第百二十三幕【名推理アイドル!リーサちゃん】
アイドル稽古が始まり三日目。
今日も今日とて朝早くからコンテスト会場に行こうと…宿屋のリーサの部屋に迎えに来たユーリル。
「リ〜サ様〜!迎えに来〜ましたよ〜!」
言いながらドアをリズミカルにノックするユーリル。
しかし、中からリーサの返事は無い。
「リーサ様ぁ〜?入りますよぉ〜?」
そ〜っとリーサの部屋の扉を開けるユーリル。
中には…リーサの姿は無かった。
「あれ?………先に行っちゃったのかな…?」
ーーーーー
コンテスト会場の控え室へとやって来たユーリル…
しかし、そこにはリーサの姿は無く…
代わりにサヤカが居たのだが…
顔色は悪く、寝ていなかったのか目には大きなクマを作り…ぶつぶつとうわ言のように何かを呟いている…
「わたしは…負けない…わたしは…諦めない…わたしは…」
明らかに様子がおかしい。
ユーリルは意を決してサヤカに近付く。
「あ、あの〜…サヤカ様?リーサ様を見なかったですか…?」
声をかけられるとピタッとうわ言を止め…ゆっくりとユーリルに目を合わせるサヤカ。
「……………そうか……………消したんだ……………」
「はい?」
「あの僧侶もヤラれたんだよ……………ハグレに……………!!」
「えぇ!?」
「そうに違いない……………!!!アイツがみんなを狙ってるんだよ……………!!!」
サヤカは言って頭を抱え恐怖心を振り払うかの様に身体を激しく揺さぶる。
「お、落ち着いて下さい!!まだそうと決まった訳では…!!」
ユーリルが落ち着かせようとサヤカの肩を持つが…
「触るなっ!!!」
ドン!!
「あぎゃっ!」
ユーリルは勢い良く突き飛ばされて床に尻もちを付いた。
「よくよく考えたら……………貴女も昨日は居なかったわよね!?だったら……………アンタが殺そうとしてた可能性だって……………!!!」
「こ、殺す…!?な、なんの話ですか!?」
「もう……………誰も信じられない……………!!私に近付かないで!!!」
サヤカは半狂乱といった様子で控え室を出て行ってしまった。
「えぇ〜………」
ユーリルはただただ呆然と、打ちひしがれるしか無かった。
ーーーーー
ジュニア部門の稽古場では、イズミルはリューセイにバッカルはランドルトブラックに厳しい特訓を強いられていた。
本番は明日!今日には完璧に仕上げて貰わないといけなかった。
「ちょ…ちょっと…水飲ませて下さい…!」
イズミルはフラフラと机に向かい、上に置いてあったコップの水を飲み干す。
「キツいだろうが頑張れ!!でも、もうほぼ完璧に踊れてこれてるぞ!!四天王達に負けてられないんだからあと少し頑張れ!!」
イズミルを鼓舞するリューセイ。しかし彼は少し焦りを感じ出していた。
なんと言っても、ランドルトブラックとバッカルのコンビの成長がかなり著しかった。
バッカルは文句を言ってもしょうがないと諦めたのか、心ここに非ずといった具合にジト目でランドルトブラックの稽古を完璧にこなしていた。
(つきっきりの稽古だ…その分成長も早いよな…ましてやコッチはリーサとユーリルの稽古もある…。中々厳しくなってきた…!)
リューセイは考えた後、机に手をついて息を切らしているイズミルに近付く。
「さぁイズミル!続きだ!」
「もぉーーー嫌ですっ!!!なんで私こんな事をっ!!?私はただの宝箱配置人書記担当!!ただの子供!!なんですよっ!!?」
イズミルはキーッと頭を掻きむしる。
「あ、心が折れた」
リューセイが呟く。
イズミルは声を上げると走って稽古場を後にしようとする…が、それと同時にスタッフが衣装が掛かった什器を押しながら入ってきて、イズミルはそれにぶつかり弾き飛ばされる。
「ふぎゃっ!?」
「アイドルの皆さ〜ん!お疲れ様です〜!明日が本番と言う事で稽古に精を出している事かと思いますが………アイドルに大切なのはダンスや歌唱力もそうですがやっぱり…可愛い衣装ですよねっ!!」
スタッフはニコニコと言いながら什器から衣装を取り出す。
「もし自前の衣装が無ければコチラからお好きな衣装を選んで合わせちゃって下さい!………あ、バッカルちゃんはもう素敵なお召し物されてますね!…イズミルちゃんは………その学者衣装で?」
首を傾げるスタッフにリューセイが答える。
「いえ、是非そこから選ばせて頂きますっ!!な!イズミル!衣装を着てみれば多少は気持ちが切り替わるかもしれないぞっ!!」
「そんなので………切り替わる訳ぇ………」
床に突っ伏したまま動かないイズミル。
「ほら、お前こういう可愛い衣装好きだろ?ビーチでも可愛い水着着てはしゃいでたじゃないか」
リューセイにそう言われ…什器に掛かった衣装に目をやるイズミル。
キラキラしたアイドル衣装を見るとイズミルの目に少し輝きが戻ってきた。
よろよろと立ち上がって什器に近付きアイドル衣装を食い付くように眺めるイズミル。
「可愛い…」
「な?ほら、好きな衣装を選べよ。それで練習すれば気持ちも乗るぞ!」
「うぅ………す、少し………着てみるだけですからねっ!!別にアイドルに興味が出た訳じゃ…!!」
「はいはい…」
ヤレヤレと首を振るリューセイ。
イズミルの少しおませな性格を知っていたリューセイの煽ては成功したようだ。
ーーーーー
一方その頃…
コンテスト会場の受付でスタッフから何かを受け取る一人の人物。
リーサだ。
リーサは無事だった。
受け取った"リスト"に目を通しながらゆっくりと控え室に向かっていた。
そのリストにはアイドルコンテスト参加者の名前が登録順にズラッと並んでいるが…何名もの名前に斜線が入れられていた。
三日前に毒を盛られたドルメシアも
二日前に照明の下敷きになったイクリプスも。
「………それ以外にも………私達が来る前にも何名ものアイドル候補さんの名前に斜線が………」
そこでリーサはピタッと足を止める。
そのリストの"ある違和感"に気付いたからだ。
「………コレって………」
少し考えたリーサは何かを決心し駆け出した。
コンテスト会場の中を周り、スタッフ達にひたすら声をかけていく。
宝箱配置人の仕事で培った"聴き込み"のスキルを使って、リストの斜線の入った人物がどうなったのかを聴き込みしていったのだ。
すると、リーサはある一人のアイドル候補が夢を諦め今酒場で働いていると言う情報を聞き、その酒場に向かう事にするのだった。
ーーーーー
「ゲッ!!?またアンタなの!!?」
酒場に着くや否や、リーサの顔を見てあからさまに嫌な顔をするウェイトレスの女性。
「え、あ、あの………私達何処かで会いましたっけ?」
「ハァーーー!!?何言ってくれちゃってんの!!?私は元ムジナ村のシスターであり元アイドル候補だった女よっ!!!」
言われてもピンと来ないと首を傾げるリーサ。
「悪かったわね!!モブキャラみたいな顔でっ!!」
怒りながらその場を離れようとするシスターをリーサは引き留める。
「あ、待って下さい!じゃあ貴女がアイドルを諦めて酒場で働いてるって言う…!!」
「そうよ!!ってか、どれだけ私影薄いの!!?三日前に会ってるんだけどね…!?…で何の用?私忙しいんだけど!!」
「少しお話が…!!少しだけで良いのでお願いします!!」
ーーーーー
事情を説明してお店の事務所を使わせて貰える事になったリーサ。
そこでシスターに話を聞く事にした。
「どうしてアイドルを諦めちゃったんですか?」
「どうして…って。目の前で毒を盛られて倒れちゃう人を見たら続けてなんていられないでしょ!!自分の命の危険さえ感じたし…」
「あの場に居ましたっけ…?」
「居たわよっ!!!」
クワッと怒りを露わにするも、シスターは直ぐに冷静に咳払いをし続ける。
「そもそも…私はコンテスト会場には前乗りしてて、初期の集まりから居たのよ…その時は他にも大勢のアイドル候補が居たわ。あのドルメシアさんもサヤカさんも…その初期メンバーだった」
「他の方はどうして…?」
「蹴落とし合いが酷かったわ。さっきまで仲良くしてた同士が急に険悪になったり、"不慮の事故"が立て続けに起きて…それで怪我して続けられなくなったり…でも、命の危機を感じる程じゃ無かった」
「それは…誰かに仕向けられていた可能性は?」
「う〜ん………どうだろ?仕掛けていた人は居たと思う。でも、一人がしてたって言うよりは疑心暗鬼になった皆が仕掛け合ってたって感じ。自分がやらなきゃ誰かにやられる!みたいな」
「なるほど…じゃあ、疑心暗鬼の発端となった"最初の事故"があったハズですよね?ソレって…」
「あぁ…ソレは………」
リーサはそれを聞いて全てを察した。
全てのピースが出揃い埋まっていく…
そして気付いたのだった。このアイドルコンテスト会場で巻き起こる何者かの悪意。その"真の黒幕"を…
続く…




