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軟体魔忍マダコ  作者: ペプシンタロウ
第二章~中央事変~
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便意の果てに

マダコちゃんの私服はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=156623


星美ちゃんの私服はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=49772

「うぷ……もう無理だ……」


 なんとか時間を稼ごうと粘ってはみたが、30分と経たずトイレから飛び出した。

 こんな生き地獄、ただの拷問じゃないか!


 入る前よりも明らかに焦燥した表情で、外の空気を目一杯に肺へ取り込む。

 男衆の汗ですえた臭いだが、後ろの猛毒ガスより何倍もマシだ。


「おぅ、タコロウ。 随分スッキリしたみてぇじゃねぇか」


「ハハ……」


 むしろゲッソリなのだが。

 しかし僕のことを思って良かれと連れて来てくれたのだ、文句を言うつもりは無い。


「もう大丈夫、みんなの所へ戻ろうか……」


「そうっスね~。 まぁ体調も優れないみたいッスから、やっぱりこのまま帰った方がいいと思うッス~」


(やっぱりだ。 どうも僕達を帰らせたいらしいな)


 もしくは、本当に親切なだけかもしれない。

 だがどうにも嫌な予感が僕の頭の中に渦巻くのだ。


 拭い切れないこの不安をどうにかするには、実際に確かめて白黒着ける他にない。


 死に物狂いで稼いだこの数十分で、星美(スターミー)が情報を掴んでいることを祈ろう。


 トイレに篭ったせいでぐったりとした僕は、再び兄貴達に担がれて入り口へと戻る。

 すると、分かれた時と同様に真多子(マダコ)達がそこに待っていた。


「遅かったね~もう大丈夫なのコーちゃん?」


「ふぅ……まぁ一応ね、一応」


「ウチに来る新人はあのトイレで腰抜かすのがお決まりッス。 お客さんもこの通りッスね~」


「イエース! タコロウは腰抜けどころか腑抜けデス! まだまだ情けない姿がおがめマスヨ!」


 生意気な声が上がったと思い目を配ると、随分と上機嫌な星美が胸を張っていた。

 この様子だと、偵察任務は上々な出来だったのだろう。


 僕は少しだけ安堵して息を吐くと、兄貴達に借りていた腕を下ろす。


「腰抜けと腰を抜かすのは別問題だろう。 お前だってあそこに入れば失神して、頭上に星が踊るさ」


「マジかよ、そんなに酷ぇのかあそこ……俺は入らなくて良かったぜ」


 結局僕が占有していたから兄貴には尿意を我慢してもらったが、あんなところ入らなくて正解だろう。

 一人の尊厳を守れたと思うと、あの苦痛が少しだけ和らぐ。


「それにしても、随分と待たせちゃったね。 僕は済ませたけど、みんなは大丈夫?」


「アタシ達は元から平気だよ~」


「お姉さまに同じデース!」


「オレもタコロウの話聞いて、引っ込んじまったぜ。 それにどうせなら上の綺麗な設備を拝みてぇしな」


 それとなくトイレの話題を振っておいたが、実際のところは星美が分身を戻したかを確認していた。

 彼女もそれに気が付いているらしく、ウィンク混じりに返している。


 となれば、ここにはもう用は無いだろう。


「よし……せっかくの案内で申し訳ないけど、そろそろ上に戻ろうか。 兄貴もいいよね?」


「おう。 ここからじゃ、どうせ何も見えねぇしよ」


「そうっスか。 ではここでお別れっス~」


 クマの深い作業員は、せいせいしたとばかりに軽く手を振り見送る姿勢。

 営業も兼ねた案内だろうに、引き止めもしないのか。


 しかし、その本心もすぐに分かる。


「それではお世話になりました」


 軽く会釈してその場を後にすると、またあの長い通路へとぞろぞろ並び歩きだす。






 いくらか歩き、周囲に人の気配がないと確認してから星美へ声を掛けた。


「それで、どうだったんだ?」


「オフコース! もちろんバッチリこの眼で見まシタ! 決定的な証拠デース!!」


 パチリと瞬きして強調した彼女の目には、曇り一つ無い自信が満ち溢れていた。


「え? なんの話? 二人だけの秘密なんてずる~い!!」


 僕達のやりとりと横で見ていた真多子が、すかさず口をはさんで来た。

 そういえば、話していたかったな。


「だって、お前は嘘つけない性格だろ? さの作業員にバレたら困るんだよ」


「でもお姉さまのそういうところが魅力なのデース!」


「え~! 二人共、アタシのこと信用してなさすぎじゃない!?」


 むしろ絶対バレるという信用は高い。

 それは兄貴も同意らしく、うんうんと頷いていた。


「まぁ話がちょっと脱線したね。 まず、どうもあの作業員が怪しかったんだ。 それで星美に発電機を調べてもらったのさ」


「そこでミーが見た物とは! ズバリ、爆弾デース!」


「え~!? 爆弾があったの!?」


「見間違いじゃねぇのか? あいつら復旧作業してるんだろ?」


 兄貴はさも当然な疑問を口にする。

 しかし、それでも星美の自信は変わらない。


「ノープロブレム! ちゃんと目だけではなく、この耳でも聞いてきまシタ! 『バクダンはこれくらいでいいか』って!」


 その言葉に一同唖然となる。

 間違いなく決定的な証言だったからだ。


「つまり……また停電騒ぎを起こそうとしてるのか、あの悪党共」


「悪党ねぇ……そういやぁ、ずっと気になってたんだがよ。 あの兄ちゃん、どっかで聞いた声だったんだよな。 たしかあの晩の時だ」


「それって、アタシ達の蒸気屋台が襲われた時のこと?」


「それだよ兄貴! 僕もようやく思い出した! 顔を見てない運転手、それが彼だったんだ!」


「あ~言われてみりゃ、そうかもしれねぇな」


(これでだんだんと繋がって来たぞ。 やはりあいつらは何か企んでいる。 しかもまた大規模な事件らしい)


 しかし、このことをどうやって周知すればいいのか。

 立ち入りできない区域のことをガネー社へ伝えるわけにもいかないだろう。

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