お着替えタイム
マダコちゃんの私服はこちら(外部サイト)
https://tw6.jp/gallery/?id=156623
星美ちゃんの私服はこちら(外部サイト)
https://tw6.jp/gallery/?id=49772
蒸気屋台の炉から備蕩炭のパチパチと爆ぜる音が微かに響く。
熱がこちらにまで届くから、暖かさでウトウトと睡魔がやって来た。
緊急発進の時に沢山入れたものだから、今は炭を山にして少しでも長持ちするようにしている。
バラけさせると、熱は強いが消費も早い。
振動で崩れたりしないように、僕が見張っているところだ。
(ふわぁ……ぁ。 もう窓からは朝日が射して来てるな。 予定だともうそろそろ中央に着くはずだけど……)
他国を経由して中央入りの経路ならば、もう一日は掛かるところだ。
それが直接乗りこむルートを取れたおかげで、大幅に短縮できたのだ。
(道中アクシデントがあったとはいえ、こんなに早く辿りつけるなんて兄貴には感謝が尽きないな)
窓の外は既に見知った風景とは様変わりしている。
中央が近い証拠だ。
12の外周国が持てる限りの資源と人材を使って整備された国、それが中央『庇護本の国』だ。
踏み締めた土などではなく、いたるところに敷き詰められた黒い道路。
タイヤも小石を踏まず、揺れることもなく快走している。
緑も減って野生の魔物もほとんど見当たらない。
ましてや、畑や田んぼなども姿を消している。
各国から食料が届くこの国で、自給自足を考える必要などないからだ。
眠い目を擦りながら外を眺めていると、伝声管から運転席にいる深角の兄貴の声が反響する。
「おう、タコロウ起きてるか?」
「僕はね。 二人はまだ寝てるよ、兄貴も休憩するの?」
僕も眠いが、ずっと運転してくれていた兄貴はもっと疲れているはず。
そう思って僕の方から休憩を提案してみた。
休んでいる間も燃え続ける炭は勿体無いが、灰を被せればマシにはなる。
最悪、燃料は高くついても買えば済む話なのだから。
「なに気ぃ使ってんだよタコロウ、むしろ逆だぜ。 あの加速が忘れられなくてオレ様のお目々はパッチリ冴えまくってるってぇの!」
どうやら僕の要らぬ心配だったらしい。
兄貴は研究といい遊びといい、好きな事に関しては本当に寝る間も惜しんで取り組む人だ。
今回は、あの緊急発進の爆発的な速度にオネツらしい。
大干支に帰ったら、また爆発事故を起こしそうな予感がする。
「それより、顔出して前を見てみろ。 あれが中央なんだろ? オレは初めて来たが、随分とまたゴリッパなところじゃねぇの」
兄貴に言われるまま、窓を上げて頭を突き出す。
流れる風で、前髪で隠していた右眼が露わになった。
「ここに帰って来るのも久しぶりになるな……もう来ることもないと思ってたけど」
僕の両目に映るその先、そこには背の高い建物がいくつも並び立つ大都市の姿。
ここに僕の通っていた学校がある。
奥には、大きな壁に囲まれた異質な地区も存在を主張している。
コチラは僕も踏み入れたことはない、純人類達の引き籠る鳥かごだ。
僕達が会うべき人物がいるとすれば、おそらく前者の方だろう。
「兄貴、間違いないよ! このまま真っ直ぐ、あの大きな門の所に向かって!」
「あれか? あぁ確かに、なんかやたらと行列出来てんなぁアソコ」
鳥かごを除けば、中央は基本的に転生者達しか住んでおらず、僕達のような外周国に住む魔人類は入国を制限される。
力あるものが、非力な者達へ圧力をかけないためらしい。
たとえば国守のように鍛えた魔人類は、まず入国を拒否される。
特に真多子くらい強いと、そのまま検査を通るのは難しい。
「中へと入る方の列の、一番後ろに並んでくれればいいはずだよ。 係員の対応は僕に任せて」
「なるほどな……おっし、それじゃ着いたら呼ぶからよ。 また後でな、タコロウ」
運転席から、兄貴が手を振るのが見える。
僕のは見えていないだろうが手を振り返し、窓から頭を引っ込めた。
「さて、と……僕はいいとして、問題は他のみんなをどうやって通すかだな」
力あるものを拒む国だ。
出来るだけ特性を隠して、検査をやり過ごしたい。
「とりあえず、ホラ起きろ~二人共! もうとっくに朝だぞ!」
「むにゃ……おはよう、コーちゃん……」
「んん……まだ眠いデース……」
真多子と星美が眠たそうに身体を起こす。
いつの間にか抱き合って寝ていたようだ。
「もう中央に着く。 その前に、二人共着替えて欲しいんだ。 そのままだと入国出来ないぞ」
真多子は結局、戦闘服のまま寝てしまっていた。
流石にこの服のまま検査されるわけにはいかない。
「へ? 着替えるって、アタシそんなに沢山の着替え持って来てないよ」
「別にそんな凝った服装にする必要はないさ。 お前の場合はその腕をどうにかしたいだけだしな」
僕は真多子の背中に生える、4本のタコ腕を指差す。
人間腕を合わせて計6本の腕を持つ彼女は、一目で特性の強い魔人類だとバレてしまうのだ。
仮に姿を隠し検査だけをすり抜けたって、市街地ですぐに見つかってしまうだろう。
不法入国は全世界から指名手配されるから、それだけは絶対に避けたい。
「そう言われてもね~。 あっそうだ! タコ腕を切ってコーちゃんが食べちゃうとか?」
「それは却下。 また生えて来るからって、自分の身体を粗末にするんじゃない」
なんで昔から真多子は、僕にタコ墨や腕を喰わせたがるんだろうか。
ともかく、腕が減っては戦力も落ちる。
真多子はウチで一番強いのだから、いざという時に本力を発揮できないでは困るのだ。
「え~! それじゃ、コーちゃんが何か他に妙案考えてよ」
「そうだな……一対はベルトみたいに腰へ回して、もう一対はストールみたいに羽織ればいいんじゃないか? 変色すればそれっぽくなるだろ」
戦闘服の時にも真多子はよくマフラーのように腕を巻いていた。
手が余るというか、手持無沙汰になるからだろう。
そこから着想を得て、それらしく提案してみた。
「ん~こんな感じ? どうかなコーちゃん!」
タコ腕をそれぞれ黒と紫に変色させ、黒皮のベルトと紫色のストールのようなものに化けさせる。
「うん、いい感じだな。 直接触らなければ、そんなに違和感はないだろ」
「やった~! コーちゃんのお墨付きなら間違いなしだね!」
あとは真多子が普段着ている、背中が露出した着替えを身に着ければ問題ない。
大干支の人は背びれなどを持つ人が多いから、何かと背中の露出した服が多い。
腕の多い真多子も、肩が干渉しないからと愛用している。
「タコロウ、ミーは? ミーは何すればいいんデース?」
「お前はいつもの学生服着るだけでいいよ。 見た目は普通だし」
「ホワァイ!? ちょっとミーの扱いが雑じゃないデスカ!?」
実際、星美は分身出来る特性自体は奇特だが、見た目そのもは人として普通なのだ。
後は一目で子供だと分かる格好さえすれば、別に怪しまれることは無い。
喋り方は少々変なので、なるべく黙っていてもらうが。
「別に普通だよ普通。 ほら、あっち向いてるから早く着替えろよ」
「ノーゥ! ミーは普通ではなく、スターデース!! 凡人のタコロウなんかに言われたくないデスヨ!!」
「おまっ、それを言ったら戦争だぞ……!! ワガママ言って駄々をこねるなら、僕が無理やり着替えさせてもいいんだからな?」
好きで凡人になったわけではない。
僕は怒りを込めた両手をワキワキと怪しく動かし、星美に詰め寄っていく。
しかし、真多子に脳天チョップを喰らって阻止された。
星美も喰らっている、いいザマだ
「ほーら、コーちゃんもミーちゃんも、遊んでないで着替えるよ」
やっと着替えるらしい。
この後部座席質に別部屋などもない為、僕は部屋の壁と睨めっこして時を待つのであった。
初めての作品のため、色々と間違っている所があると思いますので、ご指摘・アドバイスなどをいただけると助かります!
よろしければ、評価・コメント・ダジャレなどもいただけると多幸感で満たされます!




