押します吸いますタコツボ屋
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真多子のダイナミック帰宅による被害を片付け、蒸気屋台の後部座席室をなんとか人が居られる空間へと戻す。
掃除の際は場所を取られて非常に鬱陶しいので、星美の分身体は全て戻させてあるため開放感が感じられた。
(思えば、今夜は何かにぶつかったり埋もれたりと、散々な目に遭ったからなぁ。 こうして自由に羽根を伸ばせるのも久々に感じてしまうよ)
埃立った空気の換気のため車体側面側の窓を開ける。
夜風の冷たさが心地良く、僕の頬に赤く輝く紅葉の葉もスウッと引いていった。
お子様だと侮っていたが、星美も中々に良いビンタを振るうようになっていたらしい。
別に怒っているわけではない。
確かに根には持っているが、仲間の成長は素直に喜ぶべきだろう。
(このとこを先々代に伝えれば、張り切って稽古の量を増やしてくれるはずだしな)
未熟な身体だからこそあまり過酷な特訓はさせなかたった爺様だが、力があるのなら別だろう。
弟子には容赦するな、人と思うな。
それがモットーの戦争時代を生き抜いたスパルタな御人なのだ。
僕もだいぶ絞られたから、その過酷さは身に染みている。
星美へと密かな仕返しを企んでいると、後ろのソファーにドカっと倒れ込む音が耳につく。
「うん……? 大丈夫か?」
星美はお子様なので既に寝ているはず。
誰かと思い振り返ると、真多子がダルンと脱力して倒れ伏していた。
(そういえば、今日は何度も軟体忍法を使ってたもんな)
タコの特性として全身が筋肉の塊な分、常人よりも疲労の蓄積が早い。
スタミナ切れを起こしたのだろう。
哺乳類系の体力がある魔人類に比べて、真多子は長期戦に向かない。
必然として、奇襲や闇打ちなどの短期決戦を強いられる。
そのため忍者としての戦い方は彼女の体力面からも合っていた。
「つ~か~れ~た~……コーちゃん、いつものお願~い!」
ソファーに突っ伏し、そのまま喋るためくぐもって聞き取りにくいが、言いたいことはだいだい分かる。
僕と真多子が組むようになってからは、任務の後に彼女の身体のケアを僕が担当しているのだ。
「マッサージだろ。 いいけど、その服のまま寝るなよ。 この前もそのまま眠こけてたろ」
「うん……わかってるよ~むにゃ」
「もう既に限界じゃないか……ハァ、まったく……」
僕の師匠、先々代頭目から民間療法のマッサージを仕込まれている。
ちなみに、これは僕の表の顔としての仕事でもある。
『タコツボ屋』というツボ押しの店だ。
医者の少ないこの世界では、自慢じゃないが割と色んな人に重宝されている。
というのも、転生者達は様々な知識を持っているというのに、医療知識はどうも乏しかった。
彼らのほとんどが16~8歳くらいでこちらへ転生しているらしく、医学を知る前だったとのこと。
病気の種類や原因は知っていても、治し方までは知らないらしい。
そもそも魔人類や転生者は特性がバラバラで、身体の作りからして違うため共通した知識も使えないのだ。
そんな背景から、この世界独自の民間療法がいくつも生まれている。
僕の『タコツボ』も先々代が編み出したものだ。
「これが終わったら、ちゃんと着替えてから寝るんだぞ。 さて、とりあえず背中から始めるからそのままでいいよ」
「よろしく~、ほわぁ……あふ」
仰向けになろうと身体をよじる真多子を制し、再びソファーに突っ伏させる。
僕の方は施術の前に軽い準備運動として揉み手を行い、しっかりと指先までしなることを確認。
首も鳴らして準備万端だ。
普段は指先だけ見せている指貫の長手甲を解き、掌を露出させた。
そこは僕の数少ない特性が露わている箇所だ。
見れば、掌の中心には大きなタコの吸盤。
僕のツボ押しはただ押すだけに留まらない。
この吸盤で『吸う』ことでカッピングも行えるのだ。
「それじゃ、始めるぞ」
真多子の背中は、常人とは違い複雑だ。
なにせ腕が六本もあるのだ、肩こりも人の三倍ある。
首の根元から腰の方まで指先で軽く揉んで行き、コリの具合を触診で確かめていく。
「ひゃっ……! コーちゃんの指、今日は冷たいね」
そういえば、先程まで夜風に浸っていた。
真多子を驚かせてしまったらしい。
「おっと、ゴメン。 やっぱり後にするか?」
「え~やだ! 今、コーちゃんにやってほしいの!」
「そ、そうか。 じゃぁ続けるぞ」
今日はやけに喰い付くな。
いつもは素直なのだが、よほど疲労したのだろうか。
だが星美が寝ていて邪魔も入らない今の内に施術できる方が、僕も気が楽でいい。
「なら、もっと詳しく診ていくか。 『χ眼』……!!」
右眼の力を使い、真多子の身体を透視する。
この眼はX線の機能の他に、弱点となる部分を調べることが出来る。
本来は暗殺用だが、弱点とはつまり弱っている部分なわけであり、応用すればツボ押しの目安に使うことも可能だ。
というか、任務より『タコツボ屋』で働く方が多いため、もっぱらコッチの使い方が主になりつつある。
「うわ~……今夜は随分大暴れだったみたいだな。 お疲れさん」
透視すると、筋肉疲労で広範囲に炎症が起きているのか真っ赤だ。
伸縮を激しく繰り返した反動なのだろう。
思わず、みぞおちに飛び込んで来た真多子の姿がフラッシュバックする。
「だって~、コーちゃんがいるんだもん。 あとの事は気にしなくていいかな~って、えへへぇ」
真多子が伏せたまま笑っている。
表情は見えないが、照れているのか少し体温が上がっていた。
あまり褒められた戦い方ではないが、今は責めるべきではないだろう。
だが正直、僕が居ない時に無茶をしないかは心配だ。
「そうだな、僕とお前の二人でようやく一人前、一心同体の軟体魔忍だしな。 ちょっと痛むぞ、よっと……」
「あだだだだ! もぅ、パートナーにはもっと優しくしてよ~!」
疲労の溜まったスポットを強めに押し込み、流れを良くしてやる。
グッと血が巡り、途端に痛覚が復活したのだろう。
痛みを感じるうちは元気な証拠だ。
身体が正常に機能している何よりの証明なのだから。
「ヒドイ所はこんなもんかな。 次は吸っていくから、痛くないし力は抜いていいぞ」
「あ、それ好きなんだ~楽しみ~!」
僕の掌にある吸盤をバッと手を広げるように真多子の身体へ吸い付ける。
外れないことを確認したら、猫の手くらいに軽く拳を作って吸引させた。
「ん~利くね~! はふぅ~……」
吸い上げることで血管を広げ、血の巡りをさらに良くしていくのだ。
ジワジワと身体の隅まで血が行き届くのを感じ、心地良い気分にしてくれるだろう。
炎症の痛みも和らげ、ある程度緩和してくれるはずだ。
「真多子、痛くないか?」
「だいじょ~ぶ~……」
だいぶ蕩けた声に変わっている。
僕の施術もすっかり慣れた物で、痛みはなるべく感じさせない様にやれているようだ。
客が満足そうな声を上げるのは、結構自信に繋がって満足感がある。
まぁ、本業は忍者なのだが。
そのままいくらか『タコツボ』を続けると、合間合間に真多子が気持ち良さそうに蕩けた声を漏らしていた。
しかし、いつの間にか静かになっており、心配になって声を掛けてみる。
「おい、真多子? 大丈夫か……?」
「すぅ……すぅ……」
「なんだ、結局寝たのか」
あれだけ寝るなと言ったが、疲れが取れていく気持ち良さによる睡魔には勝てなかったらしい。
「大事な身体なんだからさ、風邪ひくなよ。 おやすみ……」
僕は施術の手を止めると、真多子を抱きかかて仰向けに寝かせた。
その上に毛布を掛けてやると、就寝の挨拶をしながら頭を撫でて、僕は火の番へと戻るのであった。
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