第百十八幕【アイドル業界をなんだと思ってる!?】
船を手に入れる為…
3日後に迫るアイドルコンテストに出場する事になってしまったリーサとユーリル。
軽い面接と適性診断を受け…二人は難なく出場資格を得たのだった。
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「それではコチラがアイドル共同の控え室になりますので、3日後のコンテストまでは稽古場と合わせてご自由にお使い下さい。中に他のアイドルの皆さんも集まっておりますので挨拶しておくと良いですよ!プロデューサーの方には別の控え室をご用意しております」
スタッフに案内され、コンテスト会場の中の控え室前までやって来たリューセイ、リーサ、ユーリルの三人。
「じゃあ、俺はそっちの控え室に。面倒臭い事なっちゃったけど…お互い頑張ろう」
そう言い残して、リューセイはスタッフに連れられて行ってしまった。
「うぅ…」
「大丈夫ですよリーサさんっ!私がついてますからっ!」
「ユーリルさんの自信は一体何処から…」
リーサはハァと溜息をつき…キリッと顔を正す。
何かを決心したようにドアノブに手を掛ける。
(こうなったら…私は私なりに頑張るだけです…。そもそもが無茶な作戦だし…ダメだったとしても気負わずに…)
自分を奮い立て、リーサはドアを開く。
中は広く、数名のアイドル候補が集まって居た。
「あ…あの…よ、よろしくお願いします…!」
リーサはたどたどしく頭を下げた。
「あ〜ら、また新しく人がいらっしゃいましたわ」
煌びやかなドレスに身を包んだ金髪縦ロールの女性がコチラに気付き話しかけてきた。
「ワタクシ【ドルメシア】と申します…。貴女からはワタクシと同じく高貴な匂いがします…ウフフ…以後お見知り置きを…」
【ドルメシア】はスカートの裾を上げ、上品に会釈した。
「高貴だなんてそんな!あ、あの、私はリーサと言います…コチラはユーリルさん」
「よろしくお願いしまーす!」
ユーリルはペコペコとお辞儀をした。
「貴女もアイドルに…?」
リーサが聞くとドルメシアは答える。
「えぇ。ワタクシ…こう見えてとある名家の娘なのです。昔から人に注目されるのが好きで…アイドルは手っ取り早く多くの人の注目を集めますから…」
ドルメシアはニコニコと上品に話しながらティーカップにお茶を注いでいる。
「承認欲求は身も心も満たしてくれる…そうは思いませんか?」
「そ、そうですかね?私は…余り注目を浴びるのは好きではありません…」
リーサは少し恥ずかしそうに言う。
「あら?ではどうしてアイドルコンテストに応募を?」
「あ、アハハ…そ、それには…その…あらぬ事情があって…」
リーサは頬を掻きながら答える。
「まぁ…これ以上詮索はよしましょうか。アイドルになろうと決意した者には…あらぬ事情が付き物ですわよね。そちらのお二人の方も…何かしらあらぬ事情を抱えているご様子」
そう言ってドルメシアは机に突っ伏して眠る青髪ショートカットの女性と…部屋の隅で扇子で顔を隠し目立たないようにしている女性に目線を送る。
「そちらのテーブルで突っ伏している方は…貴女達と同じく先程来られたばかりなんですが…ワタクシが名前を聞くと【ハグレ】とだけ言って眠ってしまいました。隅っこの赤いドレスの方も顔を隠して名前すらお教え頂けません…。ワタクシ達は言わばライバル…。馴れ合う気は無い…という訳でしょうか」
そう言ってドルメシアは注いだティーにミルクを入れマドラーでかき混ぜている。
「そうよ…私達は競い合うライバル…いーや、敵同士よっ!!」
そう言って急に声を上げたのは、黒髪ツインテールの見るからにツンケンした態度の女性だった。
「貴女達…。馴れ合ってたらロクな事にならないわよ…?アイドルの世界は…そんな甘っちょろい世界じゃないんだからっ!!」
「貴女は…この世界は長いのですか?」
リーサが問い掛けるとフッと笑みを溢して腕を組んで自慢気に話を続けた。
「…私は…前回アイドルコンテストの優勝者…【サヤカ】よっ!!」
「あら…貴女が前回の…」
ドルメシアは口元を抑えて軽く驚いている。
「貴女達はアイドルの世界をキラキラとした煌びやかな世界だと思ってるかもしれないけど…実際はそんなもんじゃない。もっとドロドロと…裏切りや蹴落とし合いの残酷で酷い世界よ。前回のコンテストだって…それは酷いもんだったわ…」
サヤカは頭を俯き過去を思い出す。
そして再び顔を上げ声を上げる。
「覚えておく事ね!ここでは仲間を作らない方が良いわっ!!甘い考えの者から脱落する世界なんだから!!馴れ合ってると痛い目をみるわよっ!!」
ビシッ!と指をさし言い切ったサヤカ。
ドルメシアはそれをフフ…と笑い一蹴する。
「安心しましたわ…前回の優勝者が貴女と言う事は…今回の優勝は間違いなくワタクシですわね」
「なにおうっ!?」
キッとドルメシアを睨むサヤカ。
「貴女からは気品を感じられませんもの。ワタクシの気品とオーラの前には…貴女は敵ではないですから」
「言ってくれるじゃないの…」
睨み合うドルメシアとサヤカ。
ゴゴゴゴ…と音が聞こえて来そうな気迫を感じる。
「お、お二人とも落ち着いてぇ〜」
リーサは二人を宥めようと手を振っている。
ガチャ
その時、控え室にまた誰かが入ってくる。
「ふぅ…お手洗いを探すのに手間取っちゃっ………ゲッ!!!」
入って来たアイドル候補はリーサとユーリルを見るとあからさまに嫌な顔をする。
「あ、貴女達…な、なんでココにぃ〜!?」
「あ、あの…私達何処かでお会いしましたか…?」
リーサはキョトンと首を傾げる。
「忘れたとは言わせないわよっ!!ムジナ村のシスターよっ!!貴女達のせいで散々な目に合わされたっ!!」
…と言われてもリーサもユーリルもポカン…と思い出せないでいるようだった。
「何?モブキャラシスターとアンタ達って知り合いなの?」
サヤカが言った。するとドルメシアもフフッと笑って続ける。
「モブキャラシスター…フフッ言い得て妙ですわね。確かに…良くいそうな見た目の方ですわ。お二人が覚えて無いのも無理は無さそうです」
「このヤロー…言わせておけば〜!とにかく!!また私の邪魔をするつもりでしょうが今度こそはそうはいかないからなぁっ!!」
ぷるぷると怒りで震える指をリーサとユーリルに指しながら…シスターは言った。
「邪魔するつもりなんてそんなっ…!」
リーサは首と手を振って弁明しようとするも…その時、別の声が上がった。
「結局………慣れ合ってるじゃないか………」
ボソッと…クールでダウナーな雰囲気を醸し出す声は…机で突っ伏す【ハグレ】から発せられた声だった。
「な、馴れ合ってなんかないわよっ!!何よ急に話しかけてきて!!」
サヤカが憤りを露わにする。
「悪いな…私には凄く楽しそうに見えたから…」
ハグレは突っ伏していた上半身を起こして背筋を伸ばして眠気眼を擦りながら言った。
「おはようございますハグレさん?良く眠れまして?」
ドルメシアが言いながらズズ…とミルクティーを飲んだ。
「まぁね…」
「ほんと…分かりませんわ。貴女はアイドルを目指すようなタイプじゃ無さそうですが…」
「まっ…色々とね………」
そう言って多くは語らずハグレは部屋を出て行ってしまった。
「なんなのよアイツ…スカしちゃってさ」
サヤカが不服そうに言う。
「アイドル候補の方って他にも居るんですか?」
ユーリルが問い掛けるとドルメシアが答えた。
「いえ、今の所コレで全員ですわね。貴女達のように飛び込みでまた増える可能性はありますけど…」
「開催直後は他にもいっぱい居たわ。でも、ほとんどが辞退か失踪した。ま、アイドル業界の闇を目の当たりにすれば…当然と言えば当然ね」
サヤカは腕組みして頷きながら言う。
「ま、候補が多かろうが少なかろうが…ワタクシの優勝は目に見え…て…ウッ…!!」
パリンッ!!
余裕の態度を示そうとしたドルメシアは言葉を詰まらせたかと思うと…ティーカップを落としてしまった。
「うぅ………ゲホッ………!!」
口元を抑えて咳き込むと…手の隙間から血が垂れた。
「ヒッ…!!い、イヤァーーー!!!」
バターン!!
ドルメシアは吐き出した自分の血を見て叫んで卒倒してしまった。
「な、何よっコレッ!!!」
シスターもその光景に目を見開いて驚愕している。
「ドルメシアさんっ!!」
リーサは倒れたドルメシアに駆け寄る…
「だ、大丈夫です…気を失っていますが…命に別状は無いみたいです…!誰か…!スタッフさんを…!」
「わ、私、呼んで来ますっ!」
ユーリルが急いでスタッフを呼びに行った。
「始まったわね…」
サヤカはその光景に余り驚いている様子は無かった。
「ど…どういう事ですか…!?」
リーサはサヤカに振り向き問い掛ける。
とりとめ落ち着いた様子でサヤカは続ける。
「誰かがティーカップに毒を仕込んでた…敵を減らす為に…!これが裏切り…蹴落とし合いの…アイドル業界の闇ってヤツよ…!!」
「じゃあコレは…アイドル候補の誰かが…?」
シスターは割れたティーカップに目をやりながら言う。
「そういう事よ…」
「誰かが毒物を仕込んでいた…この中の誰かが…!!」
お互いを見合わせるアイドル候補達。
リーサは急な展開に頭を痛める。
「わ…私…一体何に巻き込まれちゃってるんですかぁ〜!?」
続く…




