第百二十九幕【夢の中で会おう魔王様】
【カタラウワ大陸】
【とある森の中・魔王軍野営地】
ソウルベルガの西側に位置する森の中に、ソウルベルガに攻め込む為の様子を伺う為に設営された魔王軍の野営地。
日も沈み暗くなった頃…そこに、休暇を終えたセンチュレイドーラが戻って来ていた。
しかし、戻って来て早々ドーラはババロアに引き連れられとある離れのテントに通される。
そこには、"一人の人間"が保護され…魔族の兵士達の監視の上で椅子に座っていた。
「数日前、ソウルベルガから命からがら逃げて来た様子で…森の中を彷徨っている所を魔王軍の兵士が発見し保護致しました。ソウルベルガの兵士だったと聞いています」
ババロアがそう言うのを聞いて、ドーラは人間に近付く。
「姫…魔王様!慎重に…!」
ババロアが急いで止めようとするが、ドーラは手を上げて止まる様に指示する。
「大丈夫だ。心配するな」
そう言って人間の前に立つ。
兵士姿の男。かなり丹精な顔立ちの…兵士に似つかわしくない男だ。
「…貴女が………魔王………?」
「そうだ我は魔王のセンチュレイドーラ。………どうしてソウルベルガを出た?私達を警戒して、今兵士達はソウルベルガの守りを固めているはず」
「……………今やソウルベルガは……………修道院から戻られてからと言うもの…姫君"スコピール・シュッキンデン"による悪政で酷い有り様です。姫の我儘に振り回されるのはもううんざりなのです……………命が幾つあっても足りはしない……………だから、逃げ出して来たのです…」
「"スコピール・シュッキンデン"………?それがソウルベルガの姫の名前か………知らなかった。王と妃の名前しか聞かなかったからな………」
「今や実権はスコピール姫が握っているも同然…魔王様………どうか……………スコピール姫の悪行を止めて下さいっ!!」
人間の兵士はドーラの手を取り握り締める。
ババロア、見張りの魔族の兵士が咄嗟に間に入ろうとするも、ドーラは目配せでそれを止める。
「大丈夫だ。安心しろ。我が必ず…その姫の蛮行を止めてみせる。ソウルベルガの国民を救ってみせる。魔王として…同じ姫としてな…!」
「ひ、姫…いや、魔王様!!余りそんな事を軽々しく言うものでは…」
ババロアが言うがそれにドーラは返す。
「どうして?我に出来ないとでも?………そもそもソウルベルガに攻め込む予定だったのだ。更に理由が出来て良かったくらいだ」
そう言ってドーラはテントを出て行く。
ババロアはその後を急いで追いかける。
「姫様っ!!罠だったらどうするのです!?」
ババロアが言ったのを聞き、振り返るドーラ。
「罠?」
「あの人間がソウルベルガから送られてきた刺客の可能性だってあります!余り浅はかな判断は…」
「心配するな。ここは魔王軍の野営地だぞ。監視のある中、アイツ一人に何が出来る?」
「ここの場所を流されるかも…」
「それも心配するな!」
ドーラはビシッ!とババロアを指差す。
「何故なら…我らは明日!ソウルベルガに侵攻するのだからなっ!!」
「な、なんですとっ!!?そ、そんな、休暇に戻られた直後にしなくても…!!」
「だからこそだ!休暇で伸ばしてしまった分、サッサと終わらせるんだ」
「急ぐあまり無茶をなさらないように!………ソウルベルガは"軍事魔法国家"です。………過去、国丸々一つが戦争で消されたと記録もありますし…!」
「問題ない!こちらには魔法をも凌駕する圧倒的な軍事兵器の数々が揃っている!それに加え…この魔王である我が直々に出向いてやると言うのだ!ソウルベルガに勝ち目など無いに等しい!」
「こりゃ何を言ってもムダですな…」
ババロアは大きく溜息を吐く。
「全く…ドーラ。ババロアさんに心配をかけないでやってくれ…君の事を心配しての事なんだ…」
ギュ…
と、後ろから何者かがドーラに抱き着いた。
ゾッと身を震わせ、ドーラはすかさずその人物を思い切り背負投げする。
ドターーーン!!!
「ゲブッ!!!!!」
「いきなり何するんじゃーーー!!!ってゲッ!!!ぜ、ゼルカスッ!!!」
それはゼルベクトカートスだった。
「な、な、なんでアンタがここに居るのよっ!!?」
「ハハハ…ドーラの行く先…何処にでも現れるさ…」
「死ねゼルカス!!このストーカー変態男!!」
「酷いなドーラ…そんなに言われちゃあボク、ジャックちゃんにでも乗り換えようかなぁ〜?」
チラチラとドーラを伺うカートス。
しかしドーラの表情は冷ややかなものだった。
「勝手にすれば?忠告しとくけど、ジャックに手を出すのは冗談でもヤメときなさいよ?昔、ジャックに手を出そうとした男が皮膚をひっくり返されてリバーシブルされた話は知ってるでしょ?」
カートスはそれを聞いて顔を引き攣らせる。
「あ……………。その、今のはジャックちゃんには内緒で………」
「どうかしら?アンタが大人しくしてたら言わないでおいてあげるわ」
そう言ってドーラはフッと不敵に笑うと再び歩き出した。
「ちょ………待ってくれよドーラ!」
その後を懲りずに付いて行くカートス。
「ボクはね?何も用も無く会いに来てる訳じゃないんだよ!ほら、ドーラが魔王として人間と闘ってるのを少しでも手助けしたいと思って………ボクなりに色々協力しようと………」
「ワタシの前に現れないで!!それが一番の手助けになるからっ!!」
振り返ってカートスを指差し言うドーラの前に…カートスは徐ろに"枕"を差し出す。
「……………何よコレ……………」
訝しげに質問するドーラに、カートスは続ける。
「ボクの国は"睡眠"や"夢"に関する研究が盛んなのは知ってるよね?その一環で作られた"夢訪問枕"なんだけど………」
ドーラはその枕を受け取る。
「夢訪問枕?」
「そ!コレに頭を預けて…夢に訪問したい相手の顔を思い浮かべながら寝るんだ。そしたらあら不思議!その相手の夢の中にお邪魔出来ちゃうのさ!!」
「アンタ、そんな秘密道具みたいなもの研究してたの?」
「気を付けないといけないのは、訪問するには勿論、相手も眠って夢を見ていなければいけないことくらいかな」
「待ちなさいよ!!これのどこが協力出来る代物だって言うの!?」
顔を引き攣らせて言うドーラにチッチッチッと指を振るカートス。
「良く考えてみなよ?これを枕にして…勇者の夢の中に侵入して…勇者に悪夢を見せる事だって出来るし…夢の中で暗示だってかけられちゃう訳だよ………」
それを聞いてゴクリと…喉を鳴らすドーラ。
「ね?凄い発明でしょ?」
「ちょっと待て…」
「ん?」
「アンタ………それ使って、ワタシの夢に侵入したりしてないでしょうね…?」
「……………
……………
……………
……………いや?」
「何よ今の間はァ!!!!?ゼルカス!!!アンタほんとにぶっ殺すわよ!!?」
「ま、まぁ待てってドーラ!!実際、ここ最近キミは何か悪夢を見たかい?」
「……………良く覚えてないけど……………確か……………アンタをぶちのめす爽快な夢は見たかしら」
「酷いな……………。とにかく、ドーラが特に悪い夢を見てないなら、ボクは夢の中でドーラに悪い事はしなかったって事さ!………正直この枕で夢に訪問した方は何も覚えて無いんだよね。だからボクはドーラにぶちのめされた記憶もない。訪問された方は若干夢の内容を覚えてるみたいだね…今のドーラみたいに」
「それって意味あるの…?」
「あるさ!何度も夢の中に入って邪魔すれば…相手を衰弱だってさせられるんだよ?使い方によっては恐ろしい兵器さ!」
「ふむ………」
ドーラはその枕を受け取る。
「ま、あんま期待はしないけど………一応貰っておくわ」
「気に入ってくれると嬉しいな。御駄賃は…」
カートスはドーラを抱き寄せ唇を近づけた。
「御駄賃はキスで………」
バキッ!!
ドーラの華麗なストレートがカートスの顔面にめり込み…吹っ飛んだカートスは近くのテントをグワシャーン!と薙ぎ倒した。
続く…




