中央の歪な裏の顔
今回は真多子ちゃん達は出てきません。
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勝堀円稼は懸命に走りながら、つい先程のことを思い返す。
初めは本当にただの偶然だった。
目的こそあったものの、まるで探す当てもなく彷徨い行き倒れてしまったのだから。
気が付けば、暖かい服と寝床、そして久々に口にした熱のある食べ物が用意されていた。
あれは本当に素晴らしかった。
人の温もりがこんなにも心地良いものなのかと、感動して涙が零れるかと思ったほどだ。
しかし育ちの悪い自分では、どうお礼を言ったらいいのか気の利いた言葉一つ浮かばなかった。
彼らはあまりにも親切で優しく、居心地が良すぎる。
あれは毒だ。
あんな空気にずっと触れていたら、きっと自分は変わってしまうに違いない。
つい身の上話なんてツマラナイことを口にしてしまったのが良い例だ。
あの時、巾着の話が出ていなかったら危なかっただろう。
自分の使命をなんとか思い出すことが出来たのだ。
だから鉄の馬車の荷台から飛び降りると、間抜けな田舎者に言葉を吐き捨てていった。
優しい彼らを騙した自分に言い訳するために。
少しでも自分の非が軽くなれと願いながら。
こんなに罪悪感というものを感じたのは初めてだ、もうあんな気分になりたくはない。
「ハッ……ハァッ……!! それも、コイツさえ渡せば気にしなくなるにゃ」
ここまで走り続けて、魔人類の身体といえども息が上がる。
身体が丈夫なだけが魔人類の長所なのに、こんな体たらくで情けない。
遊郭のみんなに笑われてしまう。
握りしめた巾着、これを渡せば借金は帳消し。
そして、クソッタレのこんな街ともおさらば出来る。
救いの手を差し伸べてくれたあの人達は、アタシにそう約束してくれたのだ。
「ハァッ、ハッ、ハ……ふぅ。 流石にこれでもう追ってこれないにゃろ」
背の高いビルが立ち並ぶ裏路地。
電気がなければ一切の明かりもない、薄暗くシケた場所。
その冷たい壁にもたれかかって身体を冷やす。
表に見える煌びやかさだけがこの国の顔ではない。
繁栄の裏にはこうした暗い影があり、それもまたこの国の一部。
そして自分は、その影で生まれて育った野良猫なのである。
この中央、『庇護本の国』は歪だ。
コンプレックスと嫉妬の塊ともいえる。
ここに住む純人類達は非力で虚弱、彼らが束になっても魔人類には敵わないだろう。
そんな魔人類が『守ってやる』と檻を作り閉じ込めているのだ。
庇護の本だなんて笑い種である。
文句も言えず、反抗もできない。
こんな鬱屈した状況、歪んでも仕方が無いだろう。
だから、彼らにはその捌け口が必要だった。
それが『遊郭』だ。
思い出したくも無い、クソッタレなアタシの産まれ育った故郷。
入国は出来ても、普通は居住が許されていない魔人類の唯一住まう場所でもある。
もちろん表向きには存在しない場所であり、外部から来た魔人類達は知らないはずだ。
いや、黙認して見て見ぬフリをしているのかもしれない。
いつもは正義面する転生者達ですらダンマリだ。
誰もあの糞溜まりみたいな世界から救い出そうなんてしないのだから。
巾着の話を持ち掛けて来た、あの人達を除いて。
「寒いにゃ……さっきはあんなに温かかったはずにゃのに。 早く来てほしいにゃす……」
手元の巾着だけは、不思議と今もなお温かい。
少し、ほんの少しだけ手渡すのが惜しいと思ってしまった。
こんなに名残惜しいのも、遊郭で人の温もりを知らないせいだろう。
あそこにいる彼女達は皆、力を出せないようにマタタビやクスリなどで中毒になっている。
非力な純人類達が、安心して捌け口にするためだ。
だから同族といえども、まともに会話できるヤツは少ない。
子供といえど、早ければ同じように堕落してしまうのも珍しくはなかった。
そんな環境なものだから、親の顔すら知らず一人で生きていくしかなかった。
アホになったフリをして騙したり、ともかく正気でいることを意識する毎日。
一度でも堕ちれば、信じていた友人すら別人へと変わるのを目にしてきたのだ。
早くこんなところから抜け出したかった。
未練なんてもう無い。
親も友人も、繋がりなんて何もないんだ。
「にゃ……?」
暗い路地裏でじっと待っていると、通路の奥から複数の足音が木霊した。
遠くの小銭も聞き逃さない自慢の耳を澄まして、注意深くそれらを聞き分けていく。
ヒールが路を叩くコツコツとした堅い音、安っぽく千鳥足の不規則な音、そして上等な革靴らしい規則的な音だ。
目を細めて凝視すると、闇の中に三人の人影が浮かび上がって来る。
「おやおやおや、今回の人選は当たりだったようじゃないかい? やるじゃないのさ、スクイラー。 ゲソッキー、あんたも見習いなよ」
「うぃっす! さっすがッスね~せんぱ~い! おれ、尊敬するっすわ~」
「ハッ! 光栄でありますイカージョ様。 此度はかなり慎重に選定しましたからな」
白い衣装を着込んだ、男女三人組。
アタシに巾着の話を持ち掛けて来た人達だ。
「待っていたにゃす! コレでいいんにゃろ? 約束通り、アタシを自由にしてくれにゃ!」
白、誠実な色。
頭まで色欲に染まったピンク色の遊郭では、輝いて見えるほど眩しい色だ。
それに、あのクソしかいない世界で、対等に会話してくれるというだけでも信頼に値した。
きっと彼らならアタシの願いを叶えてくれるはず。
堪え切れずに、要件をすっ飛ばして巾着を掲げた。
「ほっほ、まぁそんなに急かなくとも逃げはしませんとも。 この『救いの手』とも呼ばれたスクイラー、約束は違えませんぞ」
大柄で筋骨隆々の白髪紳士、スクイラーが巾着を受け取った。
片眼鏡を掛け直し、その手に握る重さを確認しているようだ。
この人のお眼鏡に適って、使命を任されたのだ。
アタシの能力を買ってくれたこの人には感謝している。
「しっかし、ガネー社ビルの件は大変だったそうだねぇ。 あたしゃ、あんたが可哀想で仕方がないよ。 これであんたを手助けできるってわけさね」
イカージョと呼ばれた、一番偉いらしい女性がアタシのことを気にかけてくれる。
借金を背負い、遊郭で困り果てていたアタシを見つけ出してくれた優しい人だ。
助けなんて誰もいないあの場所で、唯一といえるほどの味方を見つけた時は小躍りしたっけな。
「そうッスよね~。 あの厳重な警備の発電機が壊れるなんて、相当イカれた科学者の力でもないと無理ッスよ~。 この子が犯人なんてあるわけないっスわ~」
このヒョロっとしてる男は、なんかよく分からない。
一番若いらしいが、ともかく発言がふわふわしている。
「アタシのことをこんなに分かってくれるのは、皆さんだけにゃ……! ありがたいですにゃぁ!」
三人を拝むように両手を擦り合わせていると、老紳士スクイラーが咳ばらいで注意を集める。
「ウォッホン……えー、非常に申し上げ難いのですが、イカージョ様。 こちらは偽物のようですぞ。 まんまと掴まされたということですな」
「あら、そうかい。 仕方がないね、さっさと引き上げるよ二人共!」
「イカなるご命令も喜んでッス~!」
あれだけ親身に接してくれていた三人が、急に冷たい表情に変貌して踵を返す。
これは一体どういうことなのか。
「ちょ、ちょっと待つにゃ! あいつらの持っている巾着を盗んでくれば、借金をチャラに……」
「まだいたのですか。 聞いたでしょう、あなたは間違った物を盗ってきたのです。 約束を違えないスクイラーですが、これでは救えませんぞ」
「そ、そんにゃ!! 話がちがうにゃす!!」
「悔しかったら、また盗んでくればいいでしょう。 それでは失礼……」
そう言うと、老紳士はアタシの首根っこを掴んで大きく放り投げる。
そのまま壁に頭を打ち付けると、目の前が暗くなり視界が薄れていった。
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