90度の戦場
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見るも無残に割れて欠片散らばる窓際。
今も空気が外へと流れ、縁に立つ舞華の黒髪を流して彼女の頬を撫でている。
びゅうと途切れることなく彼女の耳元を奏で続け、目的を見失った喪失感を加速させていく。
その空気の流れが、音のカーテンとなっていたのだろう。
彼女は自らに迫りくる風切り音へ気が付くのに、一瞬だが遅れてしまった。
「…………ッ!?」
戦乱の世が終わろうと、常に鍛え研ぎ澄まして来た肉体の勘というものだろうか。
もしくは臨戦態勢にある戦士の第六感のようなもので、咄嗟に首を引っ込める。
すると、つい先ほどまで頭があった位置へ黒い何かが通り過ぎていったのだ。
唖然とする間も無く、頬を伝う焼けるような痛みで手裏剣だったのだと判明する。
血と黒い墨は混ざり合い、混沌とした雫が舞華の顎へと滴っていた。
「おのれ……未熟者だと侮った報いか……!!」
「へへぇ、今度はちゃんと飛ばせたもんね~!」
舞華が眼下へと目をやると、そこには消えたはずの二人が窓に張りついていた。
彼らの手には吸盤があり、それらを巧みに駆使することで垂直な壁であろうと難なくへばりつけるのである。
「真多子、浮かれている場合じゃないぞ! ここからが本番なんだ!」
僕は真多子へ激励すると、急いで彼女から離れる。
なにぶん僕の吸盤が両手にしかないもので、壁面での機動力は大幅に落ちるのだ。
6本の腕と両脚にまで吸盤がある真多子と比べたら、完全に足手まといになってしまうだろう。
ぺたぺたと交互に掌を隣の窓へと張り付け、亀のように離れていく。
舞華も、ここでは僕がどこへ逃げられるわけでもなく、相手にもならないと判断したのだろう。
その狙いを真多子一点へと絞り睨む。
「いいだろう、貴様等の用意した土俵で勝負してやる。 敗者は大地に地の花を咲かせるというわけだ」
地上30階、ここから落ちればいくら屈強な身体を持つ魔人類であろうと、待ち受けるのは平等な死。
肉は裂け、骨は散り、鮮血が花弁のように咲き乱れるだろう。
舞華は頬を濡らす赤黒い血を拭って舐めると、血の味で興奮したのか目の色が変わる。
開いた瞳孔はまるで獣のようであり、深く強く呼吸する吐息が炉を燃やすフイゴのようだった。
そのままビルの外へと脚を踏み出すと、空気を叩くように脚を躊躇なく下ろす。
つられるように身体も宙へ放り出され、あわや身投げかと思われた。
しかし、彼女の足は窓に吸い付き、まるで重力を感じさせないように壁面へ垂直に直立するのであった。
これも鍛え上げられた筋肉の賜物だろう。
地上となんら変わりなく見せるその雄姿は、まさに戦場に生きる者の証を示しているかのよう。
それに応えるように、真多子もへばり付いて低くしていた姿勢を崩し、対峙するように両脚だけで窓に立つ。
「なんだか懐かしいね……子供の頃はこうやっていつも遊んでたのに」
「過去は、国の一新と共に捨てた。 過ぎ去った記憶を今更語ろうと動じはしない」
「違うよ……コーちゃんは帰れる場所を作ってくれる。 まだ捨てなくていいんだよ!」
今にも泣きそうな真多子のかすれ声。
だが、舞華の瞳は微動だにせず敵を見据えている。
届かない。
どんな気持ちを込めたとしても、今の彼女へは何も響かないのだ。
「笑止! 口先だけならなんとでも言える! 印さえあれば、貴様等に成しえなかった未来が実現するのだ!!」
「真多子! 頭に血が昇ってて何を言っても無駄だ!」
「口で駄目なら……殴ってでも目を覚まして上げるんだから!」
「ふん、やれるものなら……やってみろ!!」
咆哮する舞華が墨を手にすると、今度は手裏剣として投げず両手に集める。
それを引き延ばしながら形成すると、まるで黒い槍のよう得物が現れた。
身の丈ほどもある二本の槍を交差させ、まるでハサミのようにシャリシャリと鋭い音を響かせる。
元は液体だったはずだが、まるで本当の金属みたいにしか見えなかった。
(あれは確か……伊華賀流の槍烏賊の術!!)
体内の鉄分やカルシウムを練り込み、自在に取り出せる暗器の一つ。
己が内に隠し持てるだけでなく、凶器を隠蔽するのも容易いため、忍者としてはこの上ない武器なのだ。
「あっ!! いきなり拳勝負を捨てるなんてズルい! ならアタシも!!」
相手が武器を取り出したのを見るや否や、真多子も慌てて墨を吹き出す。
流石に分の悪い勝負は御免らしい。
せっかく見栄を張ったといのに、なんとも締まらないやつだ。
そして真多子が作り出したのは、日本刀のように細長く薄刃の曲刀。
漆黒の闇のように暗く想い黒色がキラリと反射し、ツヤのある切先を天に掲げた。
普段からバリバリとアサリを殻ごと食べているのは伊達ではないらしい。
墨の量が少ないタコであるため手にしたのはその一本だが、独特の粘り気があるタコスミのおかげで重厚な刃を形成出来ていた。
「軟体忍法・蛸引き包丁の術! 蛸墨で作った木刀、名付けて墨刀! 切れ味はお墨付きだよ!」
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