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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

華姫

作者: 入江 涼子
掲載日:2022/04/09

 昔に『華姫』と呼ばれる女性がいた。


 百年に一度生まれ、神に選ばれし稀有なる姫だ。彼女らの流す涙や体液には不思議な力がある。それはどんな怪我や病でもたちまちの内に癒してしまう。だからか、古来から華姫を狙う輩は多かった。ちなみに当代の華姫は二人いる。彼女らは双子だ。

 姉はフローレンス、妹はベルローズと言う名前だった。フローレンスは華姫としてまた神力も持ち合わせた聖女でもある。だからか、彼女は大変に忙しい日々を送っていた。


 フローレンスは穏やかでおっとりとした性格だが。ベルローズは気が強く苛烈な性格をしている。顔や外見はそっくりだがその中身は正反対だ。フローレンスは双子とはいえ、ベルローズとはそんなに仲が良くない。嫌いではないのだが。性格があまりに違い過ぎるからか向こうから近づいてこないのだ。彼女からはなるべく声をかけるようにしているのだが。今日もベルローズに挨拶だけはしてみる。


「……ごきげんよう。ベルローズ」


「……姉様」


「今日も元気そうね」


 フローレンスがそう言うとベルローズは嫌そうに顔をしかめた。


「まあ、元気ではいますわ。けど。姉様には関係ないでしょう」


「ベル」


「姉様。あたくしに声をかけるのは同情かしら。それなら無視をしていただいた方がましだわ」


 ベルローズはツンとそっぽを向く。扇子を広げて口元は隠しながら姉の側を通り過ぎた。ちなみにここは王宮の廊下だ。フローレンスはため息をつく。いつもこうだった。一応、妹として気にかけてはいるのだ。けれど相手には伝わっていない。仕方ないと俯きながら神殿へと向かった。


 神殿の礼拝堂にて祈りを捧げる。フローレンスは一心に国の加護を神に願う。ここ――ハロン王国の結界を強固にするためだ。フローレンスや他にも聖女は10人程いる。交代で祈りを捧げ、国の加護や豊穣などを願う。結界の強化や維持も聖女の役目だ。


(ハーロル神。どうかこの国をお守りください)


 そう胸中で一心に願う。キィンと透明感のある音が鳴りほのかにフローレンスの身体が光に包まれる。体内から少しずつ神力が流れ出していく。結界強化に使われているのが感覚でわかる。それでも祈りを捧げるのはやめない。しばらくしてフローレンスの額には玉のような汗が浮いていた。息も上がっている。


「……ふう。結界の強化はできたわね」


 独り言を呟く。礼拝堂には宙に浮く大きな水晶体がありそれが結界の要だった。フローレンスや他の聖女達の神力を注ぐ事によって水晶体や結界は保たれている。

 水晶体は虹色に輝きながら礼拝堂を照らしていた。フローレンスはほうと息をつく。目まいがしながらも礼拝堂を出たのだった。


 一人で王宮の自室へ戻る。周りには騎士や侍女はいない。フローレンスではなくベルローズに皆付き従っていた。雪のような白銀の髪に黄金の瞳、真っ白な肌というたぐい稀な美しい容姿で二人は生まれたが。瞳の色は成長する毎に違っていった。姉は透明感のある琥珀色に妹は黄土色という少し濁った色にだ。何歳くらいだったろうか。ベルローズがフローレンスを嫌うようになったのは。

 たぶん、六歳ぐらいだったはずだ。今から十二年程前だったか。いきなり、泣きじゃくりベルローズはこう言った。


『……あんなのは姉様じゃないわ。あたくしの姉様はもっと優しかったはずよ!!』


 フローレンスはそう泣き叫ばれて非常に驚いた。ベルローズは何を言っているのか。私が言いたい。あなたこそ誰?と。だが必死になだめにかかる両親に言われた。


『フローレンス。お前はベルローズを苛めていたのか?』


 フローレンスは泣きそうになりながらも一所懸命に否定した。が、両親はベルローズの味方になるばかりで聞き入れてはくれない。そうして翌日には王宮の片隅にある離宮へ追いやられた。

 フローレンスは二人の侍女や乳母との四人で細々と暮らす日々を送る。五年が過ぎて十一歳の年の春に魔力測定の儀式を受けたが。

 その際に聖属性や光属性の魔力――神力があるのがわかった。涙などで治癒を使えるだけでなく、神力ででも人を癒す事ができる。それを聞いた両親は冷淡な態度をがらりと変えた。


『……今日からお前は神殿で暮らすのです。ああ、神に感謝せねば』


『フローレンス。聖女としても努力するのだぞ』


 母の王妃や国王は愛想笑いを浮かべながらそう告げた。けれどフローレンスの心は既に冷たく凍っている。両親への敬愛などはとうの昔に失っていた。無表情で頷くのみだ。


『……わかりました。善処致します。陛下、王妃殿下』


 冷たくそう言ってカーテシーを深々とする。ちらりと見やれば、両親は怯えたような表情を浮かべていた。フローレンスはカーテシーを解くと背中を向けて神殿に戻ったのだった。


 自室に着いたら離宮時代から仕えてくれている乳母や侍女が出迎えてくれた。乳母はリンといい、もう四十歳程になっている。侍女の内、若い娘はリンの子でララといった。まだ十七歳だがしっかりした性格をしていた。年上の

 娘はルナという。彼女はフローレンスより三歳上で二十歳だ。

 ララとルナが近くにやってきて主の髪を解いた。フローレンスはソファーに座る。編み込んでいた箇所を解いたりヴァレッタを取り去ったりした。次にイヤリングなど装身具を外す。それが終わったら彼女を立たせてドレスを脱がせた。コルセットなども取り去ると気楽な部屋着用のワンピースを着せてカーディガンを羽織らせる。


「……姫様。今日もお祈りをなさったんですね」


「したわよ。おかげで凄く疲れたわ」


「わかりました。お化粧を早めに落としますね。そうしたら今日はもうお休みください」


 ララが言うとフローレンスは頷く。ルナが急いでリキッドタイプのクレンジングクリームを持ってきた。ハロン国は化粧品の開発が盛んで他国よりも進んでいる。そのおかげで便利な道具などが揃っていた。クリームをフローレンスの顔に塗り込み、洗面所へ誘導する。少し経ってからぬるま湯で念入りにお化粧を落とす。これは自分でやった。ぬるま湯は魔術紋が入った蛇口が二つあるのでそれらを捻って出すのだが。その際にお湯の方と水の方を微調整しなければならない。ルナがいつもその微調整をしている。


「姫様。お顔や首筋のマッサージをしますね」


 タオルで水気を拭いていた時に言われた。フローレンスは頷いた。前髪を留めていたピンを外してから寝室へ戻る。カウチに座るとルナが顔をララは首筋をマッサージしてくれた。しばらくはそうされながら微睡んだのだった。


 翌日、フローレンスは神殿の礼拝堂にて祈りをまた捧げていた。そうしていたらバタンとドアが乱暴に開かれる。


「……やはり。祈りを捧げていたのね」


「……ベルローズ」


「姉様。あたくしはあなたが昔から憎たらしかったわ。神力を持ち誰からも必要とされるあなたが!」


 目を血走らせて中に入ってきたのは双子の妹のベルローズだった。よく見たら左手にはダガーナイフが握られている。ベルローズはゆっくりと近づいてきた。にたりと唇が弧を描く。酷く醜い歪んだ笑みだ。


「ベルローズ。あなた。悪魔を召喚したわね?」


「そうだよ。侍女達に召喚術をやらせたのさ。騎士を生贄にしてね!」


「何と言う事を。私はそこまであなたを追い詰めていたのね」


「……ふん。お前の偽善ぶりには反吐が出る。神力さえなければ、ただの小娘のくせに。そのお綺麗な顔に傷をつけられたらそれは愉快だろうがな」


「あなた、ベルローズの身体を乗っ取っているわね。何が目的なの?」


 淡々と言った。そうしたらベルローズ――悪魔は笑みを深める。フローレンスは両手を上に掲げた(かか)。神力を無詠唱で発現させる。真正面に突きだすとそれを悪魔にぶつけた。


「……くっ。お前如きに倒されるあたいじゃないよ!」


「……悪魔のケレンですね。あなたの事は以前から知っていました」


「ふん。そうかい!」


 悪魔はそう言うと片腕で神力を薙ぎ払う。方方にそれが散らばり光の粒子になる。キラキラと辺りに舞い散った。風圧がフローレンスや悪魔に掛かる。が、それだけだ。双方共に防御魔法を展開して衝撃を相殺していた。


「悪魔。あなた、何が目的ですか?」


「目的かい?」


「ええ。別に妹の身体を乗っ取らなくても良かったのではないの」


 フローレンスがそう訊くと悪魔は眉をしかめた。


「はんっ。やっぱり偽善者にはわからないか。お前は本当は。この女の事を嫌っているだろう。むしろ、憎んでいるんじゃないかい?」


「……そんな事はありません。たった一人の双子の妹ですから」


「どうだか。この女の魂が消滅してくれて。清々しているんじゃないのか」


「よくそんな事が平気で言えますね」


「悪魔だからね。お前はどうして本音を隠すんだい?」


 ズケズケとだが問いかける悪魔にフローレンスは静かな瞳を向ける。真っ直ぐに見つめた。


「……そうしないと蹴落とされますから。私は常に誰かに狙われている。虚勢であっても冷静にしたたかに生きないといけません」


「ふうん。成程ねえ」


「という訳で。ケレン。あなたを祓わせて頂きます。ベルローズをせめて安らかに眠らせてあげたいのですよ」


 フローレンスはそう告げると。再び神力を片手に込めた。淡く光り輝く。今度は詠唱を始める。


「……白き光よ。彼の者を浄め給え。あるべき箇所に返さむ!」


 祝詞を唱えたら真っ白にも金色にも光る神力に幾何学的な魔法陣が幾重にも重なり合う。それは聖女が有する聖属性の中でも最上級の魔法だ。


「……ライト・フォレスト(森に注ぐ光)!!」


「……なっ。それは悪魔祓い(エクソシスト)か聖女でも相当な奴でないと扱えないとかいう……」


 悪魔がそういう間にも淡い新緑の色を纏った眩い光の渦が近づいてきた。それに悪魔が囚われ、断末魔の悲鳴をあげる。


「……ヒィーッ!!」


「……やっと。祓われてくれましたね。ケレン」


 ぽつりとフローレンスが呟く。光の渦がやむと後には意識を無くしたベルローズが青白い顔でうつ伏せに倒れていた。フローレンスは大きく息をつく。ゆっくりとベルローズに歩み寄る。すぐ側まで来ると傍らにしゃがみ込む。白銀の自らと同じ色の髪を優しく撫でてやった。


「……ベル。あなたが悪魔に取り憑かれていたのに。気づく事も祓う事もしなくてごめんなさいね。せめてこれからはゆっくり休んでちょうだい」


 そう言いながらフローレンスは目覚めないベルローズの腕を肩に回した。いわゆる肩を貸す感じで立ち上がる。ゆっくりと半ばベルローズを引きずる形で礼拝堂を出た。


 悪魔を祓ったおかげだろうか。正気に戻ったらしい騎士や神官達がこちらにかけ寄ってきた。


「……あ。これは聖女様!」


「……あなた達。ベルローズが体調を悪くしてしまったの。誰かこの子を部屋まで運んでくれないかしら」


「わかりました。私がお運び致します」


 一人の騎士が進み出てきた。フローレンスは微笑みながらベルローズを彼に託す。横抱きにすると騎士は淀みない足取りで神殿を出ていく。やっと終わったわ。胸中でそう呟きながらフローレンスは再び息をついた。


 あれからゆっくりと時間は過ぎた。フローレンスはその間も王女として聖女としても多忙な日々を送る。妹であるベルローズは意識不明――昏々と眠り続けたままだ。そうこうする内に一年、二年と経っていった。


 ベルローズに悪魔祓いをしてから三年目。ついに彼女は静かに息を引き取った。享年は二十一歳。あまりに早すぎる別れに両親は嘆き悲しんだ。フローレンスもその場に居合わせたが。


「……お父様、お母様。少しだけベルローズと二人きりにさせてください」


「……フロー。わかったわ。行きましょう。陛下」


「ああ。なるべく早めにな」


「はい」


 フローレンスが頷くと両親は静かに部屋を出た。ベルローズが横たわるベッドの横に行く。


「……ベルローズ。こうやって二人きりになるのは久しぶりね。やっと。ちょっとは本音が話せるわ」


 そう言って冷たいベルローズの頬を撫でた。


「私ね、あなたが悪魔に憑かれていると気づいたのは。十二歳の時だったの。けど。あの時はまだ聖女になって間もなかった。あなたに憑いていた悪魔は上位の輩だったし。手が出せなかった」


 当然ながら答えはない。が、フローレンスは構わずに話し続けた。


「……悪魔と同等に戦えるようになったのは十五歳になってからだった。神官長様とも相談して。悪魔が動き出すのを待ち続けたわ。そして。今日になって祓えたの。長かったわ」


 フローレンスは苦笑いの表情を浮かべた。


「本当に。あなたを犠牲にさせるような真似をして。ごめんなさい。あの悪魔の事を偉そうには言えないわね」


 ベルローズの頬から髪に移りまた優しく撫でた。それを止めるとフローレンスはベルローズの亡骸から離れた。


「……さようなら。そして。私の妹としていてくれて。ありがとう。来世では幸せにね」


 にっこりと笑いながらフローレンスは葬別の言葉を述べた。窓から差し込む日の光が彼女やベルローズの白銀の髪を眩く照らした。


 葬儀はしめやかに行われた。フローレンスは涙を流しはしなかったが。それでも一抹の悲しさはある。全てが終わり王宮の自室に戻った。ドアが控えめにノックされる。返答すると一人の男性――騎士が入ってきた。


「……あら。あなたは」


「……あの。以前にベルローズ姫をお運びしたケネス・ヘラルドと申します。フローレンス姫にはご機嫌麗しく……」


「丁寧な挨拶はいいわよ。こちらに来たのは何か用があったのでしょう?」


 フローレンスがずばり告げると。騎士――ケネスは驚きのためか目を見開いた。


「あ。ええ。確かにそうですが」


「それで。用向きは何かしら?」


「……はい。実は。陛下から私に命がくだりまして。フローレンス姫の婚約者になれと」


 『婚約者』という言葉にフローレンスは固まる。彼とは一度会って二言三言話しただけだ。しかも悪魔祓いをした直後に。まあ、気を失っていたベルローズを運ぶように頼みはしたか。

 けれど。あの日以降、ケネスとは会う事も言葉を交わす事もなかった。なのに何故、今になって婚約などと言うのか?


「……やはり。驚きますよね。陛下はこうおっしゃっていました。『姫の支えとなれ』と。妹君を亡くされて寂しそうになさっているから。私もあなたの事は心配になっていました」


「そう。ベルの事は意識を失ったままで。一度も言葉を交わせなかったから。それが残念ではあったわ」


「……そうですか。でしたら。夜も遅いですし。私は失礼します」


 フローレンスは頷いた。ケネスは深々と頭を下げると部屋を出ていく。見送ったのだった。


 喪に服す中、フローレンスは自室に閉じこもりがちになる。ひたすらに詩を作ったり刺繍に没頭した。ララやリン、ルナは寝食も忘れて打ち込む主を見てはため息をつく。日に日にやつれていく彼女はそれでも詩などの作成をやめない。見かねたリンが婚約者のケネスに頼み込んだ程だ。

 仕方なくケネスは寝室の鍵を借りて中に入る。窓辺にあるカーテンは閉じられたままで寝室の中は昼間だというのに薄暗い。現在は初夏の季節なせいもありまだいいが。もっと暑くなったら間違いなくフローレンスは体調を崩すだろう。そう思いながらもケネスは彼女がいるらしい机の近くに行く。窓辺のカーテンを開け放ち、日光を取り入れる。書き物をしていたらしいフローレンスが眩しそうにこちらを見上げた。


「……あ。何でカーテンを開けるの」


「……何でって。必要だからですよ」


 ケネスがなんの気無しに答える。するとフローレンスは驚きのために固まった。


「な。ケネス様。あなたが何故ここに?!」


「何故と言いたいのは私の方です。フロー姫。あなた、いつから寝ていないんです。リン殿や他の侍女達も心配していましたよ」


「……それは」


「とにかく。あなたはまだ喪中ではありますが。今は食事をとって。ちゃんと寝てください」


「そんなの。私には必要ないわ。ベルローズに悪いし」


 そっぽを向きながら言ったが。ケネスは片眉を器用に上げた。妙な事を言うといわんばかりの表情だ。


「姫。あなた、何を言っているかわかっていますか。食事や就寝を必要ないと断じるのはいかがなものかと思いますが」


「だって。私のせいで妹は死んでしまったのよ。もっと早くに気づいてあげていたら。どうにかなったかもしれないのに!」


「……フロー。ベルローズ姫が亡くなったのはあなたのせいじゃない。むしろ言うなら。取り憑いた奴のせいだろ」


 ケネスはそう言うとフローレンスのすぐ側までやってきた。軽く頭を撫でられる。その仕草は優しく慈しむようだ。


「ケネス様。それでも考えずにはいられないの。早くに祓っていたらベルローズは助かったかもしれないって」


「……確かにそうだろうな。けど。フローも頑張っていたじゃないか。必死に悪魔と戦ったんだろう。たった一人で」


「……どうしてわかるの?」


「……神官長様から聞いたんだ。フローがどうにかして自分でも悪魔祓いができないかと模索していたって。そうしてやっと戦う四ヶ月前にその方法を見つけたと」


 そこでケネスは言葉を切る。フローレンスは彼が言わんとしている事がわかった。聖女でも可能な悪魔祓いの術。それは上位聖属性魔法を身につける事だった。中でも『ライト・フォレスト』や『ターン・エンド』は最上級の聖属性魔法だ。一か八かでフローレンスは悪魔に対峙して最大限の神力を放った。おかげでベルローズの中にいた悪魔を消滅させる事には成功したが。けれど既にベルローズの魂は極限まで弱っていた。自身の神力や気を分けたら。早めに回復しただろう。が、それは神官長に止められた。


『……もう手遅れじゃ。ベルローズ様は既に生命力が尽きてしまっております』


 彼は辛そうに告げる。もう手の施しようがないのだ。なら、ベルローズが天命を全うするまで見守るしかない。それを思い出しながらフローレンスは項垂れた。はらはらと目から涙が流れ落ちる。


「……今は好きなだけ泣きな。ここには私しかいない」


「……ケネス様」


 ケネスはそう言うとおもむろにフローレンスを抱きしめた。彼女が椅子に座った状態でだが。しばらくはケネスの腕の中で泣いたのだった。


 フローレンスは三ヶ月の喪が明けるとケネスと正式に結婚した。王籍を離れて臣下の身分にくだった。彼女自身の希望だった。ケネスは実はヘラルド公爵家の嫡男だ。騎士団を辞職して正式に父から公爵位を引き継ぐ。

 執務に忙殺される日々を送るが。フローレンスを支えて大事にした。二人は仲睦まじく過ごしていた。


 後にケネスとフローレンスの間には四人もの子が生まれた。二人の息子と二人の娘で皆兄弟仲は良かったという。二人とも終生添い遂げ、長生きをしたのだった。

 フローレンスは華の聖女と呼ばれて後世に語り継がれた。

 そう歴史書には記してあるようだ。


 ――End――






 

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