第百三幕【海に来たからと言う浅はかな理由】
【カジノ街・ゴルドリーグ】から東に暫く進んだ海岸沿い…
そこには常夏の楽園【アヤシカビーチ】が広がっていた。
ゴルドリーグと同じく【王都・ヤオヤラグーン】が国営するリゾート地だ。
世界中から羽を休めに旅行者がやって来る。
照り付ける太陽。広がる砂浜と水平線。
そんなリゾート地に赴いた宝箱配置人一行。
「ラグジュアリー号には先回りしてココの港に付いてもらってるハズだ。ここの宝箱配置したらサッサと次の目的地に行くぞ」
ダルクスは少し機嫌が悪そうに言った。
「綺麗な海ッスね〜!あからさまに水着回になりそうな予感」
リューセイはサラッとそんな事を言った。
「水着回…ってなんだ?」
「ビーチに来たら始まるイベントですよ。前の冒険ん時は海に来る度に仲間が際どい水着で一喜一憂してて…」
「いや、ならないから!呑気に泳いでる暇は無いんだぞ俺達には…」
「そうは言っても…多分そういう訳にはいかないと…」
リューセイが言い終わる前に、随分前に何処かへ消えていたユーリルが水泳袋と"何かが詰まったビニール袋"を振り回しながら急に現れて叫んだ。
「水着回っ!!!!!」
「ほら来た」
「海と言えば水着回っ!!!!!」
「分かった分かったから!!落ち着けってユーリル…」
テンションアゲアゲのユーリルを宥めるリューセイ。
前の冒険でも同じ事があったのだろうか。
「あの…女神さん。俺達はバカンスに来た訳では…」
「ダルクス様!!海へ来たら水着になる!!コレは勇者様の世界の文献によるところ、絶対こなさなければならないイベントの一つなんです!!」
ズイッとダルクスに顔を近付け凄むユーリル。
「そうですよ!ダルクスおじ様!」
後ろからイズミルも参戦する。
「ゴルドリーグで散々自分だけギャンブルに明け暮れて遊んでたじゃないですかっ!私達にもゆっくり海で遊ぶ権利はあるハズですよっ!ねっ!リーサ様!」
「…え?……………私は〜…海は苦手です…」
「リーサ様…ここは話を合わせて下さい!」
「あ〜はいはい女性諸君。悪いが俺達には時間が無いの。分かる?勇者が追い付く前に…」
「大丈夫ですよっ!!今頃勇者一行は鍵付き宝箱を開けにスタート地点まで戻ってるハズですよ!とーぶん追い付かれる心配は無いハズです!」
イズミルはビシッ!とダルクスを指差しながら言った。
「あのなぁ〜…」
「さっ!イズミル様!リーサ様!水着をレンタルして更衣室に行きましょう!」
ユーリルはイズミルとリーサの手を引き更衣室に向かっていく。
「う〜!楽しみです!私、海に入るの初めてで…ディアゴは荷車で待っててね!」
イズミルも珍しく子供のようにはしゃいでいる。
「えぇ〜!?ほ、ホントに水着になるんですか!?」
リーサは余り乗り気じゃない。
そんなウキウキと離れていく女性陣を見据えながら…リューセイとダルクスは取り残された。
「……………ほんと、女性は海が好きですよねぇ」
リューセイはヤレヤレと首を振りながらダルクスに目を向ける…
「そして男は水着の女が好きだ」
「え?」
「リューセイ。スマホを貸せ」
「え?良いですけど…急にどうしたんですか?」
リューセイはキョトンとしながらもスマホをダルクスに渡した。
「よし。この薄さなら…」
「何に使うんですか?」
「馬鹿だねぇお前は。頭を使えよ頭を。これには風景を納める機能があっただろ?そして、女性陣が更衣室に…なら、やる事は一つだ」
リューセイは直ぐ様ダルクスからスマホを奪い返した。
「なに考えてるんですかっ!?」
「え、その為に薄型なんだろ?」
「違うわっ!!」
「頭を使えよリューセイ。今、あのリーサさんが水着に着替えてるんだぞ?そのサマをそのスマホに納めたいと思わんのか」
「凄いですよダルさん…。間違いなくこのファンタジーの世界で始めて"盗撮"を生み出した人だ」
「そんなに褒めんなよ」
「褒めてないわっ!!」
「んだよっ!良い子ぶっちゃってさぁ。お前だってほんとは興味あるだろ?」
「う〜〜〜ん…まぁ、昔の俺だったら喜んでただろうけど………【ハーレム症候群】になってからは………」
「【ハーレム症候群】?何だそれ」
「ユーリルが言うには…ずっと色んな女性に囲まれてラッキースケベばかり経験してると…それが当たり前になって全くなびかなくなってしまうっていう病気らしいです。前の異世界でかかっちゃったみたいで…」
「それって…言い方変えただけの…ただの"不全"…」
「ハーレム症候群!!!!!ハーレム症候群と言って下さいっ!!!!!」
「そこは譲らないのか…」
「とにかくっ!こうなったら僕も水着に着替えてきます!とことんバカンスを楽しんでやりましょうよっ!ダルさんも行きますよね?」
「…いや、俺はいい」
「そうですか?…じゃあ僕行きますね!」
そう言ってリューセイも更衣室へ走って行くのだった。
ーーーーー
荷車を砂浜に停めてしばらく座って水平線を見ていたダルクスの元に海パンのリューセイが戻ってきた。それから暫くすると水着に着替えた女性陣も戻ってきた。
「おまたせしましたー!」
ユーリルが言って手を振りながら駆け寄ってくる。
「変わった水着をお召ですね女神さん…」
ダルクスが不思議そうに言った。
ユーリルは普遍世界で買った自前の"白いスクール水着"を着ていた。
ダルクスにとっては見慣れないものだ。
「やっぱりそれなんだなユーリル」
リューセイにとっては見慣れた光景のようだ。
「女神っぽい水着と言えばコレですよっ!ねっ!?カワイイでしょ!?似合ってるでしょ!?」
「良さが全く分からん」
ダルクスは顎を触りながら眉間に皺を寄せている。
「気にしなくて良いですよ。ユーリルは僕の世界のアニメや漫画の影響を強く受けているだけなんで」
リューセイが言った。
その言い草にユーリルはプクゥと頬を膨らませた。
「反応悪ぅ〜…」
「俺は成熟した身体のリーサさんの水着が見たいんだよ!貧弱な身体に興味は無い!リーサさんは何処!」
ダルクスが言ってキョロキョロ見渡すと、近くの岩陰に隠れるリーサを黄緑色のワンピース型の水着を着たイズミルが必死に引っ張り出そうとしていた。
「リーサ様!早く行きましょうよ〜」
「うぅ〜…恥ずかしいですってぇ!私、こんな格好で人前に出たくありません…やっぱり最初選んだ水着で…」
「何言ってるんですかっ!折角のプロポーションなんですから自信持って下さい!更衣室から海女さんみたいな格好で出て来た時はビックリしましたよ!ほら、折角ユーリルさんが選んでくれた水着なんですから」
そして観念したのか…イズミルに手を引っ張られながら岩陰から恥ずかしそうに水色のフリル付きビキニを着たリーサが出て来た。
「キタァ!!!どけガキんちょ!!!」
「うげっ」
イズミルを押し、リーサの目の前に駆け出すや否やダルクスはスマホを構えて色んな角度からリーサを撮影する。
パシャパシャパシャ!
「うわ!ダルさんいつの間に俺のスマホ…」
リューセイは頭を抱えながら言う。
「いやぁ、やっぱりリーサさんは抜群のプロポーションですねっ!!太過ぎず細過ぎず…やっぱりこのスタイルが男にとっては丁度良いんですよ!これはちゃんと記録として保存させて頂きますっ」
パシャパシャパシャ
「うぅ…恥ずかしいです…こんな露出度の高い水着なんて…」
「リーサさん!ポーズ!ポーズとってポーズ!」
「嫌ですよぉっ!!」
「全く…このエロおじさんは…」
イズミルはヤレヤレと首を振った。
続く…




