第十幕【稼げ!冒険者たるもの】
【バクべドーア大陸・オボロックル地方】
エンエンラ王国があるワニュードン地方を北に進んだ所にある関所。そこを越えると晴れて広い草原地帯、ワニュードン地方となる。緩やかな丘陵が続き街道も整備された冒険のし易い地域。
はじまりの森での宝箱配置を終わらせてから続けてやって来たオボロックル地方。既に空は赤みがかって夜が近くなっていた。
「ハァ…」
ため息をつきながら今まで何処かに消えていたユーリルが戻ってきた。
「やっと戻ってきたか。何してたんだ?ヤケに疲れてるけど…」
リューセイが問い掛けると、ユーリルはお疲れ気味に答えた。
「色々あったんですよ色々と…フゥ…それよりイズミル様は大丈夫ですか?」
リューセイの背中でぐっすり眠るイズミルをユーリルが心配する。
ユーリルにここまでの経緯を話ながら関所に差し掛かる。そこを警備している兵士はダルクスの引く荷物を見てすぐに察し、快く関所を通してくれた。関所を抜けて少し街道を進むとすぐに大きな川に差し掛かった。大きな木の橋がかかっている。
「そろそろ宿を探すか…」
ダルクスが言った。リューセイは辺りを見渡しながら問いかける。
「…でも見た感じ、近くに街も村もありそうにないですよ?王国に戻りますか?」
「まさか。宿がなけりゃ野宿するまでだ…ちょっと待ってろ…」
そう言ってダルクスは地図を出して確認する。そして考え込んだあと、橋に向かって魔力を集中させたかと思うと空中に呪文を描いてビシッと橋に指を向ける。
「よっ!」
ドガーーーーーン!!!
いきなりの爆発と共に橋は崩れ落ちてしまった!!
「イタッ!?」
飛んできた破片がリーサにコツンと当たる。リューセイは立ちすくみながら叫ぶ。
「ちょぉぉぉ!!?な、なにやってんの!?」
「爆破したのさ。この橋は勇者一行の近道になっちまう。これを爆破しとけば嫌でも回り道しないとだろ?」
確かに前の冒険でもやたら橋が崩れてたりしたのはこのせいだったのか…とリューセイは思案するも直ぐに首を振る。
いや、そんな事より!
「今の爆発呪文…【ダイナズン】ですよね!?そんなのも覚えてるんですか!?」
「まぁな。近道は出来るだけ塞いでくぞ。んで、この橋が使えないとなると川を大きく迂回しないといけないから…」
地図を見ながらブツブツ言い、ダルクスは歩き出した。
この人一体何者なんだ…?とリューセイは呆気に取られた。
「…こんな事して…他の通行者の迷惑になるんじゃ…」
ユーリルが疑問を投げ掛けると、ダルクスは続ける。
「こちとら世界を救う為にやってるんです。誰も文句は言わないですよ」
「そんなもんなんですねぇ…」
「西にずっと進むともう一本橋があるんだ。そこを通って川を渡るぞ。川を渡ればその近くに小さい村がある。そこで宝箱配置して…そこの村に何かしら"イベント"を用意したいな…おい、みんなちゃんと聞いてるか?」
そう言いながらダルクスは振り返る。
「聞いてますよ」
リューセイは返事をする。続けてユーリルも
「はい!」
そしてリーサも…
しかし、リーサからの返事は無かった。
リューセイは後ろから付いてきていたであろうリーサに目をや…
「死んでるぅぅぅぅう!!!!?」
リーサは棺桶状態になっていた。
爆発した橋の破片が頭に当たったのが痛恨の一撃になったようだ。
「ダ、ダルさん!蘇生魔法!」
「あぁ〜…もう村も近いし、そこの神父にでも生き返らせて貰おう。ここで生き返らせてもまた途中で棺桶なりそうだし。俺は荷物引いてるから、リューセイが棺桶引いてくれな」
「リーサ、不憫!!」
リューセイはイズミルを抱っこ、リーサの棺桶を引きながら進む。
「お…重い…」
「ゆ、勇者様、大丈夫ですか?」
「同情するならお前も手伝えよ…」
「私は箸より重い物は持てないので!」
そう言って頭をコツンと叩くユーリル。
ハァ…と溜め息をつくリューセイ。
「こんなんじゃ先が思いやられるな…」
〜〜〜〜〜
【バクべドーア大陸・オボロックル地方】
【ムジナ村】
村に着いた。
旅人が休息として立ち寄る小さな村だ。宝箱配置人一行が着いた頃には空は完全に暗くなっていた。
「今日はここまでだな。この村の宝箱配置は明日するとして、今はゆっくり休もう。あ~疲れた」
そう言ってダルクスはスタスタと宿屋に向かって行く。そんなダルクスをリューセイは引き止める。
「ちょ、リーサはどうするんですか!」
「バカ!宿屋代がその分浮くだろ!明日で良いよ明日で!お前達の分ももう払っておくからな」
そう言ってダルクスは宿屋に入っていった。リューセイ達は無一文だ。本当だったら魔物を倒してその毛皮や角を売って生計を立てるのが冒険者としての常識だったが、魔物を倒さず驚かせて逃がす…といった形を取っている為に一向にお金が工面出来ない。ダルクスのお金で奢ってもらってばかりだったのだ。
「…てか、あの人お金だけは持ってるんだよな…王様から直接頼まれる仕事だし、宝箱配置人ってそんなに儲かるのかな?」
「どうします?勇者様?」
ユーリルが聞いてくる。
「…とは言っても、棺桶状態の仲間を放置しておけないだろ…。取り敢えず村の教会に行ってみて…どうにかして貰おう…」
〜〜〜〜〜
「では500Gになります」
教会のシスターに言われる。
「あの、明日払う(ダルさんが)ので、なんとか今、生き返らせてあげられないですか!?」
「お布施を頂かないと…出来ない決まりなんです」
「そこをなんとか!!」
リューセイは引き下がらずシスターに詰め寄る。
そして手を握って…ここぞとばかりにキラチャームを使った。
キラキラ
「お願いしますシスターさん!大切な仲間なんです!お願いします!」
バチン!
しかしすかさずシスターの平手打ちを食らった。
「ダメなものはダメです!あなたも冒険者の端くれならこの世界のルールっての分かるでしょう!!」
シスターには全くキラチャームが効かず、リューセイ達は一目散に教会を出た。
「おっかしいな…たまに効かない人がいるんだよな…」
「そりゃそうですよ」
おんぶしていたイズミルが後ろから急に話しかけてくる。
「お前起きてたのかよ!」
「ただ周りにキラキラのエフェクトを出すってだけでなんの効力もないんですよね?普通の人には効かないですって…」
「でも、リーサ様には効きましたよ?」
ユーリルが問いかけ、イズミルは答える。
「それはリーサ様が"チョロかっただけ"ですよ。あんなのチョロい人にしか効かないんですって。今まで効いてきた人はただチョロかっただけです」
「チョロ…てか、お前起きてるなら降りろよな」
「ニシシ!黙ってれば歩かなくて良いと思って」
リューセイはすかさずイズミルを降ろす。
「全く抜け目ないなコイツは…」
「どうします?やっぱり明日にしますか」
ユーリルが聞いてくるのでリューセイは続けた。
「う〜ん…棺桶状態なのを良い事に散々チョロいチョロい言われて余りにも可哀想だし…」
「んじゃあ、狩りに行きますか!!」
イズミルが手を上げて言う。
「狩りって…魔物をか?でも、俺達は魔物を倒しちゃいけないんじゃ…」
「それは、ダンジョン内や特定の狭い地域に限りです。この平原地帯のような広大な地方で多少魔物を倒しても問題ないですよ!」
〜〜〜〜〜
リューセイ達三人はリーサを生き返らせる為に村を出て魔物刈りを始めた。夜で空は暗いのでユーリルの発光で松明代わりになってもらう。
イズミルは"光輪の章"で頭に光の輪っかを作り、単独行動で何処かに行ってしまった。
「リーサの復活料もそうだけど、無一文だと色々不便だから自分のお小遣いくらいは稼いでおきたいよな。それに、いつまでもこんな格好じゃなくて旅人の服にも着替えたいし…」
(未だかつて、学生服で学生鞄を武器にして戦う主人公が居ただろうか?それでも立ち回れるのは前回のレベルを引き継いでいるからだけど…格好がつかないよな)
リューセイはそう思案を巡らせてから…ハッと口を開いた。
「そう言えば宝箱配置人・補助になった事で、この職業専用の呪文とか技とか、何か覚えられるんだろうか」
リューセイが言うと、ユーリルも少し考えて続けた。
「どうなんですかね?他の皆さんを見る感じ、宝箱配置人だから特別に覚えてる技とか呪文がありそうでは無かったですけどね。イズミル様は学者職兼宝箱配置人・書記担当ですし、リーサ様は僧侶職兼宝箱配置人・魔法補助担当…」
「つまり"宝箱配置人"のみには特出した魔法や技とかはなく、併用してる職業に依存するって訳か…」
「勇者様は…」
「俺はこの世界に来た時点で無職だった訳だから…俺はほんとにただの"宝箱配置人・補助"って訳だな…」
(待てよ…?って事は、俺はこの先ずっと使える特技がキラチャームだけのしがない少年で居続ける訳か…?)
「なんか気が重くなってきた…」
「だ、大丈夫ですよ勇者様!そんなもの無くたって勇者様は十分強いんですから!!『レベルを上げて物理で殴れば良い!』ですよ!それよりも不思議なのはダルクス様ですよ!」
「ダルさんがどうした?」
「ダルクス様は何兼、宝箱配置人・配置担当なんでしょうか?」
「…確かに…。高等魔法とか色々使ってたからそれなりの職業なんじゃ…」
「元勇者だったりして…」
「ありえないだろあのダルさんが…」
「で、ですよね!あのダルクス様が!」
そう言ってユーリルと笑い合っていると魔物が暗闇から飛び出してきた。武器を持たないリューセイは学生鞄を構え大きく振りかぶった。
続く…




