第百十五幕【船をちゃんと狙ってくるタイプ】
「あ〜〜〜………だる〜〜〜………」
「何もやる気が起きないですねぇ………」
「ハァ………………」
海上を行く船、ラグジュアリー号の手すりにユーリル、リーサ、イズミルは身体を預け…各々がボーッと気怠そうに海を見つめていた。
「おいおい…夏休み終わりの小中学生か?」
そんな三人にリューセイが声を掛けるも、聞こえてないのか振り向きもしない。
「まっ、無理もないか。昨日あんなに楽しくはしゃいでたら現実に戻りたくもなくなるか」
宝箱配置人一行は【アヤシカビーチ】での一時を堪能した次の日【アヤシカビーチ】の宝箱配置を終え…そのままラグジュアリー号へ乗り込み次の目的地に向かっていた。
「おいガキんちょ。ちょっと来い。話がある」
船内への扉が開き、中からダルクスが声を上げた。
「はい〜?」
イズミルは呼ばれ、フラフラと船内に向かって行く。リューセイもその後を追いかけた。
作戦室。テーブルに開いた海図の前に着き、ダルクスは指をさしながら話す。
「次の目的地だが…勇者一行は今、魔王を倒す為の剣の伝説を聞いて…それを探そうって流れになってるハズだ」
「それで…ここから南の【ドーメキ諸島】の何処かに"伝説の剣"を隠すんですよね?」
イズミルは顎に手を当て海図を眺めながら言う。
「ドーメキ諸島ってどんなトコです?」
リューセイが問い掛けると、イズミルが答えた。
「ドーメキ諸島は複数の無人島が集まる海域です。海賊が居ると言われる少し危険な海域なんですけど…」
「じゃあ…その島々の何処かにいよいよ【勇者の剣】を隠す訳か…!」
「いや【勇者の剣】はまだ早いな。だから、ココには【海賊王の剣】を設置する予定だ」
リューセイの発言をダルクスが訂正する。
「え、じゃあ…勇者の剣かと思ったら海賊王の剣でしたぁ〜っていうミスリード的な…?」
「ま、そんな所だ。んで、その隠し場所をどの島にするかだが…」
イズミルが教鞭を伸ばして指しながら言う。
「じゃあここらへんとか…こっち側は最近海賊の出没が多いようですし…」
「いや、それは前の話だろ。流石に海賊達も移動しちまってるだろうし…」
「いや、アジトがここらにあるとすると…」
ダルクスとイズミルはお互いが話し合って、最善の配置場所を語り合っている。
そんな最中、しばらくしてリーサが作戦室に飛び込んで来た!
「た、た、た、大変ですっ!!大変なんですよぉ!!」
慌てふためき要領を得ないリーサをリューセイは宥める。
「落ち着けって!どうしたんだっ!?」
「海っ!!上!!いっぱい!!とにかく!!早くっ!!」
そう言ってリーサは急いで甲板に向かって走っていってしまった。
リューセイ、ダルクス、イズミルはお互い顔を見合わせて…急いで三人も甲板に急いだ。
ーーーーー
ラグジュアリー号の前方、水平線に船の集団が行く手を阻む様に並んでいる。
「海賊どーのこーのの前に…ありゃあ…海軍んじゃねぇか」
ダルクスはタバコに火をつけながら言った。
「海軍!?…ってじゃあ…」
「バルチェノーツ海軍…!!魔王の手に墜ちた者達です!!」
リューセイが言い掛けるとユーリルが声を荒げる。
「チッ…バルチェノーツ海軍が近辺の海域をチョロチョロしてるとは聞いてたが…面倒臭い事になりそうだ…」
「ターゲットはやっぱり…俺達…?」
「だろうな。おいそこのお前!操舵士にUターンして来た道を戻れと伝えてくれ!」
ダルクスは近くに居た船員に指示を出す。
船員はビシッと敬礼して操舵士の元に向かった。
「Uターンって!どうするんですか!」
イズミルが声を上げる。
「ここはもう通れねぇ。アヤシカビーチに戻って陸路を行こう」
「ええっ!?ここまで来たのに!?」
「どうするってんだよ!バルチェノーツの海軍と一騎討ちするか!?勝てる訳ねぇだろ!!海上じゃ奴らは最強なんだぞ!!」
「そんなの、やってみなきゃ分かんないですよ!!ここには幾度と立ち塞がったピンチを乗り越えた強者が集まってるんですよっ!!特に私がっ!!」
イズミルはフンッと胸を張ってふんぞり返った。
「アホかお前は。話にならねぇな。この脳内お花畑が」
「むっ…」
イズミルはディアゴに手を付く…
ダルクスに攻撃しようとしたその時…!
「ヒャアァァァ!!!う、後ろぉぉぉ!!!」
リーサの叫び声。
みんなが振り返ると、近くの小島の陰に隠れていたのか、一際デカい真っ黒な帆船がコチラに砲台を向け停まっていた。
「チッ!!囮だったか…!!」
気付いた時には遅く、向けられた砲台からボボボボーーーン!!と一斉に大砲が放たれた!
「うっ!!ぷ、プロテーーーーード!!!」
リーサは咄嗟に呪文をかける!
ドーム状のバリアが船を囲い、飛んできた砲弾はバリアに当たるとクイッと軌道を曲げ海に着弾する。
『ハッハッハ…!!何処かで見たと思ったらいつしかの下品な黄金船じゃないかぁ〜!』
黒船から声が響く。
それは、バルチェノーツ海軍中佐…今となっては"大佐"となったベートンだ。
『今のはお前らを沈める気で撃った"威嚇射撃"だ!!大人しく降伏すればこれ以上は攻撃をしない!!』
ベートンは通信兵の背負った四角い箱から伸びる拡声器で語り掛ける。
そんなベートンの後ろから…別の男が声を上げる。
「おいベートン!!警告も無しに民間人に手を出すとは何事だっ!!海軍としての誇りを…失ったのか…!!」
帆船の支柱に括り付けられているのは…元はバルチェノーツ海軍の大佐だった男…ペンドルトンだ。
ボロボロの身なりでヒゲをモジャモジャに生やし、みすぼらしい姿になっていた。
「やれやれ、まだそんな口が聞けるとはねぇ。ペンドルトン"中佐"!今や貴方は私の部下になる男なのですから…口の聞き方を考えた方が良い」
「このぉ〜…!!魔王にヘコヘコと頭を下げた挙げ句私を侮辱するかっ!!」
「なんとも強情な人だ…。魔王様の下につけば…貴方の愚行を全て許して下さると言うのに…」
「ならーーーん!!!俺は絶対に魔王なぞに屈さんぞぉ!!!」
ーーーーー
「ゼェ…ハァ…私の力じゃ…一瞬魔法を張るのが精一杯です…」
リーサはドサッとその場に座り込み鼻血を垂らしている。
「悪いリーサ!少し休んでろっ!」
リューセイは言って船の手すりにピョンと立つと、光伝力放射砲を構えた。
「これでさっさと決着を…!!」
しかし、進路を面舵一杯に急旋回させたラグジュアリー号に振られ、リューセイは甲板に落ちてしまう。
「とにかく、あの黒船の射線に入ったらダメだ!そこの小島を盾にするんだ!ここでこの船を沈められる訳にはいかねぇんだ!!」
ダルクスが声を上げる。
船は速やかに小島の陰に隠れた。
『ハッハッハ!!無駄だ無駄だ!!どこに隠れようが我々バルチェノーツ海軍改め"魔王海軍"の船さばきに敵うわけが無い!!』
べートンの船は大外回りでグルーッと小島を中心に回ってくる。
それから隠れる様にラグジュアリー号も小島の周りをクルクル周った。
「うぅ…!こんなんじゃ埒があきません!」
イズミルは言って、バビューン!!とディアゴの【飛翔の章】で甲板から小島に向かってピョーン!と飛んでいってしまった。
「お、おい!イズミル!!危ないぞっ!!」
リューセイもその後を追って小島にジャンプで飛び移り上陸した。
「おーい!!こっちですよぉ!!こっちこっちぃ!!」
なんと、イズミルは向こうの黒船に向かってピョンピョンと飛び跳ねながら手を振っている。
「ば、馬鹿!!何挑発してるんだよっ!?」
リューセイはイズミルを抑えるも、それを振り払ってイズミルはなおも目立とうと大きく手を振る。
「船の上で戦う訳にはいきませんから!どうにかこの島上で決着をつけないとっ!」
「だからって…どうするつもりだ!?」
「…盗まれたディアゴを取り返す為に山賊とリューセイさんが戦った時…あの時のリューセイさんの戦いぶりの…受け売りですけど!」
イズミルは【からくりハンドの章】を開き、そこから伸びたからくりの腕は近くのヤシの木をポキッとへし折る。
「リューセイさんは向こうから来てる仲間の船団をその光伝力放射砲で…お願いします!」
「わ、分かった…!気を付けろよ?」
「ハイ!任せて下さい!」
イズミルは黒船に向き直り、バットを構える様にポーズを取った。それに合わせからくりハンドはヤシの木をバットの様に同じく構えた。
「バッチャコーーーン!!!…でしたっけ?」
「バッチこーいな!イズミル…まさか…!」
「さぁ、リューセイさんは早く!向こうの船団の方を…!」
「あ、あぁ、はいはい!」
リューセイは小島の反対側に走っていく。
「さぁて…かっ飛ばしますよぉ〜!!」
イズミルは無邪気にニヤリと微笑むのだった。
続く…




