第百十七幕【アイドルプロデュース大作戦】
海での一件後…宝箱配置人一行は船を失い陸路を進む事になってしまった。
荷車を引くダルクスの表情はすこぶる悪かった。
その空気を察してか、全員が一言も話さず静かに付いて行く。
その空気を変えようと、リューセイが口を開く。
「やっぱ俺は陸路が好きだな〜!!海はさ、風景が代わり映えしないから直ぐ飽きちゃうし!!それに、ほら、あの金ピカの船をもう乗らなくて済むと思ったらさ、ほら、結果良かったじゃんか!」
無理して明るく言うリューセイに冷たい視線を送るダルクス。
「……………ボソッ…」
「え?ダルさん、何か言いました?」
「お前のせいでこうなってんだよ!!!」
ダルクスが大きく声を上げた。
「そーですよリューセイさん!おかげで船は沈むわ…リーサさんは棺桶状態なるわ…」
イズミルもハァ…と溜息をつきながら言う。
「うぅ…申し訳ありませぇん…」
リーサは棺桶になってしまった事をペコペコと頭を下げて謝っている。
ラグジュアリー号が沈没したのは何を隠そう、光伝力放射砲が暴れた際に放たれていたビームが何度もラグジュアリー号を貫いたからだった。
「ま、待てって!アレは俺だけのせいじゃないだろ?あれはいきなり話しかけてきたユーリルに驚いたせいで…」
「勇者様〜?自分の責任を女神に押し付けないで下さい!!」
「お前なぁ…!!」
「だぁ~!!お陰でルートも大きく変わっちまったし…船を失って海に出る事が不可能…」
ダルクスは頭を抱えてブツブツと言っている。
「それに、借り物のラグジュアリー号の弁償代…と、新しい船を工面する為の費用…う〜〜〜ん………」
そこにイズミルが付け加えた。
「ったく…どうしてくれんだよ…船が無けりゃこの先、宝箱配置が行き詰まっちまうんだぞ…新しい船を用意するったって…安かねぇんだぞ…船員の給料だって…」
頭を抱えてブツブツ言いながら荷車を引くダルクスの後をみんな黙って付いて行くのだった。
〜〜〜〜〜
アヤシカビーチを南に暫く進むと見えて来たのは…芸能の街【マイムメイル】。
本来は立ち寄る予定ではなかった街に、宝箱配置人一行は訪れた。
「【マイムメイル】も【王都ヤオヤラグーン】管轄する町の一つで…"芸能の街"なんて呼ばれてます。その名の通り…ここはありとあらゆる"芸能"を身に付けるにはうってつけの街で…」
イズミルの解説を聴きながら…宝箱配置人一行はマイムメイルの街中を歩く。
「確かに、サーカスに…劇場…芸能学校が立ち並んでるなぁ」
リューセイは辺りをキョロキョロと見回しながら言う。
「あの…凄く…楽しそうな場所ですね…。立ち寄らなかったのが勿体無いくらい…」
リーサも街の華やかさに圧倒されながら言った。
「元々、勇者一行が立ち寄る予定じゃ無かった街だったからな…。勇者の見る地図にも記入しちゃ居ない…」
ダルクスは言いながら荷車を広場に停めて…近くにあった掲示板を腕組みしながら眺めている。
「正しい地図に入れ替えて貰わないとですね…。ここの宝箱配置をして…ココによる理由になる新しいイベントの用意も…」
「おい、ちょっと待て…!!」
イズミルが話していたのを止め、ダルクスは一つのチラシを掲示板から剥がし声を上げた。
「こ、これを見ろ…!!」
ダルクスが手に持つチラシを覗き込む面々。
【サウザウンド社協賛 第ニ回アイドルコンテスト開催!
今をトキメクNo.1アイドルはキミだ!!
飛び込み参加も可!君の歌と踊りみんなに届けよう!
優勝者にはサウザウンド社の"ミリオン高速船"を進呈!!】
「コレだァァァァァ!!!!!」
ダルクスが叫び、チラシをビリッと破ってしまった。
「コレだ!じゃないですよっ!!まさかそんなの出場するつもりじゃないですよねっ!?」
イズミルが声を上げた。
「良く考えてみろ!!コレに優勝すりゃあ、あのサウザウンド社の高速船が無料で手に入んだぞ!?」
「だからって、誰が出場するんですかっ!!まさか、ダルクスおじ様…女装して…!!」
「バカか。俺が出場するわきゃねぇだろが…アイドルになるのは…」
そんな会話をするダルクスとイズミルの目を盗んでそ~っとその場から立ち去ろうとする…
「ね〜〜〜?リーサさ〜〜〜ん?」
ダルクスの呼びかけにビクッと肩を震わすリーサ。
「む、む、無理ですっ!!無理ですよぉ!!」
リーサは泣きながら首と手をブンブンと振っている。
「これも宝箱配置人の今後の為なんです!!リーサさん…出ましょう!!アイドルになるんです!!」
ダルクスは意気揚々とリーサに言う。
リーサは激しく首を振っている。
「無理です!!今回ばかりは無理ですよぉ!!ねっ?イズミルちゃん?ねっ?」
「(コレは中々楽しい事になりそうですね…)リーサ様なら、コンテスト優勝もあり得なくはないかもしれないですね…」
「裏切りっ!!」
ガーーーンと、リーサは打ちひしがれている。
「ハイハーイ!!私もっ!!私もアイドルになりたいでーす!!」
ユーリルが手を上げはしゃいでいる。
「300歳超えのアイドルなんて聞いた事無いけどな…」
リューセイがボソッと言うと、ユーリルは頬をプクッと膨らませてムキになる。
「ほんっと!!勇者様はデリカシーってもんが無いんですかね!?」
「そうだぞリューセイ。優勝を狙うならアイドルは多い方が良い。それに…アイドルは年齢のサバを読むもんだろ?」
ダルクスが言ってウインクした。
「…いや…サバを読むというよりは"クジラ"を読んでるレベルですけど…」
「勇者様ぁ〜?」
ユーリルは拳をぷるぷると震わせている。
「それじゃあリーサさんと女神さんは出場して…なんとか船を勝ち取って貰って…」
「なんで私出場する事が確定してるんですかぁ!?」
こうして、宝箱配置人一行は成り行きで…船を手に入れる為のアイドル大作戦を決行するのだった。
「しませんよ!?私、やりませんからね!?」
ーーーーー
アイドルコンテストの会場にやって来た宝箱配置人一行。
「それにしてもアイドルなんて…またファンタジー世界では馴染みない言葉だよな?なぁユーリル?まーたお前が日本から取り寄せたんだろ」
「人聞きが悪いですねぇ〜?………その通りですけど」
「その通りなんかい」
そんな話をしていた二人の所に受付で参加申請を終えたダルクスが戻って来た。
「コンテストは3日後。それまでに女神さんとリーサさんには歌と踊りを覚えて貰わんとな」
「たった3日で!?どうやって!?歌も踊りも二人共ど素人だろ!?」
「そこでリューセイ君。…お前の"スマホ"が役に立つ訳だ」
「俺のスマホが?」
「ほらお前、そのスマホに色んな曲を入れてただろ?アイドルの曲も…保存してたじゃねぇか」
「ふむ………で?」
「お前がそれを使って歌と踊りをプロデュースするんだよっ!!お前がっ!!」
「俺がっ!!?」
「…と言う訳でハイこれ」
ダルクスはリューセイの胸元に金色のバッジを付けた。
「コレはお前がプロデューサーである証だ。良いか?この3日間で彼女達を最高のアイドルにしてみせろっ!!」
「ハァ!?……………は、は、は、ハァ!?」
「会場の中にはアイドルとプロデューサーしか入れないんだよ。だから、頼んだぞ」
「いや、ダルさんが行って下さいよダルさんが!!」
「バカ、俺はお前…ここの宝箱配置をしなきゃだから」
「無茶苦茶だ!!!」
「まぁまぁ勇者様!なるようになれ!ですよっ!」
ユーリルはリューセイの肩をポンポンと叩いて言った。
「なんでお前はそんなに余裕そうなんだよっ!?」
「さぁ!残された時間は少ないんだ!リューセイ、頼んだぞ!是非、高速船を勝ち取ってくれ!んじゃ、俺はこれで…」
そう言ってダルクスはそそくさと会場を後にしたのだった。
「ほんと身勝手だなあの人は…」
頭を抱えて首を振るリューセイ。
アイドルプロデュース大作戦…聞こえは良く華やかで煌びやかな印象を持つが…
想像を絶するドロドロの女の戦いが待ち受けているとは…この時のリューセイ達は知る由もなかった………
続く…




