発電施設へ行こう
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運転席にいる深角の兄貴に声を掛けようと伝声管に振り向くと、そこには星美の姿があった。
僕と目が合った瞬間、ニタリと口角をいやらしく吊り上げて不敵に微笑む。
絶対に何かよからぬことを企んでいる顔だ。
「おい、まっ……!!」
待てと口にする前に、彼女は動き出してしまう。
手に隠し持っていた鉄パイプを伝声管へと叩き付け、強烈な振動を打ち放ったのだ。
『グワァァァン』
「ぐぉぉぉぉ!! んがぁぁぁぁ、耳が死ぬ!? おい誰だコンチクショウ!!」
当然ながら向こうにいる兄貴へは、反響して増幅された音が凶器となって襲い掛かる。
安らかな睡眠から地獄へと一気に叩き落したのだ。
「リッスン! 今のはタコロウデース!! オーご乱心デスヨ!! 怖いデース!!」
「違ッ!? おい、なに言ってるんだよ!!」
「てめぇ、タコロウ!! オレ様にいったい何の恨みがあって、こんな仕打ちしてくれてんだよ!!」
「だから違うんだってば兄貴!!」
なんてことをするんだ、このお転婆娘。
間違っても僕がこんなことするわけないだろう。
普段から兄貴を尊敬し、常に慕っているというのに。
僕が真多子と少しでも良い雰囲気になるとすぐこれだ。
兄貴も八つ当たりに巻き込まれて可哀想じゃないか。
「ノーゥ! 絶対にタコロウがやりマシタ!!」
「違うって、信じてよ兄貴!!」
「だぁぁもう、うるせぇ! これ以上騒ぐなっつの! くぁ痛ぇ~……なんだ? おいタコロウ、さっきのヤツが手招きしてんぞ? 着いて来いってことか?」
先頭へ向かったカタツムリの男のことだろう。
説明する手間が省けたようだ。
「あ、そうだよ兄貴。 観光窓口に案内してくれるみたいなんだ。 たぶん、先にこの屋台を停める駐車場に行くと思うけどね」
「ふわぁ~ぁ、まぁ何でもいいぜ。 とりあえず走らせっから、お前ぇら座って大人しとけな。 今度こそ本当に誰かを轢いちまうからよ」
「うん、頼んだよ兄貴」
「特にスターミーとタコロウはな。 マダコはそいつらをちゃんと捕まえとけよ」
「おっけ~任せて、フカくん」
「兄貴!?」
僕が予想していたよりも、兄貴からの信頼は薄かったらしい。
真犯人の星美と一緒に真多子の腕に捕えられ、三人仲良く座席に座ることになってしまった。
骨の無い柔軟なタコの腕でグルグル巻きにされてしまうと、もう常人の力ではどうしようもない。
グゥの音も出ないので、真多子を挟んだ反対側にいる星美を睨み付けるのが精一杯であった。
「ツーン! ミーは悪くないデース!」
「どの口が言うんだ、まったく……」
「もう、二人共仲良くしてってフカくんにも釘刺されたでしょ。 一緒にごめんなさいして、仲直りしよ?」
(グヌ……真多子に、とうとうこんなお子様と同レベルだと思われてしまった……!! おのれガキンチョ!)
流石に真多子の目があっては、お互いこれ以上の諍いはできない。
渋々とだが、喉元まで出ていた二の句を飲み込む。
内心ブチ切れながらも、怒りで痙攣した顔をなんとかつくろい、ぎこちない笑顔を二人で見合わせるのであった。
じっと三人で座りながら会話をしていると、地面を叩く車輪の音が変化した。
次いで窓から差し込む光が途絶え、車内が薄暗くなる。
どこか屋内へと入ったのだろうか。
程なく車体が僅かに揺れて、外から余剰な蒸気を吹き出す音が聞こえて来る。
停車の合図だ。
「着いたみたいだぜ。 つっても、タコロウの言う通りまだ駐車場みてぇだがよ」
伝声管から兄貴の声が響く。
かと思うと、先頭の方でドアを閉める音がした。
きっと運転席から降りたのだろう。
「真多子、もういいだろ? 僕達も降りよう」
「そうなの? はい、どうぞ!」
タコの腕に包まれていた拘束が解かれ、ようやく自由の身となった。
身体に吸盤の痕が付いているが、ご愛敬。
自由に動けるって素晴らしい!
首を左右に傾け、軽くストレッチすると血の巡る音が聞こえて来る。
ずっと同じ姿勢を強制されるのは、なかなかに堪えるものだな。
「お~い、遅ぇぞお前ら! なにチンタラやってんだ!」
ゴンゴンと後部扉を叩く音。
先に降りていた兄貴が、痺れを切らしたらしい。
「ハリーハリー! 一番遅い人がさっきの犯人デース! 行きましょうお姉さま!」
「おい、また蒸し返す気かよ! 負けるか!!」
「わわわ、二人共引っ張らないで~!」
僕と星美、互いに一番最後を押し付けようと真多子の手を取った結果、3人4脚状態で蒸気屋台を飛び出した。
「うわっ兄貴!?」
「ぶごっ!?」
勢い余ったせいで、扉の前にいた兄貴をぶちのめす。
一方、脚のもつれた僕達はまとめてその上へ覆いかぶさる形になってしまった。
「ぐぉぉ……重いから早くどけって、なんでオレ様ばかりこんな目に……」
将棋倒しの一番下敷きにされた兄貴は相当苦しいのだろう。
青い顔して、自慢のリーゼントまでへたっている。
「やぁどうもみなさん。 元気があるようで何よりです。 そんなに僕の大事な人が見たかったんですか?」
地べたに伏せた僕達が一斉に見上げると、そこには堅円谷と名乗った男の姿があった。
屋内まで乗っていくつもりなのか、彼はまだカタツムリから降りていない。
「さぁ行きましょう、みなさん! 彼女を待たせるわけにはいきませんからね」
こちらの都合はお構いなしなのか、クルリとその場で反転するとそのまま行ってしまった。
「ちょっと、待ってくださいってば! ほら、兄貴も早く起きて!」
ボロボロになった兄貴の肩を担いで起こす。
向こうは徒歩のペースをまるで考慮していない。
人のことなど頭に無い案内人へと、なんとか追い付くために駆け寄っていのであった。
しばらくすると、ようやく受付口が見えて来た。
ビルが大きければ、駐車場まで大きいのだから困ったものだ。
ここまで走るのも一苦労である。
電気で動く自動ドアを抜けると、これまた電気で輝く電灯に出迎えられる。
薄暗い駐車場と一転して、目が眩むような光量で思わず目を細めてしまった。
「ようこそ、庇護本が誇る大企業の本社、ガネー社ビルへ。 小太郎御一行様、お待ちしておりました」
目が慣れて来ると、フロアの真ん中に女性が一人立っているのに気が付く。
彼女が例の観光窓口の人なのだろうか。
「どうです皆さん! 我が社が誇る受付嬢の滑公事ちゃんです! かっわいいでしょ~!」
「ちょ、ちょっと! あなた、また来たんですか!? あなたは自警団だから当社と関係ないですし、勝手に持ち場を離れないでください! それに、乗り物厳禁っていつも言ってるでしょう!」
フロアで出迎えてくれた女性は、堅円谷を見たとたんに血相を変えて早口にまくしたてる。
もう慣れた口上なのだろう。
彼女の苦労が推しはかれる。
「あ、あの~見学を……」
「きゃっ! すみません、お客様!……ほら、あなたは帰ってください!」
「そんな~滑公示ちゃん冷たい……うぅ、みなさんお元気で。 また玄関で会いましょう……しょぼぼん……」
勝手に二人で盛り上がられても、僕達には関係ない。
なんとか話を切り出そうと声を掛けると、警備の彼をバッサリと切り捨て対応に戻ってくれた。
真多子だけは律義に分かれの挨拶として手を振っている。
本当になんだったんだあの人。
「こほん……それで小太郎様御一行は、どんな見学を目的としていらしたのですか?」
「あまり決めてはいないけど、まずは発電施設かな。 なんでも、この国のほとんどの電気を作っているのだとか」
本当の目的自体は人探し。
だが居場所の検討もつかないので、ともかく数を当たるしかない。
そこで、まず頭に浮かんだのが発電施設だった。
懐に忍ばせた巾着、この中身が盗まれる原因となった事故はここで起きたのだ。
「まぁ! ご存じでしたか! そうなんです、我が社はこの国の心臓、その発電機を保有する企業なのです! 厳重管理のため接近は出来ませんが、遠目からでしたらご覧になれますよ」
「では是非お願いします」
事故のことで警戒されてるかと思ったが、案外そうでもないらしい。
受付嬢は嬉しそうに案内の手続きを行ってくれた。
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