中央で出会った謎の少女
中央入国ということで、ここから二章が始まります。
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蒸気屋台『ヤタイヤタイヤ』がその八つの車輪をゆっくり回して微速前進。
入国を待つ長い列を抜けて、ようやく門を通り過ぎる。
一歩踏み入れるとそこは外界と完全に別世界、文明が高度に発達した大都市が広がっていた。
「オッホ~! ここが中央か! 田舎と違ってゲキマヴな女の子も大勢歩いててよぉ、こりゃぁパラダイスっちゅうやつじゃねぇの!!」
先頭の運転席にいる深角の兄貴の喜ぶ声が、伝声管を通してこの後部座席室へと聞こえて来る。
僕以外はこの中央『庇護本の国』へ訪れるのは初めてだろうから、どこを見ても新鮮なのだろう。
同乗している真多子と星美も、窓に噛り付いて離れない。
「ブラァ~ボゥ!! ここが噂に聞く中央デスカ! どこもピカピカして眩しいデース!!」
「うわぁ~! コーちゃん、アレ何? あっちにも見たこと無い物が動いてるよ! あっ、ミーちゃんアレ見て~!」
この国は外周国の支援で『転生者達の世界の文明』に出来るだけ近付けてある。
現状、元の世界へ帰る方法が無い以上、無理やりここに再現したのだ。
特にこの国くらいでしか運用されていない電気技術。
発電にこそ難はあるものの、それ以上の働きをしてくれる凄い力だ。
目にもとまらぬ速さの演算や、自動で動く床や扉。
光り輝くネオンやモニターの存在は魔人類達に大きな衝撃を与えるだろう。
少し目を張れば、いたるところで稼働する機械の存在にも気が付くはず。
魔人類ほど力の無い彼らは、機械でその差を穴埋めしているのだ。
もっとも、僕は二年前までここの国にある全寮制学校に居たから別に新鮮さは無い。
でも、こうして目を輝かせるみんなを見るのは、なんだか新鮮で面白かった。
真多子まで子供のようにはしゃいでいる。
「そんなに慌てて目移りしなくたって、逃げはしないだろ。 後でゆっくり見て周ろう」
一応釘を刺してみるが、僕の声は届いていないみたいだ。
女子二人でキャイキャイと盛り上がっている。
この分だと、運転席の兄貴も女の子の尻を追いかけてるんだろうな。
事故にだけは気を付けてほしいものだ。
「さて、着いたはいいけど……僕達が探している仲介人がどこにいるのやら」
ソファーのある窓辺を女子組に取られているので、仕方なく荷物に腰掛ける。
そうして、慎重に懐に手を忍ばせた。
取り出したのは、無地でなんの変哲もない巾着。
中身は僕を含めて誰も知らない。
いや、道中で襲って来た謎の悪党だけは知っていたようだった。
ともかく、この中身は相当に重要な品らしい。
その受け取り人が、この国のどこかで僕達を待っているはずなのだ。
なぜ頭を抱えているかといえば、その仲介人の情報がまるで無いのである。
待ち合わせの場所も、時間も、誰であるかも、何もかもだ。
「流石に参ったよなぁ。 大声でここですと叫べば来てくれるような、簡単な任務だったなら良かったのに……」
そんな表立って動けるなら、国直属の兵である国守にやらせればいい。
出来ないからこそ、裏の私兵である僕達『軟体魔忍』に任されたのだ。
「せめて何か手掛かりがあれば……といっても、そう都合良く見つかるわけないもんな」
思慮に耽って独り言ちていると、急に腰が浮く。
数時間前にも感じた浮遊感。
違うのは、今度は横ではなく前方へと身体が引っ張られていることだ。
「うぁぁぁ!?」
どうやら蒸気屋台が急ブレーキを掛けたようだ。
座っていた荷物の下敷きになりながら、ようやく状況を飲み込めた。
「痛って~! みんな、大丈夫か……?」
「ん、ぷは。 ミーはお姉さまに守ってもらったデース」
「あいたた、アタシとミーちゃんは大丈夫。 フカくん、いきなりどうしたのかな?」
真多子の胸の間から、星美が顔を出す。
どうやら真多子が星美を抱き寄せて、その身で衝撃から守ったようだ。
タコの特性を色濃く持つ魔人類の彼女は、タコのような弾力あるボディのおかげで衝撃には滅法強い。
緩衝材のようにあのちびっ子を守ってくれたらしい。
「タコロウいるか!? こっち来てくれ!」
伝声管から響く兄貴の声には、焦りが混じっていた。
ちなみに僕の名前は小太郎だが、兄貴は何故間違って覚えている。
気にしてないからいいけど。
「今行くよ兄貴! 真多子達は念のためここで待っていてくれ」
「うん。 気を付けてね、コーちゃん……」
心配そうに真多子が見上げて来る。
身体は強くとも中身は女の子なのだ。
こういう時こそ、僕が立ち上がらなければ。
それにしてもまさか兄貴、本当に女の子の尻を追いかけすぎて事故ったのだろうか。
不穏な気持ちを抱えながらも、後部扉から飛び出して車両前方へと駆ける。
「お、来たかタコロウ」
車両の前には困ったように頭を掻く兄貴が立っている。
怪我の無い所を見るに、大きな事故ではないようだ。
しかし蒸気屋台の陰を見ると、そこには女の子が横たわっているではないか。
「兄貴……これって!? まさか本当に轢いて……」
「ち、違ぇっての!? コイツがフラフラと飛び出して、勝手に倒れたんだっつの」
僕の反応を見て、兄貴は慌てて弁明する。
尊敬する兄貴のことを信じていないわけじゃないが、万が一ということもある。
念のため、僕は倒れている女の子を調べてみることにした。
「開眼せよ、『χ眼』……!!」
僕の右眼に宿る謎の力。
普段はタコ目(Θ)だが、力を解放すると瞳孔が縦にも開き、十字目(+)に変わる。
この状態ならX線のように生物の身体を透視し、骨や筋肉の状態を調べることができるのだ。
僕は倒れている女の子へと近寄る。
とにかく早急に、見た目では分からない傷、例えば骨折などの症状を確認したかった。
なぜなら目の前の少女には意識が無い。
自分で痛いところを申告してくれないのだから。
「骨は……以上なし。 筋肉も……やや衰えているけど腫れはなし。 肺も心臓も動いてる。 兄貴の言う通り、どこも悪くはなさそうだね」
「あったりめぇだろうが。 そもそも、オレが女に手を出すわきゃねぇのよ」
開いた右眼で、少女を上から下まで何度も見回す。
流石に脳だけは見た目で判断できないためお手上げだが、この様子だとそちらも平気だろう。
「そうだとすると、この子はいったい……?」
『グ、キュルルルルル』
その時、地獄の釜を掻きまわしたような不気味な音が轟いた。
驚いて音の出所へと視線を向ける。
「あ、胃腸が空っぽ……ただの空腹だったみたいだよ」
「ダハァッ!? なんつーしょうもねぇオチ……心配して損したぜ」
気を張っていた兄貴が、勢いよく肩を落としてズッコケる。
だが見つけてしまったからには、ここで野垂死なれても寝覚めが悪い。
ひとまず蒸気屋台へ乗せて介抱することとなった。
「よっこらしょっよ、真多子……何か消化に良いもの作ってくれ。 この子、ずっと何も食べて無いみたいなんだ」
「あとは任せたぜタコロウ、オレは運転に戻るからよ」
「ありがとう兄貴」
兄貴と二人で運んで来た女の子をソファーへと寝かしつける。
女の子とはいっても、成人前のほぼ成熟した身体。
一人で運ぶには大変なので手を借りていた。
背負うにしたって、この子の胸が僕に背に当たれば、真多子達の前に出られなくなるだろうし。
そこは僕も男なのだから不可抗力だ。
だから兄貴と二人、両肩を支えて運ぶのが一番安全だった。
僕達の男の名誉を守るためにも。
「えぇ~! どうしたのコーちゃん!? この子、怪我は無いよね!?」
「ただの空腹の行き倒れだよ。 身体も心配はないって。 ゆっくり温かい物食べればケロっとするさ」
「そっか、じゃぁお粥作ってあげようかな。 あっそうだコーちゃん、魚丸さんに貰った干物にお魚もあったよね? 一尾使ってもいいかな?」
「お前にくれたやつなんだ、もちろん自由に使っていいさ。 うんと、ふやかしてやれよ。 はい、この巾着に入ってるから」
そういえば、あの干物屋で貰った干物を食べる機会が無かったな。
『丸に魚』の印が入った、何の変哲もない巾着を真多子へ放り投げる。
「テラァー……都会怖ろしいところデース」
「いや、僕も行き倒れなんて初めて見たよ」
こんな豊かな国で、行き倒れ何てありえない。
一体この子はなんなんだ。
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