衝撃でドミノが倒れていく。
そのドミノがとあるスイッチをカチッと押すと…
パンパンパーーーンと綺麗な花火が上がった。
「アンタどういう脳内してんのっ!?」
「コレは夢の中なんだから…辻褄とか脈絡とかそういうもんは合わないもんなの!」
波打ち際、海パン姿のリューセイは頭を掻きながら言う。
いつの間にかドーラも黒ビキニの姿に変わっていた。
「あぁ~もう!ここに居たら頭おかしくなりそうっ!!」
ドーラはセンチメンタルを構えリューセイに向ける。
「死ね!勇者!!」
カチッ!
ぴゅーーーっ
「えっ!!?」
しかしセンチメンタルから出たのは水だった。
ガシャン!
使えないセンチメンタルを投げ捨て、ドーラは頭を抱える。
「え…ちょ…ナニコレ…何をどうしろって言うの!?」
「思ったんだけどさぁ〜…」
徐ろにリューセイは口を開く。
「ここって俺の夢の中なんだよな?」
「そ………そうだけど………」
「つまりドーラ、お前は俺の夢に出て来た"夢のドーラ"って事だ」
「……………?だ、だからどうしたって言うの!?」
「夢なんだったら………"好きにして良いよな?"」
「…ハァ!?」
そう言ってニヤニヤと不敵な笑みで近付いてくるリューセイに悪寒が走り、逃げ出そうとするもズブズブ…と足元が砂浜に沈んでいき身動きが取れない。
「う、嘘でしょ!?」
「へぇ~凄い凄い。やっぱり思った通りになるなぁ〜。まぁ、夢の中だからなぁ」
「ふざけんなっ!!ちょっと!!もう良いから!!何もしないから出しなさいって!!」
「うーーーん………でもこれ夢の中だからなぁ。どうせ夢だし。夢の中なんだったら…何してもチャラになるし…慈悲も憐れみも容赦なくても問題ないって…お前が言ったんだぞ?」
そう言ってキランと目を光らせ怪しい手付きで忍び寄ってくるリューセイ。
「ふ、ふ、ふ、ふざけんなぁ!!!アンタ…!!て、て、手出したらほんとタダじゃ置かないからねっ!!?ち、近付いてくるなっ!!!ひ、ヒィィィーーーーーー!!!」
〜〜〜〜〜
「ギャアアアアアーーーーー!!!!!」
絶叫と共に飛び起きたドーラ。
テントの隙間からは朝日が漏れている。
「どうしました!?姫様ッ!!!」
ドーラの叫び声を聞きつけ、ババロアと魔王軍兵士が飛び込んで来る。
「ハァ…ハァ………いや、大丈夫だ。少し悪夢を見てしまったようだ………」
「酷い汗ですぞ?一体どんな夢を見たらそんな………」
「わ、分からないけど………なんか………尊厳を失う様な目にあった様な気がする………」
「して、夢訪問枕の方は如何でしたか?上手く相手の夢の中に潜り込めたのですか?」
「分かんないわよっ!!潜り込んだ方は記憶を引き継げないって言うし………ってか、それってだいぶ欠陥じゃない!?結局、何か出来たのか確かめようも無いしっ!!」
「まぁ…そう上手くはいくまいとは思ってましたがね…」
ババロアはやれやれと首を横に振った。
ドーラは夢訪問枕を投げ捨てた。
「全く………。ゼルカスの持ってくるもんはロクなもの無いわ…!!」
〜〜〜〜〜
【ダイダラ大陸】
【芸能の街・マイムメイル】
早朝、街の外でダルクスとイズミルが他の皆が集まるのを待っていた。
「それにしても…なんでハグレさんは折角の優勝賞品のミリオン高速船を私達に譲ってくれたんでしょうか?」
イズミルはペンをクルクル回しながら言う。
宿屋を出る際、ハグレからの預かり物として受付でミリオン高速船の所有権を渡され、晴れて自分達の物になったのだ。
「さぁな?優勝したかっただけで船までは欲しく無かったんじゃないか?」
ダルクスはタバコの煙を吐きながら肩に乗るポニョに餌を与えながら言った。
「乗らないにしても…売っちゃえばお金にもなるのに…う〜ん…謎です…おけげで助かりましたけど」
一方、街の門の前で見送りに来たサヤカに最後の挨拶をしているリーサ。
「じゃあ、サヤカさんまた何処かで」
「今度こそは…貴女とアイドル勝負したいわ。その時はよろしくね」
「あ、アハハ…まぁ、その機会があればぁ〜…」
リーサは頬を搔きながらペコリとお辞儀をして、ダルクス達の元へ向う。
サヤカはその後ろ姿に手を振ってくれていた。
「後はリューセイと女神さんだけだな」
言いながら街の門を見ると、全速力でコチラに走って来るリューセイとその後を追いかけるユーリル。
ズザザーーー!!
と足を滑らせダルクス達の前に滑り込むリューセイ。
「おっ待たせしましたぁ!!!さっ!!行きましょう!!!」
言ってガッツポーズを取るリューセイ。
「なんだ?珍しく朝から元気だなぁ?」
ダルクスが言うと、ニコニコとリューセイは続ける。
「そっスか?………まぁそうかもしれないです!良い夢見て今日は目覚めが良くスッキリと起きられたんで!!」
「良い夢?」
イズミルが首を傾げる。
「あ〜…イズミルにはまだ早いかな?」
「あぁ〜!リューセイさんエッチな夢見てる〜」
ジト目でリューセイを指差しながら言うイズミル。
「やめなさいイズミルちゃんそういう事言うの!?こう、健全な男子高校生が見る夢って感じだっただけだから!………良く覚えてないけど…」
「若いねぇ〜」
ダルクスは吸い殻をピンッと飛ばし…荷車の取っ手を持つ。
「んじゃ、行きますか…次の目的地へ…」
言って荷車を引き始める。
それに合わせて皆も歩き始める。
「勇者様〜?どんな夢見たんですか?ねぇねぇ!」
ユーリルがリューセイの襟首を引っ張りながら質問攻めする。
「良く覚えて無いんだって………ドーラが出て来たのは覚えてるけど………」
「ど!!!ドーラぁ〜〜〜???」
それを聞いてユーリルは引っ張る襟首に力を入れた。
「グゲッ…!!首締まってんだバカ!!!」
「魔王を夢に出して〜〜〜?エラくご機嫌ですねぇ〜〜〜???そーんなに嬉しかったですかぁ〜〜〜???」
「うるさいなぁ…ただの夢だろ?こっちで制御出来るもんじゃないの!…お前いつからそんな嫉妬深くなったんだ?」
リューセイとユーリルの揉め事を聞きながら…宝箱配置人一行は次の目的地を目指すのだった。
第三章【導かれそうで導かれない時々導かれし者達編】完
第四章へ続く…




