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軟体魔忍マダコ  作者: ペプシンタロウ
第二章~中央事変~
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決別の刻

マダコちゃんのイメージ画像はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=4955


マイカのイメージ画像はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=41285

「具合悪いの? ねぇ、だいじょう……ぷぇ!?」


 真多子(マダコ)が僕の肩に触れようと手を伸ばした瞬間。

 彼女の喉笛を鷲掴む異形の腕が、突如として現れた。


「う……うぁ……!!」


 彼女の呻き声を絞り出すかのように、のっぺりとした肌をしたその手は力が増していく。

 万力のようにギチギチと筋肉が萎縮する音が耳元で唸り、本気で絞殺そうとしているのが嫌でも伝わって来た。


 苦悶する真多子の表情はみるみるうちに青ざめていき、血の気が引いている。

 だとうのに、その顔にはどこか悲しそうな哀愁を浮かべていた。


「マ…イカ……ちゃん、やめ……て……」


「ふん、流石に悟られたか」


 真多子の必死な声に反応し、僕達を掴んでいた『見えざる実体』が姿を曝け出していく。


 まるで風景に取り込まれていたかのような肌が色付いていき、徐々に白く滑らかな肌が目に入る。

 この出現の仕方、まさしく真多子と同じ保護色能力によるものだろう。


 だが、このアルビノのように白い肌はまったくの別人だ。


 心当たりがあるとすれば、僕達とは別の流派の者。

 つまり伊華賀(いかが)流の舞華(マイカ)の腕に間違いないだろう。


「まさか馬鹿正直にノコノコ現れるとはな……つくづく救いようのない連中だ」


「どう……して……!!」


「お前達が本物を持っているという確証は無い、ならば実際に確かめさせればよいと判断したまでだ。 おかげで、こうして真偽を白黒ハッキリさせることが出来たわけだがな」


(くそっ……そういうことか。 あれだけ信用できないと警戒しておきながら、ちょっと僕等の心配をしてくれただけで心を許してしまった僕はなんて愚かなんだ……!!)


 依然として僕は口を塞がれ、悪態の一つも吐けやしない状態。

 片や頼みの綱の真多子は喉を握られ宙吊り。


 こんな芸当が可能なのも、イカの特性を持つ舞華が真多子とほぼ同等の能力を持っているから。

 そのため腕も当然多く生えており、僕を拘束しながら真多子を抑えるなど造作も無かったのだ。


 僕達は手も脚も出せず、完全に『詰み』の盤面を作られていた。


「先刻も告げたが、頭目の座を譲ることに何の恨みもない。 このような魔人類(キマイラ)の出来損ないに仕える気など、もとより無かったからな」


「うぐ……」


 出来損ないとは、十中八九僕のことで間違いない。

 右眼のせいか、魔人類(キマイラ)にしては身体能力に劣るからだ。


 それは僕のコンプレックスでもあり、そこを突かれ思わず苦しい声を上げてしまう。


「だが……巳(ミ)の国の新体制には意を唱えるしかなかった。 我々軟体魔忍(なんたいまにん)は戦でのみ生きられる一族。 戦乱の無い世を築かれて、行き場を失ったのだ」


(それは……)


 心の中ですら、僕は何も言い返せなかった。

 先代頭目である親父殿のやり方はかなり力に任せた計略が多く、敵を恐怖で縛り付けるようなものであったからだ。


 その親父殿に影響を受けた彼女なら、そのやり方でしか生き方を知らないのだろう。

 いったいどこで、真多子とここまで違ってしまったのか。


 まるで表と裏に分かれた彼女達。

 そして今、その裏の顔たる舞華の腕がトドメを刺そうと一際力がこもり始める。


 もはや、真多子の口からは呻き声すら漏れてこない。


(真多子……!! 死ぬな……!!)


「貴様らが持つその印、それさえあればこの国は奮起する! 弱者として縛り付けられた枷を外し、世界に混乱と戦火の火種を捲くことが出来るのだ!!」


(自分達のために戦争を起こす気か……!? そんなもの馬鹿げている!!)


 しかし、どれだけ義憤に駆られようと僕の言葉は届かない。

 守るべき者一人も守れず、ただ目の前で衰弱していくのを見せられている、無力で憐れな男にすぎないのだ。


(頼む……誰でもいい、何だっていい、神でも仏でも、縋れるものなら……僕にチャンスを……たったの一度でいいんだ……!!)


 大事な相棒を見殺しになんて出来ない。

 告白だってまだしてない、二人で約束したのに出来ていないことだってまだまだ沢山ある。


 それだっていうのに、こんなところで終わってしまうのか。


 走馬灯のように頭に浮かぶのは、幼少の頃から二人の習慣になっていた指切りの光景。

 成功すると約束したのに、破ってしまうことになる。


(そんなの……いやだ……)






 全てを悲観して諦め、僕の目から光が失われようというその時、奇跡が起こった。


 この巨大なガネー社ビル全体が震えだし、まるで震災のような地響きでフロア全体が横滑りする。


「くっ!? 何事だ……!?」


 さしもの舞華も予想外の出来事のようで、体勢を崩して拘束していた腕が緩む。


 誰がくれたか知らないが、絶好の好機。

 僕はなんとか片腕一本を自由にすると、前髪で隠した右眼を晒す。


「開眼(かいがん)せよ、χ眼(カイガン)!!」


「……貴様ッ!?」


 肉体的には出来損ないで非力な僕の身体。

 それでもこの右眼だけは特別製だ。


 瞳孔が十文字に開くと、目の前に立つ敵の筋肉を隅々まで見通し弱点を探る。


(時間が無い、ここだッ!!)


 動かせるのはたかが腕一本、相手の急所を突くには足りな過ぎる。

 だが、真多子を拘束するために力を入れている筋肉を弛緩(しかん)させることなら、指一本あれば足りるのだ。


「無駄な足掻きを……なにッ!!」


 自分の意思とは無関係に腕がダランと緩めば、誰だって驚くだろう。

 まるで麻痺したような痺れが彼女を混乱させているはずだ。


 その隙が、真多子の息を吹き返す僅かな時間を作ってくれた。


「う……ゲホッ、ゴホゴホ……ハァ……ハァ……コーちゃん!!」


「チッ!!」


 意識を取り戻した真多子は、すかさず拳を振り上げて舞華の胴を狙うも、宙へ飛退いたために空振ってしまう。

 だが、おかげで僕もようやく晴れて自由の身となった。

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