第百十二幕【狙われた姫とズタズタウサギちゃん】
大きな古めかしい書物を携え…スコピール姫は付き添いの執事と共に薄暗い地下へと続く階段を降りていく。
その先には大きな扉。
不気味に軋む音を立てながら執事によって開かれた部屋には…多くの拷問道具が並べられている。
その部屋も横切り…さらに奥の扉を再び開ける…と、さらに大広間が広がっており、そこには天井に付きそうな程の巨大で禍々しく太陽のように表面がうねる紫色の火球が鎮座していた。
スコピール達が居る所はステージの二階席のような場所で、目の前の吹き抜けに火球が嵌まるように作られていた。
「キシシシ…じいや、見てみろ…【太陽】ももうここまで成長しておるぞ…!」
「ここまで成長させてどうすると言うのですか…こんなもの…」
執事は不服そうに顔をしかめている。
「何を言っておる。コレがあるからこそ…ソウルベルガは三強の中でも最強国家だと言い張れるのじゃ…!キシシ…」
「何度も申し上げておりますが…"太陽を創り出す魔術"…それが記された書物は本来、はるか昔の先代の王によって破棄されたはずのモノ…決して過ちを繰り返さない為にと封印された禁断の魔術書…。それをまた掘り返すなど…じいやは気が進みません。…一体どこからその魔術書を見つけたのですか…」
「そうだな…じいやには話ておこうか。…良いか?本物は間違いなく破棄されておる。これは"コピー本"。当時の王族の誰かがひっそりと複製しておったのじゃろう。そこから流れに流れて闇の商人に渡り…妾にお金と引き換えにこの呪術書を交換しようと持ちかけたのが数年前の事じゃ」
「なんですと…!闇の商人などと交流しておられるのですかっ!!」
「この呪術書を読んで妾も最初は驚いた。かつてのソウルベルガの王族が"禁断の魔術"を有しあらゆる国との魔法戦争を勝ち抜いていたのは文献に記されて知っておったが…肝心の"禁断の魔術"については意図して隠され詳細が不明だった。まさかその"禁断の魔術"が記されたコピー本が出回っておったとはの…。封印をしたのがかつての王族なら…その封印を解く権利を持つのも王族…何も問題は無かろう」
「おひいさま。その力は一歩間違えれば"国を一つ滅ぼす程の力"があります。お忘れですか?その"太陽の力"によってかつて滅びた国がある事を…じいやはとても恐ろしゅうございます…」
「心配するなじいや。悪いようにはせん。なんなら、妾はこの国を守る為にこの力を有するのじゃからな」
「国を守る為…」
言いながら執事は吹き抜けを覗き込む。
「グワァーーーーー」
「ぎぃやあああぁぁぁーーーーー」
下からは阿鼻叫喚が響き渡っている。
「あれが国を守る為とは…思えませんがね…」
吹き抜けの下…一階部分にはスコピールによって"お仕置き部屋"と称されて連れて来られた者が集められ…覆面を被った上半身裸の巨漢の"執行人"によりいたぶられていた…
ーーーーー
「ドゥオッセェェェェェーーーーーイ!!!」
バゴォン!!
覆面を被った巨漢の執行人によるラリアットをくらい倒れた兵士をエビ折にしようと持ち上げる。
ミシミシッ…!
「ぐあああぁぁぁ!!!ギブギブッ…!!」
【太陽】の真下に設置されたまるでプロレスのリングの様な壇上で"お仕置き"を受ける兵士達。ただひたすら、執行人の攻撃を受け続けている。
ある者は雁字搦めで関節を決められ…
ある者はチョークスリーパーをかけられ…
一人また一人と、あらゆるプロレス技でいたぶられていた。
逃げようにも、有刺鉄線で四方囲まれており逃げられない。
そして、散々いたぶられた後に魔力を【太陽】に込めるよう促される。
ーーーーー
「………いつ見ても…下は地獄絵図ですな」
「キシシ…人がピンチの時に最後の力を振り絞って放つ純度の高い魔力…その"火事場の馬鹿魔力"だけでこれ程まで大きな【太陽】を作ったのじゃ…逆らう者を粛清でき…なおかつ【太陽】も大きくなる…!一石二鳥じゃろ!キハハハハ!」
「じいやはただ…その力で身を滅ぼす様な事にならない事をただただ祈るだけです…」
「何故その様に悲観するのじゃ?妾は楽しみでしょうがないのじゃ!!バルチェノーツを抑えた今、魔王は次に必ずソウルベルガを狙うハズじゃ。魔王が攻めてくるなど歴史を見ても今までに無かった事…」
スコピールは不敵に口角を上げて続ける。
「妾は今回の魔王には感謝しておるのじゃ。人間界に攻め入ると判断した魔王にな…。奴らをこの国で向かえ…返り討ちにして…世界にソウルベルガが最強国家だと言う事を知らしめる為の引き立て役となって貰うのじゃ!!キハハハハハ!!」
(どっちが魔王なんだか…分からなくなってきましたな…)
執事はまた大きく溜息をついた。
「そろそろ戻ろう。あ、じいや…この呪術書の事と太陽の事は…パパとママには内密に…じゃぞ?」
「えぇ…分かっております…」
「まぁ、仮にバレたとしても…パパとママには何も出来ないじゃろうがな!キハハハハ!!」
ーーーーー
寝室に戻ったスコピール姫。
ドレスを脱ぎ、ピンクのネグリジェに着替えたスコピールは髪飾りを外して髪を解く。
「ふぅ…」
スコピールはベッドにボフッと倒れる。
うさぎのぬいぐるみを胸に抱き目を瞑る。
カララ…
暫くすると、ベッド横のテラスへと続く扉が静かに開かれた。
人影はゆっくりとスコピールに忍び寄る…。
「………ハッ!!」
スコピールは咄嗟に目を覚ますも…時すでに遅かった。
馬乗りになった人物は振り上げたナイフを振り下ろした!
ズブリ…
スコピールが防御にうさぎのぬいぐるみを突き出すも、ナイフはそれを貫通してスコピールの胸を貫いた!
「ぐ、グワァーーーーー!!?」
グサッグサッグサッ!!!
何度も何度も…執拗にナイフは突き立てられた。
飛び散る鮮血。豪華な天蓋付きベッドは赤く染まっていった。
「カハッ………」
スコピールは酷く絶望した表情で…ピクリとも動かなくなった。
「フッ…」
返り血に染まった白のフードに身を包んだ怪しい男はスコピールの絶命を確認しベッドから降りた。
白いフードを脱いで現れた姿は、姫を守るはずの兵士の姿だった。
兵士は堂々と寝室を出る。
勿論、その外には姫の寝室を警護していた二人の兵士が居たが…中から出てきた兵士と目を会わせると示しを合わせるようにコクリと頷き合うのだった。
暗殺。
計画的に実行されたスコピール姫の暗殺であった。
スコピールを手に掛けた兵士は何事も無かったかのようにその場を離れ廊下を曲がって…
ザクッ!!
「………へ?」
兵士の背中に鈍痛が走る!
そのまま兵士の体は持ち上がり…そのまま壁に叩きつけられた!
「グバァァァァァ!!!!?」
ドガシャーーーーーン!!!
「ど、どうした!?」
その音を聞いて、寝室前の二人の兵士も駆け寄ってきた。
そこには壁に背中を預け倒れている兵士と…それよりも何よりも…
「ゲッ!?スコピール姫…!!」
そこにはサソリの尻尾を化現させた…ネグリジェ姿の無傷のスコピール姫が立っていた。
「お前達〜?やってくれたみたいじゃの〜?」
不敵に笑うスコピール。
彼女は死んでいなかった!!
「そ、そんな!?確かに姫は暗殺されたハズ…!!」
ズボ!!ドガシャーーーーーン!!!
サクッ!!ドバターーーーーーン!!!
二人の兵士もサソリの尻尾に突き刺された後、壁や床に叩きつけられる!
「くハッ…………な、何故だぁ………!!」
戸惑う兵士達を見下す様に見つめ微笑むスコピール。
「どうしてじゃろうなぁ〜?殺したハズの姫が…なぁんで生きておるのじゃろうなぁ〜?キハハハハ!」
ペタ…ペタ…
そんな足音が廊下の角から聞こえてきて…
倒れた三人の兵士達はそちらに目を向けた。
そこから、血塗れのスコピールが角を曲がってフラフラと歩いて来た!
「ひ、ヒィィィ!!?スコピール姫が二人…!!?」
目を見開き驚く兵士達を見据えて、スコピールは"呪文を解いた"。
血塗れのスコピールはシュワ〜ッと煙の様に溶け出し…中からはズタズタにされた大きなウサギのぬいぐるみに変わり…床にボトッと落ちた。
「キハハハハ!!影武者だったと言う訳じゃ!!」
「な、ナニィィィィィーーーーー!!?」
驚愕する三人の兵士。
「さて、お前達の言い分も聞かせて貰おうかの?…毒が全身にまわる前にのぉ?」
ニヤニヤと笑うスコピールに絶望する兵士三人。
そこに、騒ぎを聞きつけたラヴラドールとライクミーが兵士を引き連れ走ってきた。
「ど、どうしたっ!?何があった!!!」
「コレは一体…何の騒ぎです!!」
スコピールの執事は状況を察し、直ぐ様スコピールに駆け寄りネグリジェを払う。
「おひいさま!サソリの尻尾をお収め下さい!はしたないですぞっ!」
「私は大丈夫じゃ!それより…その兵士三人は妾の寝込みを遅い…暗殺を企てた者達じゃ!手厚く葬ってやれ!」
「おひいさま…また暗殺されかけたのですか…今週で三回目ですぞ…」
「先月の23回を超えられるかの?キハハハハ!」
「笑い事ではないですっ!!」
そんなスコピールを肩を落として頭を抱えるラヴラドール。
ヤレヤレと首を横に振るライクミーだった。
続く…




