目を覚ました眠り姫
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真多子がソファーの横にある荷物入れの上に御盆を置いた。
出来立てホヤホヤ、一人用の土鍋まで熱が通って白い湯気を上げている。
その湯気に揺られて、ふんわり薄削りのカツオブシが踊っていた。
貰った干し物の中に魚や貝があったのまでは確認していたが、カツオブシまで入っていたのか。
(そういえば、たこ焼きの時にも乗せていたな。 口の中でも香りが残る良いものだから、さぞかし米も進むだろう。 昼食に出してもらおうかな)
湯気と一緒に『猫まんま風おかゆ』の匂いが部屋を満たしていく。
惜しげもなく海産物を使ってダシを効かせた、なんとも落ち着く香りだ。
具そのものは少なくとも、器に入った米と汁へ溶け込み凝縮された旨味の塊。
これが干し物の醍醐味だ。
固形物が少ないので胃腸に優しく、喉も通しやすいだろう。
それほど空腹では無かったのに、こちらまでお腹が鳴りそうになる。
「この子、まだ寝てるんだね~。 起きてから持ってきた方が良かったかな?」
ソファーに横たわる猫耳少女を見て、真多子が困ったように眉を曲げている。
一方当の女の子の方は、僕の高いコートに着替えてスヤスヤ眠りこけていた。
星美が既に着せ替えた後だったらしい。
別に、振り向いた拍子に少し見えればいいな……とかは断じて思ってもいない。
(痛っ!)
星美に無言で蹴られた。
脚癖の悪いお子様だ、そんなに僕が信用できないのか。
「そうだな。 運んでる間も、服を変えてる間も、とくにうめき声一つ上げなかったからなぁ。 身体に異常は無いはずなんだけど……?」
僕は医者ではないが、それでも不調くらいは見分けることが出来る。
強く頭を打った様子も無いし、起きてもいいはずなのだが。
「そっかぁ、なら冷めちゃうから温め直してくるね。 アタシはお鍋見てるから、この子が起きたら呼んでねコーちゃん」
しばらく起きる気配が無いとみたのか、真多子が再び御盆を掴んで食器をカチャリと鳴らす。
その音に反応したのか、眠り姫はカッと目を見開き跳び起きた。
「メシにゃ!! メシの匂いがするにゃす!!」
開口一番、助けたお礼などそっちのけで、真多子の持った御盆に飛びつく。
心配していたよりも元気そうだ。
「コーション!! 危ないので、お姉さまから離れるデース!!」
「フギャー!! 何するにゃ! これは先に見つけたアタシのモンにゃす!」
「わわわ、おっとと……ふぅ、こぼれちゃうから座って食べようね。 アナタの分だし逃げないから大丈夫だよ~」
六本ある腕をヤジロベエのように振ってバランサーにし、揺れるお盆を死守する真多子。
そんな彼女にしがみつく猫耳娘を剥がそうと、星美が三人がかりで引っ張っている。
星美の分身も数が集まればそれなりに力はあるはず。
僕の出番は無さそうだ。
痛い目を見る前に、大人しく見守っていよう。
「なんだか急に騒がしくなってきたな……」
女三人寄れば姦しい、とはこのことだろうか。
僕も兄貴の運転室に避難したい。
僕が対岸の火事をぼんやりと眺めていると、ようやく落ち着かせた猫耳娘を座らせていた。
星美達が抑えつけながら、真多子が飯を食わせるらしい。
「なんというか、極悪人の取り調べみたいな壮絶な絵面だな」
「はい、口開けて~。 ゆっくり食べようね!」
「んにゃぁぁ! まどろっこしいにゃす! メシくらい自分で喰えるから離せにゃ!!」
寝ている間だけは清楚な感じだったのに、起きればこれだからギャップが激しい。
汚れた見た目通り、中身も結構育ちが悪そうだ。
「隙アリにゃ! メシよこせにゃぁぁ!!」
「シット! なんという執念デショー!?」
星美の拘束を振りほどき、自由になった両手で匙を奪う。
そのまま湯気立つ土鍋から勢い良く掬うと、躊躇なく口の中へと放り込んだ。
「ギニャァァ!! 水、水をくれにゃぁぁ!!」
あまりの空腹で、猫舌なのを本人が忘れていたらしい。
真っ赤になった舌を出して大騒ぎしている。
手元にあった水筒を真多子へ放り投げると、猫耳娘の口に添えてくれた。
少女は言葉も無く一心不乱に舌を冷やしている。
舌を火傷したはいえ、真多子へお礼の一つでもしてほしいものだ。
「も~、お腹が空き過ぎてる時は、ゆっくり食べないと胃がひっくり返るっておじいちゃんが言ってたよ? だから熱く煮たのに~」
「そうか、先々代は戦争の経験者だもんな。 絶食した時の対処法か、覚えておこう」
猫耳少女の方は、自業自得だから同情する気は無い。
しかし、こういう時の真多子の気遣いは流石だな。
彼女なりに色々考えて料理にも一手間入れてくれたらしい。
少しずつ冷ましながら、時間を掛けて胃を馴らしていくのか。
こういう、平和な現代では身につかない知識をもっと先々代から引き出さないとな。
あの人とくれば、こちらから聴かないと何も教えてくれないのだから。
「それにして、そろそろ自分の名前くらい名乗ったらどうだ? それに、お礼のひとつくれたっていいと思うんだがな。 特に世話を焼いてくれている二人には、さ」
先程の火傷で懲りたのか、今度は大人しく真多子に匙を任せていた猫耳娘へと問いかける。
結局、この子が敵か味方か、はたまた本当にただの偶然出会ったのかすら未だ不明なのだ。
こちらには確かめる権利がある。
「むぐむぐ……にゃ? そういえばお前達、誰にゃ!? なんでアタシを助けてくれるんにゃ!?」
なんで質問したのに、質問で返って来るんだよ。
聴きたいのはこっちだ。
そんな僕の不機嫌な顔をよそに、隣にいた真多子が口火を切る。
「アタシは真多子だよ~。 アタシ達、この蒸気屋台で旅をしているだ~。 まだ中央に着いたばかりだけどね」
「ミーは星美デース!! お姉さまの一番弟子デス! そしてそっちの仏頂面がタコロウ、デスヨ!」
「僕は小太郎、な。 変な呼び方を教えるんじゃない。 それにお前は真多子じゃなくて先々代の弟子だろう、帰ったら告げ口するぞ」
「ノーゥ! お姉さま、タコロウが意地悪してきマース!!」
「まぁまぁ、二人共仲良くしようよ~、ね?」
これ以上、僕の名前を間違って覚えられてはかなわない。
真多子を盾にしたって退かないからな。
「フン!……で、僕達はここに来た途端に、お前が倒れたていたから介抱しただけ」
「ニャるほどにゃぁ……田舎者の親切心ってやつかにゃ? あ、アタシは勝堀円稼にゃ、メシありがとにゃす。 げふ」
僕達に自己紹介させている間に、既におかゆを平らげていたらしい。
なんというか強かなやつだ。
食べて暑くなったのか、コートの胸元を広げてパタパタと手で空気を送り込んでいる。
僕の吊り上がっていた目が緩んだのは秘密だ。
「それで、円稼は一体なんで倒れていたんだ? 中央はこんなに豊かな国だろう。 いくら魔人類だからって、転生者ほどではないにしろ、喰うには困らないはずだぞ?」
いよいよ一番聞きたかった本題に踏み込む。
僕が学生時代は、こんな行き倒れなんて見たことが無かったのだ。
不在にしていた数年で、中央に一体何が起こっているというのだ……?
「あ~、それはニャぁ……まぁ言いにくいにゃが……があるのにゃ」
「え? 何があるって?」
肝心の部分をごにょごにょと言い淀んだので、聞き取れなかった。
相当にバツが悪いのか、円稼は目を逸らして冷や汗を流している。
「いや、だから……ちょぉっと借金があってにゃ……」
「はぁ? 借金……?」
どんな厄介ごとに巻き込まれるのかと身構えたが、あまりにも拍子抜けの答えに力が緩んだ。
ここ中央は、腕っぷしではなく資本が正義である。
魔人類達が電気技術の次に面食らう文化だろう。
だからこそ確かに金には煩いが、だからといって行き倒れるなんて聞いたことが無い。
どんな無茶をすれば、その日の食い扶持にも困れるんだ。
「まぁ、僕達が聞いても仕方ないことだけど、いくらあるんだよ……その借金ってさ?」
「いやぁ、別に言うほどのことじゃニャいんにゃが……実は……」
相当迷ったのか、ずっとマゴマゴしていた円稼がようやく口を開く。
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