我慢だ小太郎
マダコちゃんの私服はこちら(外部サイト)
https://tw6.jp/gallery/?id=156623
星美ちゃんの私服はこちら(外部サイト)
https://tw6.jp/gallery/?id=49772
目の前に横たわる人物。
いきなり蒸気屋台の前に飛び出し倒れた謎の少女。
現在は安静にしているが、起きる気配はいまだに無い。
このソファーで昏倒している人物を本当に拾って良かったのか、今になって心配になってきた。
どうもきな臭い。
そもそも、僕達が入国してすぐに都合よく現れるなんて、いくらなんでも話が出来過ぎている。
昨夜の襲撃の件といい、不穏な輩の手の者である可能性は捨てきれないのだ。
「しかし……少し臭うな。 ずっとこの辺りを彷徨っていたのか?」
着ている服は所々に汚れが目立ち、雨風に晒されていたのか生乾きの不快臭が鼻をつく。
目深に被った帽子もヨレヨレで、こんなものを着けていては安眠出来ないだろう。
そんな事を考えていると、後ろから覗き込んでいた星美が僕の脛を蹴飛ばした。
「痛ってぇ!!」
「バッドマナー! タコロウ、レディに向かって臭うとは失礼デース! 確かに臭いデスガ、オブラートに包んで『臭い』以外の言葉に訂正するべきデス!!」
「いや、お前こそ大声で臭い臭いと連呼するなよ……この子が起きてたら可哀想だろ」
「オゥ、シット……」
指摘されてようやく気が付いたのか、星美がハッとした顔で目を見開き口を押さえる。
そのまま僕の後ろへ、スススと消えていった。
(逃げた……)
しかし、僕はすかさず彼女の小さい細腕を掴むと、こちらへ引っ張り出した。
「まぁいいや、丁度良かった。 人手が欲しかったところなんだよ」
「ヒトデ? ミーのことデスカ?」
確かにこのお子様はヒトデの特性を持つ魔人類だが、そういう意味ではない。
だが訂正するのも面倒臭いので、そのまま話を通す。
「この拾った子をとりあえず着替えさせたいんだよ。 ずっと空腹だったせいか体温も下がってる、何か暖かい恰好にしてやらないとさ」
本当は真多子に任せたかったが、今は料理中で不在だ。
男の僕が脱がせるわけにもいかないし、不本意ながらコイツの手を借りたいのである。
「グッドアイディア! そういうことならミーにお任せデース!! お姉さまの服を借りてきマス!!」
僕の返事も待たずに星美は調理場の方へとスッとんで行った。
考えてみれば、着替えは真多子のものしか着せられないのか。
星美のお子様体型に合わせた服では、尻はともかく胸周りなど絶対に入らないだろう。
結局、真多子の邪魔を差し向ける形になってしまった。
あとで謝っておこう。
とはいっても、騒がしいおチビが戻って来るまで、僕は手持無沙汰。
「そうだ、帽子くらいは外しておいてやるか」
あのヨレた帽子ならほつれてチクチクとしているはず、さぞ寝心地悪いだろう。
相手の素性が分からなくとも、せめてクッションと入れ替えてやるくらいの親切心ならバチも当たらないはずだ。
そっと寝ている少女の首筋を持ち上げ帽子を外す。
すると、中に隠していた長い髪が溢れ、本当の髪型を晒した。
「あれ……この子、もしかして魔人類か?」
黒く長い髪に混じって現れたのは、ひょこりと動く猫の耳。
もしやと思いお尻の付け根へと目をやると、何かが隠された膨らみ。
先程の『χ眼』での観察は、あくまでも怪我の有無を優先していたから気が付かなかった。
「耳があるなら……ある、よな?」
ふとした疑問、ちょっとした好奇心。
何の気なしにその膨らみへと手を伸ばす。
が、僕の手が真相を確かめる前にあらぬ方向へと逸れる。
僕自身が吹き飛んだからだ。
「ブヘェァッ!?」
「ストォォォォップ!! ホールドアップ、そこまでデース!! タコロウ、ミーを遠ざけてソウイウつもりだったというわけデース?」
ミゾオチに穴が開いたように痛い。
僕は床で悶え苦しみながら襲撃者を見上げる。
「ち……違、早とちりだって、星美……」
返答次第ではもう一度ドロップキックをブチかますぞ、と言いたげなファイティングポーズ。
服を借りに行った星美が戻って来ていたようだ。
どうも、僕が寝ている女の子を襲っていると勘違いしたらしい。
これだからこのお子様に頼みごとをしたくないのだ。
子供は容赦というものを知らない。
「ホーゥ、動けないレディをべたべた触ることの、何が違うのデショー?」
目が座っていた。
事によっては、すぐさま真多子へチクりに行くだろう。
そんなことになれば、僕の男としての威厳は粉々だ。
痛むミゾオチを抱えて、僕は少しでも誠意を見せようと立ち上がる。
「見ろよその子の耳、どうも魔人類っぽいんだ。 たぶん尻尾も隠れてるんだろうと思ってさ。 尻尾があるなら、着られる服も選ぶだろ?」
こういう時は、下手に誤魔化さないほうがいい。
女子の直感は無駄に鋭いのだ。
一時的に名探偵をも凌ぐ洞察力が光ると決まっている。
「フーム……確かに。 ワンピースの下にあるみたいデース。 オッケー、いいデショー。 ここはミーが矛を納めてあげマース!」
(クッ……勝手に早とちりしたくせに、なんで上から目線なんだ……)
喉元まで出かかった悪態を飲み込み、心を落ち着かせる。
相手は子供だ、向こうのペースに乗るんじゃない。
大人になるんだ小太郎。
「それで、何持ってきたんだ? ズボンだと尻尾用の穴が必要になるぞ。 真多子は背中に特性が出てるタイプだからな」
巳の国の人は全般的に、背びれ等の背中変異型が多く腰周りは普通だ。
そのためパンツスタイルの服装も珍しくなかった。
確か真多子も動きやすいとかで、何着か持っているのを見たことがある。
「ノンノンノン! そこは流石のお姉さま、ぬかりは無いのデース! ジャジャン!!」
星美が丸めて抱いていた衣服を大袈裟な仕草で広げる。
そこには、僕にも見慣れた衣装がお目見えした。
というか僕の服だ。
「おいそれ僕のやつじゃないか! しかも、手持ちで一番高いやつ!」
冷静にいようとか、もうそんなこと考えている場合じゃない。
これは流石に怒る。
真多子と二人で散歩するときに、格好つけて着ようと思っていたコートだぞ。
「イグザクトリィ! 暖かい服と聞いたら、お姉さまが教えてくれたのデース! それに、これなら誰でも着れるデショー!」
「ぐぬぬ……」
そういえば真多子に自慢したことあったな。
過去の自分を殴りたい。
しかしこれで僕の大人なデート計画は白紙だ。
臭いが移ったコートじゃ、まったく様にならないものな。
「うぅ、わかったよ。 その子に着せてあげてくれて……」
僕は泣く泣く諦めて、壁と睨めっこを始める。
調理場は真多子がいるし、仕切りもないから背を向けるしかないのだ。
星美はヒトデらしく分身できるので、着替えはアイツらだけでやれるだろう。
早速バタバタと足音が増えて賑やかだ。
「ワーォ、これはなかなかのお餅をお持ちデース……なるほどなるほど、こちらもなかなかデス……」
後ろで衣擦れの音と、星美達のヒソヒソと小声で会話する声が漏れ聞こえる。
いや、たぶんわざとだろう。
僕を生殺しにして困らせたいに違いない。
そして実際すごい見たい。
先程間近で見た時に、確かに身体のラインが素晴らしかったのだ。
身綺麗にすれば、さぞ男の寄って来る見た目に変わるだろう。
唇を噛みしめ、悶々とした気持ちをどうにかこうにか抑えていると、調理場の方からも足音が聞こえて来た。
「猫まんま風おかゆ出来たよ~。 あれ、コーちゃんどうしたの?」
「ン゛ン゛ン゛、ゴホン! いや、何でもないよ。 はは」
音に反応し、僕は瞬時に背筋を伸ばして姿勢をしゃんと整える。
腑抜けた姿を真多子に見せるわけにはいかない。
一先ず御盆を持った真多子に向けて、はにかんだ笑顔を見せておく。
今度、時間がある時にでも兄貴に仕切りを作ってもらおう。
これでは僕の身体がもたない。
初めての作品のため、色々と間違っている所があると思いますので、ご指摘・アドバイスなどをいただけると助かります!
よろしければ、評価・コメント・ダジャレなどもいただけると多幸感で満たされます!




