黒猫が招いた不幸の身の上話
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あれだけ喧しかった元気はどこへ行ったのか。
円稼の声はどんどんと尻すぼみになっていく。
どうにも嫌な予感がしてきた。
僕達は、もしかしたらとんでもない厄介者を拾ってしまったのかもしれない。
「実は、借金を100億円ほど背負ってたりするのにゃ……てへ」
申し訳なさそうにしていた彼女は、一瞬凍りついたその場を誤魔化すかのように舌を出す。
一方僕達はそれで気を緩めるわけも無く、一瞬聞いたこともないような金額を耳にして固まっていた。
「100億円!? いや、流石に冗談だろ……? 冗談だよな?」
僕達の世界の通貨は『円』、転生者達が異世界で流通していたものを真似たものだ。
価値もほとんど同じである。
これは転生者達が文化を築くうえで、混乱を生じさせないためのものらしい。
この世界生まれの僕達からすれば、この通貨しか知らないのでよく分からない感覚ではあるが。
ともかく、その僕達でも日常では絶対に聞かないような単位がポンと現れ、度肝を抜かした。
「億って、え~と、一・十・百・千……おぉ~すごい大きい桁だね、コーちゃん!」
真多子は指折りしながら桁を数えていたが、途中で諦めたらしい。
腕も指も沢山あるんだから、そこで諦めるなよ。
もっとも、『億』という桁はそれだけ一般市民には馴染みの無いものなのだ。
「ホワット? お姉さま、借金とはなんのことデース?」
まだお子様の星美などは、そもそも借金というものを知らないレベルだ。
経済的に自立してない未成年なのだからしょうがないだろう。
「えっとね、自分のお金が足りない時に、誰かからお金を借りることだよ~。 ほら、出店通りの人も、ちゃんとしたお店を構える時には大きな金が必要になったりするでしょ? そういう時に使うものだよ、ミーちゃん」
「アンダスタンド! なるほどデース! オー、では! マドカはすっごい豪華なお店を建てたのデスカ!?」
真多子も出店通りへたまに店を出すから、通りから出世した人の話を聞いたことがあるのだろう。
例え話を交えながら、できるだけ砕けた説明をしてくれていた。
おかげで子供でもすんなりと理解できたようだ。
事のスケールの大きさに気が付くと、彼女は尊敬のまなざしを輝かせる。
その星美のキラキラと星の煌めくような無垢の視線に当てられ、円稼はそっと目を反らした。
「え、にゃはは……建ててはいないというか、むしろ壊したというかにゃ……ある意味、建てたというか建直したかもにゃす」
冷や汗と落ち着きのない仕草と、支離滅裂な言い訳。
見るからに、何か確信部分を隠している。
「壊したって……おい、もしかして犯罪でも犯したんじゃないだろうな。 罪人を庇うつもりはないぞ、逃げている途中なら自警団へ突き出すからな」
これから大事な任務を控えているのに、厄介ごとへ巻き込まれるのは御免である。
そもそも僕達は他国の私兵であるため、中央の犯罪に関わる気はない。
それは中央自警団の担当だ。
「んにゃ! それはちょっと失礼じゃニャいかにゃ!! 別に逃げているわけじゃニャいやい!」
「フ~ム? なら、どうしてマドカは倒れていたんデスカ?」
「ギクッ!?」
星美の素朴な疑問が図星だったのか、円稼の肩が跳ね上がり息を呑む。
どうやら『逃げていない』というのもウソらしい。
ニャんとも、いや、なんとも分かりやすい奴だ。
「逃げるは逃げるでも、愛の逃避行っだったりするのにゃ……てへ」
「本当は?」
まぁどうせこれも嘘なのだろう。
軽く小突くと、案の定すぐに吐いた。
「手っ取り早く稼ごうと、遊郭に居たんにゃが……安売りは損だし、馬鹿な客どもに気のあるフリして値を吊り上げていたら、本当に断れなくニャって……逃げ出したのにゃす」
遊郭、女の華を売る場所だったかな。
高い金を払って、動物耳のとびきり良い女を抱ける夢のようなところだという。
転生者や純人類には動物耳のある人が少ないから、特に魔人類が人気だったはずだ。
そんな噂を学生時代に聞いていたが、流石に未成年だったし行ったことは無い。
だが、男女のもつれは大体悲惨な末路を遂げるのが世の常だ。
それは金の繋がりしかない遊郭でも同じだったのだろう。
コイツは命があっただけ、まだマシな方か。
心中騒ぎなんて珍しい事じゃないのだから。
(しかしここまで聞く限り、本当にどうしようもないヤツだな……)
やはり面倒になる前に、その遊郭へと送り返すべきなのだろうか。
「あ~!! なんなんニャその呆れた顔は!! こっちだってただ逃げたわけじゃニャいやい! 探してるものがあったのにゃす!」
「探し物……それってどんなやつ? アタシ達にも探せるかな?」
「一緒に探してくれるのにゃ!?」
「お、おい……真多子。 あんまりコイツに肩入れするなって」
絶対にろくでもないことに巻き込まれるに決まっている。
優しい真多子につけ入って、危険に晒されてはたまったものではない。
ここは僕が堰となり頑としてでも止めなければ。
「肝っ玉の小さい男は黙ってろにゃす! 実はにゃ、アタシがガネー社ビルの発電施設に近付いた時のことにゃ。 いきなり発電機が爆発して、この国が一瞬真っ暗闇になってしまったのにゃす」
「ガネー社ビルって、あの一番デカイビルか」
「そうにゃよ、今はもう直っているにゃが……あの時は大変だったにゃす」
蒸気屋台の窓からもチラリと頭を覗かせている、一際背の高い建築物を指す。
僕の指につられて真多子達も一斉に視線を集めた。
「どれどれ、うわ~でっか~い!! まるで山みたい! 国主様の官邸よりずっとずっと大きいね~!」
「ワ~オ!! 『人』にあんなものが作れるなんて信じられまセ~ン!!」
ガネー社ビル。
異世界の富の神・ガネーシャをシンボルにした会社のビルだったはずだ。
悪趣味で大きな金色の象の像が、無駄に高層のビルの周りに並んでいることで有名。
そのため僕も見たことがあり、一度見たら忘れられないインパクトであった。
富の神を飾るだけはあり、この電気社会である中央の電気のほぼすべてを牛耳っている、巨大組織ガネー社。
その会社の発電機がオシャカとなれば、それはもう国中大混乱の大騒ぎになったであろう。
夜は暗いのが当たり前の僕達からすれば、かなり贅沢な事件だ。
「そいでにゃ、何が起こったのかと驚いていたら突然捕まったのにゃす。 『アタシじゃない、何も触ってない』と訴えても信じてもらえず、国中の損害を吹っ掛けられたというわけなのにゃ……よよよ……」
「それで100億円か……」
本当にそれだけの被害があったかは分からないが、間違いなく犯人であるコイツが容疑を否定しているから重くされたのだろう。
だいたい、壊した奴は『何も触ってない』とお決まりのように口にするのだ。
「いんにゃ、それだけではないのにゃ。 その停電の時にセキュリティも停止して、ビルからとある『大事な物』が盗まれたらしいにゃよ」
「あ、分かった! その大事なものが、探し物ってことだね~!」
「ご名答にゃ! そっちのムッツリ助平と比べて、察しの良いお嬢さんにゃす!」
「おいこら、一言多いぞ!」
口では怒ったようにツッコんでいるが、内心は肝を冷やした。
円稼の言った『大事な物』に心当たりがあったからだ。
そう、僕の懐に忍ばせた『巾着』である。
この無地の巾着の中身は知らないが、巳の国主ですら手に負えない代物。
その考察された情報と、コイツの言っている重要な代物にはかなり繋がりがあるように見える。
「まさか、な……」
円稼が、国主様の言っていた仲介人なのか?
おいそれと渡すわけにはいかない預かりものだ。
額に汗が伝うのを感じながら、真偽の見極めを試みることとなった。
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