第十ニ幕【宝箱配置・ムジナ村】
ダルクスは夢を見た。
天高くそびえる邪悪な気に満ちた塔…
この世界を滅ぼそうとする魔王…
そしてそれに立ち向かう勇者一行…
そして…
落ちる…落ちる…落ちる…
バシャーーーン!!
「ハッ!」
ダルクスは飛び起きた。何度も見ている夢。最後、決まって海に落ちて覚める夢。
ダルクスは枕で眠るポニョに目をやる。
その寝顔を見て、少し心を落ち着かせた。
「気にするな…"これは俺の記憶じゃない"…」
ダルクスは頭を振り、身体を倒し布団を被った。
面倒臭い事を考えるのは性格じゃない。
そして再び、眠りについたのだった。
〜〜〜〜〜
朝。リューセイは寝ている所をダルクスに起こされ宿屋の前に全員が集められた。
昨日の夜の事もあり、ダルクス以外全員が寝不足といった具合でフラフラとおぼつかない足取り。目にはクマも出来ていた。それを見てダルクスは話し始める。
「………で、集めていきなりだが聞きたい事が山程ある」
ダルクスは取り敢えず昨日来た時には無かったはずの巨大なドラゴンの死体を指差す。
「ありゃなんだガキんちょ」
「あれは私が倒したドラゴンです。いずれ訪れる勇者様の邪魔にならないように倒しといたんです」
「なんでそれをわざわざ村まで持ってきたんだ?」
「それは〜…ほら、なにかイベントに使えないかな〜と思って。村長さんにはそう言って話をつけてます」
そう言ってイズミルは頭を掻く。
「…で、女神さんはその頭に刺さったナイフは大丈夫なんですか?」
「いや、これはそういうカチューシャで…て、それはこの前も言いましたよ!」
「じゃあ、なんで死んでたはずのリーサさんは生き返ってるんだ?」
「え?私また死んでたんですか?昨日の記憶が曖昧で思い出せないんですよね…」
リーサはそう言いながら考え込む。
「いいからリーサ!思い出さなくて!」
そう言ってリューセイは止めに入る。
どうやらリーサはリューセイの一撃で昨日の出来事を忘れてしまっているようだ。ちゃんと説明した所で『リーサが勘違いのメンブレでヤンデレムーヴの限界突破した』と誰が信じるだろうか。
「そういうお前は、なんでそんなボロボロなんだよ」
リューセイの服や肌には刃物で切りつけられたような跡が傷が無数に残っていた。
「いや、まぁ、その、色々ありまして…」
「色々ありすぎだろ!!なんなんだお前ら、宿屋で休んどけって言ったのがそんなに難しいのか!?」
「リューセイさん、ほんとにどうしちゃったんですかその傷…!!今、回復させますので!!」
"お前にやられたんだよ!!"と言いかけるのをグッと飲み込むリューセイ。
リーサは回復呪文をかけ、俺の肌と服の傷は治っていった。
「もういい!取り敢えず今日はここ、ムジナ村での宝箱配置とイベント用意だ!」
そう言ってダルクスは荷車に向かう。そして各々が作業に取り掛かった。
リューセイとユーリルは民家に宝箱配置の許可を貰いに。
ダルクスは例のごとく村中に宝箱やツボ、タルを設置しアイテムを入れていく。
リーサは僧侶として住民から悩みを聞き、勇者一行が消化出来そうな悩みをリスト化していく。"クエスト"として処理する為だ。
そしてイズミルはドラゴンの死体の前で思案していた…
「う〜〜〜ん…」
(昨日村長に引き止められた時、思わず『勇者一行のイベントの為!』ってなんとかあの場を切り抜けたけど、このドラゴンの死体を使ったイベントって一体…?)
暫く考えた後、イズミルの頭に電球が光る!指をパチンと鳴らし…
「これだ!ニシシ、今日もイズミルちゃんは冴えてる!」
そう言ってノートにサラサラとペンを走らせた。
〜〜〜〜〜
小さい村だったので各々の業務は直ぐに完了した。自然に村の中央に皆が集まり出す。
「報告!」
ダルクスがそう言うと各自、状況を報告した。
まずはリューセイから。
「民家も少なくてみんな協力的だったから、家宅捜索の許可を貰うのは比較的簡単だったな」
そう言うとユーリルはうんうんと頷く。
「よし、許可を貰ったトコの宝箱配置はリューセイ、後で頼んだぞ」
ダルクスに言われリューセイは頷く。
そして次はリーサが報告を始めた。
「悩み事がないか聞いて周りました。…そうですね…勇者様が解決出来そうなのが何件かありましたね。"薬草が足りてないから欲しい"や"悪さをする魔物が発生しているから倒して欲しい"などです」
「よしよし、じゃあそれをクエストとして申請しよう。後でクエストをクリアした際の報酬を用意して村長に渡しておこう」
(クエストの報酬もこっちが用意するのか…ていうか、こうやって"おつかいクエスト"や"討伐クエスト"が出来て行くんだなぁ…)
リューセイは感心した様な面持ちで頷いた。
「…んで、ガキんちょの方は?」
「ドラゴンの死体を使ったイベントですね!良い案があります!」
そう言ってイズミルは前に出る。
「まず、あのドラゴンは空からいきなり落ちて来て村で死んでしまった事にします!…で、その死体の処理に困っている…という事にして、村の人にもそれで話を合わせて貰います。さて、勇者一行はどうやってドラゴンを運び出すかですが…ダルクスおじ様、荷車に【脳筋の腕輪】はありますか?」
「あぁ、あるけど…」
そう言ってダルクスは荷車をガサゴソ探し出す。リューセイは気になってイズミルに質問をする。
「脳筋の腕輪って言えば、俺が前の冒険で結構終盤で手に入れた腕力をかなり向上させるレア物の装備アイテムだぞ。それをどうするんだ?」
イズミルはまぁまぁとリューセイを制し、地図を出し教鞭を伸ばし地図を指す。
「近くに山がありますよね。そこの頂上にその腕輪を収めましょう」
「まさか…」
リューセイが言いかけると、ユーリルが先に口を開く。
「その腕輪を勇者一行に取ってきて貰って、それを使ってドラゴンを運び出して貰うという流れですね!」
「おっ、あったあった。ほら」
ダルクスは目当ての腕輪を見つけイズミルに渡し続けて言う。
「ヒェ〜、その貴重な装備アイテムをキーアイテムとして使っちゃうのかよ」
「この際仕方ないです。こんな序盤に手にしてしまうにはかなり強過ぎるので、これは村長さんに役割を果たした後は回収して貰いましょう」
「…待てよ。…という事はもしかして俺達の次の目的は…」
リューセイの嫌な予感を察知したイズミルは容赦なく
「山登りです!」
「無邪気な笑顔で言う事かよ!!」
「ですが、そこの山は本来通る予定のない場所だったので、道の開拓とか…ダンジョン化に…分布モンスターの入れ替えも必要かも…」
「山登りってだけで大変なのに…開拓!?入れ替え!?ダンジョン化!?」
リューセイは大きな溜息をついた。
勇者より過酷…それを身に沁みて感じるのだった。
続く…




