オヤクソク
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僕達の乗る蒸気屋台『ヤタイヤタイヤ』を仕留めようと、包丁を研ぐような金属音を立てて砲塔が回る。
まるで死神が少しずつ地獄の縁から這い上がってくるようだ。
既に射程範囲には入っており、それでも心臓部を狙おうと動きは止まらない。
宣言通り、一撃で僕達を吹き飛ばすつもりなのだ。
『ポォォォォォォォォ』
そして運転手へ指示を出すその腕がピタリと止まった瞬間、あのけたたましい蒸気屋台の咆哮が上がる。
同時に、白く吐き出した息が屋根を伝うのが窓の端にも見えて来る。
「真多子ッ!!」
「ほいきた! すぅ……ぷぅぅぅぅ!!」
屋根の上にいた真多子はカエルのように空気でお腹を膨らませ、風神が如く一気にそれを吐き出していく。
ただの息ではない。
黒く煙幕のような息。
タコスミを霧状にして吹いているのだ。
それがヤタイヤタイヤの蒸気と混ざり合い、悪党共の装甲車へと噴きつける。
イカと違って、タコの墨は量が少ない。
だがその分、水に溶けやすく広がりやすい特徴がある。
一人分の墨で煙幕にするには相手が大きすぎるが、足りないならばカサ増ししてしまえばいいのだ。
そして都合よく蒸気のほとんどは水分だ。
両者が合わせれば水分の多い煙幕、あるいは『巨大なスプレー塗装』だとも言えるだろう。
それが噴きつければどうなるか。
瞬きもする間もなく、あっという間に向こう側は黒一色の世界に満ちていく。
『ゴホッ!! な、なにごとです!?』
『ぎゃッ~!! 女の顔に泥……じゃなくてスミを塗るなんて、ヒドイじゃないかい!!』
予想通り、装甲車の上にいた二人組は、阿鼻叫喚だ。
黒い霧の中にいるため目視はできないが、奴ら今頃は眼も開けられず身動きも取れなくなっているだろう。
『せんぱ~い、発砲まだっすかね~? もう腕が痺れてきたっすわ……あれ? せんぱ~い、どこ行ったんすか~?』
運転手らしき若い男の困惑する声も耳に入る。
上が急に真っ暗になれば、狙いもつけられまい。
「ふっふっふ、協力忍法『蛸墨煙幕の術』って感じかな! 上手くいったね~イェイ!」
(ヨシッ! アイツらの攻撃も、これでしばらくは時間が稼げるはずだ!!)
霧が晴れても、ペンキのようにべったりと黒塗料が塗りたくられているのだ。
彼らもすぐには行動再開といかないだろう。
この好機を活かすため僕は最大限に頭を働かせる。
時は待ってはくれない、刻一刻と死神はまだ這いずっているのだ。
まずは伝声管へと飛び付き、兄貴へ指示を飛ばす。
「兄貴ッ! 急発進の準備は出来てる!?」
「おおタコロウか! 任せとけってぇの! オレ様の造ったヤタイヤタイヤに不可能はねぇぜ!! ありったけの燃料を込めろ!!」
燃費は非常に悪いが、急加速にはかなりの燃料がいるらしい。
帰りの燃料を気にしている場合ではないだろう。
僕は振り返ると、キョトンとしたチビっ子と目を合わせる。
「聞いてたな星美、手分けしてお前が隠れていたソファーの中の燃料を炉に運んでくれ!」
「オッケーデスヨ!! ミーのリトルミーズにお任せデース!! ゴーゴーゴー! リトルミーズ!!」
こういう単純作業はこの子に一任するのが一番効率的だ。
なにせ、非力ではあるがいくらでも分身体を造り出せるのだから。
言われたそばから無数の分身体を増やし、バケツリレーを二列作ってドカドカと炉へくべていく。
貪欲な腹を満たしたエンジンは眩しいほどに赤熱し、車内の暑さがまるでサウナのようになってた。
それでもまだ足りないと腹の虫を鳴らすように、ブンブンと蒸気管を唸らせる。
「オホ~!! いくらフカしても足りねぇくらいゴキゲンだぜぇ!! タコロウ、こっちは準備出来たぞ!!」
伝声管から深角の兄貴の上機嫌な返事が届く。
再発進するだけに充分なパワーが稼げたらしい。
早く出発しなければ。昼間みたいに爆破されかねない勢いだ。
ガス抜きが上手く続くことを祈ろう。
「あとはアイツらの主砲だ! 真多子ッ!」
エンジン部は避けているとはいえ、まだ敵の主砲の射線上だ。
発射指示を出されてはひとたまりもない。
「なぁに、コーちゃん?」
真多子が屋根を伝い、上から頭だけを窓に覗かせた。
敵の発射指示が早いか、それとも真多子が敵を殴り倒すのが早いか。
僕は少しだけ悩んだ末に答えを指示する。
ただし、敵に聞かれるわけにはいかない。
真多子の耳に口を密着させ、口早に囁く。
「ひゃ、くすぐったい!!……うんうん、なるほど! 分かったよコーちゃん!」
僕の作戦に賛同してくれたのだろう。
気合いに満ちた表情で頷くと、真多子は身体を変色させて闇へと消える。
自分で指示しておいてなんだが、危険な役目を負わせてしまった。
僕にも魔人類としての強い力があれば代わってやりたいのだが、無いものねだりしても始まらない。
あとは彼女の働きを信じるしかないのだ。
(頼んだぞ……真多子ッ!!)
「兄貴、発進だ!!」
「オッシャァ、やったるぜぇ!! 漢、鮫島の一世一代の大一番よ!!」
兄貴の大一番は何度あるんだというツッコミは置いておき、蒸気屋台のエンジンがドクンと脈動する。
そして、気が付けば身体が後方へと引っ張られ、脚が地面から離れていく。
爆発的な加速度に置いていかれているのだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「キャァァ!! ヘルプミー!!」
「うしゃしゃしゃ!! すッげぇマヴイ速度出すじゃねぇの、気に入ったぜ!!」
運転席で身体を固定している兄貴は無事かもしれないが、立っていたコチラはひとたまりもない。
星美の分身体と揉みくちゃになりながら、後部座席で団子になっていた。
『むぅ、この音は!? いけません! こうなれば当たれば何処でも構いません、ゲソッキー撃ちなさい!!』
やはり向こうもなりふり構わず主砲を放つらしい。
元々先頭部分に照準が合っていたから、まだ間に合うと踏んだのだろう。
この加速中に横から衝撃を受ければ、中に入る僕達がどうなってしまうのか想像もしたくない。
『あ、せんぱ~い、そこにいたんすね~。 うぃっすー発射しまーっす、ポチっと』
煙幕で視界は防げても、声までは遮断できない。
とうとう主砲が火を噴く時が来た。
しかし、咄嗟のことで彼らは忘れているらしい。
コチラの車内には真多子が居ないということをだ。
「いっくよ~!! 軟体忍法『蛸揚げの術』!! と~りゃぁ~!!!」
砲塔の下に潜り込んでいた真多子が姿を現し、グルグルと腕を回す。
そうして勢いをつけると、複数あるタコ腕を一本に絡めて大きな腕を作り、巨大な拳で鉄筒を殴り上げた。
『あらん、あの角度……あたしゃ嫌な予感がしてきたよ』
『まことに遺憾ながら……このスクイラーめも同感にございます』
殴られた砲塔は天を仰ぎ、その大口を夜空に向けていた。
それと同時に、弾丸が放たれ一直線に真上へと雲を抜けていく。
天に唾を吐くとはまさにこのこと。
重力に縛られた弾丸はやがて上昇を止め、自由落下によりどんどん下降速度を上げていく。
「それじゃ、アタシは帰るね~! バイバイ! 軟体忍法『伸縮自在の術』!!」
真多子は悪党共に手を振ると、予め蒸気屋台に張り付けていた腕に引かれて飛び去って行く。
あとに残されたのは、まだ発進準備の出来ていない装甲車と悪党、そして今しがた戻って来た弾丸だ。
『あぁ、ホトケもゲッソリだねこりゃ……ンギャァァァァ!!!』
当たり所が悪かったのだろう。
弾薬庫を貫かれた装甲車は爆発四散。
イカのような白いキノコ雲を上げるのであった。
蛸揚げの術はこんな感じです(外部サイト)
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