分身・リトルミー
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どこから鳴ったのか、ジャジャーンと効果音が場を盛り上げる。
するといつの間にそこへ隠れていたのか、大きさ以外は瓜二つの小さな星美の姿。
まるで見世物の主役のように、少女の姿がライトアップされいく。
リトルミーと呼ばれたその娘は、自分に注目が集まると分かるや、平らな胸を弧に反らせて満足気な表情を浮かべた。
どうやらこの子も真多子や星美と同様に目立つことが好きらしい。
物凄い勢いで調子に乗っており、見えない声援でも受けているのか優雅に手を振っている。
「セーンキュウ!! リトルミーに何でもお任せしてくだ、サイ!!」
「わ~! 小っちゃいミーちゃんもおはよ~! 今日もお人形さんみたいで可愛いね~!」
「ヤァヤァヤァ、それほどでも……ありマース!!」
まるで犬猫でも拾うように真多子がリトルミーを抱き上げると、頬ずりしながら撫でまわす。
完全に扱いがペットのそれなのだが、撫でられている当人は特に気にしていないらしい。
小さくても態度のデカくてふてぶてしいヤツだ。
それにそのポジションはちょっと羨ましい。
「おいおい、どう考えたってコイツを替え玉にするのは無理があるだろ」
真多子達が和やかなムードを作っているところ悪いが、流石に僕も口を挟まずにはいられなかった。
しかし僕が口を開いた途端、星美がキッと眼を吊り上げて噛みついてくる。
「シャラァップ!! お黙りデース!! リッスン!! こんなにそっくりだというのに、一体どこに不満があるのデスカ!?」
どこ、と言われても一目瞭然だろう。
本当に言わないと分からないのだろうか、頭が痛くなる。
「いや、真多子ですら一目で見分けてるほど大きさが違うんだから、一瞬で先生や学友にバレるだろ……」
星美はヒトデの特性を持って産まれた魔人類である。
身体を切り分けて小さな分身を作れるのだが、まだまだ未熟なためか分身体は半分ほどの背丈までしか成長しないのだ。
それでも数が集まれば色々と便利な能力ではある。
毎朝のアサリ集めは彼女達の力があってこそなのだから。
「だいたいそんな中途半端な分身で変わり身なんて100年早いって。 また先々代に怒られるぞ」
「ウグッ! 痛い所を突かれたマシタ!! マスターを持ち出すのは反則デース!! タコロウのくせに生意気、デスヨ!!」
「小太郎な、コ・タ・ロ・ウ」
「タ・コ・ロ・ウ・デース!!」
「こいつ……」
星美はわざと名前を間違ってるのかと思うくらい、僕のことを毎度タコロウと呼んで来る。
その都度、僕も訂正するのだが。
それに星美のマスター、先々代からの稽古は僕も受けている。
だから関係性は僕が兄弟子ということになるはずなのだが、コイツから敬意というものを受けたことが無い。
「はぁ……いい加減諦めて、大人しく授業に戻るんだ。 それと分身の方も戻しとくんだぞ、コッソリ追跡させたってすぐ分かるんだからな」
「そうだよミーちゃん。 迷子になったら大変だもんね!」
(いや、流石にそれは子供扱いし過ぎだろう。 星美もちょっと傷付いてるようだぞ)
頼みの綱の真多子にも注意されたのがよほど堪えたのだろう。
分かりやすくショックを受けた表情で青ざめている。
常に声も張っていれば、喜怒哀楽もハッキリしており、相変わらず役者のような忙しないやつだ。
見ている分には飽きないので、これで僕のことを敵視しなければ可愛い妹分なのだが。
「グヌヌ……で、でも納得できマセン!! お姉さまがこんなスケベと一緒にいるなんて嫌デース!!」
「そうデース!! デンジャラス、デスヨ!!」
分身体まで使って数の民意でゴリ押そうと最後の悪あがき。
眼には涙まで溜めて、今にも零れ落ちそうである。
そうやって駄々をこねるから、真多子からも子供扱いされているのだろうに。
というか、泣くほどに僕と真多子が一緒にいることが嫌なのが、地味に傷付く。
(それとスケベは余計だろ……みんな言って来るけど、僕はそんなにスケベ顔に見えるのか?)
自分ではそこそこの顔だと自負していたのだが、年頃の女の子に面と向かって言われると中々にダメージがあった。
「も~、コーちゃんはそんな悪い人じゃないから大丈夫だってば~! ミーちゃんも良い子なんだから、人のこと悪く言っちゃダメだからね、メッ!」
苦虫を噛み潰したような表情の僕を見かねて、真多子が助け舟を出してくれた。
躾けのために星美のキラリと光るオデコを指で弾くと、泣きそうな彼女を胸に抱き留めてあやしている。
(うぅ、僕のことを認めてくれるのは真多子だけだ。 やはり僕には真多子しかいないな……!!)
一方、僕は思わぬところで彼女への想いを再確認することが出来た。
じんと胸に染みるこの気持ちを噛みしめていると、ようやく星美も落ち着きを取り戻したようで真多子から離れる。
顔上げた彼女の表情は心底不満そうで、不貞腐れているのを隠そうともしない。
それでも消え入りそうな声で、なんとか言葉を絞り出す。
「わかりまシタ……今日のところは引き下がるデース。 でも!! いつかそのポジションはミーが奪ってみせまマース!! せいぜい覚悟しておくことデース!!!」
「覚えてろデース!!」
お決まりの捨て台詞を残すと、分身体と共に星美が走り去っていく。
現れるのも突然なら、消えるのも突然で、なんとも嵐のような騒がしいお子様である。
それと星美には悪いが、真多子の横は死んでも譲る気はない。
口には出さないが、僕はお子様に対して小さな優越感を抱いていた。
「授業頑張るんだよ~! 友達と喧嘩しちゃダメだからね~!」
真多子の方は、走り去って小さくなる後ろ姿へ温かい声を送っている。
星美のご両親が不在の間は、いつも母親代わりになっているのだ。
こういう面倒見の良さが、あの娘に懐かれる理由なのだろう。
「ふぅ、なんか朝からどっと疲れた気がするな。 腰が重くならないうちに、早く報告済ませて一休みしていこう。 帰りにどこか寄っていきたい茶屋とかあるか?」
「お茶していくの? いいね~! コーちゃんと一緒に行くなんていつぶりだっけ、どこにしよっかな~!」
そういえば二人で茶屋に行くのは久しぶりだったか。
僕はあまり甘いものが得意ではないので、積極的には行かないからだろう。
それでも今は、何でもいいから糖分を採って頭を癒したい気分だったのだ。
「まぁそんな直ぐにじゃなくて、帰りまでに決めてくれればいいよ。 官邸まで歩きながら考えよう」
「えへへぇ、うん!」
真多子が今日一番の笑顔を浮かべて頷いた。
この顔が見れたのだから、あの騒がしいお子様も役に立ったと前向きに考えよう。
真多子と茶屋に行く口実も出来たことなのだし。
止まっていた脚を再び動かすと、真多子と二人並んで大通りを抜けていくのであった。
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