第百二十五幕【弾けろ!ジュニアアイドル】
ヤング部門のコンテストと並行して…別の特設ステージではジュニア部門のコンテストも執り行われていた。
「未来を担うジュニアアイドル達…今大会ではなんと、たった2名のジュニアアイドルしか残りませんでした。ジュニアとは言えアイドルの世界がどれだけ過酷なのかを物語っています!!」
司会者が進行を務める中…ステージ裏ではピンク色の可愛いフリフリスカートのアイドル衣装に身を包み、いつものおさげをまとめて結んだイズミルは来たる出番に気が気じゃないといった様子で…
「うぅ〜…リューセイさぁ〜ん…私一人じゃ無理ですってぇ〜…」
ソワソワと落ち着きがないイズミル。
コチラにも来てくれる手筈だったリューセイが一向に来そうに無かった。
「だいぶソワソワしてるじゃんイズミルちゃん?直前になって自信無くなって来たのかなぁ?」
最後の指導をランドルトブラックから受ける黒のゴシック調ドレスに身を包んだバッカルがニヤニヤしながら言う。
「ソワソワも何も…観客席見ましたか!?明らかに私達をロクな目で見てない濃い〜マニアの方達の集まりですよっ!?」
イズミルは身を震わせながら言う。
「だからどうしたってのさ。そんなの予想出来た事じゃん?」
バッカルは割りと落ち着いている。
そこにスタッフが駆け付けてくる。
「ではイズミルちゃん、バッカルちゃん!本来はクジを引いて出場順を決めて貰う所なんですが…お二人だけと言う事なのでジャンケンで決めて頂きましょうか!」
イズミルとバッカルは顔を見合わせる。
「「最初はヤダ…最初はヤダ…最初はヤダ…!!」」
お互いがそうぶつぶつと呟きながら向かい合い腕を出す。
すぅ~ハァー
息を整え、いざ!
「「ジャン!ケン!…ポンッ!!」」
イズミル チョキ
バッカル グー
「ッシャオラァ!!!」
「ゲェッ!!負けたァァァ!!!」
バッカルは大げさにガッツポーズを取る。
イズミルはその場で膝をついて地面を叩く。
「それではスタッフさん。バッカルは最初の方でお願いしま」
ランドルトブラックが言いかけた所でバッカルは恐ろしく早い蹴りで股間を蹴り上げた。
ランドルトブラックは叫ぶ事無くも、バタリと直立で倒れてしまった。
「馬鹿かっ!!後だよ後!!スタッフさん、ボクは後でお願いしますっ!!」
「………バッカル………ヒーローは先陣を………切るものだぞ………」
ぷるぷると震える口調でランドルトブラックが言う。
「やかましいっ!!最初に出て恥かいてたまるかっ!!」
「では決まりですね!イズミルちゃん出番はもう直ぐです!ご準備を!」
イズミルはスタッフに起こされ、衣装をパッパッと払われる。
「うぅ〜…」
嫌そうなイズミルをニヤニヤと見るバッカル。
「運も実力の内って言うしねぇ〜!こういう所で差が出ちゃうよね〜!まっせいぜい頑張っておくれよ。こういうのって後の方が優位だけどねぇ〜」
「嫌いっ!この子嫌いですっ!!」
イズミルはバッカルを指差して憤っているが…もう出番の時間だ。
「さぁ!イズミルちゃんいよいよですよっ!準備を!」
「もう!こうなりゃどうにでもなれですっ!!」
イズミルは近くに立てかけていたディアゴをズルズル引きずりながらステージに向かっていく。
「あ、イズミルちゃん!荷物はここに置いたままで…」
スタッフに止められるもイズミルはお構い無しに歩みを進める。
「これは必要なものですっ!!」
そう言ってイズミルは表に出て行った。
「あんなアイドルに似つかわしくない古臭い呪術書をどうするってんだか…。ハハハ…!こりゃあボクが本気を出さなくても勝負はついた様なもんかな…?」
余裕そうにニヤつくバッカル。
そんなバッカルをいつの間にか起き上がったランドルトブラックが背後から頭を撫でる。
「その粋だぞバッカル。アイドルは余裕と笑顔を絶やさない事だ」
「触んな!なんちゃって正義面ッ!!」
バッカルはランドルトブラックの手を払い除けるのだった。
ーーーーー
「ではご登場頂きましょう!!アイドルコンテストジュニア部門、最初のアイドルイズミルちゃんですっ!!」
ズリズリズリ…ゴトッ…
ステージに現れたイズミルはギョロリと目玉が付いた古めかしい巨大本を引きずって…ステージの壁に立て掛けた。
ザワザワザワ…
観客は異様な光景にざわついている。
「え〜…コホン………あ〜………『今日はアイドル・イズミルちゃんのオン・ステージに集まって貰ってセンキュー☆ こーんなにロリコンのおじさん集まっててイズミルちゃんこわ~い☆』え〜…と…『今日はそんなロリコン共を地獄に突き落とす恐怖の解体ショーの始まり始まり〜☆』………って事で……ミュージックスタート。」
セリフとは裏腹に棒読みのイズミルの指パッチンで、バックグラウンドからモノマネ鳥のコーラスによるミュージックがかかる。勿論、リューセイのスマホの音楽を覚えさせたものだ。
何本もの激しいビームライトが交差し…流れ始めたのは…デスメタル調の激しい音楽だった。
ギャリギャリギャリィィィィィ!!!
ズギャギャギャーーーン!!!!!
観客達はヒュ…と顔を引き攣らせる。アイドルコンテストと聞いて想像していたものと遥かに違うものが目の前で巻き起こっているからだ。
『恥ーずかしくないの!むーなしくならないの!小さい子を追っかけまーわしてさ〜♪』
稽古で覚えた激しいダンスをしながらイズミルは歌う。
『コソコソするならしなきゃ良いのにそこまで回らないオツムちゃん〜♪親にバレちゃえ学校にバレちゃえ会社にバ〜レちゃえ〜♪』
歌いながらディアゴに近付き徐ろに背負うイズミル。
『小さい子を追っかけ回す〜そーの為の足ならさ〜!切〜り落としちゃえばぁ〜エイエイ☆』」
ジャキンジャキン!!!
リズムに合わせて観客席にギロチンを振り落とす。
「ギャアアアーーーーー!!!!!」
腰を抜かす観客達。
『いーもむし君になぁーっちゃいなぁ〜♪その方がまだ可愛気があ〜るからさぁ〜☆』
ジョキッジョキッ!!
ディアゴから伸びる巨大バサミが音を立てて開閉する。
半泣きの観客はブルブルと震え…中には漏らしている観客も居る。
ーーーーー
舞台裏では…
「ブッ…ハハハハ!!!観客引いてるよ引いてるって!!あんなんじゃ!!ハハハハ!!ヒ〜ヒ〜!!ボク負けようがないよっ!!」
バッカルがお腹を抑えて笑い転げていた。
ランドルトブラックは仁王立ちで腕を組みそのステージを興味深そうに見ている。
「…敵ながら天晴だ」
言いながら頷いている。
ーーーーー
ランドルトブラックの読み通り…最初こそ怯えていた観客も徐々にノリ方を理解し始め…
歌に合わせて一人、また一人と縦ノリ始める。
うぉー!うぉー!うぉー!
歓声は大きくなり盛り上がりは最高潮達した。
ギャリギャリギャリギャリ…
ギュワァァァァァーーーンンンンン……………
ジャンプして最後のポーズを取るイズミル。演奏が終わり汗だくで息を切らせながら口を開いた。
「ハァ…ハァ………ふぅ〜………えぇと………あの…特に言う事は無いです…!!ごめんなさいっ!!お疲れ様でした!!」
ペコリペコリと頭を下げて…イズミルは鳴り止まない歓声の中を足早にステージを後にした。
裏に入ると力尽きたようにイズミルは床にぶっ倒れた。
「いやはや流石だ。コレはコチラも…気が気じゃ無くなって来たよ。なぁバッカル?」
「ふ…フン!何さ…あれくらいボクでも余裕に沸かせられるっての!」
ランドルトブラックに言われバッカルはぷるぷると震えながら虚勢を張っている。
「ハァ…ハァ………あれ〜?余裕無くなっちゃったみたいですねぇ〜?プププ!さーて、バッカルちゃんはどこまでやれますかねぇ〜??」
「なにくそ…!!」
キッとムキになるバッカル。
そこにスタッフがやって来る。
「さぁ!次はバッカルちゃんの出番ですよ!ステージにどうぞ!」
言われ、バッカルはズンズンとステージに向かって行く。
「待て!バッカル!」
ランドルトブラックに止められる。
「顔!アイドルは笑顔が肝心だぞ!」
「あ!?良いよそんなのどうでも…」
「良くないっ!!ほら!!口角を上げろ!!さぁ!!」
うっとおしく迫られ、ハッと一溜息付き…バッカルはピクピクと口角を震わせながらおおよそ笑顔とは言えない引き攣り顔をする。
「どーだよこれでッ…」ピクピク
「完璧だ。よし、行ってこい!!あ、待て!コレを忘れる所だった」
言ってランドルトブラックは、バッカルに自分の武器である、まるでおもちゃの銃に変形出来る剣【センチュレイバーEX】を渡した。
イズミルはその光景にギョッとする。
バッカルはソード状態のセンチュレイバーEXを持ってガチガチの笑顔でステージに向かって行った…
「あの、歌って踊るんですよね!?」
イズミルは目を丸くしてただただバッカルの後ろ姿にそう声を掛けるのだった。
続く…




