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異世界から転生した勇者より宝箱配置人の方が過酷だった件  作者: UMA666
第三章【導かれそうで導かれない時々導かれし者達編】
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第百十九幕【宝箱配置人よりアイドルの方が過酷だった件】

ダルクスは酒場にやって来た。

いつもの様に新聞を開き世界の情勢に目を通す。


(今の所…魔王軍はまだ落ち着いてるみたいだな…魔王さんは休暇中だったか…そのおかげで…と言った所か…)


ダルクスは思案を巡らせながら頼んだコーヒーをズズ…と啜り…ふと別テーブルに付く人影に目をやる。


ズ…


啜っていた口元が止まる。


そこには…魔王軍四天王が一人。

真っ黒なヒーロースーツに身を包んだ男、ランドルトブラックが腕組みをしてジッと座っていたのだ。


ゴクン…


口に含んだコーヒーをゆっくり飲み込み…

新聞を静かに畳んでダルクスはそ~ッと酒場を後にしようと………


「何処へ行くのだ」


身動き一つ取らず…ランドルトブラックは言った。


「チッ…気付いてたのか…。どーしてこう…酒場でくつろいでたら会いたくねぇもんと出会っちまうかね」


「まぁ座れ。ココで争うつもりは無い」


そう促され…ダルクスは訝しげに顔を歪めながらもランドルトブラックの前の席に腰を落とした。


「ヒーローは時と場所を選ぶのだ」


「ならそのマスクを外して普通の格好をしろよ…悪目立ちしまくってんぞ」


「"普通"…か。フッ…人間らしい発言だな。普通であることが"普通"だと思っている。全く人間とは愚かだ。"その血が自分に流れている"と思うと…ゾッとする」


「…どういう意味だ?お前は自分の事を人間だって言いたいのか?」


「そうだ。俺は人間…記憶を失って途方に暮れていた私を…センチュレイドーラ様は快く仲間に入れて下さったのだ」


「…記憶を…失って…!そうか…お前が…」


「私を知っているのか?記憶を失う前の私を…」


「気付いた時…お前は人間でありながら魔界に居た。違うか?」


「………その通りだ………。何故知っている…?」


「どうして裏切ったんだ…【シュン】…」


ハァ…と溜息を吐き…ダルクスは頭に手を当てた。


「【シュン】…?それが俺の名前だったと言うのか?」


「……………」


「まぁ良い。捨てた過去の話だ。私の今の名前は【ランドルトブラック】。センチュレイドーラ様に従い…センチュレイドーラ様に仇をなす者に正義の鉄槌を与える者…」


「ちょっと待て」


「なんだ?」


「お前…その胸のバッジ…」


ダルクスは気付き指をさす。ランドルトブラックの胸元に見覚えのある金色のバッジが付けてあった。


「お前それ…プロデューサーの証…!」


「良く知っているな。そうだ。私は今正義のヒーロー兼アイドルプロデューサーだ」


「ハァ!?」


ダルクスはガタッ!と席を立ち声を上げる。


「お、お、お前…!どーゆー事だよソレは!?まさか…俺達の邪魔をまた………そうか、フラップジャックとかいう奴をアイドルに…!!」


「生憎、ジャック嬢はまだセンチュレイドーラ様と休暇中のハズだ」


「…あ、そうなの?」


ダルクスはスッと席に座り直す。


「じゃあお前…なんでアイドルプロデューサーなんかに…」


「そうか………やはりな。私の読みは間違って居なかったようだ。お前達は船を沈められた後…必ずこの船を狙ってくるとな…だがな…船は我々、魔王軍四天王のものだ」


そう言ってランドルトブラックは立ち上がった。


「なぁに、無理矢理奪い取ったりはしないさ。それは人間のやり方だが…私達はそうじゃない。正々堂々とアイドル勝負と行こうじゃないか」


「いやだから…誰がアイドルをするんだよ!」


「ハッハッハッハッ!楽しみにしているぞ!ハッハッハッハッ!」


ランドルトブラックは高笑いしながら…そのまま酒場を出て行ってしまった…


「チッ…【シュン】………何を企んでるんだアイツ………こうしちゃ居られねぇ…!!」


ダルクスは自分のコーヒーをゴクゴクッと一気に飲み干し、急いで酒場を出て何処かに向かうのだった。




〜〜〜〜〜




「…では、コチラがジュニア部門の控え室になります」


スタッフに控え室を案内されたのはイズミルだった。

アイドルコンテストには"ジュニア部門"もあり、リーサに行かせた手前イズミルも断れず、ダルクスに言われ半ば強制的に参加させられるハメになった。


(なんで私まで………私はただの宝箱配置人・書記担当なんですよ…?ただの子供なんですよ…?)


頭の中でブツブツと思案を巡らせながら…ムスッと顔のイズミルは案内された控え室の中へと入室した。


中には数名のアイドル候補の子供達とその親御さんが数名居たが、入って来たイズミルを見て…中に居た子供達は落胆の色を見せる。

中には泣き出す子供まで…


「えぇ!?なんで!?」


その反応にイズミルも困惑する。


「聞いてた話と違うよぉ!今回のコンテストさっきの()と言い、レベルが高過ぎるよぉ!」


そう言って母親に抱きつく女の子。


「クッ…舐めていたわ…今回のコンテストがここまでとは…!彼女…学者キャラを仕上げて来ている…!!」


歯を食い縛りながら泣く子供をあやす母親。


「きゃ、キャラじゃないですよっ!!本当に学者なんですっ!!」


「完全にキャラになり切っているわ…。クソッ…!!特にキャラ付けもせずに…可愛いだけで勝負しようとした私達が間違っていたと言うの…!?」


母親は苦渋を舐める様な顔で娘に向き直る。


「ナオちゃん…ここは出直すわよ…!今回のコンテストは私達の出る幕じゃない…!」


そう言って母親は娘を引き連れて控え室を出て行ってしまった。

それにつられる様に…諦め顔の親子がどんどん控え室を出て行ってしまった。


「ちょ、ちょ、ちょっと!私、そんなポテンシャル持ち合わせてないですから!ねぇ!?」


ポツン…


控え室にただ一人だけになったイズミル。


「えぇ…」


一人残され困惑していると…


ガチャリ…


…と誰かが控え室に入ってくる。


「ゲッ…」


小さくそう呟くと…真っ黒なゴシック調のドレスを纏い、猫のぬいぐるみを抱いた可愛らしい女の子はパッと顔を伏せてしまった。


「皆さん出て行っちゃいましたよ…。もう私達だけなんですかね?」


イズミルが話しかけても女の子は俯いて何も言わない。


「貴女も一目置かれていたようですけど…確かに…雰囲気から分かります。ただの子供ではないですねっ!」


言いながらイズミルはヒョイッと彼女が伏せる顔を覗き込もうとするが…パッと顔を反らされる。


ヒョイッ


「あの…何処かであった事ありましたっけ?」


パッ


「……………」


ヒョイッ


「さっき私の事を知っていそうな口ぶりでしたけど…」


パッ


「……………」


ヒョイッ


「ねぇねぇいつからコチラに?」


パッ


「……………」


ヒョイッ


「一回目のコンテストは…」


「あー!!うっさいなぁ!!」


急に声を上げる女の子に目を丸くするイズミル。


「だから嫌だったんだよなぁ〜この作戦!」


聞き覚えのある声に少し間を置いて…イズミルはやっと気付いた。


「……………あっ!!!あなたは…!!魔王軍四天王の…!!!」


それは良く見ると…魔王軍四天王の一人…クリオネっ子のバッカルだった。軟体動物の様なぷるぷるの髪を伸ばし、頭のクリオネの角はネコミミの様にピコピコと…何処からどう見ても可愛らしい女の子だ。


「バッカルくん…結構な趣味を持ってたんだね!」


イズミルは感心するように…溜息交じりに言った。


「違うわっ!!」


ドスッ!と地面を踏みつけバッカルは恥ずかしそうに声を上げる。


「どれもこれも、全部あの"ブラック"のせいだ!!アイツが勝負に勝ったばっかりに…ボクは…こんな格好で…あまつさえ…アイドルなんかに…!!」


「ニシシシ!凄く可愛いですよ〜?今の君ならNo.1のアイドルも夢じゃないんじゃないかな〜?」


ニヤニヤと挑発する様に言うイズミルを睨み付けるバッカル。


「…ハ?言っておくけど…ボクは真面目にこんな"作戦"にノッたつもりはないよ?元々ボクは…この会場を襲って船を強奪する作戦を…」


「ダメですよっ!そんなコト、ドーラちゃんが許さないと思いますっ!」


「良いんだよっ!!ボクは子供だから…何したって許されるんだよ…。キミをここで…食ってやったってさぁ!!」


グパァ!と頭を割るバッカル。

イズミルは咄嗟に後退る!


「ちょっ…!!い、いけないんだ〜!いけないんだ〜!!ここに来て暴力で解決しようだなんてっ!!ここは正々堂々アイドル勝負するべきですっ!!」


「バカ言えっ…!…おいそれと…こんな恥ずかしい姿を見られて…生きて帰す訳にはいかないのさっ…!!」


イズミルにじり寄るバッカル。

後退るイズミル。その時!


ガチャリ


そこで、再び誰かが控え室に入って来た。


「バッカル。ドーラ様に言われただろう?作戦はお互い出し合って…後腐れなくゲームで決めると。今回はトランプ勝負に勝った私の作戦を決行すると」


それはランドルトブラックだった。


「…チッ…」


バッカルは、割った頭をシュルシュルと戻した。


「…全く…。ドーラ姫様が四天王同士仲良くしろなんて言わなけりゃ、人間のお前なんかの言う事なんか聞かないのに…!」


「バッカル。君は今は女の子のアイドル…。それを忘れるな。お上品に可愛らしくアイドルの笑顔だ。良いな?」


「どうかしてるよっ!!ボクはオスだぞ!?こんな作戦、上手く行きっこない!!こんな…こんな恥ずかしい格好で…!!」


「ほら、笑顔!」


ランドルトブラックはバッカルの顔を掴み…無理矢理口角を上げ笑顔にさせた。


「ヒャメロッ!!ファカッ!!」


バッカルはランドルトブラックの手を振り払い、頬を擦っている。


「うぅ〜…!イライラする〜!!」


ガジガジガジ…とバッカルは手に持っていた猫のぬいぐるみ【ティキ】を齧る。


(うっ…悔しいけど…可愛い…!!)


イズミルはそんなバッカルにキュンッと心を掴まれそうになるも、胸を抑えて必死に耐えた。

そんなイズミルにランドルトブラックが声をかける。


「悪かったお嬢さん。ここからは正々堂々アイドル同士の勝負…。お互い切磋琢磨してこのコンテスト…盛り上げようではないか」


「は、ハァ…」


イズミルは頬を掻きながら返事をする。

実際、イズミルも乗り気ではないのだが。


「さぁ、今日もお稽古の時間だっ!バッカル。稽古場に行くぞっ!!」


ランドルトブラックはバッカルを担ぎ上げ、控え室を出ようとする。


「ちょ…!!降ろせっ…!!嫌だっ!!もうあんな恥ずかしい踊りの特訓なんて…!!あんな恥ずかしい歌なんて…!!」


「安心しろ。私がプロデューサーとしてついてる!君を最高のアイドルに育て上げてみせる!」


「なお不安だ!離せっ!離せってば…!!」


バタン!


また一人残されたイズミル。


「……………やれやれ…アイドルって物凄く大変そう…」


ハァ…と溜息を一つついて…立ち尽くすイズミルだった。



続く…

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