便意の果てに
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「うぷ……もう無理だ……」
なんとか時間を稼ごうと粘ってはみたが、30分と経たずトイレから飛び出した。
こんな生き地獄、ただの拷問じゃないか!
入る前よりも明らかに焦燥した表情で、外の空気を目一杯に肺へ取り込む。
男衆の汗ですえた臭いだが、後ろの猛毒ガスより何倍もマシだ。
「おぅ、タコロウ。 随分スッキリしたみてぇじゃねぇか」
「ハハ……」
むしろゲッソリなのだが。
しかし僕のことを思って良かれと連れて来てくれたのだ、文句を言うつもりは無い。
「もう大丈夫、みんなの所へ戻ろうか……」
「そうっスね~。 まぁ体調も優れないみたいッスから、やっぱりこのまま帰った方がいいと思うッス~」
(やっぱりだ。 どうも僕達を帰らせたいらしいな)
もしくは、本当に親切なだけかもしれない。
だがどうにも嫌な予感が僕の頭の中に渦巻くのだ。
拭い切れないこの不安をどうにかするには、実際に確かめて白黒着ける他にない。
死に物狂いで稼いだこの数十分で、星美が情報を掴んでいることを祈ろう。
トイレに篭ったせいでぐったりとした僕は、再び兄貴達に担がれて入り口へと戻る。
すると、分かれた時と同様に真多子達がそこに待っていた。
「遅かったね~もう大丈夫なのコーちゃん?」
「ふぅ……まぁ一応ね、一応」
「ウチに来る新人はあのトイレで腰抜かすのがお決まりッス。 お客さんもこの通りッスね~」
「イエース! タコロウは腰抜けどころか腑抜けデス! まだまだ情けない姿がおがめマスヨ!」
生意気な声が上がったと思い目を配ると、随分と上機嫌な星美が胸を張っていた。
この様子だと、偵察任務は上々な出来だったのだろう。
僕は少しだけ安堵して息を吐くと、兄貴達に借りていた腕を下ろす。
「腰抜けと腰を抜かすのは別問題だろう。 お前だってあそこに入れば失神して、頭上に星が踊るさ」
「マジかよ、そんなに酷ぇのかあそこ……俺は入らなくて良かったぜ」
結局僕が占有していたから兄貴には尿意を我慢してもらったが、あんなところ入らなくて正解だろう。
一人の尊厳を守れたと思うと、あの苦痛が少しだけ和らぐ。
「それにしても、随分と待たせちゃったね。 僕は済ませたけど、みんなは大丈夫?」
「アタシ達は元から平気だよ~」
「お姉さまに同じデース!」
「オレもタコロウの話聞いて、引っ込んじまったぜ。 それにどうせなら上の綺麗な設備を拝みてぇしな」
それとなくトイレの話題を振っておいたが、実際のところは星美が分身を戻したかを確認していた。
彼女もそれに気が付いているらしく、ウィンク混じりに返している。
となれば、ここにはもう用は無いだろう。
「よし……せっかくの案内で申し訳ないけど、そろそろ上に戻ろうか。 兄貴もいいよね?」
「おう。 ここからじゃ、どうせ何も見えねぇしよ」
「そうっスか。 ではここでお別れっス~」
クマの深い作業員は、せいせいしたとばかりに軽く手を振り見送る姿勢。
営業も兼ねた案内だろうに、引き止めもしないのか。
しかし、その本心もすぐに分かる。
「それではお世話になりました」
軽く会釈してその場を後にすると、またあの長い通路へとぞろぞろ並び歩きだす。
いくらか歩き、周囲に人の気配がないと確認してから星美へ声を掛けた。
「それで、どうだったんだ?」
「オフコース! もちろんバッチリこの眼で見まシタ! 決定的な証拠デース!!」
パチリと瞬きして強調した彼女の目には、曇り一つ無い自信が満ち溢れていた。
「え? なんの話? 二人だけの秘密なんてずる~い!!」
僕達のやりとりと横で見ていた真多子が、すかさず口をはさんで来た。
そういえば、話していたかったな。
「だって、お前は嘘つけない性格だろ? さの作業員にバレたら困るんだよ」
「でもお姉さまのそういうところが魅力なのデース!」
「え~! 二人共、アタシのこと信用してなさすぎじゃない!?」
むしろ絶対バレるという信用は高い。
それは兄貴も同意らしく、うんうんと頷いていた。
「まぁ話がちょっと脱線したね。 まず、どうもあの作業員が怪しかったんだ。 それで星美に発電機を調べてもらったのさ」
「そこでミーが見た物とは! ズバリ、爆弾デース!」
「え~!? 爆弾があったの!?」
「見間違いじゃねぇのか? あいつら復旧作業してるんだろ?」
兄貴はさも当然な疑問を口にする。
しかし、それでも星美の自信は変わらない。
「ノープロブレム! ちゃんと目だけではなく、この耳でも聞いてきまシタ! 『バクダンはこれくらいでいいか』って!」
その言葉に一同唖然となる。
間違いなく決定的な証言だったからだ。
「つまり……また停電騒ぎを起こそうとしてるのか、あの悪党共」
「悪党ねぇ……そういやぁ、ずっと気になってたんだがよ。 あの兄ちゃん、どっかで聞いた声だったんだよな。 たしかあの晩の時だ」
「それって、アタシ達の蒸気屋台が襲われた時のこと?」
「それだよ兄貴! 僕もようやく思い出した! 顔を見てない運転手、それが彼だったんだ!」
「あ~言われてみりゃ、そうかもしれねぇな」
(これでだんだんと繋がって来たぞ。 やはりあいつらは何か企んでいる。 しかもまた大規模な事件らしい)
しかし、このことをどうやって周知すればいいのか。
立ち入りできない区域のことをガネー社へ伝えるわけにもいかないだろう。
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