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軟体魔忍マダコ  作者: ペプシンタロウ
第二章~中央事変~
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半神の行方、彼女の行方

マダコちゃんのイメージ画像はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=4955


黄金竜の姿はコチラ(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=123319

「知って、いるんですか……この眼のことについて、何か……?」


 巨大な竜に訊ねられ、好奇心と畏怖が混じりあった不思議な感情に震える手で前髪を上げる。

 普通の人間とまるで変わりない平凡な左目、そしてまるで別の何かを埋め込まれたかのように怪しく光る右目がそこにあった。


 エレベーターに乗る前、倒れた舞華(マイカ)の様態を確かめるために瞳孔を十字に開いたままだったのだ。


 この眼に侵食される悪夢は何度も見て来た。

 だがこれが何なのかを知る者はおらず、治す手立ても皆目見当がつかない状況。


 その矢先に光明が見えれば、すがりたくもなるだろう。

 立場を忘れ、僕は右眼について問いかけてしまった。


「残念ながら知らんガネ」


「そう、ですか……」


 ところが、帰って来た言葉は期待を裏切るものであった。

 そう何でも上手く運ぶものではないらしい。


 半分とはいえ相手は神、肩を落とすわけにもいかずグッと感情を押し殺す。


「だが、人の理を外れていることは感じるガネ。 おそらく、契りに印と似たようなものじゃないカネェ」


「契りの印と……? それは、どういう……」


 上げて落とされた僕の視線は、その一言で再び頭上に急上昇していく。


 見えたのは、顎を撫でるように舌を伸ばした黄金竜のトカゲ顔。

 まるで、僕を品定めするように味わっているかのようだった。


「お前が持って来た印、それは半神(デミゴッド)の力の触媒だガネ。 神の力は次元の違うもの、それをお前らが触れるには強すぎるガネ。 だから触媒を通し変換する必要があるわけだガネ」


「では……この眼も半神(デミゴッド)の力を受け取るものであると?」


「心当たりは、既にあるんじゃないカネ?」


「…………はい」


 どこまでも見透かされているようで居心地が悪い。

 ヘビに睨まれた獲物のように、じっとりと脂汗が滲んで来た。


 身体を透過する不思議な眼、身に覚えのない異世界の知識、それらは全てこの右眼を通して僕が体験していることだ。


「あの……これは、この力は還すことができるでしょうか?」


「ほぉ、半神(デミゴッド)の力がいらないと言うのカネ?」


 半月型に弧を描き、常にニヤニヤと笑っているように見えた黄金竜の瞳がギロリと睨む。

 その瞬間、僕の背筋が凍り付き、血管を流れる血の全てまでもが固まったかと錯覚した。


 それほどまでに、死の恐怖に近い畏怖の感情が僕を支配したのだ。


「…………!?」


「こ、コーちゃん?」


「ハァ、ふぅぅ……大丈夫、大丈夫だ……」


 よほど酷い顔をしていたのだろう。

 真多子(マダコ)が心配して僕の手を握り、その温もりで正気を取り戻す。


 意識せず止めっていた肺から息を吐き出すと、自らを鼓舞するように呟きながら頭を上げた。


 ここに一人で来なくて本当に良かった。

 もし孤独な状態であったら、きっとこの竜に支配されていたに違いない。


 コミカルな見た目と侮れない、やはり半神(デミゴッド)を名乗るだけはある格の違いを見せつけられてしまった。


「黄金竜、僕にはこの力が過ぎたるものだと感じています。 いつか、僕は飲まれてしまうのではないかと」


 絞り出すような僕の言葉を聞き、竜は歯を見せて二ッと笑う。


「ゼニャハハ、近年稀に見る馬鹿正直な人間だガネ。 なら手土産に少しだけ教えてやろうカネ。 まず、ここではどうしようも無いガネ。 まぁ、押し付けたヤツに直接言うしか無いカネェ」


「それは何処に……?」


「そこまでは世話してやる義理もないガネ。 自分で探すといいんじゃないカネ?」


「……分かりました」


 肝心な所は教えてくれないようだ。

 しかし、この世のどこかにはいるのだと暗に答えてくれているわけだ。


 ならば、僕のすべきことは見つかった。


「ありがとうございました。 自分の脚で、この眼で探してみます」


「ゼニャハハ、せいぜい欲に飲まれないことだガネ」


 そう言うと、黄金竜は再び金貨の山へと潜り込む。

 ザラザラと湯水のように金貨が零れるが、尻尾の先をスコップのように開いて器用に掻き集めていた。


「帰ろう、真多子」


「うん!」


 僕達は踵を返しエレベーターに乗りこむが、その間もずっと金色の山から視線を感じていた。

 きっと僕はあの半神(デミゴッド)に眼を付けられたのだろう。


 それは半神(デミゴッド)同士の縄張り意識か、それとも娯楽の玩具としてなのか。

 ただの人間である僕にはさっぱり分からないが、終始生きた心地がしなかった。






 エレベーターを降りると、僕達がいないことを自動で検知したのか独りでに扉が閉じていく。

 巾着に入った印はもう置いてきたので、再びこの扉が開くことは無いはずだ。


 これにより、伊華賀(いかが)流が何を企てようと世界に混乱が訪れることも無くなったわけである。


「そういえば、舞華も連れて帰るのか……ってあれ?」


「どうしてのコーちゃん?」


「いや、どうしたのじゃなくて! お前、背中に背負ってたのにどこ置いて来たんだよ!?」


 真多子の背中を見て、僕は思わず声を上げる。

 気を失っていたはずの敵が居ないのだから、当然だろう。


「え~? そんなわけ……ってあれぇ!? マイカちゃんさっきまで居たのに!!」


「エレベーターには一緒にいたよな?」


「うん……そのはずなんだけど……?」


 背負っていたはずの真多子自身、まったく気が付かなかったようだ。

 その時、ふと床に点々と黒い染みがあることに気が付く。


「これは……」


「あっ! これマイカちゃんのだ! 見て、ここに書置きもあるよ!」


 割れた窓へと続く墨を辿ると、窓際に達筆な文字が記されていた。


『また会おう』


 この一言、ただそれだけ。


「良かった~無事みたいだね」


「抜け忍にでなるつもりなのか? うぅん……だが今更悪さは出来ないだろうし、まずは僕達の方を優先しよう」


「そういえば、フカ君達どうなったのかな?」


「外で騒ぎになってたぞ。 どうせだし騒ぎに乗じて蒸気屋台に潜り込もう」


「りょうか~い!」

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