花筏
花筏、そういう名の木もあるが、散った花びらが水面に落ち、流れながらひとかたまりになった姿を言う。
絵の題名は、その2文字だった。しかし絵には、花びらはなく、ただ四角い薄ピンク色の矩形16枚が、僅かに色を変えながら並んでいるだけだった。その並び、花筏という名にはふさわしくない程、綺麗な列を成している。抽象画というべきものだろう。
-桜庭らしからぬ絵がでてきたな-深瀨は、それを暫く眺めていた。作品の解説に、AIに与えたテーマを矩形だけにすることにより、より山鍋 楓花の核心的なものが高純度で表現されるのでは無いかという試みの結果だという事だった。
-これでは、売れまい-山鍋のおどろおどろした生死感のある世界観そのものが欠如している。彼女のファンはこの作品を受け入れることはできないだろう。
-しかし、なんだろう?何故この配色なんだろう-桜庭は、点描画を描くようにドット単位で色を決めるように作品を作っていた。
そのため一色だけで、塗りつぶすような箇所は、彼女自身が作った作品の中でもそれほど見当たらない。しかし、この抽象的な作品の中では、一つ一つの矩形が単色で塗りつぶされているのは、明らかだった。
-これは、単なる失敗作だ。-そう思いながらも、アルコールで妙に発想が飛躍している思考が、そこに何かを見つけたような気がした。しかし、それがなんであるのか、酔いによる睡魔に襲われ、その糸口をつかもうとする理性の手は、その細い糸を放し、思考は闇の中に堕ちて行った。
☆
河沿いの桜もすっかり葉桜に代わり、濃いクラフトビールよりも、冷たくてしゃばしゃばしたビールを喉が求める時期が訪れた。
会社での作業において、既にエンドユーザーに提供されているシステムのエンハンス作業がいよいよ始まり、深瀨も瀬川も、無口になりつつあった。工程上では遅れも余裕もないが、その分工数を掛け過ぎており予算が厳しい状況になりつつあった。
それも、瀬川が発注側からきた仕様変更をあっさり受託してしまったせいだった。本来なら、精査して影響度を調査すべきなのに、受注元の担当から強く押し込まれてしまったらしい。
-仕事は、出来るのに、交渉が下手なのはどうにかしないとなぁ-深瀨は、今回は管理を行いつつ瀬川をOJTを通してスキルアップさせるつもりでいた。しかし、今やメンバーと共にほぼ一日中プログラムの作成に係わる羽目に陥っていた。
-残業が多いなぁ-時計を見れば、既に就業時間を2時間も越え、メンバーも全員残って作業に集中している。36協定で月単位の残業時間は60時間を越えてはいけない事になっている以上、これ以上の残業を全員に行わせる訳にはいかなかった。
「今日は、ここで上がろう。」彼女は、立ち上がると全員に向かって言った。「このままだと、メンバー全員で残業時間超過の始末書書き作業という嬉しくない仕事までしなくちゃならなくなる。すっきりした頭で明日また集中しよう」そして率先して、帰り支度をはじめた。そして、後で発注元になんとか既に受託済みの仕様変更をネタに、他の仕様を次のフェーズに移行できないか、泣きつこうかなと考えていた。
自宅に戻りがてらに、閉店間近のスーパーで買った、半額札付きの弁当を一つと缶ビールを買い、自宅でそれを腹に収めてから、シャワーを浴びてメールのチェックをすると、以前通販で利用した店などから送られて来たメールの中に混じって、忘れかけていた人物からのメールが来ていた。
差出人は、偽鍋 狂菜とあった。宛先は、深瀨のハンドル名、フー子であった。
「フー子さん、長らくお返事をせずに申し訳ありません。HPで山鍋 楓花さんのクローンアートを制作している、偽鍋です。
フー子さんが、自身で言われていつような、山鍋さんの関係者であるかどうか、SNS上に公開された情報から判断ができずにいたので、迷っていました。
しかし、AIで山鍋さんの作品を作っている内に、一種のメッセージのようなものが、隠されている可能性が見つかりました。ご存じでしょうが、AIはディープラーニングにより、知識の偏りが出てきます。また、出力がどの様な判断により成されたのかを、知る由はありません。その為、メッセージの抽出には多くの時間も要しました。
しかしHP上の作品、花筏によりメッセージが含まれている可能性を強く感じる事が出来ました。
それがどういうメッセージなのか、フー子さんに伝えるべきかどうかは、私には判断できません。こういう形に残したのは、きっと山鍋さんが隠し通して置きたかったとも思えるからです。もし、あなたに伝えたいメッセージなら、こんな形に隠蔽する必要もないのですから。
もし、あくまでもこのメッセージを解くつもりなら、是非とも花筏をお買い上げの上、調査してみてください」
-販売目的かな?-と思いつつも、深瀨は、該当の絵をダウンロードした。どのみち興味がある絵であった。
しかし、仕事の忙しさから結局、ダウンロードした絵は暫く放置されたままだった。
久々に絵を見る気になったのは9月に納品を終えた頃だった。週末にノートPCをバッグに入れ、樽屋に行くと。栂坂が、独りでグラスを拭いていた。
「今は、何がお薦めかな?」と深瀨は栂坂に訊いた。
「IPAで茶蔵というのが出来ています」栂坂が笑みを見せた。地元の農家さんで作ってもらったホップをふんだんに入れて、茶葉もふんだんに足して熟成したそうです」
「いいね、丁度酔いも欲しいけど、意識を集中させたい気持ちもあるんだ」
「矛盾していますね」と早速口の広いグラスにやや濁りのある液体をビールサーバーから注いだ。
「頭の中が混沌としているんだよ。」とノートPCをカウンターに乗せた。
「お仕事ですか?」と栂坂はPCを避けて、グラスを置かれた。
「まさか、休日までやってられるか。そもそも、データの持ち出しができないし」と例の画像を表示した。しかし、じっと目を凝らしても何も浮かばない。
「楓ちゃん、これを見て何か浮かぶかい?」とディスプレイを、ぐるりと栂坂に方に向けた。
「ピンクの四角が4×4で16個ありますね。誰の作品ですか?」
「桜庭さんのAIクローンだそうだ」
「あの人のですか?全然そう見えないですけど」
「そうだろ、しかしこれが彼女の残したメッセージだとクローンを作った作者に言われた。」
「しかし、別の作品ですけど……たしか、あの気味悪い作品の春の図」
「ああ、これか」と遺体が灰となり、墓石の側に満開の桜が花びらを散らしている様子が描かれている絵を表示させた。
「その花びらが気になっていたのですけど、多くの花びらが複数の色を使っているのですが、一部だけ塗りつぶしなのですよね」
「それは、私も気になっていたな、もっともこれだけじゃあないけど。表現的なものじゃあないかなと思っていたけど」
「確か、最初の作品の緑子の木でしたっけ、あれも桜で、花びらの一部が塗りつぶしでした」
「彼女、桜をテーマとして良く使っていたからね。」
「色に何かあるとか?」
「ある色でマスキングすると何か、別な画像や文字が浮かぶかもしれないし…そうなると、この花筏はそういう手法には向かないな、一色でベタ塗りだし」
「白とピンク系の色だけですものね」
「先ずは、RGB値でも見てみるかな」と深瀨は、PCを自分に向けると、キーボードを叩いた。
「RGB値ってなんです?」
「PCで色を決める為の値だよ、光の三原色ってあるだろ、赤、緑、青。Rはレッド、Gがグリーン、Bはブルーで、各色の濃さを決める事で、色を作り出す事ができるんだよ。 ちなみに、黒は全部ゼロで、白は全部255だ。良いフリーソフトでもダウンロードしても良いけど、ウィンドウズに実装されているペイントでも充分RGB値は判るんだ」と深瀨は、ペイントを立ち上げるとファイルの読み込みで、花筏の画像を取り込んだ。
「16枚の四角を左上から右方向に順番に読み込んで見ようか」
「その間、何かおつまみでも用意しますね」
「ナッツでいいよ、片手で食べられるから」
深瀨は、ペイントのスポイトアイコンを選択すると、マウスで左上の矩形の一部をクリックしてから、色の編集アイコンを押した。表示されたダイアログのRGB値は、R=255,G=182、B=255になっていた。同様に他の矩形の色のRGB値を記録した。
(255,182,255),(255,188,255),(255,197,255),(255,220,255)
(255,189,255),(255,222,255),(255,202,255),(255,192,255)
(255,222,255),(255,174,255),(255,206,255),(255,188,255)
(255,186,255),(255,179,255),(255,179,255),(255,201,255)
「RとBが全て255って事は、Gの値に重み付けがされているということかな」
「そういえば、彼女の最初の作品の緑子の木でも、緑という題名が気になります」いつの間にかカウンターから出て深瀨に背後に回った栂坂が言った。
「その他の作品の気になる部分の花びらの色の値も見て見ようか」
「そうですね」
五月雨の様に散っている16枚の花びらのRGB値も、同様の値で並んでいた。
「意味があるのは、Gの値、182、188,197とかだけど…」
「よくあるのは、”あ”を1と考えるやつですけど、数字が大き過ぎますね」
「Gの取り得る値は、0から255だから、それで表現できる文字なんだろうね」
「あとは、特定の本のページを示しているとか、たまたま255ページの182文字目かも?」
「そうだとすると困った事になる、桜庭さんの家にあった本は、全て始末してしまったからな」
「どんな本でした?」
「どれもこれも、コンピュータ関係の参考資料だよ。百科事典や文学みたいなのは一冊も無かった」
「仕事熱心な方だったのですね」
「ああ、一度失った過去を埋める為みたいに、新しい知識を必死に詰め込んでいるように見えたよ」そして深瀨は、グラスをあおった。「お替わりを頂戴。」
そしてノートPCを閉じた。「飲んでいる間に天啓が降りて来るかもしれない」
「そうですね」と栂坂は、グラスを受け取ると深瀨の背後からカウンターに戻って行った。そして「たっぷり飲んでくださいね」と新しいグラスを差し出した。
「いっそワンパイントで出せないのかい?」
「深瀨さんみたいな人が、樽を空にするといけないから、少しづつ提供しているのですよ。ウチは小規模だから、沢山醸造出来ないのですからね」
「一度、それを独りで空にしてやりたいよ」
幾人かの客が来ては去り、中には知り合いも居たが、深瀨は挨拶を簡単に済ませるだけで、黙々とビールを体に入れては、天を仰いでため息を付いた。
結局、度を過ごした酒は、数字の迷路を脱出するためのブレイクスルーを与えるどころか、反って混迷を深めただけだった。
天啓は降りてこなかった。その代わりに酔いを伴った眠りの中で、深瀨は数字の波の中で揉まれ続けている夢を見続けた。
-流石に飲み過ぎたか-と起きようにも、頭痛が酷い。しかも、今朝から気温が上がっているし、東の窓から入ってくる日差しが暑い、起き上がってカーテンを閉め、エアコンを付けようとすると、ショーツだけを身につけており、脱いだ服がベッドの周りに散乱して居ることに気がついた。
-ひどい有様だ-脇を見ればテーブルにはコンビニで買ったらしい弁当が半分残ったまま放置され、ペットボトルのお茶は空になった状態で倒れていた。
-記憶がなくなるまで、飲んでしまったなぁ。良くまぁ帰り着いたものだ。まてよ、鞄とか忘れていないよなーと周りを見回すと、ベッド脇に据えてある小さな棚の上にしっかり鞄が乗っていた。さらに、鞄の中を見ると、きちんとPCと携帯が入って居るのを確認して、安堵のため息を付いた。
-しんどいけど、洗濯もしなきゃな-彼女は、たった一枚身につけているものを脱ぎ、床に散らばっているもので、洗えるものは全て洗濯機に放り込んで、洗濯開始のボタンを押した。
-さて、しゃっきとしないと-とバスルームに入り、朝の暑さで体にまとわりついた汗や昨晩の酒の匂いを落とし、小さな白い洋服ダンスから下着や服を取り出して身につけた。
洗濯機がまだ仕事をして居る間に、狭い部屋を片付け、掃除機を掛けると、ようやく日常が戻って来た気がした。
2階のベランダに出て洗い物を干すと、日差しが眩しい。これといって周囲に高い建物は無いが。自分の部屋と同じ高さにある川の堤防が、視界の邪魔をする。休日の土手の上には、ランニングをする人が列を作っていた。
-暑いのに、がんばるなあ-としばらくランナーを目で追ってから部屋に戻った。
エアコンの快適さの中で落ち着くと、PCを机の上に置いて、生活の流れのひとつとしてメールをチェックした。
だいたい一日に一回しかメールを見ないのは、急ぎなら電話が掛かってくるから、メールは急ぎの用ではないという彼女の判断だった。
昨晩は、そのメールをチェックした記憶がなかったため昨日の分を半日遅れで確認している事になる。
案の定、メールが溜まっていた。仕事の関係者から、かなり高熱を出してしまい、月曜日は通院するため定例会を欠席しますとあった。妙に熱を出しやすい奴であるが、仕事が佳境に入った状態では、むしろ元気になり、一段落つくと体調を崩す事が多かった。
しかも、熱が出ているのに、ASCII文字で、マスク顔を描いていた。その横には、38.5とこれまた、ASCIIで大きく書いてある。
-熱を出しているのに、よくまぁ、こんなものを作る余裕があるもんだ、熱を出しているんならさっさと寝ていろってんだ-と思いつつも返事には了解とだけ書いて送った。
ふとそのASCIIコードで出来た絵を見て、彼女はあっと小さい声を上げた。
グーグルを立ち上げ、ASCIIコードで検索をし、コード一覧が載っているページを探した。あっけなくそれは見つかった。ASCIIコードは0から255の数字に文字を割り当てた古いコードだ。そして、RGB値もまた、0から255の値を使う。
さらに日本語向けには128以上の数値に対してカナが割り当てられている。Gの値は全て128以上だった。
彼女はHPから得た得たASCIIコード一覧を0から31(16進数で1F)の制御コードを除いた一覧をまとめた。
上
位
4
ビ
ッ
ト 下位4ビット
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 A B C D E F
00
10
20 ! “ # $ % & ‘ ( ) * + , - . /
30 1 2 3 4 5 6 7 8 9 : ; < = > ?
40 @ A B C D E F G H I J K L M N O
50 P Q R S T U V W X Y Z 〔 ¥ 〕 ^ _
60 ‘ a b c d e f g h i j k l m n o
70 p q r s t u v w x y z { | } ~
80
90
A0 。 「 」 , ヲ ァ ィ ゥ ェ ォ ャ ュ ョ ッ
B0 ー ア イ ウ エ オ カ キ ク ケ コ サ シ ス セ ソ
C0 タ チ ツ テ ト ナ ニ ヌ ネ ノ ハ ヒ フ ヘ ホ マ
D0 ミ ム メ モ ヤ ユ ヨ ラ リ ル レ ロ ワ ン ゛ ゜
E0
F0
------------------------------------------------------------
(※作者注)
一応、16進数とかに詳しくない方の為に、簡単な解説を加えます
16進数は文字通り16で桁が繰り上がります。
10進数では、0,1、2,3,4,5,6,7,8,9,10
と9の次に桁が増えます。
16進数では、10以上の数字を以下の様に表現して数字の代わりに
使用しています。
10=a
11=b
12=c
13=d
14=e
15=f
従って、16進数では、0から16までの数値は
0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,a,b,c,d,e,f,10
と表記されます。
上の表で、上位4ビットというのは、ここで十の位を示す値です、
下位4ビットは1の位を示しています。
ここで10の位の16進数と
それを10進数で現わした関係は以下の様になります。
16進数 10進数
---------------------
10 16
20 32
30 48
40 64
50 80
60 96
70 112
80 128
90 144
a0 160
b0 176
c0 192
d0 208
e0 224
f0 240
16進数のffという値は、10進数では240+15=255という
値になります。
--------------------------------------------------------
-これを、例の画像のGの値で変換すると-と彼女は、表計算ソフトで既に数値が入っている、セルの下に行を挿入し、Gの値を関数電卓を叩いて16進数に変換してから
その数値に対応するカナ文字を求め、記載をした。
【花筏の矩形配置】
┏━━┓ ┏━━┓ ┏━━┓ ┏━━┓
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┗━━┛ ┗━━┛ ┗━━┛ ┗━━┛
┏━━┓ ┏━━┓ ┏━━┓ ┏━━┓
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┗━━┛ ┗━━┛ ┗━━┛ ┗━━┛
┏━━┓ ┏━━┓ ┏━━┓ ┏━━┓
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┗━━┛ ┗━━┛ ┗━━┛ ┗━━┛
┏━━┓ ┏━━┓ ┏━━┓ ┏━━┓
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┗━━┛ ┗━━┛ ┗━━┛ ┗━━┛
【花筏の矩形で用いられているRGB値のGの値とASCIIコードの関連図】
┏━━━━━━┳━━━━┳━━━━┳━━━━┳━━━━┓
┃G値 ┃182 ┃188 ┃197 ┃220 ┃
┠──────╂────╂────╂────╂────┨
┃16進 ┃BO ┃BC ┃C5 ┃DC ┃
┠──────╂────╂────╂────╂────┨
┃ASCII ┃カ ┃シ ┃ナ ┃ワ ┃
┣━━━━━━╋━━━━╋━━━━╋━━━━╋━━━━┫
┃G値 ┃189 ┃222 ┃202 ┃192 ┃
┠──────╂────╂────╂────╂────┨
┃16進 ┃BD ┃DE ┃CA ┃C0 ┃
┠──────╂────╂────╂────╂────┨
┃ASCII ┃ス ┃゛ ┃ハ ┃タ ┃
┣━━━━━━╋━━━━╋━━━━╋━━━━╋━━━━┫
┃G値 ┃222 ┃174 ┃206 ┃188 ┃
┠──────╂────╂────╂────╂────┨
┃16進 ┃DE ┃D6 ┃CE ┃BC ┃
┠──────╂────╂────╂────╂────┨
┃ASCII ┃゛ ┃ヨ ┃ホ ┃シ ┃
┣━━━━━━╋━━━━╋━━━━╋━━━━╋━━━━┫
┃G値 ┃186 ┃179 ┃179 ┃201 ┃
┠──────╂────╂────╂────╂────┨
┃16進 ┃BA ┃A9 ┃A9__┃C9__┃
┠──────╂────╂────╂────╂────┨
┃ASCII ┃コ ┃ウ ┃ウ ┃ノ ┃
┗━━━━━━┻━━━━┻━━━━┻━━━━┻━━━━┛
-カシナワズハダヨホシコウウノ?-なんだこりゃ?
-いや、縦読みか?-
-ワタシノ-
-ナハホウ-
-シ゛ヨウ-
-カス゛コ-
-私の名はほうじょうかずこ-
-これは、どういう事だ?-
-偶然なのか?何かの作為なのか-
深瀨は、口の中で何度もその名を唱えた。
-桜庭は既に記憶を取り戻していたというのか、それを周囲に隠しつつ生きてきたと?-そして、小さなサイドボードの上に置きっぱなしの分骨用の骨壺に視線を移した。
-どうする?帰るかい?帰りたいかい?-しかし、彼女はあくまでも、本名を隠し続けた、それは帰るのを拒んでいる証ではないのだろうか?なら何故名を絵に刻みつける必要がある。
深瀨は、ひたすら逡巡するばかりだった。