第一幕【宝箱配置人と気持ち悪い少年】
ある鬱蒼とした森の中。真っ昼間だというのに光は木々に遮られ、辺りはやけに薄暗い。
咥えタバコを燻らせながら"宝箱"を大量に乗せた荷車をガラガラと引いているのは何を隠そうこの国の王様にも認められた"第一級宝箱配置人"の肩書を持つ【ダルクス】という男だ。
ボサボサの髪を一つに結び…ボヤ〜とした顔の割には歴戦の猛者の様な風格を少なからず感じるような見た目だ。
久々の"仕事"。その仕事で最初に立ち寄った森。ダルクスは"どこから手を付けようか"と思案しながら荷車を引いている。
「ポニョン!」
ダルクスの肩に乗っかっているこのコーヒーゼリーのような生き物はミミックの子供。ダルクスに良く懐いた"ポニョ"と名付けられたペットだ。
ミミックと言えば、宝箱とかに擬態してる系のアレだ。
そんなポニョが何かの気配を感じたらしく、ダルクスの肩から飛び跳ねてどこかに向かっていく。
「おいおい、どこ行くんだよポニョ。こちとらこんな大荷物引いてんだから…」
「ポニョーン!ポニョーン!」
目的の場所に辿り着いたのか、ポニョはその場でピョンピョン飛び跳ね騒ぎ、ダルクスが来るのを待っている。
「わーったわーった!死体でも見つけたのか?」
ポニョの近くまで来たダルクスは辺りを見回す。
…が特に何も………無い事はなかった。
「ありゃ。こりゃほんとに死体だ」
目の前の木の上を見上げると、木の枝に異国の服を着た少年がぐったりとぶら下がっていた。
「なんだコイツ。何もこんな所で死ななくても…」
ダルクスは足元にあった手頃な木の枝を拾い、その少年をつついた。するとどうやら死んでなかったようでハッ!と頭を起こし、彼は木にぶら下がったまま辺りをキョロキョロと見渡した。今の自分の状況を理解したのか、慌てたようにジタバタと暴れだしたかと思えば、その重みに耐えかねた木の枝と共にドサリと地面に落ちてきた。
ダルクスが呆気に取られていると、その少年はすかさず立ち上がり、ダルクスの胸ぐらを掴み必死な形相で凄んできた。
「おじさん!!!ここはどこだ!!!なんていう場所だ!!!」
「な、なんだ!?どこって…ここは"エンエンラ王国"近辺の"はじまりの森"って呼ばれてる場所だが…」
それを聞くと少年はダルクスから手を離し、頭を抱えながらヨロヨロと後ずさった。
「エンエンラ王国…?聞いた事ない…」
「おいお前どうしちまったんだよ。こえーぞなんか。いや、怖いよりキモいが勝ってる」
そんな言葉も聞こえてないのか、少年はすぐさま踵を返してどこかに向かって叫びだした。
「ユーリル!!ユーリル!!居るんだろ!!出て来いコラ!!!」
「えぇ…」
なんだコイツ。やる事なす事理解不能っていうか、物凄く関わっちゃいけない奴だ…と、ダルクスはドン引いている。そんなダルクスを尻目に誰かを呼びつけている気持ち悪い少年。ダルクスが今の内に退散しようとしたその時。薄暗かった森が白く光ったかと思うとその光の中から一人の女性が姿を現した。何故か"頭にナイフが刺さって"いるが、その金髪ウェーブロングの髪をなびかせ白装束で頭から"大きな真っ白な翼"が生えた姿それはまるで…
「女神様…!」
ダルクスはすかさず膝を付いてひれ伏した。女神様はなおも光輝いており、薄暗いはずの森を照らした。ポニョは明るい所を嫌うので、眩しかったのか、ダルクスの背中に一目散に逃げ込んできた。
「ホッホッホッ!ひれ伏さずともよい人間よ。我は確かに崇高な女神であるが"会いに行ける女神"として売り出そうとしておるが故…」
「はいはいお前はアイドルか。あとその喋り方ヤメろ腹立つ。あと眩しいからワット数下げろ」
満足気に語る女神様を少年がいきなり遮った。女神様の発光が徐々に薄れていった。
「ちょっと…!最初が肝心なんですから…!」
「もういいんだよ!お前のエセ女神口調はどうせ嘘だってすぐバレんだから」
「そんなこと言って、Lv34辺りまで気付かなかった癖に!」
「それはお前が…」
少年と女神様が言い合いを始め出した為、ダルクスは無理矢理割って入る。
「あの…これどういう状況ですか」
少年と女神はお互いキョトンとしたが少年の方がすぐにハッとして
「そうだよ!どういう状況だ説明しろユーリル!!」
…と、女神様に詰め寄った。
「またトラックに轢かれたんだぞ!!2回目だぞこれで!!凄い怖いんだぞお前トラックに轢かれるのって!!あと、トラックの運転手のその後の人生お前考えた事あんのかよ!?いや、それよりもなんでまた転生させたんだ!?"前回の冒険で俺は魔王を倒した"だろうが!?」
「ええ…。でも、私が管轄しているこの世界が新しい魔王に脅かされようとしてると知ってほっとけなくて…テヘヘ」
申し訳無さそうに舌を出す女神様。
「何でまた俺なんだよ…」
「その方が手っ取り早いと思って!」
「……………」
「ほら、ちゃんとLvは前回の冒険から引き継いでますから!強くてニューゲームってヤツですよ!」
「……………」
「つまり、今回の冒険はパッと終わりますって!ほら、前回の冒険で培ったモノを活かしてですね…!」
「こんの、クソ女神がぁぁぁぁぁ!!!」
とうとう痺れを切らした少年は女神様に掴みかかろうとした。
「キャアアアア!!人間よ、我を護りなさい!!」
すぐさまダルクスの後ろへと隠れる女神様。まるで子供の喧嘩のようだ。
「どうどう…で、結局なに?少年は魔王を倒す為にやってきた異世界の人って事?この世界に魔王が現れたってのは確かだ。だとしたらあんたはまず王様に会いに行かなきゃな」
「いや、俺はまだ倒すなんて一言も…」
「残念です勇者様。"魔王が討伐されないと帰れない設定"をかけてるので、勇者様が現世に帰る為に残された道は、魔王討伐以外にありません!」
「お前…お前…また勝手な事を…!!」
「とーにかく!!ここで争ってても仕方ねぇだろ!!俺に着いてきな。王様のいる城まで案内するよ」
「なんで…なんで…また…
あの長く険しい冒険をする羽目に…」
そうぶつくさ言いながら茫然自失といった感じで渋々とダルクスの後を付いていく少年。
(全く、面白い連中と巡り合ったもんだ。詳しい事は知らねぇが、こいつらと行動すりゃ、今回の"仕事"は退屈しないで済みそうだな)
ダルクスはそう思案しながら…鬱蒼とした森の出口を目指した。
「それにしても人間よ。その大量に積まれた宝箱はなんぞや?」
「その喋り方ヤメろって言ってんだろはっ倒すぞ」
続く…