第十三幕【一から造る頂上への道!】
「おいリューセイ。しっかり押せよー!」
ダルクスが荷車を引きながら言う。
「ハァ…ハァ…お、押してますってー!!」
リューセイは後ろから荷車を思いっきり押す。
名もなき山。
本来、来る予定ではなかった木々が生い茂る山の斜面を宝箱配置人一行は進んでいた。
イズミルは先頭を地図を作成しながら歩き【8ページ・からくりハンドの章】によってディアゴから伸びたからくりの腕は地面を叩いて慣らし、邪魔な岩は砕き、木は引っこ抜いて道の横に植え直し、前方に道を造っていく。たまに分かれ道を造って…行き止まりを造り…そこに宝箱配置をしたり…と、真っ直ぐな登山道を作れば良いものを、わざと曲がりくねった道にする事でなんでもない山をダンジョン化していく。
「勇者の足止めイベントの為とは言え、わざわざダンジョンを一から造るハメになるとは…こんな事までするなんて聞いてないですよ!」
「文句言うなリューセイ。これも世界を救う勇者様の為だ」
「世界を救う為だって言いますけど…こんな回りくどい事しなくても、俺と…イズミル(ディアゴ)と…ダルさんにリーサ(限界突破した)が魔王を倒しに行けば楽勝だと思うんですけどね〜…」
「ハハハ!!面白い事言うな!ハハハ!リューセイそりゃお前、武器屋に『なんでその武器で魔物を倒しにいかないんですか?』って言ってるようなもんだぞ!ハハハ!」
「どこがだよ!全然違うだろ!」
「まぁなんだ、俺は勇者になるようなたまじゃねぇから、しがなく宝箱配置人やってんのよ…」
そして続けてイズミルも答える。
「ちなみに私はまだ子供ですよ!魔王なんか倒しに行けませんってコンプライアンス的に!」
「ないだろそんなもんファンタジーの世界に!ディアゴを誰かに渡して行って貰うとかは?」
「ニシシ、それは無理ですねぇ〜。ディアゴは私の言う事しか聞かないし、私しか背負う事は出来ないので!」
ふ~ん…と納得していると
ユーリルがダルクスに質問を始めた。
「ダルクス様はなんで宝箱配置人になったんですか?」
「なんですか?急に」
「いえ、ダルクス様、自分の事は何も話されないので気になって」
「あ、私も気になります!おじいちゃんもダルクスおじ様に関しては"子供嫌いだ"って事しか教えてくれなくて」
先頭を歩くイズミルも後ろを振り返りながら興味津々だ。ダルクスはムスッと不機嫌そうな顔をする。
「自分の事を話すのは好きじゃない」
「えぇ〜!聞かせて下さいよ〜」
ユーリルは食い下がらない。
「覚えてないんですって。俺は生まれた時から宝箱配置人で…」
「そんな適当に答えないで聞かせて下さいよ〜」
「女神さんの頼みでもそれは無理です…あ〜、代わりに宝箱配置人に関しての質問なら受け付けますよ」
「え〜?…うーん」
ユーリルは少し考え込んで
「じゃあ…ダルクス様以外に宝箱配置人って居るんですか?」
「居ますよ。山程ね。この世界に危機が訪れた時、その規模に合った宝箱配置人が"宝箱配置人協会"から配属される仕組みなんです」
「"宝箱配置人協会"…ですか?」
「えぇ。この世界はしょっちゅう様々な危機に瀕してる。大きい事小さい事限らずに。そこで"宝箱配置人協会"から適当な中堅の宝箱配置人が配属される。その困難に立ち向かおうとする人間の手助けする訳です。今回のような世界中を陥れようとする大規模な厄災が現れた場合は俺みたいな"第一級宝箱配置人"が配属されて世界を股に掛けた宝箱配置が始まるって訳です」
「僭越ながら、私も質問良いでしょうか…?」
リーサが手を挙げる。
「他の第一級宝箱配置人さんはどうしてるんですか?みんなで手分けして手伝った方が宝箱配置も早いと思うんですが…」
「いや、そうでもないぞ。連絡を取り合う事も簡単じゃないし、重複や手違いで余計時間がかかっちまう。勇者のルートに沿って少数で周った方が早いな。それに…」
「それに?」
「第一級宝箱配置人はこの世界で俺しか居ないらしい」
「え!?」
リューセイは思わず驚いた。
「ダルさんしか居ないんですか!?」
「らしいぞ。だからこういうデッカイ厄災が起きた場合はもれなく俺が派遣されてるな」
そうなのか…。通りで王様や町民から慕われる訳だ…。
「でも、何度も冒険に出てるなら馴れたもんなんじゃないんですか?前回の冒険を踏襲して行けば早めに仕事も終えられるんじゃ…」
「そうもいかねぇんだなこれが。勇者のスタート地点、魔王の根城の場所、その時期の世界の情勢などで俺達のルートは大きく変わっちまう。今みたいに新たなルートを開拓しないといけなかったりな。前回の冒険の通りとはいかないのよ」
「そうなんですね…」
少しは楽になるんじゃ…と期待したリューセイだったが、そんな事は無かったようだ。
「ま、この冒険が終われば国から多額の報奨金も貰えるし、次の厄災が現れるまでは遊んでのんびり暮らせるし、こんな生活が性に合ってるんだな。ハハハ」
そう言ってダルクスは呑気に笑う。
全く、世界の命運を握ってる凄い人とは思えないよほんと。
「そろそろ頂上ですよ!」
イズミルがそう言う。
宝箱配置人一行は気合を入れて頂上を目指した。
〜〜〜〜〜
「ハァハァ…着いた〜!!」
言ってリューセイはその場にドサッと倒れた。
「体力ねぇなぁリューセイ。そんなんじゃ先が思いやられるぞ」
ようやく頂上に到達。
イズミルはディアゴのからくりの腕で頂上部を慣らし、平らな広場に開拓した。
「フゥ。こんなもんですかね。この広場の奥にそれっぽい祠でも建てて"脳筋の腕輪"を収めましょうか」
そう言ってイズミルはダルクスに目配せする。
「あっ?なんだ、俺に祠を建てろってか」
「ニシシ!これは私の専門外なので!」
「ったく…」
ダルクスは吸おうとしたタバコをケースに戻し荷車から材木を引っ張り出した。
「おーい、リューセイも手伝え」
倒れたリューセイに声をかけてくる。
「もう少し休ませてくれませんかね!?」
「さっさと終わらせるぞ!」
どうやら聞いてくれないようだ。
やれやれと立ち上がり、ダルクスの元へ行く。
「イズミルちゃん、そう言えばこの山、魔物が出て来なかったですね」
リーサがイズミルに声をかける。
「うーん、そうなんですよね。自然の場所だったから居ない訳がないのですが…一体どこに行っちゃったんでしょうか…」
「フフフ…良かったじゃないですか。スムーズにダンジョン生成が出来て」
「うーん…それが良くもないのです。魔物が居ないと勇者達までスムーズに登山出来てしまいますから。雑魚魔物を餌で誘き寄せる必要があるかもです…下山する時、魔物の餌を撒きながら帰りましょうか!…あ、それも大事なんですが…」
イズミルはこの山道の地図を開く。
そこにユーリルもやってくる。
「何の話してるんですか?」
「いえ、この名もなき山に名前を付けようと思って」
「え、名前!?じゃあ"ユーリル山"にしましょう!」
ユーリルは目をキラキラさせながら言った。
「そんな安直なぁ…」
リーサはまぁまぁとユーリルをなだめる。
「んー…じゃあ…私達の名前の頭文字を取って…ユリイ山にしましょうか」
「えぇー!ユーリル山にしましょうよ〜!」
「スタコラササミー山にしましょう!」
急にそう提案したリーサにイズミルとユーリルはギョッとしてリーサに目をやる。イズミルは驚いた様子で…
「すたこら…なんて?」
「なんですかその変な名前!」
「え、え、知らないですか?『スタコラささミィ〜』可愛いネコちゃんの絵本ですよ!」
リーサは持っていた僧侶の両手杖を二人に見せる。その杖にはネコのキャラクターの人形が括り付けられている。
「いやぁ…私は絵本は読んで来なかったので…物心ついた頃から学術書を読んでまして…」
イズミルは頭をかしげながら言う。
「それはイケません!!スタコラささミィを知らないのは人生の半分を損してますよ!!」
「えぇ〜…私まだ9歳なのに…」
リーサは興奮しながら、スタコラささミィについて力説し始めた。
「おーい、祠完成したぞー!」
暫くしてダルクスの声が響いた。
続く…
 




