第百十三幕【崖下に転がった車輪の行方…】
降りしきる雨…
濡れた地面に赤い血が滲む…
頭から血を流して地面に倒れているのは…
KHKのセリザワだった。
薄れゆく意識の中、セリザワは目線を動かす。
近くにトーヤマも血を流して倒れている。
「と…トーヤマ…先輩………」
身体を動かそうにも痛みでピクリとも動かない。
「ど………どうしてこんな事に………」
弱々しく声を上げるセリザワはそこで意識を失った…
ザァァァァ…
ーーーーー
数時間前の事。
【エンエンラ王国・とある占いの館】
「ごにょごにょごにょ……………うむ。出ました」
水晶玉に手をかざしながら占い師が向かいのガウラベルに行った。
「で?で?なんて出た!?」
「ナマズです」
「へっ!?」
「貴女の将来結婚する相手は…ナマズです」
「なま……………え、ナマズみたいな男って意味?…何かの比喩?」
「………ではなく、ナマズです。間違いなく」
「ハァッ!?ど、どーゆーことよそれは!?」
「これ以上の占いは追加料金を頂きます」
ーーーーー
占いの館からご立腹の様子で出てくるガウラベル。
「インチキ占い師!!なんだよナマズって!!意味分からん!!」
「あっ!!居た居た!!ガウラ姉さ〜ん!」
クサカベが手を振りながら近付いてくる。
その後ろにはアンカーベルト、熊猫辣も小籠包を頬張りながら付いて来る。
「うわぁ〜〜〜ん、マオラ〜〜〜!!聞いてよ〜〜〜」
ガウラベルは熊猫辣に抱きつき、徐ろにお尻を揉んだ。
モミモミ
「ウ"ッ"!!!ブフォッ!!」
熊猫辣は思わず口に含んでいたものを吹き出してしまった。
「ゲホッゴホッ………や、ヤメろって!!き、気管に詰まった…!!ゴホッ!!」
「ガウラ姉さん…辞めて上げて下さいよ〜。行き過ぎたスキンシップはセクハラですよっ!」
クサカベは抑えて抑えて…と手を振りながらガウラベルを諭す。
「だってぇん…マオラの反応が面白いんだもん…」
「ゴホッゴホッ…クサカベ…!!どうにかしてくれ…!!」
「アハハ…」
クサカベは頭を掻いて愛想笑いするしかなかった。
「さておき…この街の宝箱は全部かっぱらったの?」
熊猫辣に後ろから抱き着いた状態でガウラベルが言った。
「さておくなっ…!!」
抱き着くガウラベルを振り払おうと嫌がりながら熊猫辣は言った。
「かっぱらうって…言い方!…宝箱は多分、全部開けさせてもらったかと思います」
クサカベが言った。
すると、アンカーベルトが前に出る。
「果たしてどうかな?」
アンカーベルトはその場で四つん這いになって犬のように地面を嗅ぎ出す。
「スンスン………スンスン………」
「アンタさ…ほんと度々変態チックだよね。何してんの?引くんだけど」
ガウラベルが蔑んだ目で言った。
熊猫辣も軽蔑するようにポツリと呟く。
「………このパーティはなんで変態ばかりなんだ…」
「あぁ!?今のは聞き捨てならないねぇ〜?その言い方だと、アタイも変態に含まれてるみたいじゃないかっ!!このっ!!」
ガウラベルは言って熊猫辣の胸を鷲掴んだ。
「ヒイィィィ!!ほら見ろ!僕は間違えてないだろ!!や、ヤメッ…!!」
「アンタねぇ〜、もうちょっと女の子らしくしたら女性ホルモンが分泌されておっぱいも少しは大きくなるってもんよ?」
「余計なお世話だ…!!そんなものあっても戦いの邪魔に………無い胸揉んで楽しいかっ!?」
「あんまり楽しくない…」
熊猫辣は痺れを切らして強引にガウラベルを引き剥がし離れた。
「クッ…全く…先が思いやられるよ…」
熊猫辣は頭を抱えて首を振っている。
「ねぇマオラ」
「…なんだ?」
「鼻血!」
熊猫辣から真っ赤な鼻血がボタボタボタ…と垂れ流れている。
「うわっ!!」
熊猫辣は直ぐ様、上を向いて鼻を摘んだ。
「プププ…や~れやれ、これじゃ先が思いやられるねぇ〜マオラ?」
「アンダがよげいなごどしなげればこんなごどにならないんだ…!!」
そんなやり取りを二人がしてる間、アンカーベルトはなおも地面を嗅ぎ回り…ふいに立ち上がった。
「………四つ。まだ拾ってないアイテムがあるね」
「凄い!そんな事が分かるんですか!!ただの変態行為じゃないんですねっ!」
クサカベは純粋に感心している。
「変態だなんてそんな、失礼しちゃうな!今のは【猟犬の鼻】って技だよ。手に入れられるアイテムの数を探る事が出来るんだ」
「あと4つも取り残してたんですか。流石にその場所までは〜…?」
「任せなさい!僕にかかればそれくらい…」
アンカーベルトは胸を強く叩いて、再び四つん這いになる。
「スンスン…スンスン…こっちだ!付いてきて!!」
そう言ってアンカーベルトは四つん這いのまま取り残したアイテムまで進んでいく。
「そいつのお守りは任せたよクサカベ!そいつの仲間だと思われたくないから私達は別行動する」
ガウラベルはシッシッと早く行けと促す。
「えっ!?そ、そんなぁ〜…ま、待って下さいアンカーベルトさん!」
嫌がりつつも、クサカベはアンカーベルトを追いかけていった。
それを確認してガウラベルは熊猫辣に振り返る。
「んじゃマオラ、どーする私達は…」
しかし振り返った所に熊猫辣は居らず…
黙って何処かに向かって行く熊猫辣の背後が見えた。
「うぉい!黙って一人で行くなよー!」
ガウラベルは追いかける。
直ぐに追いつき熊猫辣の横に付く。
「何処行くのさ?」
「飯にする!お腹が空いたんでな」
「アンタ…さっきから頭の小籠包頬張ってたじゃないか」
「小籠包だけでは腹に貯まらん!」
「ふ~ん?…んじゃアタイも一緒に行こー!」
「付いて来るな!別々で食いたいものを食いに行けば良いじゃないか」
「そんな連れない事言わないの!」
ガウラベルはまた熊猫辣に背後から抱き着く。
「ダァ!!もう、引っ付くなと言ってるだろ!!周りに変に見られるっ!!」
顔を赤くして嫌がる熊猫辣がなんともおかしく、ガウラベルはわざと戸惑わせた。
「あ、そうだ。アタイ今手持ちが無かったんだ。ちょっと銀行で引き落として来るから付いて来てくれる?」
「行ってくれば良い。僕は一人で店に…」
言い掛ける熊猫辣のお尻を強く鷲掴んだ。
「ウギャッ!!」
「マオラ〜〜〜?そういう事を言わないのって言ってるのーーー!」
「わ、分かったから直ぐ尻を揉むな!!恥ずかしいから!!」
ーーーーー
しばらくして…
銀行の前に立ち止まる二人。
「んじゃ、入るか」
「僕はここで待ってる」
「そう言って逃げるつもりでしょ?」
ガウラベルは言いながらワキワキと手で何かを揉む仕草をする。
「逃げないよっ!!待ってるから!!」
熊猫辣はお尻を抑えて恥ずかしそうに言った。
「はいはい。んじゃちょっくら行ってくるよ〜」
そう言ってガウラベルは銀行に入っていった。
(全く…)
熊猫辣は銀行の壁に背を預け目を瞑って待った。
パカパカパカパカッ!!
待ち始めて直ぐに、馬に乗った男達の集団と樽を何個か乗せた馬車が何処からかやってきて銀行の前に止まった。
男達は馬車から樽を降ろし転がしながら銀行に雪崩れこんでいった…。
不審に思い、熊猫辣もその後に続くように銀行に入ろうとするが…入口で見張りとして残った二人の男に引き止められる。
「銀行はもう店仕舞いだ。中には入れんぞ!」
「どういう事だ?中にまだ連れが入ってるんだ。急に何だ」
「うるさい!良いから大人しくしてろ!」
ドン!
熊猫辣は肩を思いっきり押される。
「…貴様…」
熊猫辣は背中にかけた磁塊鉄盤に手をかける…
ーーーーー
「それではコチラが引き出した分になります」
銀行員から引き出したお金を受け取るガウラベル。
「どうも!」
言ってるガウラベルは受け取ったお金を胸の谷間にスッと入れた。その光景にギョッとする銀行員。
構わずガウラベルが外に出ようとすると…出口から男達の集団が雪崩れ込んできた。
樽を転がしながら入ってきた男の一人が、その樽を蹴って銀行内の真ん中に転がす。
「動くなっ!!動いたらその火薬入りの樽が爆発するぞ!!」
リーダー格の男がそう言うと、それを合図に仲間の男が弓矢を構える。矢じりの先端には火がついている。
銀行内は一気に阿鼻叫喚に包まれた。
仲間の男達が中に居た人達を人質として一箇所に追いやっていく。
「ちょ、ちょっとぉ!?なんなのさこれは一体…!!」
「うるせぇ!!妙な真似をしたら犠牲が出るぞ!!」
流石にガウラベルも手を出せず、渋々他の人質と同じように端に向かった。
(チッ…このタイミングで銀行強盗って…!!)
「よし、その樽で金庫を爆破しろ!」
計画的に強盗をこなしていく男達。
バン!
その時、銀行入口が思い切り開かれる!
そこには熊猫辣が立っていた。
(いや、このタイミングだったから良かったのかもね…!)
ガウラベルはニヤリと笑みを浮かべた。
続く…




