第百六幕【楽しく血に染まる砂浜】
リューセイの呼び掛けでセンチュレイドーラの元に集まった宝箱配置人一行。
「アイツがセンチュレイドーラ…」
ダルクスはタバコを燻らせながら酷く驚いたような顔をしている。
「あの…思ったより…可愛らしいお方ですね…」
リーサも複雑そうに頬を掻いている。
「今…この世界を闇に堕とさんとする魔王が目の前に…」
ユーリルは歯を噛み締めてドーラを見据える。
ドーラは魔王軍の兵士達に指示を出して…何かを砂浜に描かせている。
「おい、どー言う事だよリューセイ…!!」
「どういう事と言われましても…。ドーラは今は敵対するつもりは無いみたいですよ?なんか、休暇中だからって…」
「休暇中だぁ〜?」
ダルクスは何を言っているのか理解出来ないと、ジト目で肩を落とす。
「…で?ドーラは一体何がしたいんだよ?」
リューセイが問い掛ける。
「なんてこと無い、ちょっとした遊びの準備よ」
そう言ってドーラは砂浜に刺した2本のポールに網を張る…そうして出来上がったのは…
「バレーボールのコートだ…」
「ビーチバレーですか!?うっひょ~!!これまた水着回で良く見るパターンですね!!!」
ユーリルが目をキラキラさせてテンションを上げている。
「ビーチバレー…?ワタシ達は【鐵球】って呼んでるけど…あと必要なのは球なんだけど…」
「ボールならあるぞ?」
リューセイはビーチボールを差し出す。しかし、ドーラはそのボールを見て首を横に振る。
「そんな球じゃダメ。"決着"がつかないわ」
「なんでだよ。これで良いじゃ…」
その時、ドーラの元に一人の兵士が駆け寄ってくる。
「魔王様!その、"砲丸"がセンチュリーシップに積まれて無かったらしく…」
「えっ!?」
「だって魔王様、センチュリーシップの砲台は高出力のビームを射出するモノです。砲丸などは使わないので積む必要が無く…」
「どうするのよ!砲丸が無きゃ【鐵球】が成り立たないじゃ…」
「おい、ちょっと!え、俺達今から遊ぶんだよな?遊びに誘われたんだよな?」
リューセイは会話の間に入って質問する。
「えぇ。そうよ?」
「そうよって…お前達の会話に一つも遊びの要素が聞こえないんだけど…」
ヒソヒソ(勇者様…私達騙されてるんじゃ…?)
ユーリルがリューセイに耳打ちする。
ヒソヒソ(いや…ドーラに限ってそんな真似はしないハズだけど…)
(そんなの分からないじゃないですかっ!相手は魔王ですよ!?卑劣で狡猾で冷酷冷淡冷血な…!!)
(おいヤメろ。ドーラはそんな奴じゃない)
(なんで魔王の肩を持つんですかっ!?タイプだからですかっ!?可愛いからですかっ!?スタイルが良いからですかっ!?)
(うるさいなっ!そんなんじゃねぇよ!)
ユーリルはムスッと頬を膨らませている。
「なぁドーラ、聞かせてくれよ。どういうルールなんだよ。その【鐵球】ってのは…」
リューセイが問い掛けると、ドーラは答えてくれた。
「【鐵球】はこのコートの中で行うわ。二手のチームに分かれて競い合う。球を打ち合って、それを落としたり…コート外に出したら相手チームに1点…」
「やっぱりバレーボールじゃないか…」
「…で最終的に、最後の一人が残ったチームが勝利っていう…」
「ちょっと待てっ!!最後の一人…!?」
「球には"鉄球"を使うの。それをどんな方法でも良いから打ち返して相手にぶつけて…再起不能にしていって…」
「点数は!?点数の意味は何だったんだ!?」
「点数は意味ないわね。とにかく最後の一人になったチームの勝ちっていう遊びよ」
「関係ないのかよ!!そんな事ある!?」
ツッコみを入れているリューセイの背後からダルクスが話しかける。
「なるほどな…遊びと称して俺達をここで"再起不能"にするつもりか…」
「こんなの受ける訳には…」
「なんでだよ?この機会を逃す手はねぇぞ」
「え?」
「その遊びに参加すりゃあ俺達も魔王を再起不能に出来るチャンスがあるって事だよ。アイツは正々堂々、真正面から勝負を仕掛けてきてる」
「いや…僕達が倒しちゃったらマズかったんじゃ…」
「正直、この新魔王さんは勝手な事ばっかしてくれて扱いに困ってたんだよ…魔界で大人しく待ってれば良いモノを…ここで黙らせる事が出来れば…それが良いに越したことはない」
「それはそうですけど…」
「…で?まさか怖気づいて棄権するとか言わないわよね?」
リューセイとダルクスの元にやって来て意地悪にニコリと微笑むドーラ。
「受けて立ってやるよ魔王さん」
ダルクスは乗り気だ。しかしリューセイはやるせない表情をしている。
「…とは言え…球が無いのよね…なんでも良いから鉄のボールがあれば…」
そこにイズミルがやってきた。
「お役に立てるか分からないですけど…」
いつの間にかディアゴを背負ったイズミルがやって来て…17ページ【棘付鉄球の章】を呼び出し、ページから出て来たのはジャラジャラと鎖に繋がれた巨大な棘付きの鉄球…。
「鎖が繋がってて少し邪魔ですけど…これならどーです?」
「待てぃイズミル!!?ルール聞いてたんか!!?それをぶつけ合うんですよっ!!?グレードアップしてんじゃねぇか!!!死ぬって!!!マジで!!!」
「良いわね!それにしましょう!ありがとイズミルちゃん!」
ドーラは指をパチンと鳴らすのだった。
(あっ…終わった…)
リューセイは白目を向いて足をフラつかせた。
ーーーーー
【鐵球】に参加するチームが分けられた。
ダルクス、リューセイ、リーサの3人による宝箱配置人チーム。
ドーラ、ジャック、ゲル族の兵士3人による魔王軍チーム。
イズミルはコートの外で審判役をする事になった。
そんなイズミルが背負うディアゴは開かれ、長い鎖に繋がれた棘付鉄球がコート内に伸びている。
ユーリルは意味のない得点表をめくる役割を買って出ている。
「ま、待ってください!!」
リーサが汗だくで焦り気味に叫ぶ。
「な、なんで私が参加してるんですかっ!?」
「ごめんなリーサ!人数を合わせる為には仕方無かった!」
リューセイが頭を下げて申し訳無さそうに言う。
「無理ですよぉ!!無理!!!死んじゃいますって!!!」
「大丈夫ですよリーサさん!!俺がお守りしますから!!」
ダルクスもリーサを励ましている。
ーーーーー
「ジャック悪いわね巻き込んで…」
ドーラは準備体操をしながら言った。
「どうして……………?ジャックは楽しんでるよ………………ドーラちゃんとなら……………なんでも楽しい……………」
「どうでも良いが…ワシには鉄球当てんようにしてくれよ…?」
フリルは少し怯えた口調で言った。
陽射しが嫌いなジャックの日傘メンダコとして…頭上から離れる訳にはいかなかった。
「さーて、楽しい楽しい【ビーチ鐵球】始めましょうか!コッチが先行で良い?」
ドーラは棘付鉄球を持ち上げリューセイ達に問い掛ける。
「お好きにどうぞ!」
リューセイはそう言って身構える。
「フッ…流石に肝が座ってるわ。リューセイ…ワタシをガッカリさせないでよ…!!」
「それでは、試合スタートぉ!」
言って、笛をピーッと吹くイズミル。
1打球目。
ドーラは棘付鉄球を高く頭上に放り投げ自らもジャンプした後…
ザンッ!!
"ムカデの尻尾"を化現させ、その尻尾をまるでラケットの様に振り返す事で鉄球を"サーブ"した!
バコンッ!!
勢い良く打たれた棘付鉄球は物凄い速さでリーサに向かっていった!!
「ヒャ…!!」
バッコーーーーーン!!!!!
物凄い音と共にリーサの頭に命中した棘付鉄球。
プシューーー!!!
リーサは綺麗な鮮血を噴水の様に拭き上げながら刹那、棺桶となってしまった。
「りーさぁぁぁぁぁーーーーー!!!!?」
【リーサOUT】
「ちょっと待て!!!タイムタイム!!!」
リューセイは大きく手を振って試合を中断させた。
「やっぱり無理だコレ!!!人がやる遊びじゃないコレ!!!」
「今更逃げるのか?勇者なら一度言った事は覆すな!!」
ドーラはニヤニヤとこうなる事は分かっていたようにニヤけている。
「あんなもんどーやって打ち返すんだよっ!!」
リューセイが憤っていると…ユーリルが大きな声を出した。
「勇者様!コレを!」
ユーリルが投げたのは…光伝力放射砲。
リューセイはそれを受け取る。
「なるほど…これで打ち返せってか…」
「"どんな方法でも打ち返して良い"ってルールだったハズです!問題は無いかと!」
ユーリルは言ってガッツポーズを取る。
「クソ………分かったよ………やれば良いんでしょやればっ!!」
そう叫んでリューセイは光伝力放射砲を構えた。
続く…




