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軟体魔忍マダコ  作者: ペプシンタロウ
第二章~中央事変~
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ヌルリと抜け出し諜報活動

マダコちゃんの私服はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=156623

 まるで閉じ込めるためだと言わんばかりに重苦しい扉の先は、想像していたよりもずっと華やかな雰囲気が広がっていた。


 中央には大きな円卓とその周りを囲む四つ脚の椅子。

 肘掛が机の下へ隠れているが、その上に見えている背もたれの丁寧に作り込まれた装飾から座り心地も期待できる。


 窓際にはフカフカのクッションが添えられたソファーもあり、窓から差し込む陽を浴びて寝心地が良さそうだ。


 天井には平べったいシャンデリアと、床には足音も殺すような分厚いカーペット。


 とにかく豪華で贅を尽くす綺麗な部屋。

 うちの国の官邸ですら、この部屋の足元にも及ばないだろう。


「うわぁ~!! すっごいねコーちゃん!! アタシ、こんなおとぎ話みたいな所初めて来たよ~!!」


「あんまりはしゃぐなよ……って、どうせ外には漏れないか」


 ここまで見た限り、壁も相当に分厚そうだ。

 防音設備はバッチリであり、人目を気にする話も安心してできる場所なのだろう。


「ねぇ見て見て! 外にあったヘンテコな像も沢山見えるよ! 背中、あんな風になってたんだね~」


 部屋に入るなり早速、太陽でポカポカに温まった窓際のソファーへ真多子(マダコ)が飛び込む。

 陽に照らされているのに埃の一つも立たないところを見るに、かなり手入れをしてあるようだ。


「象か。 そういえば、この会社の周りは建物がほとんど無いんだよな」


 この天にまで届きそうな高層の建物。

 そこに入る人の交通手段である馬車な車を置いておく駐車場が足元へ広がっている。


 そのため、周りの屋根を伝っての潜入も許さず、窓越しに中を監視することも難しい。

 観光客が入れるのも精々この応接室くらいまでで、上では何をしているかなど誰も分からないのだ。


「まぁでも、かえって好都合だな。 真多子、その窓って開くか?」


 周りからのセキュリティは堅くとも、内側から悪さするとは思わないだろう。

 周囲の目が無いのであれば、なおさら悪さしやすいというもの。


「ちょっと待ってね。 う~ん、どっち開きかな……あっ開いた!」


 取っ手の見当たらない窓。

 ハメゴロシだろうかと心配だったが、庇のように下からすくい上げて窓が開く。


「ありゃ? ここまでしか開かないみたい……?」


 しかし斜め45度くらいまで開くと、そこで窓は止まってしまった。

 どうやら人や物が落ちないように細工がしてあるらしい。


「なるほど、窓の外はどうなってる? 降りれそうか?」


「うんとね……何もないよ~。 一階までずぅっと壁と窓が続いてる~!」


「足場は無しか……」


 真多子が窓に顔を押し付け、なんとか下を見ようと試みてくれた。

 きっと向こうからみたら面白いことになっているだろう。


 小柄な真多子があの様子だと、普通の人がここから抜けるのは到底無理だ。


 物理的に破壊していくしかないが、そんなことをすれば一階の門前にいる堅円谷(カタツムラヤ)が飛んで来るだろう。

 受付嬢のところに入り浸ってなければの話だが。


 今から戻って根回しをするのも怪しまれるだろうし、それは今のところ後回しにしておく。


 確認した足場の方も、そちらは流石に無いだろうと期待していなかった。

 あれば鳥系の魔人類(キマイラ)にどうぞ入ってくださいと言っているようなものなのだから。


「ねぇコーちゃん、この部屋にもさっきの穴みたいなのあるかな?」


「あの点検口か? あれば確かに手っ取り早いな」


 真多子がソファーから身体を起こすと、右側の壁をペタペタと触り始める。

 それでは音が響かないだろう。


「僕がやるよ、どれ……」


 指の節でコツコツと壁を叩いてみるが、まるで手応えを感じない。

 とにかく堅く分厚いただの壁面といった感じだ。


「どう? 何かありそうかな?」


「いや……流石に地下と違って、こっちにはなさそうだな」


 そもそも工場地帯と違って、こちらは生活するためのスペースだ。

 水場も遠いし、壁に何かを埋め込む理由も無いだろう。


「う~ん、ならどうしよっか? あのドアだと耳を当てても、なんにも聞こえなそうだもんね。 あれが障子だったらな~」


「いや、もう一か所、耳を立てられる薄い部分があるぞ」


「えぇっと……天井?」


「残念、外れだ。 答えはさっきの窓」


 僕は半端に上がった窓の方を指差した。

 新鮮な空気が入り込み、なんとも心地良い。


「軟体魔忍のお前なら、あれくらいの隙間簡単に抜けられるだろ?」


「あぁなるほど! 任せて~!」


 僕の苗字、風間(カザマ)姓は『狙った獲物は風吹く隙間にも怯えだす』と謳われている。

 ただしほとんどは先代頭目、僕の親父殿の功績なのだが。


 しかし、その親父殿に直接師事されていた真多子も、その暗殺術に長けている。

 こういったほんの少しの隙間さえあれば、潜入なんて朝飯前なのだ。


「壁を伝って向こうの窓に耳を立ててくれ。 出来れば相手方の姿身も簡単に記録してくれるとありがたい」


「おっけ~!」


 そう言い残すと、真多子は周囲に身体の色を同化させていく。

 服だけはそのままなので、空中に浮かんでいるようだ。


 真多子の身体が消えると、宙に浮いた服がもぞもぞ動き、その場に落ちる。

 服を脱いで産まれたままの姿になったのだろう。


 タコの保護色能力を持つ魔人類(キマイラ)だからこそできる、天然の光学迷彩だ。


 僕が落ちている服を拾い集めると、窓の方がガタと音を鳴らす。

 タコらしく身体の柔らかさを活かして、隙間を抜けて外へと出たのだ。


「鳥も鼠も寄せ付けない堅牢な城だろうと、タコは追い払えなかったようだな」


 彼女の成功を祈りつつ、僕は怪しまれない様にくつろぐフリのために円卓へと向かった。

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