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軟体魔忍マダコ  作者: ペプシンタロウ
第二章~中央事変~
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軟体魔忍の暗殺術

マダコちゃんのイメージ画像はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=4955

 真多子の6本もある腕の全てに指切りを終えると、僕達はすぐさま軟体魔忍(なんたいまにん)としての裏の顔を曝け出す。


 ここからは想定外の突発任務であり、ろくな事前支度も下調べも出来ていない。

 一瞬の隙も許されないスニーキングミッションが始まるのだ。


真多子(マダコ)、姿を消して僕の補佐に付いてくれ。 僕は姿を消せないからな」


「おっけ~! 着替えはこの部屋に置いてってもいいよね?」


「あぁ、そうだね。 兄貴達もそれで察するだろうし、手紙を残すより安全だろう」


 せっかく着直した私服を畳むと、座敷の隅へ置いていく。


 衣服を脱いだからと言って、彼女が一糸纏わぬ姿になったわけではない。

 その下には、海藻を用いて兄貴が発明した透明な全身タイツを常に装着しているのだ。


 これにより、彼女は衣類を気にすることなく、肌を周囲の色と同化させて隠密行動を可能にするのである。


「コーちゃん、もう準備できたよ~」


 その言葉と共に、僕の肩をポンと何かが触れる。

 見えないけれど、確かにそこにいる何か。


 タコの保護色能力で透明化した真多子の手に違いない。


「よし、頼んだぞ。 まずは上を目指そう。 あの言葉の意味はそのうち分かるかもしれない」


「うん! いつも通り、アタシが先行して偵察しながらだよね?」


「もちろん。 ここからは警備の目も厳しくなるだろうからな」


「りょうか~い!」


 肩に乗っていた僅かな温もりが冷めると、傍らにいた何かの気配が遠のいていく。


 注意深く聞かなければ、彼女の壁を伝う際の軋みも聞き逃してしまうだろう。

 姿も音も無く動く、そんなものが敵でなくて良かったと心の底から実感する。


 ひとまずは彼女が上の階を確認するのを待つしかない。


 階段へと続くT字路の交差に足を運ぶと、壁に背を預けて手を這わす。

 一見すると、人を待っているように見えるだろう。


 しかし、実際には壁伝いに微かな振動を察知し、真多子の様子を窺っているのだ。


「……反応無し、特に異常はないか……?」


 壁のひんやりとした、冷たく堅い感触だけが掌を伝う。

 僕の熱がじんわりと奪われていくのを感じていると、ほんの僅かにだが反応が返って来た。


「きた……!! 合図二回、警備は二人か。 続きは無し、上がっても良さそうだな」


 偵察に向かった真多子からの秘密のメッセージ。

 昔から取り決めていた僕達だけが理解する符牒だ。


 それに従い、僕はそっと抜き足差し足で階段を登っていく。

 どうやらこの階段は三階までしか無いようで、頭上を見上げてもすぐに天井が広がっていた。


 踊り場を抜けて最後の段に脚を駆けると、半身だけそっと覗かせて廊下を見やる。


(ここを抜けるしかないようだが……やはり警備がいるな)


 奥の方に扉が見えており、その両脇を挟むように屈強そうな男たちが並んでいる。


 あの体格からして、雇われた魔人類(キマイラ)だろうか。

 真っ向からやり合っても勝ち目は薄そうだ。


 それを確認すると、突然耳元に囁き声が語り掛けて来る。


(どうするの、コーちゃん? お仕事の人は皆あそこに入って行ったよ)


(真多子か……そうだな、僕達も入るしかないだろう)


(ならやっちゃう?)


(そうだな、一人釣ってみる。 真多子は奥の方をやってくれ)


(気を付けてねコーちゃん)


(お互いにな)


 耳に掛かる生暖かい息が無ければ、僕も妄想と会話しているのだと錯覚してしまいそうだ。


 少しの間じっとして、真多子が移動する時間を堪えると、僕は意を決して廊下に出る。


「あれ? ここはどこだろう……? あっ、すいませーん! ちょっといいですかー?」


 誤って迷い込んだ一般人を装い、奥にいる警備へ大きく手を振る。

 余程のことが無ければ、素直に応じてくれるだろう。


 案の定、向こうにいた男たちが顔を見合わせると、片方が頷いて持ち場を離れた。


(釣れた!)


 ここまでは目論み成功である。

 僕はそのまま困ったようにキョロキョロと周囲を見渡し、警備の一人が近付くのを待った。


「お客さん? ここは一般人立ち入り禁止だよ……」


 男は呆れたような声色で僕に声を掛けた瞬間、奥の方で苦しそうな呻き声が木霊する。


「ン゛ン゛!!!!」


「なんだッ!?」


 持ち場を離れていた男は、その不審な声に驚いて咄嗟に振り向く。

 しかし、彼の目に映ったのは、まるで金縛りにでもあったように身体を硬直させた同僚の姿。


 身動ぎ一つも出来ずにわなわなと震えている、なんとも不気味で奇怪な光景。

 目を疑うような不遜の事態に、客のことなど頭から抜け落ちてしまっていた。


 もはや何が起きているか理解するのに時間がかかり、真っ白な思考になっていることだろう。


「え? えぇ……!? お、おいどうしたん、むぐッ!?」


「悪いけど、少し眠ってもらうよ」


 僕は彼の油断した隙を見逃さず、長手甲を外した掌を鼻と口へとあてがう。


 真多子ほどではないが僕もタコの特性を持っている、その数少ない場所が掌だ。

 その吸盤で呼吸器を同時に塞ぎ、相手が驚き息の飲む瞬間に吸い取った。


 息をしたいと呼吸体勢に入った肺。

 しかし吸うどころか空気を吸引されて真空状態が発生し、彼の脳が防衛本能で一時的に休眠状態へと移ってしまった。


 いかに屈強な身体と言えど弱点はある。

 急所を突けば、この通り非力であろうと巨体を転がすことも可能なのだ。


 僕はこれをCQC(シーキューシー)(吸盤塞ぎ格闘術:Close Q-BAN Combat)と呼んでいる。

 油断した相手限定の奇襲技だが、極まれば成す術は無い。


 恵まれない身体だからこそ一生懸命編み出したのだ。


「そっちも終わったか」


「うん、バッチリ!」


 奥の方を見ると、筋肉の塊であるタコ腕を巧みに操り、大男を締め上げてのした真多子の姿があった。


 彼女はその腕で物理的に呼吸器を閉めたらしい。


「ちゃんと生きてるよな……?」


「も~手加減くらいしてるよ! ちょっと痣は残るかもしれないけどね、えへへ」


 なるほど、見れば確かに吸盤の痕が首筋に沢山付いている。

 暴れても離せない脅威の絞首技、相棒ながら恐ろしい。


 圧倒的パワー、魔人類(キマイラ)の本領発揮といったところだろう。

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