第百十六幕【息をするように沈む】
「ベートン大佐!!真正面の小島の浜辺に…小さな女の子が居ます!!」
兵士が駆け寄りそう言うと、ベートンは直ぐに望遠鏡を構える。
「………砲撃準備だ」
「は、ハイ!?相手はただの子供ですよっ!?センチュレイドーラ様からも無用な殺生は厳禁だと…」
「あぁ、だが…アイツは"ただの子供"じゃない。赤ぶち眼鏡のピンクのおさげ…それに背負っているあの巨大な呪術書………間違いない。報告にあった勇者一行の一人だ!」
「しかし…」
「子供と舐めてるとコチラが沈められるぞ!!勇者一行は抵抗するなら棺桶にしてでも連れて来いとセンチュレイドーラ様から言われただろう!!」
「は、ハイッ!!」
黒船はイズミルに側面を向ける様に止まり…砲口をイズミルに向ける。
「砲撃用意っ!!」
言って、ベートンは手を上げる。
「ベートンッ!!そんなちいさな娘を砲撃するとは…何を考えて…!!」
「撃てぇっ!!!」
「お、お前っ…!!」
ペンドルトンの言葉は無視して、ベートンは上げた手を振り下ろした!
直後、イズミルに向けられた複数の大砲からボボボボーーーン!!と砲弾が飛ばされた!
待ってましたと言わんばかりにイズミルはヤシの木を振りかぶった。
「くらえーーーーーっ!!!」
飛んできた砲丸をガキキキキーーーン!!と打ち返した!
「なにーーーーーっ!!?」
ベートンがギョッと目を丸くする中、山なりに飛んでいった複数の砲丸はベートンの黒船にボガガガーーーンと着弾した。
木造の船をバキバキッと貫く砲丸。
「く、クソ!!まさか打ち返して来るとは…!?」
「ベートン大佐!次の反撃の準備出来てます!直ぐに次の攻撃を…!!」
兵士が敬礼をしながら言った。
「そ、そうか………いや、ちょっと待て…!!」
ボボボボーーーン!!!
ベートンの静止も間に合わず、兵士達は次の砲撃を開始してしまった。
再び飛んできた砲丸の雨を見てイズミルはヤレヤレと首を振りながら溜息をつく。
「ハァ…懲りませんねぇ〜!」
イズミルは言ってヤシの木を構える。
飛んできた砲丸を再び打ち返した!
ガキキキキーーーーーン!!!!!
山なりに飛んでいく砲丸はまたもや黒船に雨となって降り注ぐ!
ボガガガーーーン!!!
砲丸の一つが帆の支柱に縛り付けられたペンドルトンの目の前の床にバキッ!!と穴を開け、その帆の支柱にも別の砲丸がぶつかり、バキャキャ!!と真ん中からポッキリ折れ海に落ちた。
「おわわわわーーーーーッ!!!べ、ベートン!!!俺を殺す気かぁ!!?」
ペンドルトンは焦りながら叫ぶ。
「ベートン大佐!!次の砲撃の準備出来てます!!続けて砲撃を…」
兵士が再びベートンに駆け寄り敬礼しながら言った。
「いやアホかお前はっ!!ほ、砲撃中止だ!!!反撃を食らってるのが分からんのかっ!!」
砲撃を止めると、シン…と一気に静かになった。
「…クッ………だ、大丈夫だ…。こちらが攻撃しなければ…あっちからは手を出せないハズ…!!」
「しかし…あの娘っ子…なにやら不穏な動きを…!」
兵士が言って望遠鏡をベートンに渡した。
ベートンはすぐに望遠鏡を覗く。
イズミルは【からくりハンドの章】からもうニ本目のからくり仕掛けの腕を出して…ヤシの木の先端を近くにあった岩石で削り始めた。
「な、何をしてるんだ…?」
汗を滲ませながらベートンは凝視している。
先端を尖らせたヤシの木をイズミルは無表情のままいきなりギュン!!と投げ飛ばした。
一直線に黒船目掛けて飛んできた先端の尖ったヤシの木は船体をバキャボン!と貫いた。
「おわぁッ!!?」
海面近くの船体に穴を開けられ、そこから海水が流れ込む。黒船は徐々に傾き始める。
「あ、あの娘っ子…!!無表情でトドメを刺してきやがった…!!」
「ベートン大佐!!」
兵士が敬礼しながら声を上げる。
「な、なんだ!?」
「浸水が酷く、この船はあと少しで沈没しますっ!!」
「見れば分かるわっ!!!」
ベートンは兵士に指をさしながら叫ぶ。
「取り敢えず…沈むなら俺の縄を解いてくれないか?」
ペンドルトンはジト目でボソッと呟いた。
ーーーーー
一方…
イズミルとは反対側の海岸沿いで行手を阻む様に海上に並ぶバルチェノーツ海軍の船団を眺めるリューセイ。
船団はラグジュアリー号を沈めんと、徐々に近付いて来ていた。
(13隻…光伝力放射砲で一気に片を付けなきゃいけない…)
リューセイは光伝力放射砲を構える。
(光伝力放射砲にはまだ隠された能力がある…)
リューセイは光伝力放射砲を構えて思案を巡らせている。
(ドーラと戦った時…本来一本の高出力ビームを吐くところ、コイツは空中で分散してまるで"範囲攻撃"みたいに第3形態のドーラを攻撃していた…あれを出せたら…一気に片が付くんだけど…)
リューセイは以前のドーラとの戦いを思い出す。
あの時、自分が何をして光伝力放射砲の攻撃を替えたのか。
(確か…図らずも…上に向けて撃ったハズ…)
リューセイはそう思いながら砲口を上に向けて…
「勇者様!!」
「おわっ!?」
バギョーーーーーン!!!!!
急にユーリルに話しかけられ、思わず引き金を引いてしまう。
ちゃんと待ってなかった為、光伝力放射砲はリューセイの手から離れ、高出力ビームを吐き出しながら高速回転し始める!
「あ、危ねぇ!!伏せろっ!!!」
リューセイはその場に伏せ頭を抱える。
「きょわぁぁあぁ!!」
ユーリルもリューセイと同じ体勢で伏せた。
光伝力放射砲はまるで勢いよく水を出して手を離したシャワーヘッドの様に暴れ回っている。大変危険な状況だ。
「危ないじゃないですかっ!?」
「急に話しかけるなよっ!!」
「一体何をしてたんですかっ!?」
「何って…前、光伝力放射砲を撃った時、ビームが雨みたいに降り注いでただろ?その再現をだな…」
「…再現は完璧では無いみたいですね。あの時光伝力放射砲の中には…」
「そうか!ユーリルが入ってたんだな…!!じゃああれは…」
「私の力ですっ!!」
ユーリルは伏せながらもドヤ顔をする。
「そうと分かれば…」
リューセイは立ち上がる。
ビームを吐き出し終わり転がった光伝力放射砲を回収し再び構える。
「ユーリル!またあの攻撃を…頼む!」
「あいっ!」
ビシッと敬礼したユーリルはすかさず、光伝力放射砲の中へとスイーッと入っていった。
「勇者様っ!砲口を上に向けて撃って下さいねっ!」
「分かってるって!」
リューセイは息を一旦落ち着かせて…
引き金に力を入れる!
バギョーーーーーン!!
再び打ち上がったビームは空に伸び…放物線を描き船団の上に落ちていく。
「炸裂ーーーーーッ!!!!!」
ユーリルがそう叫ぶと、一本のビームは船団の頭上で炸裂!!
何本もの細いビームとなって枝分かれし、雨の様に船団に降り注いだ!!
バキャキャキャキャ!!!
一斉に攻撃を受け、一隻残らず海上に木片を散らせながら沈んでいく船団。
「す、スゲェ…」
光伝力放射砲の威力にポカンと口を開けて見いるリューセイ。
そこに、同じく片をつけたイズミルが走ってやってきた。
「リューセイさ〜ん!そっちも片付きましたか!」
「イズミル!そっちも無事だったんだな!」
「勿論です!宝箱配置人書記担当が海軍相手に遅れを取りません!」
(書記担当は本来戦い向けじゃないんだよなぁ…)
「さぁ!ラグジュアリー号に戻りましょう!ダルクスおじ様達も待ってるだろうし!」
リューセイは頷くと、足早にラグジュアリー号の元へ 走っていくイズミルの後を付いて行くのだった。
〜〜〜〜〜
「……………ハ?」
イズミルがジト目で言う。
「……………なんだ……………こりゃ……………」
リューセイも呆気に取られながら言った。
攻撃を避ける為、海軍の射線からコソコソ小島を周って隠れていたハズのラグジュアリー号は…
船首だけを海面から出した状態で沈んでいた。
「どーすんのよコレ…」
リューセイは頭を抱えるのだった。
続く…




