地下での違和感
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巨大な送風機が回転しながら汗の臭いを掻きまわし、熱を持った機械の周囲に人が並んで工具を握る。
汗水が空気に混ざるせいか湿度は高く、もうもうと天井付近が白っぽくどよむ。
これではまるで鉱山だ。
せめてもの救いは、肺を埋める粉塵が無いことくらいだろう。
あまりにも過酷な環境下、とても人が満足に生きられるとは思えない。
中央の豊かなインフラを支える裏には、こんな世界が隠されていたとは思わなかった。
「いや~、ここのところ夜通し修復作業の連続なんスよ。 ここにいるみんな、ほとんど家に帰れてないッス~」
言われてみると、この案内してくれている作業員も目の下のクマがすごいことになっている。
彼も何徹もしているのだろう。
妙にフラフラとした千鳥脚だと思っていたが、どうやら睡眠不足の影響らしい。
下着も着けずに白衣を羽織っているのも、着替えがもう無いに違いない。
それにしてはイラついたり自暴自棄になったりなどの精神面の不安が見えないが、元来の性格故なのだろうか。
「なんか……大変な時期にお邪魔して悪かったですね……」
「いやいやとんでもないッス! おかげでこっちは堂々とサボれてるッスから」
頼りなさそうに見えて、意外と要領良く力を抜いているらしい。
ここでぶっ倒れず仕事を続けるには、これくらい図太くなければいられないということか。
「んで、遠くに見えるのが発電機ッス。 本当はあの丸い建物の中にあるんスけど、生憎とここからじゃ見えないッス」
「まぁ、元々遠くからしか見えないと説明は受けてましたから」
「オレ様としちゃぁ、是非とも拝んでおきたかったがなぁ。 クソッ、こっちからでも無理か」
深角の兄貴はどうにかチラとでも見えないかと、アチコチ頭を振って試行錯誤している。
どこから見ようと、見えないものは見えないのだが、それで諦めるような男じゃない。
そういうところが兄貴らしい。
だからこそ、自力で蒸気機関を作り出せたのだけど。
「あと何か見たいものはあるッスか? 女の子達はもう限界みたいッスけど」
「……え?」
作業員に言われて振り返ると、真多子と星美が口と鼻を押えて悶絶している。
溢れんばかりの漢臭が満ちるこの空間は、彼女達には刺激が強すぎたのだろう。
僕は兄貴が作業場に篭った時の世話で慣れているから、そこまで辛くはなかったのだ。
兄貴は言わずもがな。
ようやくハッとなって、少し彼女達への配慮が足りていなかったと反省する。
「す、すまん真多子! そうですね、とりあえずどこでもいいので移動しましょう」
僕の意見に賛同するように、涙一杯の目を絞り女子二人組も頷いた。
「あぁ? もう行っちまうのかよ」
唯一機械弄りに興味のある兄貴だけは不服そうな声をこぼす。
兄貴からしてみれば、女関係以外でこの国に来た一番の目玉だものな。
「女を泣かせる男はモテないッスよ~?」
「チッ……まぁ肝心の中身は見えねぇし、しゃぁねぇか」
「ウッス。 ならさっきの通路に戻るッス。 宿直室も似たような有様ッスから、外に繋がってる所が一番マシなんスよ~」
そう言いながら、作業員は僕達を押し戻すように腕を伸ばす。
実際、この空気のこもった空間ではどこも同じくらい悲惨な状況なのだろう。
とても観光するような状態じゃない。
「もし他に見る物が無ければ、そのまま帰ればいいッスから」
(うん……?)
ぞろぞろと出戻りながら、作業員の最期の言葉に引っ掛かりを覚える。
ほんの直感でしかないが確かに違和感を感じだのだ。
(あれだけ堂々とサボりたいと言っていたのに、どうしてすぐに帰そうとするんだ? まるで追い払うみたいだ)
サボりたいなら、もっとダラダラと無駄話や意味の無い所を連れ回すなりでもいいだろう。
しかし彼にそうする気などはまるで無いらしい。
そういえば兄貴が発電機に興味を持った辺りから、やたらソワソワしていた気がする。
臭いのことが恥ずかしいのかと思い気にも留めていなかったが、考えてみれば彼はそういう柄じゃないだろう。
それに帰るよう真多子達へ注意を向けて、口実を作ったのは彼の方からだ。
(機械の便利さに興味はあっても、機械の構造の方に惹かれる魔人類なんてまずいない。 だから兄貴を見て、急に態度が変わったのだとしたら……?)
もしかして、何か見られでもしたら不味いものでもあったのだろうか。
少し飛躍しすぎた僕の予想。
考えすぎかもしれないが、さっき通路の穴で聞いた悪党共の暗躍の件もある。
用心するに越したことはないはずだ。
早速、僕は悟られない様に小声で星美へと耳打ちする。
『声を上げずに聞いてくれ。 どうもきな臭い、分身を一人置いて動向を探ってくれないか? 子供一人くらいなら、いくらでも隠れられるはずだ』
ピクリと肩を跳ねて星美が反応する。
そのまま一瞬制止すると、肯定するように軽く頭を下げてくれた。
『よし、調べて欲しいのはあの隠された発電機だ。 何か怪しい物を見つけたらすぐ教えてくれ』
再び星美が静かに頭を下げる。
普段はツンケンした態度だが、こちらの真剣な空気を察してくれたのだろう。
やけに素直な返事で一安心した。
そうと決まれば、あの作業員の気を反らさなければ。
星美の分身はそう遠くまでは離れられない。
幾らか時間を稼ぐ必要があるだろう。
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