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軟体魔忍マダコ  作者: ペプシンタロウ
第一章~大干支珍道中~
24/66

オヤクソク

マダコちゃんのイメージ画像はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=4955


星美ちゃんイメージ画像はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=34832


悪党どものイメージ画像はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=56790

 僕達の乗る蒸気屋台『ヤタイヤタイヤ』を仕留めようと、包丁を研ぐような金属音を立てて砲塔が回る。

 まるで死神が少しずつ地獄の縁から這い上がってくるようだ。


 既に射程範囲には入っており、それでも心臓部を狙おうと動きは止まらない。

 宣言通り、一撃で僕達を吹き飛ばすつもりなのだ。


『ポォォォォォォォォ』


 そして運転手へ指示を出すその腕がピタリと止まった瞬間、あのけたたましい蒸気屋台の咆哮が上がる。

 同時に、白く吐き出した息が屋根を伝うのが窓の端にも見えて来る。


真多子(マダコ)ッ!!」


「ほいきた! すぅ……ぷぅぅぅぅ!!」


 屋根の上にいた真多子はカエルのように空気でお腹を膨らませ、風神が如く一気にそれを吐き出していく。


 ただの息ではない。

 黒く煙幕のような息。


 タコスミを霧状にして吹いているのだ。

 それがヤタイヤタイヤの蒸気と混ざり合い、悪党共の装甲車へと噴きつける。


 イカと違って、タコの(すみ)は量が少ない。

 だがその分、水に溶けやすく広がりやすい特徴がある。


 一人分の墨で煙幕にするには相手が大きすぎるが、足りないならばカサ増ししてしまえばいいのだ。


 そして都合よく蒸気のほとんどは水分だ。

 両者が合わせれば水分の多い煙幕、あるいは『巨大なスプレー塗装』だとも言えるだろう。


 それが噴きつければどうなるか。

 瞬きもする間もなく、あっという間に向こう側は黒一色の世界に満ちていく。


『ゴホッ!! な、なにごとです!?』


『ぎゃッ~!! 女の顔に泥……じゃなくてスミを塗るなんて、ヒドイじゃないかい!!』


 予想通り、装甲車の上にいた二人組は、阿鼻叫喚だ。


 黒い霧の中にいるため目視はできないが、奴ら今頃は眼も開けられず身動きも取れなくなっているだろう。


『せんぱ~い、発砲まだっすかね~? もう腕が痺れてきたっすわ……あれ? せんぱ~い、どこ行ったんすか~?』


 運転手らしき若い男の困惑する声も耳に入る。

 上が急に真っ暗になれば、狙いもつけられまい。


「ふっふっふ、協力(チーム)忍法『蛸墨煙幕の術(オクトパスチーム)』って感じかな! 上手くいったね~イェイ!」


(ヨシッ! アイツらの攻撃も、これでしばらくは時間が稼げるはずだ!!)


 霧が晴れても、ペンキのようにべったりと黒塗料が塗りたくられているのだ。

 彼らもすぐには行動再開といかないだろう。


 この好機を活かすため僕は最大限に頭を働かせる。

 時は待ってはくれない、刻一刻と死神はまだ這いずっているのだ。


 まずは伝声管へと飛び付き、兄貴へ指示を飛ばす。


「兄貴ッ! 急発進の準備は出来てる!?」


「おおタコロウか! 任せとけってぇの! オレ様の造ったヤタイヤタイヤに不可能はねぇぜ!! ありったけの燃料を込めろ!!」


 燃費は非常に悪いが、急加速にはかなりの燃料がいるらしい。

 帰りの燃料を気にしている場合ではないだろう。


 僕は振り返ると、キョトンとしたチビっ子と目を合わせる。


「聞いてたな星美(スターミー)、手分けしてお前が隠れていたソファーの中の燃料を炉に運んでくれ!」


「オッケーデスヨ!! ミーのリトルミーズにお任せデース!! ゴーゴーゴー! リトルミーズ!!」


 こういう単純作業はこの子に一任するのが一番効率的だ。

 なにせ、非力ではあるがいくらでも分身体を造り出せるのだから。


 言われたそばから無数の分身体を増やし、バケツリレーを二列作ってドカドカと炉へくべていく。


 貪欲な腹を満たしたエンジンは眩しいほどに赤熱し、車内の暑さがまるでサウナのようになってた。


 それでもまだ足りないと腹の虫を鳴らすように、ブンブンと蒸気管を唸らせる。


「オホ~!! いくらフカしても足りねぇくらいゴキゲンだぜぇ!! タコロウ、こっちは準備出来たぞ!!」


 伝声管から深角(フカク)の兄貴の上機嫌な返事が届く。

 再発進するだけに充分なパワーが稼げたらしい。


 早く出発しなければ。昼間みたいに爆破されかねない勢いだ。

 ガス抜きが上手く続くことを祈ろう。


「あとはアイツらの主砲だ! 真多子ッ!」


 エンジン部は避けているとはいえ、まだ敵の主砲の射線上だ。

 発射指示を出されてはひとたまりもない。


「なぁに、コーちゃん?」


 真多子が屋根を伝い、上から頭だけを窓に覗かせた。


 敵の発射指示が早いか、それとも真多子が敵を殴り倒すのが早いか。

 僕は少しだけ悩んだ末に答えを指示する。


 ただし、敵に聞かれるわけにはいかない。

 真多子の耳に口を密着させ、口早に(ささや)く。


「ひゃ、くすぐったい!!……うんうん、なるほど! 分かったよコーちゃん!」


 僕の作戦に賛同してくれたのだろう。

 気合いに満ちた表情で頷くと、真多子は身体を変色させて闇へと消える。


 自分で指示しておいてなんだが、危険な役目を負わせてしまった。

 僕にも魔人類(キマイラ)としての強い力があれば代わってやりたいのだが、無いものねだりしても始まらない。


 あとは彼女の働きを信じるしかないのだ。


(頼んだぞ……真多子ッ!!)


「兄貴、発進だ!!」


「オッシャァ、やったるぜぇ!! (おとこ)鮫島(サメジマ)の一世一代の大一番よ!!」


 兄貴の大一番は何度あるんだというツッコミは置いておき、蒸気屋台のエンジンがドクンと脈動する。


 そして、気が付けば身体が後方へと引っ張られ、脚が地面から離れていく。

 爆発的な加速度に置いていかれているのだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「キャァァ!! ヘルプミー!!」


「うしゃしゃしゃ!! すッげぇマヴイ速度出すじゃねぇの、気に入ったぜ!!」


 運転席で身体を固定している兄貴は無事かもしれないが、立っていたコチラはひとたまりもない。


 星美の分身体と揉みくちゃになりながら、後部座席で団子になっていた。


『むぅ、この音は!? いけません! こうなれば当たれば何処でも構いません、ゲソッキー撃ちなさい!!』


 やはり向こうもなりふり構わず主砲を放つらしい。

 元々先頭部分に照準が合っていたから、まだ間に合うと踏んだのだろう。


 この加速中に横から衝撃を受ければ、中に入る僕達がどうなってしまうのか想像もしたくない。


『あ、せんぱ~い、そこにいたんすね~。 うぃっすー発射しまーっす、ポチっと』


 煙幕で視界は防げても、声までは遮断できない。

 とうとう主砲が火を噴く時が来た。


 しかし、咄嗟のことで彼らは忘れているらしい。

 コチラの車内には真多子が居ないということをだ。


「いっくよ~!! 軟体忍法『蛸揚げの術(カイトアッパー)』!! と~りゃぁ~!!!」


 砲塔の下に潜り込んでいた真多子が姿を現し、グルグルと腕を回す。

 そうして勢いをつけると、複数あるタコ腕を一本に絡めて大きな腕を作り、巨大な拳で鉄筒を殴り上げた。


『あらん、あの角度……あたしゃ嫌な予感がしてきたよ』


『まことに遺憾(イカん)ながら……このスクイラーめも同感にございます』


 殴られた砲塔は天を仰ぎ、その大口を夜空に向けていた。

 それと同時に、弾丸が放たれ一直線に真上へと雲を抜けていく。


 天に唾を吐くとはまさにこのこと。


 重力に縛られた弾丸はやがて上昇を止め、自由落下によりどんどん下降速度を上げていく。


「それじゃ、アタシは帰るね~! バイバイ! 軟体忍法『伸縮自在の術(ヒッパリダコ)』!!」


 真多子は悪党共に手を振ると、予め蒸気屋台に張り付けていた腕に引かれて飛び去って行く。


 あとに残されたのは、まだ発進準備の出来ていない装甲車と悪党、そして今しがた戻って来た弾丸だ。


『あぁ、ホトケもゲッソリだねこりゃ……ンギャァァァァ!!!』


 当たり所が悪かったのだろう。

 弾薬庫を貫かれた装甲車は爆発四散。


 イカのような白いキノコ雲を上げるのであった。

蛸揚げのカイトアッパーはこんな感じです(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=25003

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